第6話 約束の実行
「新型ウイルスは大したことは無い‼ 風邪だ‼ ただの風邪だ‼ 経済に悪影響を及ぼす如何なる制限も許さない‼ 絶対に‼ マスクなんてみっともない物を義務化するのは恥だ‼」
ジェームス大統領は、電話の向こうに威圧を込めて吐き捨てた。経済活動に大幅な制限を加えようとしている州知事に圧力を掛けたのだ。
「これから何万という国民が亡くなってしまうかもしれなのに、よくもそんな事が言えるな‼ あんたは正気じゃない。自国民を守る意識が… 大統領… あなたには欠落している‼ 中国の惨状を見れば分かるだろう‼」
電話の向こうから悲鳴とも罵声ともつかない声が飛び出てきた。
「あんなのはメディアが出ちあげた大げさなウソだ。でたらめだ‼信じる事などない」
ジェームス大統領はそう言って電話を一方的に切った。
「大統領… アメリカ国内の感染者数が中国を超えました。死者数も… ロックダウンを行わないと…」
マクラーレン大統領首席補佐官が沈痛な表情でジェームス大統領に進言した。
「でっち上げだ‼ 全部‼私を陥れる為に仕組んだんだ。経済を回せ‼ マスクなんかするな‼ みっともない」
ジェームス大統領はヒステリックにわめいた。しかし、直ぐに表情を変え諭すように話し始めた。
「マクラーレン… 間もなくワクチンが完成する。心配するな…」
「しかし… このまま何も対策を講じなければ… 何万… いや、何十万の国民が亡くなります…」
「確かにそうかもしれない。しかし、他国が停滞している今がチャンスだ。経済が優先だ。多少の犠牲は致し方無い… 長い目で考えれば… アメリカの為だ。これを見ろ…」
ジェームス大統領の言葉に力は無く、自分に言い聞かせるような感じだったが、備え付けた株価ボードを指さし薄笑いを浮かべた。
「ダウ平均が三週連続上昇だ。私は間違っていない!」
「確かに経済は、今のところ… しかし、サービス関係を中心に解雇が進んでいますし… 何と言っても、医療機関は崩壊の危機に向かっています… ワクチンが供給される前に、国が崩壊しますよ… 大統領」
「もう少し待てば… もう少しだ… 私の二期目が始まれば、一気にことは解決する…」
「んん… そうですか…」
二人のやり取りが途絶え、マクラーレン大統領首席補佐官がドアに向かおうと下がり始めた時、ジェームス大統領の言葉に足を止めた。ジェームス大統領は外を見続けたまま呟き始めたのだ。
「約束を守らなければいけない… 大統領に祭り上げてくれた組織との約束を… 必ず」
マクラーレン大統領首席補佐官は、聞かなかったことにしたいのか首を左右に大きく振り、大統領の呟く後ろ姿に軽く頷きドアを開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます