第7話 鳥居夫妻はいい人なのか⁉︎
12月14日月曜日、穏やかな小春日和の朝だ。
俺は8時2分に"ダークブラウン"に着いた。
いつも通りカランコロンを開けるとなんだかとても賑やかだった。
なんと暗ブタ友まで来ていた。植木は相変わらずご機嫌だ。
「おう、佐藤!未央ちゃんも朝時間あるから来たんだって。ここ座れよ」
ここ座れって、ここしか空いてねーだろ。
植木はこの前迄暗ブタの向かいに座ってたのに今日は右隣りに座っている。
俺は左隣り隣り、つまり暗ブタの隣りだ。
まだ誰も注文してなかったので、玲さんが6人分の水とおしぼりを持ってやって来た。みんなすっかり慣れてきたようで、てんでバラバラにいろんなセットを注文している。
待っている間、暗ブタ友がこんな提案を持ち掛けた。
「ねえ、浩二さんや誠さんも、もうボーナス出たでしょ?
今日はさぁ、大金が手に入ったら何に使いたいか順番に言いましょ。
鳥居さんご夫婦も後学のために教えてくださいね」
なんだか探りたいのが見え見えの提案だ。
暗ブタ友は続けた。
「私はね、今のところ何も浮かばないから取り敢えず貯金する」
浮かばねーのかよ!
俺はなんだ?女に貢ぎ過ぎて金がないから俺も取り敢えず貯金するなんて言えないし。
「僕も大金の使い道なんて今のところないから取り敢えず貯金しますね」
植木は使い道があった。
「僕は車のローンを全部払い終わっちゃいます」
床に取り憑かれている暗ブタに植木が聞いた。
「優ちゃんは何か欲しいものあるの?」
暗ブタは珍しくニコッと顔を上げた。
「別にないから私も多分貯金します」
暗ブタ友が鳥居夫妻に聞いた。
「鳥居さんは大金があったら、何か欲しいものとかあるんですか?」
おばさんは微笑みながら答えた。
「私達はもう老後の蓄えに置いとくわね。
あと、子どもが何かやりたいことがあれば応援してあげたいしね」
暗ブタ友が食いついた。
「子どもさんて、ドラゴンロードで店長してる創さんのことですか?」
おばさんは少し驚いたようにも見える。
「ええ、あ、土曜日にみんなでお店に行ってくれたんですよね?」
暗ブタ友は続けた。
「はい、とても忙しそうだったんですけど、私達のところに来てくれて一品ずつサービスしてくれました」
おばさんはそれ以上息子さんの話はしなかった。
結局余り収穫はないまま、それぞれ駐車場で別れた。
仕事が半分終わって昼休みにカップ麺をたべていると、暗ブタ友からLINEが入った。
「夕方 "ダークブラウン" に来ませんか?
時間合わせます」
もともと寄るつもりだったので仕事の終わりそうな時間を知らせることにした。
「行きます。5時半くらいに着きそうです」
夕方は暗ブタ友だけだと思うからこれからの作戦を練ろう。
マスターにも紹介した方がいいだろうな。仕事は早めに終わり、"ダークブラウン" には5分前に着いた。
カランコロンを開けると暗ブタ友がいつもの俺の席の向かいに座ってた。
「この席が好きなんですよね?
優に以前聞いてたから知ってるんです」
ふーん、一応気が効くんだ。
「ええ、この多肉植物が好きなんです。
なんかユニークでしょ?」
暗ブタ友はちょっと首を傾げて多肉植物を覗き込んだ。
「ほんとだ!なんか小さい花も付いてる。
鮮やかだけど可愛い色ね」
玲さんがお水とおしぼりを持って来た。俺に目配せをしている。
こちらの方は例の事ご存知?って感じかな?
