第19話 謎めいためいちゃん!

1月16日土曜日、俺は朝から舞い上がっていた。

多分今日もめいさんに会える。

また "ふふ" って笑ってもらえるかな?

そうだ!町の情報を仕入れよう。


いつも通り "ダークブラウン" でモーニングセットを食べて来たけどほとんど記憶にないや。ネットや情報誌をあれこれ見て、グルメ情報やレジャー、お買い得スーパーの情報までキャッチして2人分コピーした。

これならめいさんも無理して横目で見なくても大丈夫だ。俺って気が効くし、なんて優しいんだろ。めいさん感動するかなあ。


頭の中はめいさんの横顔でいっぱいなのに、植木のLINEが邪魔をしてきた。


「お昼は未央ちゃんと食べるんだけど、

その前にちょっと寄ってもいい?」


ちょっとならまあいいか。


11時ちょうどにバタバタ植木が入って来た。


「ねえねえ、昨日の女の人とどうなったの?」


コイツはやかましい。

オマケに他人の生活にすぐ興味を持つ。

めいさんには絶対紹介しないでおこう。


「別にどうもなんないよ。あんまりいろいろ聞かれたくない人みたいだから、全くどんな人か解らないよ」


「昨日カラオケの時凄く嬉しそうだったからさ、付き合うことになったのかなあってちょっと気になったんだ」


「まさか!付き合ったりしないよ。

引っ越して来たばかりで町の情報が欲しいそうだから今日また "ジュエル" に行っていろいろ教えてあげようかなとは思ってるけど、お前も来る?」


「それがさあ、未央ちゃんが "ジュエル" 退屈だからカラオケの方がいいって言うんだよ。だからこれから俺あんまり "ジュエル" には行けないかもしれないんだ」


やったー!植木よ、それがいい。俺も是非そうして欲しいよ!


植木は未央ちゃんからLINEが入ったのでそのままランチに行った。


俺は夜に備えてまだまだ情報を仕入れることにした。


そう言えばめいさんもウッディな香りが好きだって言ってたなあ。

よし、今日はタムダオを二吹きして行こう。


お昼はパスタにした。ソースはレトルトのボロネーゼだけど、めいさんと一緒に食べてるようで最高に美味しかった。


夕方までは長いような短いようなへんな感覚だった。

資料は、バッチリ揃った。

一緒に行ってみたいところも少し載せたんだけど多分行ってくれないよな。

横顔しか知らないし、一度会っただけなのに、俺ってどうかしてるかなあ。一目惚れ?いや、一目惚れって言うほど顔見てないよ。

そうだ、好みが似てるんだ。ソバが好きで、ウッディな香りが好きで話も弾むし、彼女は悪い女じゃない。

俺には解る。何か顔を見せたくない事情があるはずだ。俺は彼女を信じる。


もう6時過ぎだ。シャワーを浴びてジャージャー麺でも食べて行こう。

めいさんは日本ソバの次に好きな麺はなんだろう。

俺はジャージャー麺だ。ここまでは合わないだろうな。その次はラーメン。

ラーメンは誰でも好きだろう。2番目ラーメンて言おうかなあ、ダメだ、嘘は良くない、ケチがつく。俺は純粋にめいさんと気の合う話がしたいんだ。


7時半になった。そろそろ出よう。

散歩がてら歩いても30分もかからない。そうそう、資料を忘れずに、10枚分…

うーん、あんまり多いと引くかなあ…

よし、今日はグルメだけの6枚にしよう。


夜風は冷たいけど、早歩きしてたらあっという間にポカポカして来た。

めいさんは今日も多分帽子を深く被って厚化粧で来るんだろうな。

顔に傷でもあるんだろうか?

それとも火事か何かで火傷したとか?

