第44話:対ドラゴンゾンビ―ーアインの新たなる力!


 ドラゴンゾンビ――死したドラゴンが、自らの魔力で復活した存在である

 特に廃都市を住処にしているソイツは、元は魔族の大将軍が乗り物として使用していた特別な個体らしい。

 この存在はソロシップ州において、いつ州を危機に陥らせてもおかしくはない懸念事項の一つであった。

 

 そんな事前情報はもちろん知っていた。覚悟はしていたが、それでもこれまでの戦歴を考えればなんとかなると高を括っていた。

 突然の邂逅だったが、今回もなんとかなると思っていた。

 

「カズマ、逃げてぇ……」


 既に魔力を使い果たしたドラグネットは声を絞り出す。

 もはや起き上がることは難しいらしい。彼女の周囲にはバラバラに砕かれた鳥型ゴーレムの残骸が散らばっている。

 

 しかし、見捨てることはできない。

 一馬は恐怖を呼び起こす腐臭に耐え、地面を踏みしめ飛び出そうとする。

 

 アインはまだ動ける。瓦礫に埋もれてはいるが、損害は未だ軽微。ならば――!

 

 そんな彼の前へ、ニーヤが舞い降りた。


「マスター、ドラの言う通りです。ここは瑠璃と共に退避を! ここはワタシが殿しんがりを――ッ!?」


 ボロボロのニーヤは言葉を切り、腕を掲げて青い障壁を発生させる。

 怒涛のように迫る魔力で黒く変色した炎は障壁の箇所のみ分断された。

 しかしすぐさま障壁を支えるニーヤの靴底が硬い地面へあっさりとめり込んだ。

 

「ああ!」

「ニーヤっ!!」


 障壁はあっさりと砕かれ、爆風と黒煙がニーヤを包み込み吹っ飛ばす。

 

「ニーヤ、しっかりしろ! ニーヤぁ!!」

「は、早く、お逃げを……」


 ニーヤは一馬に抱き留められながら、弱々しい言葉を紡ぎだす。

 恐怖はあった。敵はドラグネットやニーヤ、そしてアインでさえも容易に退けた驚異の相手。

 だが、ここで屈するわけには行かない。ここまで来て、命をあきらめるわけには行かない。


「ドラ! ニーヤ! 糞ぉ……やってやるっ!」


 一馬は驚異の敵を見上げた。

 

 アインの倍はある巨躯。ところどころが腐り、溶け落ちているものの、未だに残っている黒い竜鱗は威圧的な輝きを放っている。

 死しても尚、その強大さと威厳を有り有りと発揮するその相手こそ――魔竜ズワス成れの果てとして誕生したドラゴンゾンビ。

 

 しかし相手がどんな奴であろうと関係ない。

 

 彼の意志を受け、アインは瓦礫を払いのけながら起き上がる。

そして背中に装備したドラゴンスレイヤーの異名を持つ、巨大な斬魔刀アクスカリバーを装備させた。


「ヴォォォッ!!」


 まるで一馬の怒りを代弁するかのように、巨大人形アインは唸りをあげて突進した。

 腐っているためドラゴンゾンビの思考はやや鈍い。

故にアクスカリバーは四つん這いのドラゴンゾンビの胸部を叩き割る。

明らかな良攻撃ベストヒット。これ以上ないくらいに、アクスカリバーは決まっている。

 だがやはり相手は不死アンデットの異名を持つ存在。

 胸を激しく切り裂かれようとも、平然と所々骨が垣間見える鎌首を上げ、大口を開けてアインの肩へ歯牙を向ける。


 しかし間一髪、アクスカリバーを横へ掲げて、牙を受け止めた。


(オーガパワー全開!)

