第14話 未央ちゃんの告白!
12月22日火曜日、今日も凍てつくような寒さなのに雪は降らない。
8時5分にカランコロンを開けると既にみんな揃っていた。
鳥居夫妻も元気そうで良かった。
明日オードブルを作るにあたって何か苦手な食べ物はないかみんなに聞いていた。
植木は何でもイケます!といってたが、向かいの未央ちゃんは結構多くてメモしながら解説している。
「セロリとパクチーは生でも火を通してもダメです。匂いがするだけでもダメなので今回はパスしてください。あと、アボカドもダメです。レバーも無理です。
芋類は大好きです。チョコ掛けのポテチは特に好きです」
おばさんはクスクス笑っている。
「凄く作り甲斐がありそう。楽しみにしててね。全部一口で食べれるようピックで刺しておくわね」
モーニングセットを運んで来た玲さんも何かピンときたみたいだ。
「サンドウィッチも一口サイズにしようか?ロールサンドにしてピックで刺しちゃお!」
優ちゃんも乗ってきた。
「サラダは一口サイズ無理だからドレッシングをいろいろ用意するね、市販のだけど」
そう言ってニヒッと笑った顔は凄く可愛かったけど、爆弾発言が多すぎて会話するのが恐ろしい。
マスターも仕事がひと段落して話に加わった。
「あのね、優ちゃんのパパがサンタさんの格好で来てくれるんだって」
優ちゃんが反応した。
「もうやだ!幼稚園の時のクリスマス会と勘違いしてるんじゃない?サンタの格好なんて…あ、でも趣味の悪いスーツよりはマシかもね」
誰も否定しない。
マスターも玲さんも料理の方は明日お店が暇な時に作っておくから、夕方5時まで開けておくそうだ。
良かった、明日もモーニングセットを食べられる。
今日は少し早くて8時40分に店を出た。
駐車場に行って車に乗ろうとしたら優ちゃんが自転車をついて追いかけてきた。
地面のセメントを見ずに俺の目を見ながら喋っている。
「昨日は無神経なことを聞いてごめんなさい。でも浩二さんが騙された金額は私より19万5千円も少ないんだもの。
全然マシよ、元気出してね」
そこまで言わなくてもいいだろう。励ましてくれたつもりなんだろうか?
それに俺はそのあとまだ3回も騙されてるんだ。
呆れるだろう、自分でも呆れる。あとの3回を誰にも知られてないことだけが救いだ。一応礼は言っといた。
「…ありがと」
ふと、お店の方を見ると入口の横で植木と未央ちゃんが楽しそうに話していた。ひょっとして優ちゃんはあの二人の為に気をきかせて俺の方に来たのかな?とも思えた。まあ、どうでもいいことだ。
職場に着くとおばちゃんトリオが珍しく忙しそうに仕事をしている。
多分社長が来るんだろう、解りやすくていいや。
それなら俺は、一番難しそうな書類に手をつけよう。
案の定10時ころニヤけた社長がやって来て、ふむふむ、ふむふむ、ほほう、ほほうと言いながらみんなのパソコンを覗き込んでいる。解っているのか解っていないのか俺には判らない。
社長が部屋を出ると、おばちゃんトリオが急に活気付く。
「社長ってふむふむしか言わないよね、あれ、絶対何にも解ってないのよ」
その通りかも。おばちゃんは鋭い。
今日の仕事は余裕で終わった。やっぱり "ダークブラウン" に寄って一息つこう。
駐車場に立派なベンツは停まっていなかった。
優ちゃんパパは来てないな。
そう思いながら入口に行くと横の駐輪場に優ちゃんの自転車が会った。
そうか、パパは来てないけど優ちゃんは来てるんだ。
どっちがマシだろう。うん、優ちゃんだな。パパのあの立派なスーツを見るとどうも緊張してしまう。
カランコロンを開けると、俺のいつもの席の向かいに優ちゃんが座っていた、何か話したいことがあるような雰囲気で。
やっぱりあそこに座るしかないよな。
玲さんが不思議そうな表情で注文を取りに来た。