昼間、外へ出る時はどうしてるんだろう。

ついつい考えてしまう。

めいさんは知られたくないみたいだからそっとしておこう。


あれこれ思いを巡らせているともう "ジュエル" に着いた。7時50分だ。

まだお客さんは少なくボックスも空いてるけど、カウンターに座ってなきゃダメだよな。

しかも、なるだけ隅っこがいいみたいだし。


7時55分めいさんが入ってきた。真正面から見ることができたけど、帽子を深く被って俯いてるから顔なんて分からないや。

まあいい、取り敢えず横に座ってくれた。


「こんばんは。昨日はありがとうございました。とっても参考になりました」


「そうですか、それは良かった。今日はグルメ情報をプリントアウトして持って来たからそれ見ながら話しましょう。

2人分あるからめいさんこっち見なくても大丈夫でしょ?」


「嬉しい!ありがとう。私、浩二さんのそういう思いやりのあるところ大好きです。

やっぱり優しく人なんですね」


「いえいえ、僕も気の合う人と知り合えて楽しいんです」


やったー!俺のことを解ってくれてる。俺ってお節介だけど、気が効くんだよな。


それから10時ころまでずっとグルメの話で盛り上がった。

あっという間に過ぎる楽しい時間…。


芽依さんがポツリと言った。


「あ、もうこんな時間になってる。私、家が遠いから先に帰りますね。

あの、仕事の都合で金曜日と土曜日しか来られないんですけど、来週また金曜日に来ますので、浩二さんも良かったら来てくださいね」


「はい、また金曜日に来ます」


めいさんはペコリと頭を下げて店を出て行った。


近くまで送りますよって言われたくないんだろうな。10分ほどして、タクシーに乗ったとしても歩いて帰ったとしても、もう完全に見えなくなっただろうと思ったころ、俺も帰ることにした。


歩きながらいろいろ悩んでしまった。

横顔しか知らない、夜しか会えないって誰が聞いても普通じゃないよな。

それなのに、たった2回会っただけでこんなに心奪われてるなんて誰にも言えないよ。


今日も本当に楽しかったな。昨日よりまだ楽しかった。金曜日まで会えないけどその間に少しは冷静になれるんだろうか。


好みが似てて話が合うから、ただ楽しくってとりこになってただけだ。

気持ちは慣れて来たらすぐ冷めるだろう。

そうだ、深く考えるのはやめよう。趣味の合う知り合いが一人出来ただけのことだ。


そう思うようにしたが、その夜はなかなか寝付けなかった。

翌朝は日曜日だったから10時ころまでうとうと寝てしまった。不安な気分と幸せな気分が交錯している。


いい香りに包まれたあと、コーヒーとマルゲリータでブランチを取った。

めいさんはピザは特別好きな訳じゃないと言ってたな。俺もコーヒーに合うから食べてるけど、ピザ自体が特別好きな訳じゃないんだ。

一息着いて、パック詰めのおかずをもらう為実家に帰った。


大きめの保冷バッグにおかずと保冷剤を入れていたらかあさんが忙しそうに入って来た。


「あら、今日は遅かったのね。もうすぐ優ちゃん達も来るから会っていったら?」


うわっ、そうだ、今週から教室に来るんだった、面倒くさいから早めに帰ろう。


「俺、まだ寄るとこあるからもう帰るわ、

2人によろしく!」


良かった!かあさんは元気になっている。もう、優ちゃんと未央ちゃんに過去がバレたっていいや。俺にはめいさんがいる。気持ちってこんなにコロコロ変わるんだな。

そう言えば、植木も未央ちゃんに告られた途端にコロッと気持ちが変わったって言ってたもんな。

俺だってまだまだどんな気持ちに変わるか解らないんだ。そうだ、今を楽しもう!


よし、ショッピングモールにあるブランドショップの香水コーナーに行ってみよう。

モールの駐車場に車を停めてから入るのが面倒で余り行ったことないんだけど、目的があると、それも平気だ。勿論、めいさんとの話題作りの為!

香水のコーナーは小さな一角にあっていい香りがしていたけど、フローラルな香りが多くちょっと甘くて苦手なものが殆どだった。


やっぱり帰ってネットショップでウッディな香りのサンプルを取り寄せてみることにした。勿論、めいさんとの話題作りの為!


金曜日までは長いなあ、めいさんもそう思ってるかなあ。


今夜はちょっとしか星が出てないけど、そのちょっとの星に祈りを捧げた。


個人的な願いではありますが、めいさんが俺を好きになってくれますように


おやすみ、めいちゃん…


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る