「ヴォッ!」


 一馬がそう意思を流し込むと、アインの関節に相当するアコーパールが力の増幅の輝きを放つ。

全力全開の力は徐々にドラゴンゾンビの鎌首を押し戻し始める。


 刹那、轟音が響き、鎌首を押し戻していたアインがふわりと宙を舞う。

 ドラゴンゾンビの太い前足がアインを突き飛ばしていたのである。

強大な力は空気を震撼させるほどの衝撃を発し、アインは愚か、少し離れたところにいた一馬さえも紙切れのように吹っ飛ばす。


「錬成っ!」


 瑠璃の声が響き渡り、大小二枚の錬成壁が地面から生えた。

泥で形作ったそれは、ぶつかればあっさりと崩壊するものの、衝撃を和らげる。

 泥の錬成壁がなければ、一馬もアインもひとたまりもなかっただろうと思った。


「無事か!?」

「は、はい。ありがとうございま……いつつ!」


 瑠璃に肩を抱かれた一馬は、痛みのために容易に起き上がることができずにいた。

だが立たねばならない。

 ドラゴンゾンビは歩くたびに肉を削ぎ落としつつ、倒れたままぴくりとも動かないニーヤとドラグネットへ迫ってゆく。


 すると一馬の肩から瑠璃の手が離れた。


「先輩……なにを!?」


 瑠璃は振り返らず、腰の裏の辺りに手を添えて、ブイサインをしてみせた。

その手にはトロイホースで購入した件のカチューシャが握られている。


「プラスアップ!」


 勇ましい瑠璃の声が響き渡り、彼女はカチューシャを頭に乗せるのと同時に飛び出した。

 黒いローブが光の粒となって消え、代わりにこの場にはあまり似合わないが、瑠璃へ驚異の力を授ける“給仕服”が装備される。

 そして既に導火線が火花を散らす、筒爆弾ダイナマイトをドラゴンゾンビへ投げつけた。

 

 轟音が響き、爆炎がドラゴンゾンビを包み込む。しかし煙の向こうには、未だ健在を示すように、敵の赤い目が輝きを放っている。

 

「GAA!!」

「くっ――!?」

「先輩ッ!!」


 ドラゴンゾンビの穴だらけの翼がつむじ風を巻き起こし、瑠璃を紙切れのように吹き飛ばした。

瑠璃は崩壊した家屋の壁へ叩きつけられ、地面へずり落ちてゆく。


「やはり投げるのは無謀か。さすがは砲丸投げ万年最下位の私……ふふ。ならばいよいよアレを作るしかあるまい……!」


 しかり瑠璃は何故か口元へ笑みを浮かべていた。まるで愉快そうに、そして妖艶に。

 ぶつかった衝撃で、おかしくなってしまったのか。強い不安を覚えた一馬は、再び瓦礫の中へ埋もれてしまったアインへ意識の全てを注ぎ込む。

 が、降り注いだ瓦礫の重量がアインを下敷きにし、容易に起き上がれそうもなかった。

 

(早く立て! 立ってくれアイン!!)


「GAA!!」


 一馬の気持ちを打ち砕くのようにドラゴンゾンビは腐臭を含んだ咆哮を上げて、ゆっくりと瑠璃へ歩み寄って行く。

 もはやアインが立ち上がるのを待っては居られない。何ができるかはわからない。しかし、このまま手をこまねいて良い筈がない。

 

 一馬は飛び出し、瑠璃へ向かってゆく。

 

「基本骨子構成完了。形状設計完了。続けて機構概念、構成開始……」

「GAA!!」


 瑠璃は何かを呟き、ドラゴンゾンビは彼女へ鎌首を差し向ける。


「錬成っ!」


 すると、瑠璃の右手から鈍色の輝きが噴出した。

 それはすぐさま巨大な筒に、グリップとトリガーの付いた奇妙な形状の銃へと変化する。

 

 その形状は投射機グレネードランチャーのようだった。


 瑠璃は筒爆弾を取り出し、導火線へ火を点ける。そして錬成した投射機の筒のような銃口へ筒爆弾を装填した。そして力強く脇に着いたレバーを思い切り引き込む。

レバーによって圧縮された空気が、筒の奥にあるポンプへ充填される。

 

「私のとっておきだ! 受け取れぇーっ!!」


 深くトリガーを引き込めば、圧縮された空気が筒爆弾を外へと押し出す。

 筒爆弾はまるで矢のようにまっすぐ素早く飛び、ドラゴンゾンビの口の中へ放り込まれる。

 刹那、ドラゴンゾンビの口の中で筒爆弾が爆ぜ、後頭部が吹き飛んだ。

 ドラゴンゾンビの動きが、一瞬ぴたりと止まる。

 その隙に瑠璃は立ち上がり、膝を曲げた。

 

