第6話 優ちゃん、また、騙されている⁉︎

12月12日土曜日、いつもより10分ほど早く "ダークブラウン" に行ってみた。


駐車場で歩きながら愛車にロックをかけていると、前から自転車に乗った暗ブタがやって来た。

見た目に似合わず額丸出しでゴンゴン漕いでいる。

いつもと変わった様子はないが声を掛けてみよう。


「おはようございます。今日も寒いですね」


「はい、おはようございます。

寒いから一生懸命漕いで来たら暖かくなりました」


そう言ってニコッと微笑んだ顔は可愛いが、相変わらず地面のセメントに向かって喋っている。

なぜ、相手の顔を見て話さないんだろう。

話を続けにくくなるのに。

ああ、それを願っているのか?


二人でカランコロンを開けるといつもの店員いや、玲さんが「え!もう何か話したの?」みたいな表情で注文を聞きにきたので、説明しておいた。


「ちょうど今、入口で会ったんです」


そう言っていると、植木と鳥居夫妻が慌ただしく入って来た。

なんと、今日はみんなバタートーストとサラダ、ブルーベリーヨーグルトのセットになった。

最後に注文した暗ブタは多分みんなに合わせたんだと思うが。

鳥居夫妻も格別変わった様子はない。

おばさんがいつも通り元気に話し始めた。


「うちにはね、亡くなった長男の他に居酒屋に勤めてる次男がいるの。

それでそこの居酒屋チェーン全店で使えるチケット買ったからあげるわね。

良かったら若い人どうしで行ってみてね」

そう言いながら6千円分のチケットをみんなに配ったが、暗ブタがまた異様に気を使い始めた。


「あ、私は買います!時々行けるから大丈夫です。

5千円で買えるから千円も得しちゃうし」


植木も飛びついた。


「僕も買います!」


俺も買うしかないな。


「じゃあ、みんな1つはそのまま貰って、もう1つは買おうよ」


おばさんは嬉しそうだった。植木は3つも買ってる。

今日のモーニングはビールを飲む時のおつまみの話で盛り上がった。

植木は相変わらず暗ブタが居るからハイテンションだが、暗ブタも結構慣れてきたのか時々楽しそうな顔をする。

おばさんはよく笑い、よく喋るし、おじさんも優しそうにニコニコしている。

どう見ても詐欺師には見えない。

そうだ、住所を聞こう。


「あの、僕、年賀状出したいんですけど、良かったら住所教えてもらえませんか?」


おばさんは何の抵抗もなく承諾した。


「まあ、若いのに感心ね。嬉しいわ、年賀状頂けるなんて」


結局みんな住所、電話番号、LINEを交換して、朝は別れた。

この時点で、鳥居夫妻に対する不信感は殆ど消えていた。

いわゆる大金も何か事情があるはずだ。

今日の昼過ぎにみんな来ればいいけど。

俺はその日の仕事を必死で2時迄に全部終わらせて "ダークブラウン" に向かった。

カランコロンを開けるとまだ誰も来ておらず、奥の方に男性のお客様が1人で新聞を読みながらコーヒーを飲んでいるだけだった。

俺は取り敢えずカウンターの席に座り、腹が減ってたのでナポリタンを頼んだ。

マスターはフライパンを器用に振りながら話し始めた。


「彼女達は来るんだったら多分2時半くらいになると思うけどね。

確か佐藤さんて呼ばれてたと思うんだけど、君と親戚か何か?」


「いえ、全く偶然なんです。

僕は佐藤浩二で彼女は佐藤優って言うんです。紛らわしいからおばさん達は優ちゃん、浩ちゃんって呼んでますけどね」


マスターは静かに言った。


「なんか、大人しくて、騙されてると解っても我慢しそうな女性だよね。

玲も心配してたよ、ああいう女性は何回でも騙されるんじゃないかって」


俺も自分の気持ちを正直に言った。


「確かに僕もそうい心配はあるんだけど、鳥居夫妻は女性を騙すような人には見えないんですよね」


マスターは身を乗り出して言った。


「いやいや、そうゆーのが危ないんだよ。

僕も昔ハニートラップに遭ったことがあるんだけどね、それはそれは優しくて綺麗な女性だったんだよね」


そうだったんだ。同類じゃないか!


「あ、実は僕もあるんです。でも、いまはそれもいい教訓だったと思うようにしてます」


さすがに四回とは言えないや。

話が脱線してしまった。みんなが来ないうちに要点をまとめておかなければ。


「ここだけの話ですけど、彼女は以前も男性に200万円騙し取られたそうなんです。

実家が裕福でお金は大丈夫だったみたいですけど、突然大金を要求されたら、親御さんもさぞかし心配でしょうね。

確か母親は亡くなって、父親だけだと言ってましたよ」


そう言い終えた時、背後から男性の低い声が聞こえた。


「私がその父親なんです」


「エエー⁈」


俺は驚き過ぎて、口いっぱいに含んだばかりのナポリタンをちょうど身を乗り出していたマスターの顔面に思いっきり吹き出してしまった。

マスターも相当ビックリしたようだったが、まず慌てて顔を洗いに行った。

だが、早く話に加わりたかったようで頭にナポリタンをくっつけたまま急いで帰って来た。

だが、俺もマスターの頭からぶら下がってるナポリタンを取ってあげるような心のゆとりはなかった。

立派なスーツに身を包んだ男性は、もとい、暗ブタの父親は心配そうに話し始めた。


「実は最近ヴィトンのスーツケースを買うと言って200万円、エルメスのバッグを買うと言って200万円渡してるんですが、どうも買ったようにないし、時々2時過ぎに職場を抜けてどこかに行ってるので、心配になって一度後を付けたらこちらに入って行くのが見えたんです。

それで今日は先に来て様子を見てみようと思った訳です。

そしたらちょうど娘の名前を耳にしてしまったものですから失礼とは思いながら聞かせて頂きました。いろいろ心配してくださって本当にありがとうございます。

こんなに親身になって下さる人達が居て、娘は幸せ者です。」


そう言い終えたあと、失礼しますと言ってマスターの頭にぶら下がったナポリタンを取ってくれたのだが、その時、残り少ないマスターの髪の毛までブチブチっと抜いてしまった。

マスターの顔は引きつっていたが、髪の毛がフサフサの暗ブタ父は気にも留めてなかった。

それどころではなかったのだろう。

俺は暗ブタ父に自分が知っている事だけは伝えておいた。


「でも、相手のご夫婦もどう見ても詐欺師には見えないし、住所や電話番号も堂々と教えてくれたから怪しい方達ではないと思うんですが、やっぱり大金を渡してたって言うのは引っかかりますね」


暗ブタ父がポツリと言った。


「私と優は余り会話がないんです。

母親が亡くなってから腫れ物に触るような育て方をしてしまったものですから」


俺はつい自分ちのことも言ってしまった。


「僕んちも兄が幼い時亡くなってしまったんですけど、僕はつい母を責めたことがあってそれからはもう母を傷つけないよう腫れ物に触るような感じになってしまったんですよ」


暗ブタ父は涙ぐみながら話しだした。


「ああ、うちだけではないんですね。

毎日心配でたまらないんですけど、どう言っていいか解らないんですよ」


つい、話に気を取られていると突然カランコロンがなった。

案の定、鳥居夫妻と暗ブタが入って来た。

暗ブタ父は背を向けて紙ナプキンで思いきり鼻をかんだものだから鼻の回りが真っ赤になって血が滲んでいるが、私はいいからと言う風に手を振って奥のボックスへ引っ込んで行った。

カウンターに座っている俺を見て3人とも驚いていた。俺も驚いたフリをした。


「あ、珍しいですね。こんな時間に。

僕は仕事が早く終わったからナポリタンを食べに寄ったんですよ。」


おばさんは少し動揺しているように見えた。おじさんの方もなんだか困ったような顔をしている。

暗ブタは相変わらず床に取り憑かれているから表情がよく解らない。

おばさんはいつも通り聞いてもないのに解説を始めた。


「私達は前から時々午後コーヒーを頂きにきてるの。

今日もちょうど優ちゃんも来れるって言うから時間合わせていっしょに来たのよね」


3人はブレンドとチーズケーキを注文していた。おばさんは電話がかかって来たようで急いで外に出た。

俺は食べかけのナポリタンを持って暗ブタの隣りに座った。

玲さんがお水を持って来てくれたので、俺もチーズケーキとマンデリンを注文した。

おばさんは電話をかけに外へ出てからなかなか帰ってこない。

ちょっと探りを入れてみよう。


「あ、何か3人で大事な話があったんじゃないですか?