優ちゃんは既にチーズケーキとコーヒーをいただいてたので俺もチーズケーキとマンデリンにした。
優ちゃんはなぜかニコニコしている。
「あのね、お昼未央から電話があってね、今朝誠さんに交際してって言ったんだって。
そしたらまこちゃんも嬉しそうだったって。私も応援するから浩二さんも応援してあげて欲しいの。
なんかお似合いでしょ?2人が話してるとこ見てたらね、とっても楽しそうで私も嬉しいの」
俺はホッとした。未央ちゃんは本気だったんだ。なんか自分のことのように嬉しい。
「僕もあの二人気が合いそうだなと思ってたんだ。確かにお似合いだよね」
「私、未央の気持ち知ったから、私は他に好きな人がいるから未央が誠さんに告白してくれたら嬉しいんだけどって言ったのね、本当は別にいないんだけど。だから浩二さんも私は他に好きな人がいるって言ってたって伝えてくれる?」
「解った、伝えとくね。ところでさあ、優ちゃん今朝何も言わなかったけど嫌いな食べ物とかないの?」
「私、スモークチーズがダメなの。ママが嫌いだったから」
うわ、出た。それ以上膨らませないでくれと思いながら話を続けた。
「僕、未央ちゃんと似ててセロリとパクチーがダメなんだよね。
あの薬っぽい匂いみんなよく我慢できるなあと思うよ」
「じゃあ、ピーマンとか人参はどう?」
「あ、それは大丈夫。普通の野菜はほぼ大丈夫だよ。楽しみにしてるね」
玲さんがやって来た。
「サンドウィッチにセロリ入れたら怒る?」
「そんな、怒ったりはしないけど、しるし付けといてほしいな、僕食べないから」
「了解!そしたら赤いピック付けとくから間違えて食べないでね」
「解りました!」
マスターもやって来た。
「ねえねえ、まこちゃんの車で聞いたCD凄くみんなに受けてたみたいだからさ、明日持って来て欲しいんだけど、浩ちゃん言っといてくれる?
クリスマスソングと踊れるのは店にあるから。あと、優ちゃんや浩ちゃんがかけたいのあったら持って来てね」
四十分程して優ちゃんと2人で店を出た。
マフラーをぐるぐる巻きにして自転車に乗る優ちゃんは可愛かったが、やはりそれ以上の感情にはならないが、なんか微笑ましくて声をかけた。
「こんな寒い日に自転車乗るなんて凄いね」
「そんなことないですよ、気持ちいいですよ。じゃあまた明日ね」
そう言って夜風の中消えていった。少し向こうでこけたような気もするが、関わらないでおこう。
コンビニで惣菜と男のプリンを買って暖かいマイルームに帰った。ふと携帯を見ると植木から3回も着信があった。
まあ、大体の内容は解ってたから先にシャワーを浴びてディナーを食べた。まだ食べ終わらないうちに4回目の電話がかかって来た。内容はこうだ。
未央ちゃんから今朝告られたけど、あんまり喜ぶと軽く見られそうだからさり気なく聞いていた。
今度ドライブに連れてって欲しいって言われたけど、すぐ飛び付くのも軽いかなあと思って、年が明けたらまたみんなで行こうって言っといた。
でも余計なこと言ってしまったと思ってる。一回みんなで行ったら次からは二人で行くということだ。
好きにしてくれ。俺は植木と未央ちゃんのことに気を取られてすっかり忘れてたことがある。
そもそも明日のクリスマスパーティーは平和なうちに終わるだろうか、訳ありが何人もいる。鳥居夫妻は亡くなった長男が優ちゃんパパの会社で働いていたことを知っているのだろうか、創君はどうなんだろう、それに、創君は優ちゃんに借りた200万円近くを本当に使うつもりなんだろうか、そして新たに借りたがっていた友達2人までどうして来るんだ。どさくさに紛れてまた優ちゃんに頼むつもりか?はあ、こんなクリスマス初めてだ。
無事いい思い出になりますよう、数少ない星に願いを込めて今日こそ安らかに眠りにつこう。
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