 給仕鎧で強化された脚力は彼女へ驚異的な脚力を与える。瑠璃はあっという間にドラゴンゾンビの頭頂部へ到達する。

 そして腐肉で汚れることなどいとわず、ドラゴンゾンビから鱗を一枚もぎ取った。


「くっ……!」

「先輩ッ!!」


 瑠璃は顔に苦悶を浮かべながらも一馬へ、光輝く竜鱗再び飛ぶ。

 そしてようやく瓦礫の中から起き上がったアインの肩の上へ舞い降りた。

 

「さぁ、アイン、お待たせした。今、君にも服をきせてやるぞ! ニーヤ君、ドラ! 私のカバンを!」

「うん! いくよ、ニーヤ!」

「いつでもOKです、ドラ!」

「「そーぉーれぇぇぇっ!!」」


 いつの間にか起き上がっていたニーヤとドラグネットは二人でぎっしり鉱石の詰まった瑠璃のカバンを投げる。

 カバンはアインの身長を遥かに超えて飛び、頭頂部に達する。

 瑠璃はもぎ取った竜鱗を、手にした投射機へ装填し、空気圧縮のレバーを引いた。


「構成完了――錬成っ!」


 トリガーを引き、頭上のカバンへ向けて鉄片を放つ。竜鱗は既に瑠璃の力を受けて、鈍色の輝きを放って居る。

 鋭く打ち上げられた竜鱗はカバンを切り裂き、これまで厳選し続けてきた鉱石を空中へばら撒く。

 

 そして竜鱗が、鉱石が荘厳な輝きを放った。

 

 それらは純白の雪のように降り注ぎ、アインへぶつかった途端、溶けてゆく。

 アインへ溶けて消えた鉱石はまるで降り積もるように膨らんでゆく。

 

「こ、これは――!?」


 できあがったソレを見て、一馬は驚きと歓喜の声を漏らす。

 

 重厚で、しかし洗練されたエッジのかかったデザイン。そして雪のような純白の装甲がきらめきを放つ。

 今目の前にいるのはマネキン人形のように細く頼りなさを感じさせるアインではない。

 立派な甲冑を装備した、鎧巨人。

 

 昨晩、四人でああだこうだと言いながら完成させた、アインへ着せるための鎧のデザインそのまま。

 しかも色は、みんなの案を折衷させて、一馬が決めた「白」である。


「さぁ、一馬君反撃開始だ!」

「ありがとうございます、先輩! ニーヤもドラも行くぜっ!」

「了解ですっ!」

「頑張っちゃうもんね!!」


 一馬は白い鎧巨人へ変貌したアインを進ませ、ドラグネットは再び鳥ゴーレムを召喚し、ニーヤは飛ぶ。

 

 正面のドラゴンゾンビは忌々しそうに咆哮を上げた。



 

【白き巨人:アイン】現状(更新)


 

★頭部――龍鱗アーメット NEW!

*必殺スキル:竜の怒り


★胸部――丸太・魔石×1

*補助スキル:魔力共有


★腹部――丸太


★各関節――アコーパール×10

*補正スキル:魔力伝導効率化


★腕部――鎧魚の堅骨・球体関節式右腕部・魔法上金属(素材追加)

*攻撃スキル:ワームアシッド

*攻撃スキル:セイバーアンカー

*攻撃スキル:スパイダーストリングス

*必殺スキル:アインパンチ

*補正スキル:オーガパワー


★脚部――鎧魚の堅骨・魔法上金属(素材追加・交換)

*補正スキル:水面戦闘

*補正スキル:オーガパワー


★武装――斬魔刀アクスカリバー×1

*必殺スキル:エアスラッシュ

*必殺スキル:フレイムアクスカリバー

*補正スキル:斬鋼(切れ味倍加)


★武装2――ホムンクルスNO28:ニーヤ×1

*補助スキル:魔力共有


★武装3――虹色の盾×1 

*防御スキル:シェルバリア


★武装4――戦闘用アームカバー


★武装5――パイルバンカー


★武装6――白銀の鎧 NEW!


★ストックスキル

 なし

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