僕がいても大丈夫ですか?」


暗ブタは少し慌てたように見えた。

でも、口を開いたのはおじさんだった。


「ああ、大丈夫ですよ。

今日はうちの息子も来たそうだったんだけど、どうやら仕事が忙しいみたいだね、土曜日だし」


息子?そうか、ひょっとしたらソイツが何かたくらんでるのかもな。


「息子さんの居る居酒屋ってこの辺ですか?今日はちょうど土曜日だし、せっかくチケットも戴いたからちょっと行ってみようかな?」


おじさんは普通に言った。


「駅前にある "ドラゴンロード" って言うチェーン店です。

良かったら行ってやってください」


「優ちゃん一緒に行こうか?

植木も誘うから、優ちゃんも誰か友達呼んでもいいし」


「はい、行きます。誰か誘ってみます」


おばさんがやっと電話を終えて入って来た。


「ごめんなさいね、息子が来たいって言ってたんですけど、土曜日だから仕込みが忙しいみたいで来られなくなっちゃったんですって」


おばさんはなんかホッとしたような表情にも見える。

とにかく息子がどんなヤツか見てみよう。

おばさん達はチーズケーキを食べ終えたらもう帰ってしまったので俺だけ残った。

そう言えば暗ブタ父が奥の死角にいるんだった。

3人が帰ったのを見届けてから父親のいる方へ行ってみた。

マスターから事情を聞いたのと今晩俺達が偵察に行く事で少し安心したようだ。

電話番号を交換して深々と頭を下げ、うなだれたまま暗ブタ父は帰って行った。

娘が心配でしようがないのだろうが、スーツが立派過ぎてあんまり気の毒な気がしない。


マイルームに帰ってから植木にLINEを入れ、少し作戦を練ってみた。

植木にもある程度のいきさつを伝えておかないと作戦が台無しになりそうなので、暗ブタが誰かにまた騙されてるかも知れないということと、あの息子が気になるので探りに行くという事だけは伝えた。

シャワーを浴びたあと、黒酢ブルーベリーを薄めて飲んでいると、暗ブタからLINEが来た。


「友達を連れて行きます。

私と違って明るくて楽しい人です。

では、7時にお店の前で」


なんだ、暗ブタは自分のことが解ってるじゃないか、なら直せばいいのに。

夕方6時半ころ植木がハイテンションでやって来た。


「おい、優ちゃんが騙されてるかも知れないってどういうことだよ。

まさかおばさん達じゃねーだろ?

今朝言ってた息子?

ならおばさん達だって黙ってないだろ」


めんどくせーなあと思いながらも、俺が知ってることは全部植木に伝えた。

大金を手渡しているのをマスターが見て心配になり常連客の俺に相談してきたことや、父親も心配になり "ダークブラウン" に偵察に来てて、偶然会ったことなど。

バスで行こうと思ってたが二人ならタクシーで行ってもバスで行くのと大して金額は変わらないので、タクシーにした。店には6時50分に着いた。

暗ブタ達はまだ来てない。

チラッと中を覗くと、注文を取っている店員は2人いた。

1人は真面目そうだがあまり笑っていない。もう1人はニコニコしているが、なんだかそそっかしそうだ。

植木とあてっこをした。

俺は余り笑っていない方が息子さんだと思うが、植木はニコニコしている方だろうと言う。6時55分に暗ブタが賑やかそうな友達を連れて自転車でやって来た。

中に入って一番見通しが良さそうなボックス席に4人で座った。

店長のような若い男性が手をスリスリしながらやって来た。


「いらっしゃいませ!

優ちゃん、今日はたくさんお友達がいて楽しそうですね」


店長は暗ブタを見て言った。

暗ブタは珍しく普通に前を見て答えている。

「はい、こちらが朝ご一緒の佐藤さんと植木さんです。こちら鳥居さんの息子さんで、創さんです」


「初めまして、創です。ごゆっくりどうぞ」


金曜日だから忙しいのか、都合が悪いのか、余り愛想は無いな。

まずはビールで乾杯をした。

暗ブタと一緒に来た女は回りをキョロキョロ見渡しているが、たまに俺と植木の方を見てニッと笑う。

暗ブタとはまた違った異様さがある。

存分に見渡して気が済んだのか、今度はしっかり俺達の方を見て喋り始めた。


「初めまして!私、鈴木未央と言います。

優とは高校で一緒だったんです。

性格は全く違うんですけど、何か気が合うんですよ。

お二人のことは最近よく聞かされてます」


植木が食いついた。


「ええ?どういう風に聞いてるんですか?

