第34話:アイン対メタルゴーレムギルバートmark6


「くらえぇ! ギルバートアタァァァック!!」


 真っ赤なちびっ子ゴーレム使い、ドラグネット=シズマンの叫びが木霊した。

 彼女が作成したメタルゴーレム:ギルバートmark6は、両腕の槍のようなスコップのようなものを突き出して突進を仕掛けてくる。

 

「ちっ!」


 一馬は舌打ちをしつつ、咄嗟に虹の盾を掲げてギルバートの武器をいなした。

 しかし右を弾けば左。

 ギルバートの武器腕が次々とアインを狙い繰り出される。


「良いぞ、ギルバートmark6! カズマと悪魔ゴーレムを叩き潰せぇ!」

「調子に乗るな! ワームアシッド!」


 少し距離を置き、強酸を放つ。

 が、酸は泡立つだけで、鈍色に輝く体表に傷一つ付けられない。

 ドラグネットは八重歯を覗かせ、笑みを浮かべた。 


「こちとら魔道金属ミスリルの身体と、そして――!」


 ギルバートの頭につけられた眼のような赤い宝玉が輝きを放った。

 

「一馬君、盾を前へ!」


 瑠璃のアドバイスに従って、アインは盾を構えた。


「させませんっ!」


 ニーヤは光の剣を腕から発生させて飛んだ。

 刹那、ギルバートの赤い目がカッっと輝きを放つ。

 

「――っ!?」

「ニーヤっ!!」


 ギルバートの放った輝きが空中で弾け、ニーヤを爆炎で包み込む。

 ニーヤは綺麗な弧を描いて吹っ飛ぶが、タイミングよく瑠璃が受け止め、事なきを得ていた。

 

「どうだ! これこそ、あたしの魔力を浴びせた魔石から発射される、ギルバートビィィィム! ちなみにビからの伸ばしは“ィィィ”を使うんだ!」

「ふっ、敵ながら分かってるじゃないか!」


 ドラグネットの発言に、瑠璃は少し嬉しそうに頬を緩ませている。

 ロボ好きな瑠璃らしいリアクション。

 確かに一馬も好ましいとは思うのだが、

 

(でも、この世界にビームなんてもんなさそうだし、厨二的な表現……こいつ、俺たちと同じなのか?)


 現代からの煌帝国へ招かれた、転生戦士の可能性。

 しかし考えるのはあと。

 異様に強力になったギルバートの攻撃は続いている。

 

