第17話 ゲーム

「ねぇ真魚君」


「ん~?なんだよ今いいところなんだけど」


 今日は学校が休みなのをいいことに、最近触れることさえ許されなかった(海に)テレビゲームに一日中興じる気まんまんだったんだけど、早速始めようとゲーム機を起動させてタイトルがテレビ画面に写し出されると、普段ゲームに全く興味がない海が、ゲームの様子をチラチラと見ながら話しかけてきた。


「今さらだけど、それってどんな遊戯ゲームなんだい?」


「これ?うーん……僧侶の前で詳しく説明するのも気が引けるけど、野生のモンスターをバッタバッタと薙ぎ倒した末に最後に待ち受ける魔王を倒して世界を平和にするっていう内容だよ」


「つまりは無駄な殺生を繰り返して築いていった死屍累累ししるいるいの山の上に成り立つ平和を目指す遊戯ということかな?」


 そういわれるとまさにそうなのだが、何故だろう……こちらが悪逆非道だと避難されているようで、罪悪感が半端ない。


「いやまぁ……殺生と言われると否定はできないけどさ……でもそういうゲームなんだし、それに実際に敵の命を奪ってる訳じゃないんだしさ。そんな真面目に考えなくても良いんじゃない?」


 もしかしたら海も、ゲームは子供に悪影響を与えるという考えの一人なのだろうか。そうだとしたら少し悲しいかな。


「ふむふむ……なるほどね。しかし敵対するものを悪だと決めつけて倒してしまうのは、少し早計なんじゃないかな」


「え?いや、だからね。これはゲームであってそれが目的なんだからさ。倒さないと先にも進めないし」


 真言宗の開祖とはいえ、ゲームに関して知識ゼロの海にはちょっと理解できないかなと苦笑いをしていると、そんな彼女からまさかの一言が飛び出した。



「ちょっと私にその遊戯をやらせてくれないかな?」


「へ?」


「私が混沌とした遊戯の世界に、真の平和をもたらそうじゃないか」



 まさか自らゲームをやりたいと志願するとは思ってもいなかったけど、こうしてボクの部屋で一緒にゲームをしていると、女子と付き合ったことなんて一度もないボクだけど、なんだかおうちデートをしているような甘い気分になる。

 麦穂とはこんな気持ちにはならないんだけどな。

 天から降ってきたような役得に鼻の下が伸びないように気を付けていると、肩が触れるか触れないかくらいの距離でコントローラーを握る海の横顔が、ゲームに興じる若者というより、これから厳しい修行に立ち向かう修練者のような顔つきになっていた。



「ねぇねぇ真魚君。これはどうやって動かせばいいのかな?」


「右のスティックをこうして――」


 説明してる間もずっと真剣な顔な海だったけど、全てにおいて僕とは元の資質が違うせいか、始めて触るはずのコントローラーの仕組みもたった一回の説明で覚えるし、なんなら教えてないことすら難なくこなしてしまう。

 助っ人という存在はすぐに必要がなくなってしまったので、大人しく見ているとことにした。



「おっと、敵のようだ」


「あーそいつは初心者でも簡単に倒せるから」


「何を言ってるんだ。無駄な殺生はしないと言ってるじゃないか。ここは『教え説く』」


「そんな技ないよ……ってなにそのコマンド」


《スライムは味方になった》


「ほら、話せばわかってくれたじゃないか」


「そんな仕様知らないよ!?」


 海のキャラはなぜか会う敵会う敵を片っ端から改心させ、一度も戦うことなくストレートに魔王城に到着してしまった。

 これってボクが知ってるゲームじゃないんだけど。


「フハハハ!よくぞここまで辿り着いた。わが部下を葬りさってくれた褒美に、我が直接地獄に落としてやろう!」


 心なしか、魔王のテンプレのセリフが虚しく響く。だってただのスライム一体も倒していないんだもの。みんな配下にしてるんだもの。

 魔王は雄々しく海に戦いを挑むが、悲しいかな――海の『教え説く』の前では全てが無力化してしまう。

 スライムもラスボスも関係なかった。


「私が全て間違っていました。これからは頭を丸めて仏門に入りたいと思います」


 どうやらすっかり教え説かれた魔王は、殊勝な態度で土下座をしていた。

 そして世界は真言宗によって救われた――なんて訳のわからないエンディングを迎えると、海は「思ったより簡単だった」とのたまった。




「じゃあ次はこれやってみてよ!これなら戦うしかないからね!」


 簡単にクリアされたことにムッとした僕は、ゾンビを倒していくゲームを海にやらないか提案した。

 案の定、銃でゾンビを撃ち殺すという設定に異議を唱える海は、ボクの手からゲームをひったくると、やり方を教わって即座に遊び始める。


「――だからさ、どうしてゾンビを倒さないんだよ」


「無駄な殺生じゃないか」


「そもそも最初からゾンビは死んでるんだって。それにどうして会話が成立するのさ!」


 なんと、今回もゾンビ相手に『教え説く』作戦を決行して、ゾンビの群れを全て土に返していく。

ダメージの一つも負わずにラスボスまで辿り着くと、これまた言葉一つで改心させてしまった。



「次はこれ!」





 そんな感じでボクの持っているゲームは次々と海にクリアされてしまい、なんだかボクもゲームで遊ぶ気分ではなくなってしまった休日なのでした。

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