第11話 クリスマスパーティーするの?

12月18日金曜日、俺はいつも通りの時間に家を出た。


暗ブタは来ないかも知れないが、こういう時はさり気なくするのが一番だろう。

カランコロンを開けると植木以外みんな来てた。

しかも暗ブタは注文を取りに来た玲さんの方を見て微笑んでいる。

玲さんも微笑み返している。何だろう、この変わりようは!

俺はアイツのスイッチが全く解らない。

みんなが好きなセットを注文していると、植木が慌しく入って来た。


「うわー、僕が最後?未央ちゃんも来てる。今日はホットサンドとコーンサラダね。

みんな寒いのにスゴイね。僕なんか今起きたよ、今!、

優ちゃんのダウンジャケットフカフカであったかそう、ちょっと着てみてもいい?」


「どうぞ、少し大きめだから誠さんにピッタリかもね」


暗ブタがまた微笑んでいる。どうしたことだ?

植木はダウンジャケットを着たまま、自分で自分を抱き締めている。


「わぁ、あったか〜い、いい香りもする。なんか、優ちゃん抱き締めてるみたいだ」


やめろ、朝から!そういうこと言うから"何か違う"とか言われるんだよ。

俺も植木もヨレヨレの年季がいった革ジャン。暗ブタ友はウサギのような毛がワサワサ生えたジャケット。鳥居夫妻は仲良くカシミヤのコートだ。

モーニングセットを食べ終えたころ、玲さんがアンケート用紙のようなものを持って来た。

21日〜23日のどこかで

持ち寄りクリスマスパーティーをします!

ご都合の良い日にちを知らせてください。

時間は18:00〜21:00です。

参加メンバー:佐伯源八郎、玲、佐藤浩二、佐藤広志、優、植木誠、鈴木未央、鳥居拓也、美佐子、創(計10名)

美味しい一品をお持ち寄りください。

*プレゼントは 佐藤広志氏 が提供してくださいます。お楽しみに!


みんなビックリしたが、暗ブタは取分け驚いていた。


「どうしてパパが来るの?それもプレゼント提供なんて!」


マスターがニコニコしながら言った。


「優ちゃんのパパ、時々コーヒー飲みに来てくれるんだよ。親子だって知ったのは昨日だけどね。それで僕の方から声かけたの。あと、創君もほら鳥居さんの息子さんだし、来てくれたこともあるから。いいでしょ?」


誰も嫌だとは言えないだろう。楽しく終わればいいけど。

その日もかっきり8時45分にみんなで店を出た。

仕事も5時前に終わったのでテリトリーを片付けていたら掃除のおばちゃんにからかわれた。


「あらぁ、今日はゆっくりね、予定はないの?ひょっとしてもう振られた?」


やっぱりそう来たか。


「残念でした。元々おりません。」


「またまたぁ、カフェの前で見たわよ、髪の長いかわいい女の子」


うわっ、暗ブタだ!


「全く違います!

あ、そうだ、男子トイレのペーパータオルがもう無くなりますよ!」


「ちゃんと見てるわよ、

明日の朝で大丈夫!」


ああ、おばちゃんに敵うはずないか。

さて、どうしよう、"ダークブラウン" によろうか?

昨日騒がせたお詫びもしなきゃいけないし。結局寄ることにした。

"ダークブラウン" の駐車場につくと、俺がいつも停める駐車スペースにいかにも高そうなパールホワイトのベンツが停まっていた。こんな車に当てたくねーなあと思い、ひとつ空けて停めることにした。

駐輪場には暗ブタの自転車があった。俺は昨日の泣き顔を思い出して少し気が沈んだが、一応暗ブタにも心の声が出てしまったことを謝っておくことにした。

カランコロンを押すと前のカウンターに立派なスーツが見えた。

暗ブタ父だ。その横には暗ブタもいる。

カウンターの中にはマスターと玲さんもいる。驚いている俺にマスターが声をかけてきた。


「いらっしゃい、浩二君、良かったらこっちに座って」


マスターは暗ブタ父の隣りを指差した。俺は暗ブタの手前、初対面のフリをした方がいいんだろうなと思いながら軽く頭を下げて横に座った。

暗ブタ父はテンション高めで喋り始めた。


「いやあ、僕もクリスマスパーティー誘ってもらいましたよ。君も来れるでしょ?」


「はい、そのつもりでいます」


「僕、若い人達とクリスマスパーティーするの久しぶりだからワクワクするんですよ。

鳥居さんご夫妻もおいでるんでしょ?」


それを聞いた暗ブタが突然口を挟んだ。


「パパやっぱり来ないで!鳥居さんのこと知らないでしょ?」


暗ブタ父は静かに言った。


「知ってるよ。二年前仕事中に亡くなった鳥居敬太君のご両親でしょ?直接は知らないんだけど、パパも当時のことを詳しく教えてほしいんだ」


暗ブタの顔が険しくなった。


「やめて!そんなこと。辛いに決まってるでしょ!

彼は他の人の仕事まで引き受けて事故に遭ったのよ、気の毒でしょう?

そんな事聞かれたって悔しくて辛いだけじゃない!」


「その経緯はね、パパも敬太君の上司も知らなかったんだ。知ってるのは、敬太君とその友達だけなんだよ。その友達もすぐ辞めたらしいから詳しいことが知りたいんだ。

同じ事故を繰り返さない為にもね」


暗ブタは焦って言った。


「だめよ!二人は敬太君がうちの会社で働いてたこと知らないの。何にも言ってないから!」


暗ブタ父は言いにくそうにこう言った。


「本当に知らないのかなあ、偶然どこかで会ったの?」


うーん、男に騙されたあと、心配して声をかけてくれたなんて言えねーよな。いや、コイツなら言うかも。


「私が…、男の人に騙されてお金が全然無かった時に偶然声をかけてくれて、お金も貸してくれたのよ。

それにわざと声をかけたとしても知り合ってからずっと親切にしてくれてるのよ、それでいいでしょう?」


「じゃあ、パパからはその話しないけど、鳥居さんの方から言ってくれば聞いてあげるよ?」


「パパは申し訳ないとか責任感じたりとかないの?」


「運送会社の方の責任者に聞いてみたんだけど、うちとしては何の落ち度もないんだよ。

でも、鳥居さんは何か言いたいことがあるのかも知れないね」


暗ブタ父がプレゼントは僕に任せてと言って帰って行った。

マスター、玲さん、暗ブタ、俺の四人はそれぞれどんな一品を持って来るか決めることにした。マスターは七面鳥を焼いてくれるし、玲さんはサンドウィッチをたくさん作ってくれる。暗ブタはサラダを作ってくれるそうだ、

俺と植木はアルコールとケーキだ。

暗ブタが俺に


「サラダの中身は何が好きですか?」


と聞いてきた。床を見ていない!

俺の目を見てる。しかもニコッと微笑んでいる。ちょっとドキッとしたが、まあ普通に答えられた。


「僕は刻みキャベツが好きなんだけど、植木はトマトが好きみたい」


「どちらも味付けしなくていいから簡単ね」


そう言ってチョコっと舌を出した顔はすごく可愛かった。俺が知ってる根暗のブタとは別人だった。

いつもこんな感じで居ればいいのに、とは思ったがそれ以上の感情には発展しなかった。植木がいるからか?いや違う。暗い時の酷さを知ってるからだろう。

なぜ暗ブタが暗ブタでなくなったのかは解らないが、とにかく大金をばら撒くのはやめてくれたからほっとした。

俺は明日から心の中で暗ブタと呼ぶのはやめようと思った。

カウンターの方を見ると、さっきまで電話で誰かと話していたマスターがニコニコしながらこちらにやって来た。


「あのね、創君のお友達も二人参加したいんだって。

いろいろおつまみ作って持って来るって。いいでしょ?」


友達二人ってあの100万円ずつ借りようとしてた奴らだろ?なんか嫌な予感がするな。

マスターは嬉しそうに続けた。


「そうだ、優ちゃんのパパにも知らせないと。豪華なプレゼントいっぱい用意するって言ってたから」


暗ブタいや、優ちゃんが立ち上がった。


「豪華なプレゼントって!だから嫌なの!高価な物をあげれば誰でも喜ぶと思ってるんだから!

もう、本当に呆れる!絶対やめてもらう!」


なんか怒った顔も可愛いけど、やっぱりそれ以上にはならない。


帰りはやっぱりいつものコンビニに寄って、いろいろ買ってしまった。

気分がいいような悪いような変な感じだった。今日のディナーはあったかい湯豆腐にしよう。

優しい女性が俺の部屋で湯豆腐を作ってくれて、はい、アーンして、とか言ってくれたら最高なんだけどな。

冷え切ったマイルームのドアを開けると、真っ暗な窓の向こうに少しだけ星が輝いていた。あー、誰かを抱きしめながら星が幾つ出てるか数えたりしてーなあ。

それにしても寒いや。

明日からエアコンのタイマーをセットしておこう。

暖かいマイルームに帰れたらこんな妄想しないだろう。


今夜も少ししか出てない星を眺めながら眠りにつこう。

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