第2話 桃太郎
おばあさんが桃を拾ってから、1年がたちました。
桃から生まれた男の子は『桃太郎』と名付けられ、それはそれは可愛がられ・・ることはありませんでした。
すくすくと成長し、1年で背丈は150センチを越え、立派な少年へと成長した桃太郎は、おばあさんに奴隷のごとくこきつかわれていました。
「桃太郎、なんだいこの味噌汁は!とても飲めたもんじゃないね!飯の後片付けが終わったら、次は洗濯だよ!しっかりとじじいのクソと小便を落とすんだよ、さっさと行きなこのグズ!」
いつものようにおばあさんから罵声を浴びせられた桃太郎は、必死に我慢をしていました。
全ては、痴ほう症のおじいさんのためです。
桃太郎はおばあさんからひどい虐待をされていました。が、優しいおじいさんからはとても愛されていました。
今があるのは、おじいさんのおかげです。
寝たきりで、排泄なども自分ではできないおじいさん。
そんなおじいさんを、桃太郎はなんの文句も言わずに世話をし続けました。
おばあさんはほくそ笑んでいました。
おばあさんは、いづれ介護が必要になるおじいさんの世話を桃太郎に押し付けることを決めていたのです。
計画はみごとに成功しました。
桃太郎はすくすくと成長し、1年ほどで『使い物』になりました。
桃太郎の成長を5年は待つことになるだろうと覚悟していたおばあさんにとって、成長の早い桃太郎はうってつけでした。
小さかろうが何だろうが、おばあさんは無理やりにでもやらせるきまんまんだったのです・・。
「おばあさん、仕事に行ってきます。僕がいないあいだ、おじいさんのこと、たのみます・・」
「はやく行きなっ!しっかり稼いでくるんだよ!」
朝から晩までおばあさんにこきつかわれる桃太郎。
しかし、家事が終わったからといって、おばあさんは桃太郎を休ませたりはしません。
桃太郎は、おばあさんの命令で『男婦』をやらされていたのです。
雪のように白い肌、大きな可愛らしい瞳、華奢な体躯、ほんのりと桃色がかったほっぺたに、ほのかに香る甘いにおい・・。
桃太郎には、たくさんの『客』がつきました。
桃太郎の稼ぎは全て、おばあさんのものです。
おばあさんは桃太郎が稼いだ金を、カジノやホストクラブで盛大に散財していました。
もちろん、おばあさんはおじいさんの世話などするはずもなく・・・・。
朝方、桃太郎が疲れきった体をひきずるようにしてうちへと戻ると、おばあさんはいませんでした。
「おじいさん、ごめんよ。喉は乾いてないかい?」
自分がいないあいだ、おじいさんはずっと一人だったのか・・・。
桃太郎は、おじいさんに駆け寄りました。
部屋に漂う、糞尿の匂い。
おじいさんは、冷たくなっていました。
「おじいさん、おじいさん!ごめん、ごめんよ・・・僕がいなかったばっかりに・・・うぅぅぅぅ」
桃太郎は、おじいさんの亡骸を抱いて、泣き続けました。
昼過ぎになり、おばあさんがうちへもどると、入り口の前に桃太郎が立っていました。
「桃太郎、あんたそこでなにやってるんだい!さぼってるんじゃないよ!あたしゃ疲れているんだ、布団の用意をしな!」
「おじいさんが死にました」
「・・・なんだって?」
桃太郎は泣きはらした目をつりあげ、おばあさんを睨み付けて叫びました。
「どうしておじいさんを見ていてあげなかったんだ!あんたは今までどこにいっていたんだ!おじいさんは一人ではなにもできないんだぞ!」
「そんなことは知らないよ!じじいの面倒はすべてあんたが見るんだ!じじいが死んだなら、それは全部あんたのせいだよ!」
おばあさんも負けじと言い返し、桃太郎に対して、言ってはいけない言葉をいい放ちました。
「じじいが死んだなら良かったじゃないか。あんな糞尿を垂れ流すしかできないゴミはさっさと死ねば良かったんだよ。じじいが死んだなら、世話をする必要がなくなったんだ。あんたも嬉しいだろ?まぁ、じじいの世話がなくなったぶんの時間は、体を売ってもらうけどね。あんたは、黙ってあたしの言うことを聞いてりゃいいんだよ!」
「黙れっ!!!」
桃太郎はおばあさんに飛びかかり、殴り付けました。
「お前のせいで、おじいさんは!」
「殴ったね、このあたしを!あんたを拾ってやったのはあたしだよ!」
「だからどうした!僕を育ててくれたのはおじいさんだ!僕を守ってくれたのは、おじいさんだ!」
「このクソガキが!拾った恩もわすれやがって!」
おばあさんは、草刈りで使う鎌を桃太郎に向けました。
「あんたはあたしのもんだよ!あんたは一生、あたしのもんだ!」
おばあさんは鎌を手にし、桃太郎に切りかかりました。
「あたしを殴ったこと、その体で償わせてやるぅぅぅぅ!」
「おじいさん、今までありがとう・・さようなら・・」
おばあさんの振り下ろした鎌が、桃太郎の白くて柔らかな首筋を切り裂きました。
「どうだ、痛いだろ?泣きな、泣いて命乞いをしな!あんたはあたしの命令だけ聞いて」
おばあさんの言葉は、途中で途切れました。
声がでなくなりました。
おばあさんのノドからは声ではなく、空気と『真っ赤な血』が飛び出しました。
桃太郎の手には、一本の出刃包丁が握られていました。
その出刃包丁には、おばあさんの『真っ赤な血』がたくさんついていました。
「お前だけは、許さない」
桃太郎はおばあさんの髪を乱暴につかみ、切り裂いた喉元に出刃包丁をあて、何度も何度も刃を食い込ませ、骨をたち切り、筋をたち斬り、、皮を立ちきり・・。
おばあさんから切り落とした頭部を、桃太郎は井戸の中に投げ捨てました。
目を真っ赤に見開いた頭部と、真っ赤な出刃包丁は、暗い井戸の下に落ちていきました。
その出刃包丁は、おばあさんが桃太郎を取り出すときに使っていた出刃包丁でした。
首筋から血を流しながら、桃太郎はおじいさんを庭先に生えている柿の木の下に埋めました。
季節が秋になり、柿の実が熟すと、おじいさんは弱った体に無理をして、桃太郎のために甘い柿を取ってくれました。
「桃太郎、贅沢をさせてあげられなくてすまないね。この柿で我慢をしておくれ」
そう言って笑顔を向け、食べさせてくれた柿の味を、桃太郎は思い出し、おじいさんの『お墓』である柿の木に背をあずけ、桃太郎は力尽き、目を閉じました・・・。
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