知りたいなぁ」


暗ブタ友は意味有り気にニヤッとして言った。


「植木さんは喋り過ぎてやかましいって」


暗ブタが飛び上がっって言った。


「そんなこと言ってません!」


「ひひ、冗談ですよ。植木さんがどんな反応するかなと思って」


ひでー冗談だな、植木の顔が引きつってるぞ。


「あー、ビックリしたぁ、自分でも時々そう思ってたから冗談に聞こえなかったですよ」


「ごめんないね。お二人ともとってもいい人だって聞いてますよ。

優が男の人のことをそんな風に言うのって珍しいから私も会ってみたくなったんです」


はー、いい人が珍しいって今までどんなひどい男と付き合ってきたんだよ。

植木はいい人って言われたのが嬉しかったようでニンニンしながら暗ブタに話しかけている。

暫く4人で話しながら食べていると、暗ブタ友が箸とコップを持って突然立ち上がった。


「優と植木さんてとってもいい雰囲気ねー。邪魔しちゃ悪いから私達別の席で飲みましょうよ」

 なんだよ、突然!初対面なのにと思いながら暗ブタ友の方をを見ると "行かなきゃ殺すよ!" みたいな顔をしていた。俺は行くしかないだろう。

なぜか暗ブタ友と一緒に一番隅の狭い席にちょこんと座って、ビールの注ぎ合いをした。暗ブタ友は内緒話をするように身を乗り出して喋り始めた。


「ごめんない、突然。実は最近の優がちょっと心配で」


俺はピンときた。

ああ、だから初対面なのに俺を別のとこに連れてきたんだな。


「実は僕もそうなんです。優ちゃんのお父さんも心配してて」


暗ブタ友は俺が暗ブタ父と面識があることに驚いていた。


「えー、お父さんも知ってるんだ!」


「あ、知ってるってほどではないんですけど、なんかブランド物のバッグを買うって言うから2回で合計400万円渡したけど、どうも買ってないみたいだし、最近午後2時頃よくどこかに出かけてるって心配してたんですよ。

その午後出かけてる場所がちょうど僕の行きつけの店で今日偶然お父さんに会ったんです」


俺は騙された男のこともコイツなら知ってるだろうと思って聞いてみた。


「以前も男の人に騙されたことがあるんでしょう?200万円渡したようなことを言ってたから」


暗ブタ友も心配そうだった。


「ああ、アイツは最低の男だからもう関わらない方がいいの。最初はね、すごく優しくていい人だなって私も思ったのよ。

それがだんだん私にも会わせてくれなくなって、たまに優だけは会ってくれたんだけど、無理して笑ってるような感じで凄く心配だったんです。

だけど、そのあと私が会ったのは佐藤さんに助けてもらったあとなの。

それと鳥居さんご夫婦にも助けられたって。でも、今回優がお金を貸したって言うのがその息子さんなんですよ」


「ええ、じゃあ、今度はあの男に貢いだってことですか?」


暗ブタ友は不思議そうに言った。


「それがね、貢いでるって訳ではないみたいなの。

別に好きでもなんでもないって言ってたから」


解んないなあ、金が有り余ってるってことか?

てか、暗ブタの金じゃないだろ。親の金だろーが!

家が裕福なのを知ってあの男が泣きついてきたのか?

でも許せねーな。


「僕は今日初めて彼を見たんですよ。

鈴木さんもそうですか?」


「ええ、私も初めて見ました。

見た目は普通ですよね。

一生懸命仕事してるし、チャラチャラしたところもないし、しっかりした店長さんって感じですよね。

優にどうして200万円も貸したのって聞いたら、ちょっと事情があってって言うんですけど、それ以上は教えてくれないんです」


「事情って何だろね。

何か弱みでも握られてるのかなあ」


「私ね、高2から優と同じクラスで隣りの席だったんだけど、優がある女子にね、なんか、とっても申し訳無さそうな態度とってるのを見たことがあるの。

それで優に聞いたんだけど、何でもないって教えてくれないから直接その女子に聞いたんです。

そしたらその女子のお父さんが、優のお父さんの経営しているマンションの管理人をしてるんけど、結構仕事が大変なのにお給料が少ないって言ってるのを聞いたからそれをそのまま優に伝えたんですって。

自分も買いたい服があるけどお給料の少ないお父さんには言えないって事も言ったらしいの。

そしたら次の日に優がこれで服買ってって10万円くれたって言うのよ。

あげる方もあげる方だけど、貰う方も貰う方でしょ?

