第53話:勇者の誕生。そして新たな旅立ち!


 超巨大ゴーレムの襲来という未曽有の災禍に見舞われた地方都市のトロイホースだったが、復興は意外なほどに早かった。

 まだ戦いの爪痕は各所に色濃く残っているが、それでもトロイホースの住民は明日を信じて歩み始めている。

 

 

「瓦礫撤去作業への参加希望の方はこちらでーす! まもなく受付を終了しまーす!!」


 既に受付の野外展との前には、屈強な冒険者や人々が、ずらりと列をなしている。

 

 そしてそこに一人の青年を伴った、牛黒瑠璃の姿があった。

 

「色々とお世話をしていただきありがとうございました! このご恩は決して忘れません!」

「気にしないでくれ。流れでしたまでだからな」


 瑠璃は静かにそう答えた。青年を前にして、熱い何かがこみ上げてきた、瑠璃は僅かに涙を流す。 


「だ、大丈夫ですか?」


 青年は人が良いのか、狼狽る。

門出なのだからこれ以上涙は見せたくない。そう思った瑠璃は目元をそっと袖で拭う。


「目にゴミが入っただけだ。心配をかけてすまない……」

「そうですか。確かにこの街、まだ少し埃っぽいですもんね」

「ああ。それじゃあお元気で。これからも頑張ってくれ……ライト君……」

「はい! ルリさんもお元気で! カズマさんや、ニーヤさん、ドラちゃんにもよろしくお伝えください!」


 瑠璃は踵を返して歩き出し、青年――ライト――は深々と頭を下げて人々の中に消えてゆく。

 

 もはやこの世に瑠璃の幼馴染で、かつては弟のように可愛がった吉良 煌斗は存在しない。

 今別れたのは、たまたま瓦礫の中から救出し、記憶を失った気の毒な煌帝国の一人の青年――ライトである。

だからこそ、この二週間、一馬の許しを得て名前以外の記憶を失った気の毒な彼の面倒を見ていた。


 彼が超巨大ゴーレムを操りトロイホースを蹂躙した煌斗なのかどうかは正直なところ分からない。

 

 しかし件の彼が何者などはどうでも良い。

煌斗によく似た、ライトという青年が、復興しつつあるこの街で新しい一歩を踏み出せればそれで。

 

「さぁ、私も支度をせねば!」


 瑠璃は自らの頬を叩いて気合を入れ直し、歩き出す。

 

 

●●●



「マスター、物資の確認終了しました。積み忘れありません!」


 ニーヤが馬車の幌の中から飛び降りてきて、積み込み品をチェックした羊皮紙を一馬へ手渡す。

 これであとは瑠璃が戻ってくれば、いつでも出発できる。

 

「戻ったぞ」


 と、タイミングよく背嚢を背負った瑠璃が現れた。

 ここ二週間、ライトという青年に瑠璃は付きっ切りだったので、来てくれない可能性もあるのではないかと思っていた一馬は、ほっと胸をなでおろす。

 

「なんだ、その安心したような顔は。まさか、私が来ないとでも思ったのか?」

「あーいや……」


 どうも一馬の心は容易に透けてしまうらしい。

 

「前にも言ったと思うが、煌斗はただの幼馴染で、弟分だっただけだ。それにライト君の面倒をみていたのは、拾ってしまった手前、放って置くのは無責任だと思ってしていただけだ」


 瑠璃は一馬へグッと身を寄せて、一馬を見上げる。


「今も昔もそしてこれらからも私は一馬一筋だ。安心してくれ」


 そんなことを耳元でささやかれれば、心臓は高鳴るし、顔は真っ赤になるというもの。

 まったく牛黒瑠璃という年上の彼女は妖艶である。


「カッズマー!」

「のわっ!?」


 と、今度はドラグネットが背後から思い切り抱きついてーーほぼ体当たりだが……ーーきた。

 

「なんだドラか? 見送りに来てくれ……ん?」


 何故かドラグネットは大きな背嚢を背負い、足元にはこれまた巨大なバッグが地面に置かれている。


「この荷物って、もしかして!?」

「もしかしても、くそもないよぉ。一緒に行くに決まってんっじゃん!」

「マジか!?」

「マジマジ! だってあたし、カズマだいすきなんだもーん! もう絶対に離れないって決めてるんだもーん!」


 そう叫んで、一馬の腰元にしっかりと抱きつく始末。確かにここでお別れは寂しいし、本音を言え、こうして付いてきてくれるのはとても嬉しい……のだけれども、ニーヤと瑠璃がやや冷たい視線を送っているので、正直怖いし、今後が少々思いやられる。


「は、離れろ、ドラ! とりあえず!」

「やっだもーん!」

「こら!」

「勇者殿ぉー! 少々お待ちくだされ〜!」


 今度は道の向こうからトロイホースの領主の男と、多数の住民が続々とやってくる。

 ここ二週間、街の復興を手伝って、懇意となった顔ぶればかりである。


「どうも、皆さん! 揃いも揃ってどうしたんっすか?」

「今一度だけお願いをしに参りました。勇者カズマ殿、そしてお仲間の方々、よろしければこのトロイホースに留まってはいただけませんか!? いつまた先日の超巨大ゴーレムが現れるやもしれません。住まいはもちろんのこと、十分な報酬を恒久的にお支払いいたします! どうか、どうか!」

「あー、えっと……」


 いつの間にか一馬はトロイホースでは勇者ということになってしまっていた。確かに超巨大ゴーレムを倒して、街の復興に尽力したから、そう呼ばれるようになるのは仕方のないこと。しかし嬉しい反面、やはり勇者という響きはこそばゆいものがある。