この際ちゃんと紹介しておいた方がいいだろうな。
「こちらは佐藤優ちゃんの友達で、ええとごめん、ど忘れしちゃった」
暗ブタ友とは言えねーし。
「初めまして!私、優の友達で鈴木未央といいます。
私も優のことが心配で浩二さんと連絡取り合うようになったんです」
玲さんはホッとしたように話し始めた。
「あー、良かった!私達も彼女の事が心配で佐藤さんに相談したんですけど、男性だから聞き辛いだろうなと思って心配してたんですよ。
古くからのお友達なんですか?」
「あ、高校から一緒で、性格は良く知ってるつもりです。
ちょっと自分を卑下するところがあってお父さんのことも良く思ってないみたいだから、ひょっとしたら当て付けでしてるのかなあと思ったりもしたんですけど、そうでもないみたいな」
「いくらお金貸したのかしらね」
「100万円ずつ2回貸したみたいです。1回目はお母さんの方に貸したけど、多分息子さんの方に渡ってると思うって言ってました。
ただちょっと事情があって無理に受け取ってもらったんだって言ってましたけど、意味が解らないんですよね。
それ以上は言いたくないみたいだったから私も聞かなかったんですけど、やっぱり心配なんですよね。
だから今日浩二さんに相談してから優にもっとちゃんと聞いてみようと思ってるんです」
「あー、それがいいわ。良かった、いいお友達がいて」
玲さんはニッコリ笑った。
俺も半分もう何も言わなくていいかもとホッとしたのだが、そうはイカの塩辛だった。
いつも通りディナーを食べ終えて寛いでいると、9時頃暗ブタ友から電話がかかって来た。
「あー、浩二さんですか?
未央です。私、無理だわぁ、優を説得できない。
と言うか、優の言い分についていけないの」
コイツちょっとアルコールが入ってるな。
暗ブタ友の言いたいことはだいたいこうだ。優ちゃんの言い分は、経営者はたくさん報酬を受け取っているけど、普通の労働者はやっと生活していけるだけの賃金しか貰っていない。鳥居さんの息子さんも自分のお店を持ちたいのになかなかお金が貯まらない。それにパパには鳥居さんの息子さんを助けてあげる義務があると言ってたそうだ。
パパと息子さんの間に何があったのかは鳥居さんに迷惑がかかるから言えないと。
どうすればいいか?やっぱり暗ブタパパに聞くしかないな。
「僕が明日優ちゃんのパパに聞いてみるからそれからまた考えようよ。
今度は僕から連絡するね」
これで暗ブタ友も今日は安心して寝られるだろう。
まだ9時半だ。暗ブタパパに電話してみようか?その方がスッキリするな。
俺はビールを飲みながら一度電話してみたが暗ブタパパは出なかった。何かツマミを食べようと思って冷蔵庫を開けたとき、今度は向こうからかかって来た。
スピーカーオンにしてツマミを皿に並べながら長くなりそうな話をした。
鳥居さんのことをご存知ですかと聞いてみたが、聞いたことあるようなないようなと言う返事だった。
でも、うちで働いていたとしても、直属の部下ではないから明日人事部長に聞いてみると言うことだった。
暗ブタがパパには義務があるといってたのは伝えていないが、やっぱり伝えるべきかも知れない。
義務とは言いにくかったので助けてあげるべきかもみたいな言い回しにしてしまったが、暗ブタパパが明日調べてから電話がかかってくるので、そのあと俺は暗ブタ友に連絡しなければならない。
2本目のビールを飲みながらふと疑問に思った。
俺、なんでこんなことしてんだろう?あんなに関わりたくなかった暗ブタの心配をしている。
恋か?いや、全く違う。
そうだ、始めは長男を亡くしたおばさん達に同情してみんなで時々コーヒーを飲むだけだったのに俺の閃きが裏目に出てなぜか毎日のように朝モーニングセットを食べる羽目になっている。
そこに植木や暗ブタ友が加わり、オマケにマスターや玲さん、暗ブタパパまで出てきた。あ、鳥居さんの息子もだ。
なぜ、こんなに交友関係が広まった?
そうだ、暗ブタがみんなに心配をかけるからだ。
200万円も自分から強引に貸すなんて普通の神経じゃないし、決していいことでもない、相手に取ってもだ。
優越感に浸りたいのか?いや、そんなタイプじゃない。あー、もうやめよう、心配ではあるが、アイツは暗い!これ以上考えてたらまた貞子の夢でうなされそうだ。
もう寝よう。満天の星に癒されよう。そう思ってブラインドを全部開けてみたが、薄曇りで三日月がどんより隠れて余計に気味が悪い。結局ラジオを聴きながら眠りに着いた。
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