第7話(悲恋編)祭りと海上花火大会

四日目の午後になって、やっとシオリの水着姿が浜辺に在った。健司と誠司は、小さな湾の真ん中辺から首を出し、此方へ歩いてくるシオリの姿を見ていた。殆ど競泳用に近い紺色の水着と薄ピンク色の大きめなパーカーを羽織って、水辺までやって来てから、パラソルの下に座り込んだ。すかさず誠司が泳いでシオリのもとへ向かった。誠司は、シオリの横に座ると

「もう大丈夫か?」

「大丈夫よ、だから病気じゃ無いんだから。」

「今日は、新しい水着着ないのか?」

「うん、今日の調子を見てからにする。この方がまだ体が冷えない様な気がするから。」誠司は一寸残念そうな顔してから、

「一緒に泳ぐか?」と声を掛けた。

「うん、ゆっくり泳ぐから先に行ってて。」誠司が、海に飛び込むのを見てからシオリは、殆ど波の無い水の中に歩くように入っていった。海水はシオリが思っていた以上に暖かかった。そんな海の水に体を任せる様にして、仰向けに浮かんでからゆっくりと手足を動かしながら泳ぎ始めた。青い空の端に真っ白な夏の雲が浮かんでいた。シオリが暫く水面を漂う様に泳いでいると、左右に

健司と誠司が、まるでトドの様に、水面から顔だけだしてシオリを見ていた。

「あんた達、器用な泳ぎ方してるわね。」二人に気づいたシオリが声を掛けた。

「ああ立ち泳ぎしてるからな、それより、あの岩の近くに熱帯魚の群れがやって来てるぞ。」そう言いながら誠司が水中メガネを差し出した。

「ああ、いいよ。ゴーグル有るから。」シオリは水泳帽子からゴーグルをずらして装着してから誠司の後を着いていった。ぽつりと残された健司が、少し考えてから二人の後を着いてきた。そこはこの小さな湾の中でもとりわけ水が澄んでいて、岩間に泳ぐ小さな色とりどりの魚達をまるで水族館にでも居るように見ることができた。誠司の言う通り、いつもであれば、数十匹の群れがあちこちいる程度の熱帯魚が、今日は大きな群れとなって岩の回りを泳いでいた。誠司はかなり深い所まで潜り、シオリと健司を見上げる様に見ていた。シオリも大きく息を吸ってから、一挙に誠司の所まで潜っていった。誠司が、海底に近い岩の間を指さしていた。そこには、黄色地に黒のストライプの入ったチョウチョウウオの様な魚が群れをなしていて、その回りに無数の瑠璃色の小さな小魚が取り巻いていた。誠司とシオリは息が続く限り、生きている宝石の様なその情景を見ていた。暫くして水面から顔を出したシオリを抱き抱えるようにして健司が確保した。シオリが粗く息継ぎをしてから

「ああご免、一寸長く潜りすぎちゃった。」直に誠司もやって来て、心配そうにシオリの顔を覗き込んだ。

「やっぱり、肺活量は男の子にはかなわないわね。」シオリは暫く二人に体を支えてもらいながら砂浜に戻った。

午後の青空の中に在った白い雲は、夕方近くになって激しい雷雨に変わっていった。三人は、一部の鎧格子の雨戸を残し、家の回りに有るぐるりとしたガラス戸を閉めてから

「昨日じゃ無くて良かったわね。」

「こんな激しい雨じゃ、あっと言う間にびしょ濡れだよな。」

「花火も消えちまうかもな?」雷雨対策が一段落して板の間の長机に集まった途端に停電になった。

「ええ、お決まりのパターンかよ、確か蝋燭とランタンが有ったよな。」健司が、稲光の明かりを頼りに台所の戸棚を探し始めると、誠司は、自分のバックの中から懐中電灯を持ってきた。二人が明かりの算段をしている中、シオリは小降りになった雨あしをガラス戸越しに見ていたが、

「ねえ、あれって夜光虫じゃない。あそこで光ってる場所・・・」シオリが指差した三角岩の近くで、波が砕ける場所に青白い光があった。

「稲光の反射じゃ無さそうだな。」

「でも、夜光虫て赤潮を起こすプランクトンだろう。」健司が言うと

「へえ、そうなんだ。でも夜は綺麗だわね。」

三人は暫くガラス越しに夜の海を見詰めていたが、停電が長引きそうだったので蝋燭を長机に設置した後、ランタンを台所へ置いて夕食の支度をし始めた。結局その日の夕食は、手探りの作業もあって残り物とラーメンと言う簡単な料理となった。ガスは何とか使えたので、お茶用のお湯を沸かしポットに詰め、駄菓子類を机の上に置ておいた。それから井戸用のポンプが止まってしまったため、かなり大変な思いをして裏の崖の湧き水から風呂用の水を運んだ後、風呂を沸かして、それぞれにお湯を被る様な状態で体を洗った。電気が復旧したのは、そんな一仕事を終えて夜食の駄菓子を食べ始めている頃だった。

「もう遅えーよ。」電気の復旧を小馬鹿にしたように誠司が言った。

「折角明かりが点いたけど、消して寝るか。」健司がぼやく用に言うと

「歯ブラシだけはちゃんと出来そうだわ。」シオリが同じように言った。

三人は何となく手持ち無沙汰の様に床に着いた。それぞれに寝付かれ無いままでいると、誠司が

「シオリ触って良いか?」と小声で聞いてきていた。

「ふん、うーん。まあ良いか。」そう言うと誠司の方へ向き直ってから、誠司の頭を抱きかかえる様にした。誠司は暫くパジャマの上から、シオリの乳房を愛撫していた。

「シオリ一寸しこりが有るけど・・・」

「ああ、生理のせいで張ってるんだ。」

「ふん、それなら良いけど、僕らの母親は乳ガンが切っ掛けだったからな。」

シオリは健司の方へ向き直ってから

「健司は良いのか?」と訊いた。

「シオリ、やじゃないのか?二人の男にこんな事されて?」

「もう慣れたて言ったら変かな、それに二人をただの男だとは思ってないし。二人に愛されてると思うと嬉しいし、それで好きな男が喜んでくれるなら何の抵抗も感じないけどな。」

「二人じゃ無いとだめか?」誠司が訊いた。

「どっちか一人じゃだめか?」

「何時も三人だったから、そんな事考えた事無いし、それにお前達、一人じゃ何にもしないじゃないの?二人だと、私の体をいじり回すくせに、一人だと抱いてもくれないわね。」

三人は波音だけの深い闇の中で、それぞれに愛撫していた。




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