第5話 二つの約束

「私が就任してから中東の奴らは、約束通り大きなテロを起こしていない。だから平穏に世界は回っている… 金さえ下りて来ればこのまま何もしないだろう…」

陰謀が始まる半年前、ジェームス大統は執務室に招き入れた客に申し訳ななそうに伝えた。


「我々は、これまで好き勝手に緊張を作り出してきた。だから今回は製薬連中の言う事を聞いて黙っていたが、そろそろ動いて貰わないと我々が食っていけない。下からかなり突き上げが来ている。あなたは好き勝手なことを言って争いを誘発しそうだが、実はその逆… ほとんど気づかれていないが、全く戦闘を起こしていないアメリカ大統領だ… あなたは、何処にも派兵していないアメリカ大統領… それどころか、撤退し始めたところもある… 我々の敵のような大統領だ」

客が静かな口調の中に威圧を込めて返した。


「すまない。私は、取引は大好きなんだが… こう見えても戦闘は好まない人間なんでねぇ… それに、これから多くの国民が逝くかもしれない状況を作り出す… せめてもの私の遠慮だ…」


「あなたは面倒になるのが嫌なだけ… それでは困るんですよ… 大統領。我々の為にそろそろ動いて貰わないと… 大昔あったように… パレードで頭を撃ち抜かれた大統領のように…」

客の視線と口調が一層恐ろしくなった。


「分かっている… 君も知っている工作活動を… 中東に緊張を作り出す準備を急がせる…」


「あそこが一番カネになる。イスラエルは怒るだろうがねぇ…」


「イスラエルには少し悪いが… 製薬が思い描いた状況になったら、次は軍産複合体に金を回して貰う番だ。間違いなく戦闘を起こさせる… イラン辺りで…」

ジェームス大統領は、客を黙らせるのに必死になっていた。 


「それでは、今日はこれで引き下がるが… しかし、テロ組織を黙らせている偉大な大統領が… 製薬企業と組んで、自国民を犠牲にする… これまで地球上で起こった最悪な状況を作り出すそうじゃないですか… 間もなく偉大なテロリストに… テロリスト大統領になる… 念願通り歴史に刻まれるなぁ… ジェームス大統領」


「言葉を慎め‼ ロジャー‼ 人を殺戮する道具で金儲けをしている君たち軍産複合体に、軽蔑されるような筋合いはない。君たちが今までしてきたことを忘れるな。そして、君たちがこれからすることを私は見届ける」

ジェームス大統領は、いつも記者会見で見せる不愉快な怒りが籠った表情から一瞬で、不敵な笑みを浮かべた。


「まぁ… 気を悪くするな… ジェームス。とにかく、一期目中の二つの約束…

我々と製薬との約束を守ってくれ… 君の二期目をどうするかは… それを見極めてからだ。君の評判を落とす話題や工作も数えきれないほどのカードを持っているからなぁ」

ロジャーはそう言って、大きな瞳をジェームス大統領に向けた。


「今度は脅しか… まぁ… 約束は守る… 必ず。黙ってみててくれ」

ジェームス大統領が囁いた。


「得意の“はったり”“フェイク”にならないように、祈っているよ」

そう言って軍産複合体のメッセンジャー兼イスラエル大使のロジャーは席を立った。

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