でもその女子は、自分もこういうの嫌だから1回しか貰ってないし、もうそんなこと言うつもりもないって。

優はそのこと話したがらないし、1回きりだったから私もそのうち忘れちゃったんだけど。

今度も言いたがらないからひょっとしてそういうのかなと思ったりもして。」


「うーん、する事が間違ってるよね。それに鳥居さんちの息子さんが働いてるのはここだし、夫妻はリタイアしてるから接点はないよね」


「そうですよねー。いったい何があったんだろ」


二人とも行き詰まっているところへ鳥居創が注文を取りに来た。今度はニコニコしている。


「両親からいつも佐藤さん達に仲良くしてもらってるって聞かされてます。

長男が亡くなってからよく塞ぎ込んでたので心配だったんですけど、お陰様で最近すごく元気になったみたいです。

ありがとうございます。

あの、一品サービスいたしますのでお好きなものを選んでください」


暗ブタ友は遠慮することを知らないようで何の躊躇いもなく一番高い刺身を注文した。

俺は控えめに枝豆にした。

暗ブタ友がポツリと言った。


「普通に見えるし…」


俺は暗ブタにはっきり聞くのが一番だと思ったが、自分にその役目が回ってきたら嫌だから敢えて言わなかった。


「私が優にしつこく聞くしかないよね。佐藤さん嫌でしょ?」


もちろんだ。あんな暗いヤツに何かを聞くなんて嫌に決まってるだろう。友達ならお前がやってくれ。


「僕達はまだしつこく聞けるような仲じゃないから鈴木さんにお願いしたいです」


「じゃあ、今から聞いてみようか?」


「あ、でもここだと息子さんいるから締めにコーヒーでも飲みに行ってからにしませんか?」

ビールとおつまみを抱えて元の席に戻ると、暗ブタは床に取り憑かれているのに、植木が一人でくっちゃべっていた。

15分ほど4人で喋りながら飲み食いしたあと、歩いて近くのコーヒーショップに行った。

"ダークブラウン" ほどいい香りはしないが飲めないこともないぐらいの味だった。

時刻はまだ8時半だから30分あれば結構いろいろ聞けるんじゃないかと思ったが、暗ブタ友はなかなか切り出してくれない。

考えてみれば、4人揃ってる時に一人だけいろいろ問い詰められたら暗ブタも辛いだろうな。

多分暗ブタ友もそう思って言わないんだろう。

まあ今日は鳥居さんの息子を確認することもできたしいいや。

そうだ、暗ブタ友の連絡先を聞いとかなきゃ。

名前なんだっけ?

暗ブタ友なんて言ったら怒るだろうな。

だめだ、どうしても思いだせない。

顔を見て聞こう。暗ブタ友の顔をちょっと覗き込むように聞いてみた。


「あの、良かったらみんなでグループライン作りませんか?

ついでに連絡先も教えてください」


暗ブタ友は察してくれたようで電話番号を交換し、みんなでグループラインを作った。

グループ名は "ダークブラウン"。


優ちゃん、未央ちゃん、まこちゃん、浩ちゃんだ。

すげーなぁ、幼稚園児の仲良くグループみたいだ。まあいいや。

優ちゃんと未央ちゃんは自転車だったので、9時にお店の前で別れた。

俺も遅くならないうちに暗ブタ父に一応今日のことを知らせておきたかったので、植木とタクシーで帰った。

暗ブタ父には、男性に騙されてる訳ではないみたいだということと、これから折りを見て少しずつ聞いてみますので心配しないでくださいということだけ伝えておいた。

俺が暗ブタ父に心配しないでくださいと言うのもおかしな話だと思ったが、誰であろうと親に心配をかけるというのが嫌なのだ。


その日は少し疲れたが、星を見ていたらいつの間にか眠りについていた。

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