「皆のもの、控えろ!」


 困った一馬の前へ飛び出したるは、彼の忠実なるパートナーホムンクルスのニーヤ。

彼女の号令に、住民は一斉に傅く。


「偉大なる我が主、勇者一馬様より解答を頂く! 皆のもの心してきけ!」

「ちょ、ちょっとニーヤ!」

「さぁ、勇者一馬様、皆へ解答を!」

「瑠璃まで!」

「勇者カズマぁー、さっさと答えてあげなよぉ!」

「ドラも!? ああもう!!」


 一馬が一歩踏み出すと、住民やふざけている仲間たちを僅かに腰を折って礼を取る。


「あー、そのぉ……ご、ごめんなさい! 引き受けられませーん!!」


 一馬の大絶叫が響き渡り、領主は"やっぱりそうか"と言った具合に苦笑いを浮かべる。


「やはりお気持ちはお変わりないのですね?」

「ええ、まぁ。これからも色々と観て回りたいもんで。だけど、困ったときは呼んでください。必ず駆けつけますから! 勿論有償ですけども」

「承知しました。残念ですが、それがカズマ様の御意思ならば……ではせめてこちらだけでもお納めください」


 領主の声に従って、控えていた住民が重そうな麻袋を一馬へ恭しく差し出す。

その中にはぎっしりと、金貨が詰め込まれていた。


「トロイホースを救っていただいたばかりか、街の復興にも尽力してくださった勇者様へのせめてものお礼です」

「ありがとうございます。こういうお礼は本当に助かります! じゃあ、俺たちはこれで!」


 一馬が麻袋を掲げると、領主を初め、住民が一斉に立ち上がった。


「勇者カズマ殿とお仲間、そして偉大なる白き巨人アインの旅の無事を祈って! バンザーイ!」

「「「「「バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!!」」」」


 ずっと一馬の後ろで出発の合図を待っていたアインが、僅かに震えたような気がしたのは気のせいか。

 もしかするとアインも"偉大なる"と称えられて恥ずかしいのかもしれない。


「さぁ、行くぞ! アイン、出発だ!」

「ヴォッ!」


 かくして多くの住民に見送られながら、巨大人形アインの引く馬車に乗って一馬たちはトロイホースを後にする。


「じゃあ、次はどこへ行ってみようか?」

「あの山を超えた先に、温泉と宿場町のガラリアという場所があるらしい。そこでゆっくりするのはどうだろう?」

「良いね、それ!」


 湯煙の中の瑠璃……想像しただけで、一馬はごくりと生唾を飲む。


「温泉? なんですか、それは?」

「ニーヤ知らないのぉ? ばかだなぁ」


 ドラグネットはにんまり笑みを浮かべてニーヤを見やる。

 ニーヤはぷっくり頬を膨らませた。


「むっ……ワタシだって知らないことぐらいあります!」

「なら、この天才ドラグネット様がニーヤに教えてあげよう! 温泉というのはね、」

「結構です! ドラの力は借りません!」

「そう強情張らずに!」

「結構ですっ!」


 そうして始まった喧喧轟々、2人のいつものじゃれあい。


 最近は張り詰めた場面が多かったので、これはこれで癒しのBGMである。


「それじゃ一路、煌帝国の温泉郷ガラリアを目指して! アイン、速度上昇!」

「ヴォッ!」


 一馬達は白き巨人にまでパワーアップしたアインの引く馬車に揺られ、旅を続けて行く。

 いつまでも、どこまでも、果てしなく……。




 おわり



**********



とても悔しい限りですが、本作はここで終了となります。

ここまでありがとうございました。


色々と伏線を残したままですみません。


ニーヤの日付カウントの意味、瑠璃の留年理由、ドラグネットは何者か?

なんで煌斗はあんなになったのか? 魔族って何ぞや? どうしてアインが勝手に動いたのか、などなど。

ちゃんと考えてたんですけどねぇ。


この先の展開としては綺麗の末路を描いて、魔族との本格的な戦いが始まり、

アインが喋りだしたり、また強化されたり、母艦としての巨大戦艦登場!

巨大モンスターハンティングライフwith仮面の戦士in温泉郷、などなど。

内容盛りだくさんで考えていたんですけど、仕方ありません。

時間は有限なので……ぐすん。


もしも完結ブーストがかかって、ぼんぼんポイント入って、惜しむ声が多数上がったら再開するやもしれませんが、

そうすると相当な覚悟と熱量が必要なので、ちょっとやそっとじゃその気にはなりません。

第一、奇跡に近い状況だと思ってますし……


と、いう訳でここで終わりだと思っていただければ幸いです。


新作は準備中で、やり方を戻し、

いつも通り100%完結保障&NOTロボット純粋ハイファンとし、半年後辺りに掲載できればと思っております。

他にもやること満載ですので、これぐらい時間がかかっちゃうんです。

が、つい先ごろ10万文字は書き終えました。あと15万~20万が目標です。


まぁ、忘れた頃にやってくる、といった気持ちで気長にお待ちいただければ幸いです。


次こそ良い作品&良い報告がお届けできますよう、このままお気に入り登録など、継続していただけるとウルトラ嬉しく思うでございます。


それでは短い間でしたがご愛読いただき誠にありがとうございました!


一旦、さよなら、さよなら、さよなら……元ネタ分かったそこの貴方! 同世代ですね?w

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迷宮深層へ叩き落されたマリオネットマスターの俺、それをきっかけに、巨大人形をどんどん強化して、ホムンクルス(美幼女)とイチャコラしながら突き進み己の道を切り開く。お前らなんてもう知らねぇ! シトラス=ライス @STR

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