 腕のスコップのリーチは長くインファイトはギルバートに軍配があがっていた。

 だからといってアウトレンジに下がれば、ギルバートビィィィム、とやらが飛んでくる始末。

アインはただ、ギルバートの攻撃を避け続けることしかできない。 


「どうだどうだ悪魔ゴーレム使いのカズマ! 手も足もでないだろう! ぬわっはっはっは!」


 ドラグネットは薄い胸を張って、既に勝ち誇っている。

確かにこのままでは、勝ち目はない。


「ニーヤ! 立てるか!?」

「イ、イエス! マスター! 問題ありません!」


 ニーヤは瑠璃の腕から離れて、ヨロヨロと立ち上がる。


「よぉーし、いい返事だ。これが終わったらたらふくうまいもん食わせてやるからな!」

「了解です! 楽しみですっ!」


 ニーヤは地面をしっかりと踏みしめる。

そして青い瞳にギルバートを映す。


「ぶっとばしてやります! 覚悟してください! 魔力主機関解放! 連動開始っ!」


 ニーヤから青い魔力の輝きが激しく迸る。

それはアインの胸に装着された魔石へ流れ込み、強く輝かせる。


「ぬっ!? さ、させるか! やれ、ギルバート!!」


 ドラグネットの指示を受け、再びギルバートは赤い光線を放った。

光線が、アインを狙って突き進む。

 すると、瑠璃が飛び出して、地面から石の壁を錬成し、光線を凌ぐ。

が、壁は吹っ飛び、瑠璃もまた衝撃で紙のように吹っ飛ばされる。


「先輩っ!」

「わ、私に構うな! 一馬君、ニーヤ君、今のうちだ!」

「支援感謝です、牛黒瑠璃! 拘束魔法照準固定――照射!」


 ニーヤから青白く発光する魔法陣が放たれる。

それは進むごとに巨大化し、ギルバートへぶつかった。魔法陣は紫電を浮かべながら、ギルバートを拘束する。


 一馬はアクスカリバーを持つアインへ八相の構えを取らせた。


 オーガパワーで力を漲らせ、斬鋼で切れ味を増幅させ、それらをアコーパールによって増幅させた。

関節が激しい輝きを放ち、力が大剣へ渦を巻いて集まって行く。


「エアスラッシュっ!」


 アインが鋭く大剣を振り落とせば、軌跡が青白い刃として実体化し、地面を激しく削りながら突き進む。

ギルバートは真っ二つ切り裂かれ、大爆散!


「うそんっ!……あたしの傑作が、ギルバートmark6が……」


 茫然自失のドラグネットは、ぺたりと座り込む。

するとそんな彼女へ、にゅっとツインテールの影が伸びた。


「さっきはよくも爆破してくれましたね。あれ、結構痛かったですよ?」

「ひぃっ!? お、お前もなんなんだ!? どうして熱線を浴びても平気なんだ!?」

「痛かったですけど、あの程度魔法でホムンクルスのワタシを倒そうなど笑止千万です」

「ホ、ホムンクルス!? ホムンクルスを持ってるって、もしかしてカズマって超すごいゴーレム使い!?」


 ドラグネットは怯えているのか、興奮しているのか、いろいろ混じっているような視線を向けてくる。

 とりあえず笑ってごまかしておいた。


「そうです。ワタシのマスターは超凄いんです! そんなマスターへ貴方は何度も何度も……お仕置きが必要です!」

「ええい! ホムンクルスなんて持ってる鬼畜・変態カズマのおもちゃになんてなるもんか!!」

「――っ!?」


 ドラグネットはダボダボの袖から、丸い何か地面を地面へばら撒く。

途端、モクモクと煙が上がり、視界を隠す。

 その中をドラグネットは脱ぎ捨てたシークレットブーツを担いで駆け抜けて行く。


「次こそは、覚えてろ悪魔鬼畜変態ロリコンゴーレム使いのカズマ! バーカ、バーカ!!」

「逃しませんっ!」

「ニーヤ、ストーップ!」


 と、走り出しそうなニーヤへ一馬は静止を促す。

ピタリと止まったニーヤだったが、やや不満げだった。


「よろしいのですか、マスター?」

「追いかけるほどじゃないしな。それよりも……」


 一馬の後ろでは、既に瑠璃が狩人たちと状況の確認を行なっている。


 まずは込み入ったこの状況を整理する方が先である。


⚫️⚫️⚫️



「どうやら私たちは害獣ーービッグワイルドボアの駆除の依頼をドラグネットから奪ってしまったらしいな」

「襲いかかってきたのは獣の方です! マスターは降りかかる火の粉払っただけです! 奪ったわけではありません! だからあの真っ赤なチビに喧嘩を仕掛けられるいわれもありませんっ!」


 ニーヤはまだプンスカ怒っているのか、声を荒げる。

 とりあえず、頭を撫でて、落ち着かせておくのだった。


 おそらく最も困惑しているのは、依頼を出した狩人たちだろう。

なにせ、外野が依頼を達成してまったのだから。


「報酬はいらないですよ。これ遭遇戦でしたし」

「よ、よろしいのですか、ゴーレム使い様……?」

「ただ、倒したもんの素材は全部頂ければ、の話ですが」


 大量に倒したビッグワイルドボワ。

そして、もはやガラクタとなったメタルゴーレムギルバートmark 6。

一馬にとっては金以上に貴重なものだった。


「まぁ、それで宜しければ……」


 狩人は少しホッとしたような顔をする。

こっちの問題は解決。そしてもう一方、


「耕耘作業、なかなか進まなくてすみません。明日までにはきっちり終わらせます。ただ夜通しになるんで、一晩この辺りで寝泊まりして良いですか?」

「わかりました。ご自由にお使いください」


 こっちの問題も解決。これにて状況整理は完了。


「一馬君、本当に報酬は良いのか?」


 そう聞いてきた瑠璃へ、一馬は「良いんですよ」と返す。


「だって金よりも、今は素材が欲しかったですし。って、訳で、先輩、この素材を使ってアインを上手く頼みます!」

 

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