第39話 文化祭 前編
夏休みも終わり新学期が始まると、毎年恒例の文化祭が始まる。
しかし中学生だからといって侮るなかれ。毎年自分達で一から作り上げる本格的な出し物の数々は、千客万来、満員御礼になるくらいの盛況ぶりなのだ!
なのだ!と偉そうに口上を述べてみたものの、二年まで僕は積極的にクラスの出し物に参加することはなく、建前上は裏方、その実は不介入といった体たらくだった。熱くなるなんて馬鹿みたいと斜に構えていた自分が恥ずかしい。
そんな、これまでのそんな姿勢にバチが当たったのか、今年はとんでもない事態になってしまうのだった――
「それではぁ~ウチのクラスのぉ~出し物を~決めましょ~」
夏休み直前に、文化祭の出し物は何にするか話し合ったけど、よくある話でゴチャゴチャといろいろ案が出て収拾がつかなくなっていた。
議会は踊る、されど進まず、とはよく言ったもので歴史は繰り返される。結局時間だけが消費され、議論は堂々巡りになってしまった。
最上先生はあくまで静観の姿勢。というより関与するつもりがなさそう。ネイルをいじいじ弄っていた。
すると、
「喫茶店は私は賛成しかねるな。やはり最初に思い付くだけあって、既に決まっているクラスでは喫茶店に類する出し物が幾つか存在するよ。差別化を図るには難しいんじゃないかな」
海がごもっともな意見を出した。
海の意見に付け加えるとすると、食材を提供するとなると衛生面でもチェックが厳しくなるので、実は細かな気配りが必要だったりする。
うちのクラスは……あんまり向いてないのかもしれない。
「それならぁ~皆で演劇なんてぇ~どうかしらぁ」
まぁ、変態教師に言われるでもなく、皆の頭のなかにはその選択肢も浮かんでいたとは思う。実際一、二年でも既に演劇を選択したクラスもあるみたいだし。
だけど、皆が皆やりたいかというと、衣装を作ったり台詞を覚えたり小道具を作ったりと、中々にハードでもある。
それに貴重な夏休みを消費しなければならず、だからこそ誰も口には出さなかったのだ。
若林君という勇者が、勇猛果敢にメイド喫茶を提案し、女子から一斉にひんしゅうを買うなか、クラスのマドンナ気質の前澤さんが手を上げ、なんと賛成票を投じたのだ。
チラチラと周囲に目配せすると、恐る恐る取り巻きの女子達も彼女に倣って手を上げ始める。同調圧力の恐ろしさを知った瞬間だった。
前澤さんの目論見通りにうちのクラスの出し物は演劇に決まった訳だけど、テーマが白雪姫に決定すると約一名……可哀想に茫然自失、真っ白になってしまった。
率先して賛成票を投じた前澤さんは、近頃薄れていた自らの存在感を、主役を演じることで回復する腹積もりがあったみたいだけど――そうは問屋が卸さない。
彼女の勝負の一手は、悪手も悪手。敗着だ。
演劇で、しかも「白雪姫」を選ぶということはあの有名な
だって、このクラスには我が校の三大マドンナのうちの二人がいるんだから――
それを失念していた前澤さんの失策により、主役の白雪姫は接穂に、そして王子様は海と配役がすぐ決定した。
前澤さんは魔女という役を賜った。まぁ目立つしいいんじゃないかな?
「いやぁ……まさか私が男役を演じるとは夢にも思わなかったよ」
帰り道にそうボヤく海の男装姿を脳内でイメージしてみたけど……うん。悪くなかった。なんだか宝塚っぽいというか、もし王子役の海に迫られたりでもしたら……なんだかイケない扉を開いてしまいそうだ。危ない危ない。
「海ちゃんは王子様も似合うだろうからいいけど、私はお姫様なんて柄じゃないよ~」
麦穂は麦穂で、どうやら白雪姫に選ばれたのが身分不相応だと感じてるようだ。確かに麦穂は長年幼馴染みという配役を担っている僕からしても『姫』って柄じゃない。元気よく走り回ってるからね。
だけど……逆にアリよりのありかもしれない。
お姫様の格好をしておしとやかになった麦穂というのも、新鮮ではなかろう――はっ!いけないいけない。つい妄想に浸ってしまった。
「でも真魚君がなにもしないのは納得がいかないなー」
「僕は裏方でいいんだよ」
「そう言って二年間ちゃんと参加しなかったじゃん」
やいやい言われるのは甘んじて受けよう。
僕が参加したところで何も役立ちはしないだろうし、今年は二人のコスプレ姿を見れるだけで十分だ――
そう文化祭当日までは思っていました。はい。
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