第35話:アイン大改造計画2


「ドラグネットのギルバートと戦って思ったんです。この世界で生き抜くにはもっと、アインを強くしなきゃならないって。でも、正直、俺のアイディアだとどうした良いかわかりません。だから、先輩の才能を見込んでお願いです。今ある素材を使って、アインをもっと強くしてやってくれませんか?」

「一馬君……」

「無茶振りですか?」


 一馬はなるべく軽く伝わるよう、軽やかに声を出す。

すると、瑠璃は頬を緩めつつつ、首を横へとふった。


「良いだろう、請け負った! 最高の強化をしてみせよう!」

「ありがとうございます、頼みます! おーし、ニーヤ! こっちは耕耘作業の続きだ!」

「了解です!」


 一馬とニーヤは作業へ取り掛かる。

幸運なことに、ワイルドボアや、ギルバートとの戦闘で、固まっていた地面はある程度堀換えさえれてる。

これならきっと、一馬とニーヤだけでも問題ないはず。



⚫️⚫️⚫️



「マ、マスター大丈夫ですか?」

「くっ、農業舐めてた、体バッキバキ……」


 幾ら戦闘の影響で地面が多少耕されていようとも、あとを人力でやるのはかなり無茶があった。

 それでも頑張ったので、なんとか形にはなっている。最も成果の大半は、疲れ知らずのホムンクルスであるニーヤのものなのだが。

 

「一馬君、ちょっと来てくれ!」


 ずっと集中してアインの改修作業を行っていた瑠璃が声を上げる。

 彼女の背後には均等に切り分けられたメタルゴーレムの残骸と、そして――

 

「こ、これってパイルバンカー?」

「分かってくれたか! さすがだ一馬君!」


 裏返しにされた虹の盾の裏、そこには散々討伐したビッグワイルドボアの立派な牙と、メタルゴーレムの残骸から回収しただろう赤い魔石がはめ込まれていた。

 

「正しくはシールドの裏に取り付けたので【シールドバンカー】だ。これは伸縮射出機構はないものの、牙を相手に突き刺して、そこから直接魔石を伝って魔力を流し込む仕様にしてみた」

「なるほど、ぶっ刺して、エネルギーをぶち込んで、中からぶっ壊すってやつですね?」

「ああ、その通りだ。ニーヤ君、すまないがこの武装を使う時も、魔力の供給をお願いできるかい?」


 瑠璃は少し遠慮がちにニーヤへ聞く。

 しかしニーヤは、迷いもせずに首を縦に振った。

 

「了解しました。マスターとアインのためでしたら、魔力は惜しみません」

「ありがとう。あと、ついでにアインの解体とその後の作業も手伝ってもらえるとありがたいのだが……」

「そいつをアインへ?」


 一馬は瑠璃の後ろにゴロゴロと転がっているメタルゴーレムの残骸を指す。

 

「魔法金属(ミスリル)は強度も高く、何よりもアコーパールとの相性が良い。今、アインの手足のフレームとなっている鎧魚の骨を、これでコーティングして魔力の伝導性を高め且つ、強度を向上させようと思ってな」


饒舌に語る瑠璃はすごく楽しそうで、嬉しそうな顔をしている。


「先輩、楽しそうですね」

「ああ、楽しいさ。こうして実際に巨大メカをいじれるしな。アインを生み出してくれて、ありがとう一馬君」

「いえいえ、俺はベースの木偶人形を作っただけですよ。アインをここまで強くしてくれたのは先輩です」


 瑠璃は照れ臭そうに頬を赤く染めて、フードへ手をかける。

が、途中で手を止め、一馬へわずかに視線を向けてくる。


「か、隠さない方が、良いか……?」

「そうですね、素直に喜んでる先輩の顔を見てたいです」

「全く、君ってやつは……」


 恥ずかしそうに白い頬を真っ赤に染めながらも、優しい視線が向けられた。

意図せず心臓が跳ね上がり、頬を耳が熱を持つ。


「マスター、マスター!!」


 と、眉をピンと張ったニーヤが、一馬の袖をグイグイ引っ張ってくる。

 これはあれだ、ご主人様に相手をしてほしい時の、ワンコの合図?


