第33話:二度あることは三度ある


「ヴォ―ッ!!」

「ブフォォー!?」


 アインは突然、現れた巨大イノシシの牙を掴み、受け止める。

 関節のアコーパールは激しい輝きを放ちながら、オーガパワーを全身へ漲らせている。

 しかしイノシシの勢いは増幅されたオーガの力でも、押しとどめることはできないらしい。

 

 イノシシの突進力は予想以上に強く、アインはそのまま地面を削りながら押されてゆく。


「てぇーい!」

「ブフォォー!!」


 そんな拮抗状態の中、飛び出したニーヤのドロップキックが、イノシシの横顔にヒット!

ようやくアインが踏みとどまり、地面を強く踏みしめる。

 

「投げろ、アイン!」

「ヴォォ―ッ!!」


 アインは肩のアコーパールを激しく輝かせた。

拳で岩をも砕くオーガの膂力が増幅されって、軽々と巨大なイノシシを横へ投げ飛ばす。

 地面へ思い切り叩きつけられたイノシシはぐったりと倒れて、泡を吹きだし始めた。

 

 撃退成功、と行きたいところだったが、そうは行かない。

 

 山の向こうから、こちらへ向かって激しい足音が響いてきている。

 木々のなぎ倒しながら、複数のビッグワイルドボアが、こちらへ迫っていた。

 

 しかし今度は不意打ちではない。準備をする暇は十分にある。

 

 一馬はアインへ、背中に装着したアクスカリバーの柄を握らせた。

少し腕を動かせば、びちびちと音を立てて、アクスカリバーをくくった縄がはじけ飛ぶ。

 そして巨剣を一閃。飛び出してきたワイルドボアは一刀両断されて、地面の上を滑って行く。


 切れることは確認した。

あとは――


(思い出すんだ、ファウスト大迷宮でニーヤと特訓したことを!)


 猪は丸太。ニーヤが投げた丸太。真っ直ぐ飛んでくる、ただの丸太。


「うぉぉぉー!」

「ヴぉぉぉーっ!!」


 一馬とアインは気合の籠った声を重ね合わせて、アクスカリバーを無駄の少ない動作で鮮やかに振り続ける。

 その度に、巨大イノシシはアクスカリバーで切り裂かれて、後ろの方へ飛んでゆく。


「ニーヤ君、次は左だ!」

「てぇい!」


 瑠璃の声を受けて、ニーヤはイノシシを蹴り飛ばす。

ニーヤの左右には邪魔にならないよう、倒れたビッグワイルドボアが折り重なっている。


「これで、ラストぉー!」

「ブフォぉー!!」


 アインの巨剣が最後のビッグワイルドボワを一刀両断し、ずっと聞こえていた地鳴りがようやく収まった。

 

(これだけ倒せば、スキルが獲得できるはず)


 一馬はアインを反転させて、ニーヤが左右に仕分けたビッグワイルドボアの山へと進ませる。


「こ、これは……!?」


 と、今度は剣や、棍棒、弓に大槍を持った、人達がぞくぞく現れて、アインと積み重なったワイルボワを交互に見渡す。

 

(もしかしてこの人たち、こいつらを追っていたのかな?)


 こういうのは早い者勝ちなのだが、この状況で吸収してしまうと、無用な諍いが生じてしまうかもしれない。

 とりあえず一馬は様子を見ることにしたのだった。

 

「もしや、貴方のゴーレムが全部?」

「ええ、まぁ。まずかったですか?」

「まずいといえばまずいような……」


 なぜか男は微妙な反応をする。


「おのれぇ! またあたしの邪魔をしたのは貴様だったか、卑劣で、悪魔なゴーレム使いカズマっ!!」


 甲高い声が響き渡り、男たちを割って、赤いローブを羽織った、妙に足の長い少女が姿を表す。

 ローブと同じく、赤い髪に、赤い目に、真っ赤に染まった顔色――明らかに憤怒の表情。

 どっかで聞いた声、どっかで見たことのある風貌である。


「もしかして、お前……ドラグネット?」

「そうだ! あたしが天才で、至高で、最強のゴーレム使い! 【ドラグネット=シズマン】であるっ!」


 きっと本人はカッコいいと思っているだろう、妙な決めポーズ――もしかして、こいつはアレか、中二病いうやつか――をドラグネットは決めて見せた。

 異様に足が長いので、見下ろされてほんの少し腹立たしい。

 

「てい!」

「わふっ!?」


 ニーヤがすかさずドラグネットへ足払いを喰らわせ、尻もちを着かせた。

 赤いローブの裾から異様に底の厚い、ブーツが白日の下に晒される。イッツ、シークレット、ブーツ。

 

「そのへんてこな靴で自分がチビだというのを誤魔化していたんですね。なんと愚かな……」

 

 ニーヤは薄ら笑いを浮かべながら、ドラグネットを見下ろす。

 

「う、煩い! チビなお前にチビにって言われたくないわい! 」


 ドラグネットは立ち上がろうとするが、ブーツが厚底過ぎて、一人では無理らしい。

 何度も立ち上がろうとするが、その度に靴底は引っ掛かって、地面へ何度もペタペタしりもちを付く。

 

「ああ、もう邪魔っ!」


 ようやく厚底ブーツを脱いだドラグネットは立ち上がり、薄い胸を張る。

 ブーツが無ければニーヤといい勝負の身長だった。

 

「あっ、そうだ! お前、昨日あたしのお金盗んだろ! 返せっ!」

「盗んだ? 人聞きの悪いことを言わないでください。昨晩は貴方のおかげで、迷惑を被ったのです。あのお金は壊れた家屋や、道の修繕費用として使わせてもらいました」

「ああもう、煩いチビ! さっさとお金返せっ!」

「むっ……チビにチビって言われたくありません! 貴方の方こそチビです!」

「チビチビいうな、チビ!」

「チビはドラグネット、貴方ですっ!」

「チビチビチビ……!」

「チビチビチビ……!」


 おチビちゃんたちは、互いににらみ合って、バチバチ火花を散らしている。

 いつまでこの不毛な争いが続くのか。そして覚える既視感。

 

(ああ、これはあれだ、犬の喧嘩だ)


 さしずめチワワvsトイプードルと言ったところか。うるさいが、見ようによっては微笑ましい。


 さすがの瑠璃も苦笑を禁じ得ない様子だった。

 

「もう良い! お金も獲られて、獲物も奪われたんだ! この恨み晴らすべし!」


 全身真っ赤っかの少し痛い子のドラグネットは大声を出して、会話を遮断する。

そしてだぼだぼの赤いローブの袖から、丸くて細っこい腕を出した。


「悪魔ゴーレム使いカズマと、そこのチビ! 今度こそ捻りつぶしてやる! でろぉぉぉ! ギルバートmark6!」


 ドラグネットが指をパチンと弾けば、木々の間に赤い輝きが浮かび、鈍い足音を響かせながら巨人が姿を現す。

 

 体表は金属のように鈍色の輝きを放ち、腕は槍の先端のような、スコップのような形状をしている。

 

「ぬわっはは! これぞあたしのゴーレム術の粋を結集して生み出した、対悪魔ゴーレム使いカズマ用決戦ゴーレム! メタルゴーレムギルバートmark6! さぁ、勝負だ!」


 鈍色に輝くゴーレム:ギルバートはスコップのような両腕を掲げて威嚇のポーズを取る。

 またまた面倒なことになった。

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