第10話 組織の明るい未来

「お疲れ様でした… ようこそ中華人民共和国へ」

挨拶した役人らしい人物と数人のスーツの男達がジェットの到着を待っていた。私とスチュアートは、タラップからそのまま黒塗りの高級車で北京市内に運ばれた。


「彼は… 誰?」

ホテルに到着した一瞬の隙を突いて、私は素朴に尋ねた。


「私も初めてだが… 組織の関係者だろう… 多分…」

スチュアートも少し怪訝な表情で答えた。そのまま部屋に案内された。


「明日… 恐らく… 上級幹部に挨拶出来ると思う… 確証はないが… 何処までの幹部に会えるか… 楽しみだなぁ」

スチュアートと部屋の前で別れた。




「このホテルで幹部に会う…」

私はホテルを見上げ呟いた。お世辞にも超高級とは言えない建物だったからだ。


「まぁ… 入れ。とにかく」

スチュアートが薄笑いを浮かべながら先を歩き始めた。


「この通路… どこかに繋がっているような… それにしても長いな… 少し暗いし… 汚い感じもする…」

私は不安とワクワク感が混じった声で呟いた。


「文句が多いなぁ…」


「不安だらけなんでねぇ…」


「まぁ… そのまま付いてこい」




「このドアを開けろ」

古びた重厚なドアの前に着くと、スチュアートが首を前に突き出しながら言ってきた。


「迎賓館か⁉ 竜宮城… か‼ 別世界だ‼」

私はドアの裏側を見た瞬間、声を上げた。


「組織の迎賓館だ。ここは、共産党本部と中央政府とも繋がっている。さっき入った古ぼけたホテルの入口は… ここ… 竜宮城の入口でもある。極秘の施設。地図にも、ガイドブックにも載っていない…」

スチュアートが周囲を見渡しながら囁いた。


「…」

私は言葉を失った。



「こちらへ」


辺りを見渡しているところに声が響いた。私とスチュアートは、声がした右上の方に視線を向けた。視線の先には空港で出迎えてくれた彼が私たちを見降ろしていた。


階段を上がり、声の主の後に続いて分厚い絨毯の廊下を進んだ。




「組織の幹部がこの部屋に間もなく到着します。暫くお待ちください」

彼は言い終わると部屋を出た。


「さすがにゴージャス…」

私は部屋を見渡し呟いた。


「入ります」

ノックと共にドアの向こうから声がした。


“いよいよ…”

私の鼓動が早くなった。


ドアが開くと3人の黒スーツが入ってきた。


「護衛だ… 前乗りして、安全確認… こんなところに部外者が入れる訳がないのに…」

スチュアートは溜息交じりだった。


護衛の一人が、手に包み込んだものに話し掛けると、ドアが再び開いた。



「まさか…」

スチュアートが呟きと同時に苦笑いした。


「最高指導者… お久しぶりです」

入ってきた人物にスチュアートが近づき挨拶した。そして、スチュアートは私に視線を移して、静かだが厳しい口調で話し掛けてきた。


「名前は不要だ。最高指導者… と、それだけ言えばいい。ゴッド… でもいいが…」


「…」

私は言葉が出ずに頷くだけだった。


「タナカです… アジア支部の…」

私の声は少し震えた。目の前に正真正銘の国家最高指導者が立っていたからだ。


「上手くやっているようで… これからも頼みます、タナカ」




「記憶が無くなっている… 夢だったのか… さっきのは…」

私はプライベートジェットに戻って、やっと独り言のように呟いた。下手な話が出来ない緊張から解放されたからだ。


「驚きだろう… 彼が組織の最高指導者。裏の顔… 数人いる世界の黒幕…

その中の一人だ」

スチュアートが静かに話した。


「でも… 今アメリカとあんなにやり合っている…」


「茶番だよ… 遊びの一つ… ジェームスは遊び相手に選ばれた… 彼がジェームスを大統領にした。アメリカを… 対中国をどうするか見たかったのだろう… その結果… 飽きてきた… ジェームスに」


「遊び… 政治、経済… 何億… 何十億の人間が… もしかして、今回のウイルスも… まさか…」

私は血の気が引いてきた。


「勿論だ。最高指導者が台本を書いた。それをムハンマドに見せた。ムハンマドも面白がった… 『ちょっとやってみるか』そんな乗りで… こんな感じで… 想像だが」

スチュアートは苦笑いした。


「遊びで… 何百万、何千万、何億の人間が苦しむ… まさしくゴッドの成せる業だだ」


「ああ… ゴッド以上かもなぁ… もはや… 逆らえるものはいない」


「遊びにしても… ここまでしなくても…」


「やはりカネ。カネだよ… カネをかき集める。ワクチンと治療薬で… 製薬企業連合から上がるカネ…」


「そんなに集めて… 何の為に…?」


「“地球上に配備する兵器”は、そろそろ終わりだそうだぁ… 宇宙に出ていくにはカネが沢山必要なんだそうだぁ… 同時に地球上の伝染病を操る。核兵器よりもクリーンでスマートに敵を負かす。そして、ワクチンと治療薬を陰で独占してカネを集める…」


「製薬と宇宙を押さえる… 想像すら出来ない…」

私は、諦めのような気持ちになった。


「我々は結局… 言われたことを忠実にやるだけだ。後戻りは出来ない… タナカ」


「そうですねぇ…」


「歯車になりますよ… こんな世界が私を待っていたとは…」

私は深い深い溜息を吐き出した。




「選挙はインチキだぁ‼ 私が勝った‼」

画面の向こうでジェームス大統領が支持者に叫んだ。


「自分がインチキで勝っておいて、よく言えるなぁ… この爺さん」


「そこが彼の強みでもある… いずれにしても必死だよ… 彼は。大統領でなくなったら… どうなるか…?」


「キュー何とかと言って、ジェームスを『救世主』と祭り上げているのは実在しているんですか…」

私は薄笑いを浮かべながらスチュアートに尋ねた。


「私も知らないが… 悪戯なのか… 何かの組織が本当に動き出したのか…

ところで… 明日、ワクチンの第一弾がイギリスから日本に運び込まれるが… 第二弾、三弾のタイミングは… 決めたか…」


「スチュアート… 心配ない。相場が決まった。さっき、親父が連絡してきた。日程を伝えたよ…


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テロリスト大統領 豊崎信彦 @nobuhiko-shibata

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