「はいはい、どうしたニーヤ、お腹でも空いたのか?」

「それもありますけど、新しい武器を試してみたいです! いざって時に役立たずじゃ困りますっ!」

「役立たずって……先輩に限って、そんなもん作るはずないだろ?」

「いや、ニーヤ君の言う通りだ。テストは必要だと私も考える」


 いつもの顔に戻った瑠璃はニーヤへ歩み寄り、彼女の視線まで腰を屈める。


「申し訳ないがアインへのシールドバンカーの搭載作業を手伝ってくれないか?」

「もちろん手伝います。マスターのアインのためだったら協力は惜しみません」

「ありがとう。だったらエネルギー補給が必要だね」


 瑠璃は腰袋から、黄金色をした焼き菓子を取り出す。


「これは?」

「依頼主に貰ったクッキーだ。さっき、お腹が空いたと言ってただろ? まずはこれで補給を」

「……」


 ニーヤはなぜか一馬をチラチラと見てくる。

最初はなんの合図だかわらなかったが、なんとなく分かってきたような気がして、


「えっと……よし」

「はむっ! ん――っ!!」


 ニーヤは答えを聞くや否や素早く瑠璃の差し出したクッキーをパクリと頬張って、幸せそうな呻きをあげている。


「作業を頑張ったらもっとあげよう。まだまだたくさんあるからな」

「わかりました、頑張ります!!」

「よし、じゃあ作業開始だ」

「はいっ! 代わりに今の大変美味だった、クッキーを所望しますっ!」


 瑠璃とニーヤは少し打ち解けたらしく、二人並んで寝転んだままでいるアインへ向かってゆく。


(仲良くなったっていうより餌付けをされた……?)


 益々ニーヤが犬に見えてくる一馬だった。

 

 かくして、アインのフレーム改修と、シールドバンカーの搭載作業が瑠璃とニーヤの手によって開始された。


 手足のフレームは形こそ変わっていないものの、鈍色の金属へ代わり、見た目からでも頑強さが増していた。

左腕の虹色の盾にも立派な、杭が装備され、より戦闘力を増している。


「じゃあ、いくぞ?」


 一馬はアインを畑の中にドーンと鎮座している大岩まで進ませる。


「まずは盾に搭載されている杭を岩へ叩き込むんだ。杭は多少、金属コーティングを施してあるので強度の問題はないはずだ」

「わかりました!」


 瑠璃の言う通り、杭を思い切り岩へと叩き込む。

 ドン!と激しい音を立てながら、岩へ杭が鋭く突き刺さった。

音を聞いただけでも、これは相当な威力。


「ニーヤ君、魔力を!」

「はいっ! 魔力照射ぁっ!」


 ニーヤは手を掲げて、青白い魔力をアインへ向かってはなつ。

刹那、辺り一面が砂煙で覆われ、強く衝撃が一馬の臓腑を揺り動かす。

 巨大で硬そうだった岩は、一瞬で砕け散り、跡形も残ってはいない。


「そ、想定以上の威力だな……はは」


 作った本人である瑠璃も、尻餅をついて声を震わせているのだった。

 一馬も一馬とて驚いてはいるものの、それ以上に強力な武器を作ってくれた瑠璃への感謝の念が絶えなかった。


「も、もし! そこのゴーレム使い様!!」


 と、そんな中、一馬の背中へ声をかける人が。


 背中にリュックを背負い、少し砂埃に塗れた男が、一馬へ駆け寄ってくる。


「今の発破は、あなたのゴーレムがしたものですか!?」

「ああ、まぁ、そうですけど」

「報酬は十分にお支払いします! ですから、どうか仕事を引き受けてくださいませんか!?」




 【球体関節人形:アイン TYPE R】現状(更新)



★頭部――鉄製アーメット

*必殺スキル:竜の怒り


★胸部――丸太・魔石×1

*補助スキル:魔力共有


★腹部――丸太


★各関節――アコーパール×10

*補正スキル:魔力伝導効率化


★腕部――鎧魚の堅骨・球体関節式右腕部・魔法上金属(素材追加)

*攻撃スキル:ワームアシッド

*攻撃スキル:セイバーアンカー

*攻撃スキル:スパイダーストリングス

*必殺スキル:アインパンチ

*補正スキル:オーガパワー


★脚部――鎧魚の堅骨・魔法上金属(素材追加・交換)

*補正スキル:水面戦闘

*補正スキル:オーガパワー


★武装――斬魔刀アクスカリバー×1

*必殺スキル:エアスラッシュ

*補正スキル:斬鋼(切れ味倍加)


★武装2――ホムンクルスNO28:ニーヤ×1

*補助スキル:魔力共有


★武装3――虹色の盾×1 

*防御スキル:シェルバリア


★武装4――戦闘用アームカバー


★武装5――シールドバンカー NEW!


★ストックスキル

 なし

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