第223話 皆とプール 1
誕生日を終え、無事に17歳の誕生日を迎えた後の、お盆休み。望の所属する野球部が休み期間に入ったところで、俺たちいつもの5人で遊びに行くことになった。
期間中は望の予定が合わなかったこともあって、こうして5人一緒に何かをするのは、何気に8月頭の夕方に行われた天海家でのバーベキューの1回のみ。午前中からこうして集合して、遠出をするのは初めてのことだ。
行先は、高校の最寄り駅から、電車でおよそ30分ほどの場所にあるプール施設。遊園地の敷地内に夏場だけオープンしているところで、流れるプールやウォータースライダーなど、市民プールのような競技にも使えるところではなく、完全に遊びを楽しむための場所である。
海水浴に行く選択肢もなかったわけではないものの、住んでいる場所の都合上、海水浴場に行く場合は自家用車を使う必要があり、また移動だけでも片道1時間以上かかるため、今回はなるべく近場で遊べるところにしようと皆で話し合った経緯がある。
お盆休みということで、車を出してくれる可能性のある空さんや絵里さんの予定がそもそも合わなかったというのもあるが。
「――よっ、真樹」
「うん、おはよう」
駅の改札前の側にあるベンチで一人ぼーっと皆の集合を待っていると、まず最初に来たのは望だった。
部活休みなので、練習着姿でないのは当然なのだが、望と休日どこかに出かけること自体なかったので、私服姿の彼は何気に新鮮である。どこかのメーカーのプリントTシャツにハーフパンツという、俺とそう変わらない格好だが、体格の良さもあって、とてもお洒落に見える……というか、男の俺から見ても、素直に格好いい。
確かに、これは告白されてもおかしくはないだろう。
「まだ集合時間まで30分以上あるのに、随分早いご到着だな」
「そういう望こそ。……そんなに楽しみだった?」
「そりゃまあ……そこはほら、お前も男だからわかるだろ? な? ってかわかれ」
「まあ、確かにわかるけど……」
女子とプールに行く、ということは、当然、他の三人は水着を持ってくるので、いやでも意識せざるを得ないだろう。
特に、望はまだ天海さんのことが好きなわけで、そんな憧れの人の水着姿を拝むことができると考えると、はやる気持ちを抑えるのもきっと難しいだろう。
「ところで真樹、今日は朝凪と一緒じゃないんだな。お前らのことだから、どうせ先に駅でバカップルやらかしてると思ったんだけど」
「出発前までは俺の家に一緒にいたけど、『一応、色々と三人で確認したいから』って、天海さんの家に」
「……なるほど。じゃあ、今日はそれなりに期待していい、ってことか?」
「だと思うけど、あんまりジロジロ見て嫌われないようにね」
プールではなるべく5人一緒に遊ぶ予定なので、当然、海以外の二人の水着姿も見ることになるのだろうが、俺のほうもできるだけ気を付けておかなければならない。天海さんや新田さんのほうばかり見ていると、きっと海の機嫌が悪くなるだろうから。
……まあ、俺の場合だと、意識しなくても自然と海のことばかり見てしまうのだろうけど。
彼女とはいえ、皆の前であまりいやらしい視線を向けすぎないように、という意味での『気を付けて』だ。
その後は、課題の話や部活の話などして適当に二人で時間をつぶしていると、ちょうど約束の時間少し前ぐらいに、3人が現れた。
3人のうち、先頭にいた天海さんが、俺たちのことを見つけてぱあっと明るい笑顔を浮かべ、手を振ってくる。
「――二人とももう来てたんだ! おはよ、真樹君、望君!」
「天海さん、おはよう」
「……お、おう。おはよう」
今日は久しぶりの5人での遠出ということで、皆、それなりに余所行きを意識した服装で集まっている。俺は先日の旅行用に買ったものをそのまま着ているものの、髪型やアクセサリ、靴などの細かいところは海に見てもらって、この5人に交じっても問題ないぐらいには整えている。
「えへへ、今日はこの5人で初めてのプールだから、ちょっとはりきっちゃった。ねえねえ二人とも、私の服装、どうかな? ヘンなところとかない?」
「俺の感想なんてあんまり参考にならないかもだけど……うん、明るい感じで、天海さんらしいと思うよ。ねえ、望」
「えっ? あ……ああ、うん。そうだな。かわいい、と思う……」
「そう? へへ、よかった。水着も可愛いの海とニナちに選んでもらったし、今日は一日いっぱい遊ぼうね!」
「お、おう。だな」
天海さんは平常運転の天真爛漫さだが、一方の望に関しては、さっき俺と話していた時の調子はすっかりとなりを潜め、恥ずかしそうに視線を逸らしている。これではどっちが陰で、どっちが陽かわかったものではない。
望が天海さんのことをまだ好きなのは知っているので、俺も海も、それから新田さんも望をからかったりはしないが、この調子が続くと天海さんが気を遣ってしまうかもしれないので、少し心配ではある。
さて、どうしたものか――ぼんやりとそんなことを考えていると、ふと、俺のことを見ている新田さんと目が合った。
「? なに、委員長、どうかした」
「いや、別に」
「……ったく、しょうがないなあ」
ぼそりとそんなことを呟くと、新田さんが一人集団から抜けて、改札のほうへと歩いていく。
「まあ、ともかく、全員揃ったことだし、ちょっと早いけどさっさと電車乗っちゃいましょ。関、言っとくけど、今日のアンタはあくまでアタシら三人のボディーガードとして呼んだだけだから。調子にのって近づいたり、私らの水着姿ばっかりジロジロ見てたらボコすかんね」
「わかってるよ。誰も新田の水着なんて期待してねえし……って、なんで俺だけなんだよ。男だったら、真樹だっているだろ」
「は? 男は男でも、ヒョロガリの委員長に期待してもしょうがないじゃん。後、誰の水着を期待してないって?」
「お前。新田新奈」
「よし、それがお前の最後の言葉だな」
多分、微妙な空気をフォローするつもりだったのだろうが、望に対して言い過ぎてしまったせいもあって、思わぬ反撃を食らい若干マジで怒っているらしい。
基本は周りの空気を読むことに長けた新田さんだが、5人でいると、たまにこうして加減を間違えるのも、最近になってわかったことだ。
まあ、それだけ新田さんにとっても、ここが気の置けないところになりつつある……ということでいいのだろうか。彼女が俺や望に対してわりと容赦ない言動なのも、それだけ信用していることの裏返しなのだと思う。
「真樹、夕。あいつらバカ二人のことは放っておいて、先に切符買お。時間はまだあるけど、そろそろ電車来る時間だし」
「あはは、だね。ちょっと心配だけど、そういえば二人ってわりといつもあんなだし」
「意外とお似合いかもね。二人ともそんな気は全くないんだろうけど」
望は天海さんのような正統派な美少女がタイプで、新田さんは過去付き合った人達も含めてスマートで顔が整っている人がタイプ(らしい)が……意外にお似合いだと思っているのは、きっと俺だけではないだろう。
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