第170話 ソフトクリーム
やはり海と一緒にいると時間が過ぎるのが早く、ちょっとの間じゃれ合っていただけで(個人的な感覚では)、予め休憩地点としていたSAへと到着した。ここで少し軽食などを挟んでから、目的地へと真っすぐ進む予定だ。
「じゃあお母さん、私たち、ちょっと色々見て回ってくるから」
「ええ、いってらっしゃい。お昼ご飯はおばあちゃん家で食べるから、おいしそうだからって、あんまり色々食べ過ぎないようにね」
「もう、わかってるから。じゃあ、行こ、真樹」
「うん。空さん、行ってきます。陸さんも」
「どうぞ。娘のこと、よろしくね」
「ああ。
ということで俺と海は先に降ろしてもらい、トイレ休憩も兼ねて、施設内を見て回ることに。
土曜日のお昼前ということもあり、仕事のトラックや、俺たちと同じように遠出をするお客さんの車で、駐車場は早くもいっぱいとなっている。また、その影響もあって、施設内のお土産や軽食コーナーなどは、多くの人でいっぱいだ。
「海、手」
「ん」
先にお手洗いを済ませた後、俺たちははぐれることがないようしっかりと指を絡ませあって、一緒に人混みの中へと入っていく。
いつもは海に引っ張ってもらうことが多いので、こういう時ぐらいは、しっかりと自分が前に出て海のことを守ってあげたいところだ。
「あ、ねえ真樹、アレ」
「ん? あれって……」
いつのまにか俺の腕にぴったりとくっついてた海が指さした方向に目をやると、白い部分が褪せた大きなソフトクリームの置物があるのを見つけた。
こういう場所では割とお決まりの食べ物だが、その隣に置かれた黒板にでかでかと書かれた文字が、俺たちの興味をそそった。
『名物 1m巻ソフトクリーム 500円!(税込)』
「い、いち……」
1m。
つまりは100センチだが、そんなに巻いて大丈夫だろうか。いや、心配はそこではないような気がするが、とにかくスケールが大きいのは確かだ。
看板の横には実物大と思しきソフトクリームの写真が貼り付けられてある。
……1m、意外に大きいな。
「ねえ真樹、あれ、食べてみようよ」
「確かに興味はあるけど、でも、二人で食べきれるかな」
あの量で500円ならお得なはずだが、しかし、ソフトクリームとはいえ、容量的には、スーパーで見るような大きな箱のアイスぐらいはありそうな。
空さんにも言われているが、あまり食べ過ぎるのは良くないと思うが。
「大丈夫だって、もしヤバそうなら母さんとアニキにも協力してもらえばいいんだからさ、ね? ここはノリが大事だと私は思うな~?」
「う~ん……まあ、一応俺たちにとっては旅行なわけだし……じゃあ、頼んでみるか」
名物というのもあってか案外他のお客さんからも注文が出ているようだし、俺たちもたまにはこういうおふざけがあってもいいかもしれない。
こういうのも、きっと大切な思い出になってくれるだろうから。
「うんっ。へへ、ありがと真樹。すいませ~ん、この1m巻ソフトクリームってやつを2つ……」
「1つでお願いします」
「え~」
「え~じゃない」
とりあえず財布から500円玉を出して、待つこと数分。
店員さんの熟練の技ともいうべきか、途中で崩れることなく、写真のようにまっすぐと伸びたソフトクリームが俺たちの前に運ばれてきた。
受け取ると、それなりにずっしりとした重みを感じる。
「なんか剣でももってそうな気分」
「あははっ、だね。もったいない気もするけど、溶けちゃうし、早く食べよっか」
スマホで手早く写真をとってから、俺たちは空いている席へ座り、慎重に、かつ手早くソフトクリームを食べ進めていくことに。
「海、はいスプーン」
「ありがと。でも、最初の一口はやっぱり直接……はむっ」
席から立ち上がった海が、大きく口を開けて、渦巻きの先端からぱくりとかぶりついた。
お行儀はあまりよろしくないけれど、ソフトクリームといったら、これが一番おいしい食べ方だろう。
「海、どう?」
「おお……これ、普通のよりも大分おいしいかも。ほら、真樹も同じようにかぶりついて」
海に言われるまま、続いて俺も口の中いっぱいにソフトクリームを頬張る。
「……たしかに、普通のバニラアイスよりも味が濃いような。ものすごく甘い牛乳を食べてるって感じ」
「ね、真樹もそう思うよね?」
「うん。これうまい」
値段のこともあるし、インパクト重視で、味的には普通のバニラアイスとそう変わらないだろうと思っていたが、口に入れた瞬間、コクのある甘みと、ミルク特有の香りがふわりと鼻を抜けていく。
それもそのはず、テーブルに置いてあったメニュー表の説明書きを見ると、この地方で有名なブランドにもなっているらしい牛乳をふんだんに使用しているようで、500円という価格設定の隣に(※正直、赤字です……)と申し訳なさげに小さい文字で書かれてあった。
多分客引きのためにワンコインでおさめているのだろうが、名物になるのも納得の味だと思う。
「真樹、やばい。このアイス、するすると私の胃に収まってくんですけど」
「うん……これ、ご飯なかったらもう一本いけるな」
「わかる。これが500円とかもう犯罪でしょ」
「それもわかる」
お互い謎に頷き合いつつ、始めのうちは食べきれるかどうか不安だったソフトクリームをどんどんと食べ進めていく。
50センチ、30センチ、10センチ――どんどん残りの渦巻きが少なくなっていき、ちょうど休憩時間が経つ頃には、コーンも含めて二人で食べきってしまった。
「……結局二人で食べちゃったな」
「うん。真樹、この後おばあちゃんの家に着いたらお昼ご飯食べる予定なんだけど、どう? いけそう?」
「……頑張る」
「……私も」
しかし、食べてるときは『もう1本持ってこい!』というテンションの俺たちだったが、さすがにこの量の甘味を一気に食べると満腹中枢が刺激されるというものだ。
一応、ここからみぞれさんの家までは1~2時間ほどかかるそうだが、それまでに果たして消化しきれるだろうか。
とりあえず、空さんに一応謝っておく方向で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます