第254話 久々の週末おでかけ 1
体育祭が終わり、本格的に2学期が始まると、ようやく日中も過ごしやすい気候になってくる。昼間は未だに30度を超えて冷房のお世話になることも多くはあるけれど、朝と夜は気温が下がって、半袖姿だと時折肌寒さを感じることも。
高校生になって、2度目の秋。
俺にとって、もっとも忘れない出会いとなった去年の秋から、ちょうど1年が経過していた。
「――お待たせ、真樹。ごめんね、せっかくの週末なのに遅い時間まで待たせちゃって」
「遅いっていっても1時間ぐらいだし、全然平気だよ。それに、体育祭関係の雑用も今日で終わりだろ?」
「うん。それなりにやりがいはあったけど、もうしばらくはいいかな。後はもう真樹とのんびり過ごせれば、私はそれでいいよ」
生徒会メンバーを中心に構成された体育祭実行委員会も、今日の報告会をもって全て解散となり、それと同時に海もお手伝いの立場から離れることに。
中村さん的にも海のサポートが大きな助けになったようで、体育祭期間中、やんわりと生徒会加入の打診があったそうだが、先程海が言ったように、俺との時間を優先したいという理由で、丁重にお断りしたらしい。
個人的な考えでいえば、もし仮に海がこのまま生徒会に加入したいと言っても止めるつもりはなかったけれど……俺のことを何より優先してくれたことは、彼氏の立場からはとても嬉しかったり。
「じゃ、帰るか」
「うん。……ね、手つないでいい?」
「もちろん」
「えへへ。じゃ、エスコートよろしく」
9月を過ぎてすっかり日の入りの早くなった夕暮れの道を、二人手を繋いで一緒に帰る。
きゅ、っと握っていた手の力を少し強めると、海は嬉しそうに表情を緩ませて、俺の腕に甘えるように抱き着いてきた。
「う、海……少ないとは言っても、まだそれなりに人目はあるから」
「んふふ、大丈夫大丈夫。気にしなくても、私たちに興味のある人なんてほとんどいないから。せいぜい『うざいバカップルがいるなあ』って思われる程度で」
「それを……割と気にしてるんだけどなあ」
ただ、だからと言って離れて欲しいわけでもないので、甘んじて受け入れてしまっているのだが。
今までは眺める側にいたので、街中等で他のカップルがいちゃついていると『人前だっていうのによくやるよ』と思っていたのだが、いざ自分が当時者になってみると、その気持ちがわかってしまう。
周りの目があろうと、目の前の恋人といちゃつきたい気持ちのほうが勝ってしまうのだ。
とはいえ、あの体育祭以降、いつも以上に海が俺にべったりしているのは事実。
思い当たる節があるとすれば、当然、つい先週の体育祭終わりで、突然新田さんの口から飛び出した言葉。
【……あのさ、私と、今度の休みデートしてくんない?】
もちろん、答えは当然のごとく『NO』と返したし、新田さんもそこであっさりと引き下がってくれたけれど。
どうして彼女は、突然、あんなことを言ったのだろう。
新田さんの性格上、あの状況であんなことをいうような人ではないから、デートのお誘い自体は、冗談ではなく割と本気だったのだろうけど。
「……むう」
「っ……海、いきなり脇腹つねられると、その、俺もびっくりするというか」
「だって、私が隣のいるのに別の女の子のこと考えている顔しているし」
「それはごめん……でも、新田さんがどうしてあんなこと言ってきたのか、気になって」
「まあ、あの時は真樹も私もびっくりしちゃって、まともに理由も訊けずに終わっちゃったからね。新奈も、あれ以来私たちから微妙に距離置いている感じだし」
明日の花火大会については、以前より5人で行くことは決まっていたので、詳しい話を聞くとしたらその時になるだろうが、この件についてはすでに天海さんや望も知っていることなので、当日の空気がどうなるかわからない。
……変な空気にならなければいいけれど。
「ね、真樹。ところで今日はどうする? いつも通り、真樹の家でまったり過ごす感じ?」
「そのつもりだけど……もしかして、他に何かやりたいことでもあったり?」
「……うん。ほんの少しだけ遠出になっちゃうけど、行きたいところがあって。晩御飯もそこで済ませちゃおうよ」
ということは、久しぶりの週末デートを海は希望しているようだ。
一応、海と遊ぶために部屋の片づけや、その他、何があってもいいようにいろいろとと準備はしていたので予定とは少し違ってしまうけれど、たまには外に飛び出してみるのもいい気分転換になるかもしれない。
「わかった。じゃあ、久しぶりにお出かけしてやろうか」
「へへ、ありがと。さすが私の真樹、よくわかってんじゃん」
「まあ、このくらいは海の彼氏として当然の務めというか」
「おう。これを機に、わが社のためにより一層励みたまえよ」
「海がいつの間にか偉そうな上司にジョブチェンジしてる」
どこに行くかはまだお楽しみらしいが、海のことだから、きっと久々の放課後デートに相応しい場所を考えてくれているだろう。
日がすっかりと地平線の向こう側へと落ち、夏服でも肌寒い気温になりつつあるけれど、お互いの体温でしっかりと温め合っている俺と海にとっては、まだまだ少し暑く感じるほどだった。
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