第4話 革靴の水洗い




 会社の裏に片側一車線の狭い県道がある。

 暗い夜道を同僚と歩いていると、車が来た。

 車道側にいたわたしを、同僚が庇うつもりで、路肩にわたしを寄せたのだ。

 そこまでは良かったが、暗い足下、わたしは右足を側溝に突っ込んでしまった。

「ギャア……!」

 わたしは恥ずかしいくらいの悲鳴を上げてしまった。

 なんせそこはドブの様な水のたまり場。

 汚いし臭いし……。

 わたしは泣きそうだった。

「わぁ、ゴメンなさい」

 平謝りする同僚に、泣きたいわたしは笑顔を崩せなかった。

「いいよ、いいよ。足元見ていなかったわたしが悪いんだから」

 と、その場は収めたものの、一旦会社に戻って、シャワーを借りたものの、

(靴はどうしよう)

 と洗っていい物かどうか迷った挙句、

(洗っちゃえ)

 

 翌日、わたしはやってしまった事に気が付いた。

 洗った方の革靴のサイズが一回り大きくなっていたのだ。

 見た目の風合いも違うし、履き心地も気のせいか、違うのだ。

 ネットで調べて初めて知った。

 革靴の水洗い後の自然乾燥は、絶対禁忌事項だと。

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