第47話 仮初め
「ねぇ~ねぇ~メグミ~お師匠様のこと伝えなくて良かったの~?」
メイクをしながら、同じニルヴァーナのメンバーであるマドカが、興味があるのかないのかよくわからない感じで話しかけてきた。
ここ最近のメンバー間の話題は、もっぱら御姉様と空色のことばかり。
「そうだよ。あの男の子に本当の事を伝えた方が良かったんじゃない?」
同じくリンが、この私を咎めるように物申す。なんで私があのちんちくりんな男の為に、わざわざ真実を伝えなくちゃいけないんだよ。
他のメンバーも口々に訴えてくるけど、私の知ったことではない。私は空色の母親ではないのだから。それに真実を伝えたとして、事態が好転するとも思えない。
「いいのよ。私が伝える義理なんてないしね。私から御姉様を奪ったんだから、このくらいの仕打ちをしたって罰は当たらないでしょ」
そう――私達のような過去に一度死んだはずの人間は、現代の人間と同じ時間を生きてるようで決してそうではない。
どうして再びこの世に甦ったかは神様仏様にしかわからないけど、あくまで期間限定のボーナスタイムにしか過ぎないことを私達は理解している。
奇蹟か、それともただの気まぐれなのか――
私も、ニルヴァーナの仲間達も、最澄も、もちろん御姉様もそのことは知っているはず。なのに、御姉様はまるで本当の十代の女の子のように現実から目を背けていた。わかっていたはずなのに、この世にすがり付いているように見えてならない。そんなのは私が知っている凛凛しい御姉様じゃないのに。
あの花火大会の夜もそうだった。
「御姉様。まさかあの男から離れたくないなんて、そんなこと思ってませんよね?」
「それは……」
答えに詰まる御姉様は、覇気も威厳も何処かに霧散してしまったような、どこにでもいる一人の少女にしか見えなかった。
「わかってると思いますけど、この世に留まっていられる時間に限りがあることを忘れないでくださいね」
「……わかってるよ」
御姉様が腑抜けてしまったのも、もとはといえばあの空色真魚が原因であることを、あの男ときたらこれっぽっちも理解していないのが腹立たしい限りだけど、まぁ、声優になりたいって夢は叶えられるものなら叶えてもらいたい。
だけど、御姉様の願いは叶うのかどうか――
個人的には御姉様には幸せになってもらいたい。
だけど、誰もがハッピーエンドになるなんてお伽噺のような話はあり得ない。現実なんて往々にして辛いもの。
あの二人の結末は、一体どうなるのかしら?
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