第30話:ビバ! カズマ!!


 店先には総数5体のゴーレムがアインを取り囲むように並んでいた。


「どうだカズマ! あたし自慢のゴーレム軍団は! チビって声も出ないだろうぅっ!」

「一馬って……ちょっと馴れ馴れしいんじゃない?」

「至高のゴーレム使いのドラグネット様に恥をかかせたんだ! あたしの脳髄、骨の髄髄までお前の名前を刻み込んでやったぞ! 光栄に思うがいい!! ぬわっはは!」

「マスター、アイツをまた殴っても良いですか?」


 とりあえず物騒なこと言ったニーヤへは、頭を撫でて諫めておいた。

それにしてもかなりめんどくさい奴に目をつけられてしまったらしい。

 正直げんなりである。


「さっきは仕事横取りして悪かったよ。金貨一枚やるから大人しく帰ってくんない?」

「バーカ! お金の問題じゃない! これはゴーレム使い同士のプライドをかけた勝負なんだっ!」

「いや、プライドとかどうでも良いから。ごめんなさい。俺が悪かったです。許してください。金貨一枚あげるから帰ってください」

「誠意が微塵も感じられぬわぁ!」


 ドラグネットは叫びを上げ、妙に鋭い動きで一馬を指さした。


「やれぇ! ギルバート2号から6号! カズマをコテンパンに……!」

「てい!」


 ニーヤのジャンピングヘッドバットがスマッシュヒット。

ゴーレムの一体が、ドスンと転げた。自力では立ち上がれないのか、大きな足をジタバタさせている。


「4号ぉっ!? おのれ、カズマ卑怯な真似……」

「行け、アイン!」

「ヴォッ!」


 すかさず一馬はアインを突っ込ませ、タックルをお見舞いし、ゴーレムを突き倒す。

ドラグネットの悲鳴から、今のがどうやら6号らしい。見た目は全く一緒なので、何を基準で判別しているのか分からない――と、余計なことを考えていたので、他のゴーレムの接近を許してしまった。

 咄嗟に虹の盾を掲げて、辛くも突進は受け止められた。

 生憎、ドラグネットのゴーレムの方が、腕がやや長くアインパンチは届きそうもない。

 

(パンチがとどかないんだったら!)

 

 一馬は先刻瑠璃がアインへ装着してくれた右手の五指を動かした。

 五指は背中に括った、ドラゴンキラーの異名を持つ巨大な剣――斬魔刀アクスカリバーの柄を、まるで人間のようにしっかり掴む。

少し腕を動かせば、びちびちと音を立てて、アクスカリバーをくくった縄がはじけ飛ぶ。

 そして同時に肩のアコーパールを輝かせ発動させたのは、切れ味倍加のスキル【斬鋼】

 

「ヴォォ―ッ!」


 アインは気合の籠った唸りを上げつつ、アクスカリバーを振り落とす。

 長く巨大な刃は、未だに阿呆のように虹の盾の前でじたばたしている、ゴーレムをまるではんぺんのように真っ二つに切り裂いた。

 

「なっ!? ゴーレムが武器を使ってる!? ええい! 3号、5号やってしまいなさい!!」


 今度は前後からゴーレムが突進を仕掛けてくる。

ギリギリまで引き寄せ、アインはひらりと身をかわす。

猪突猛進な二体のゴーレムは互いに激しくぶつかり合って。手足がぐちゃぐちゃに絡み合い、動けずの状態へ。


 そんな二体のゴーレムへ、アインはスパイダーストリングスを放った。

 更にセイバーアンカーを撃ち込み準備万端。


「アンカーにはこういう使い方もある! 投げ飛ばせ、アイン!」

「ヴォォー!」


 アインは各部のアコーパールを輝かせ、オーガパワーを全身へ漲らせた。

 ネットに絡まれ、相当な重さとなった二体のゴーレムを、軽々と持ち上げ、空へ向かって放り投げる。

ゴーレムは町の境を超え、森の遥か彼方に消えてゆく。

やや遅れて、僅かに地面が揺れて、森の中からは無数の鳥が飛び立つのが見えたのだった。


「やっぱりなんなんだ、カズマのゴーレムは……ひぃっ!」


 唖然とするドラグネットへニーヤは手の甲から発している、光の剣を突きつける。


「決着です。マスターへこれまでの非礼をお詫びしてください」

「あ、あわ……!」

「マスター、こいついかがいたします?」

「そうだねぇ。俺たちの食事を邪魔してくれて、道にこんな大穴を空けてくれたんだ。相応の罰は受けて貰わないとね」


 一馬は道に穿たれた、数々の穴をみつつ、わざと邪悪っぽい笑みを浮かべた。


「お、おのれ悪魔ゴーレム使いのカズマめ!」

「悪魔ってなんだよ、んったく……お前が喧嘩ふっかけてこんきゃ、こんなことにならなかったんだろうが」

「あたしの超絶怒りと、壊されたされたゴーレムたちの痛みを思い知れぇ!」


 ドラグネットが叫び、一馬の背中に悪寒が走った。

踵を返すと切り裂かれたゴーレムが、近くにあった腕のパーツを腕持ち上げ。一馬へ向けて放り投げる。

 ニーヤは一馬の防御に回るが、やや遅い。


「錬成っ!」


 凛とした声が響き、突然地面から“石の壁”が隆起してきた。

間一髪、"石の壁"は、投げつけられたゴーレムの腕から一馬を守り、バラバラに砕け散る。


「悪党退散!」

「ひぎゃっ!」


 ニーヤは鋭い回し蹴りをドラグネット向けてクリーンヒット!

ドラグネットは綺麗な弧を描いて飛んでゆき、ゴミ捨て場へドスンと、落っこちるのだった。


「先輩、ありがとうございました。助かりました」

「いや……それよりも怪我は無いか?」

「ええ。貰いそうでしたけど、先輩のおかげで」

「そうか。ならばよかった」


 瑠璃は安堵した様子で頬を緩める。これからはあまり心配をさせたくないと思う一馬だった。


「覚えてろ、悪魔ゴーレム使いのカズマ! 次こそはあたしのギルバートでこてんぱんにしてやるからなぁ!! バーカ、バーカ!」


 ゴミ捨て場から飛び出したドラグネットは、脱兎の如く駆け出し、夜の闇へ消えてゆく。

 逃げ足だけは早いらしい。


「マスター! 供物ですっ!」


 視線を下げるとニーヤが結構パンパンに入っている麻袋を差し出している。

 膨らみ方から察するに、お金が入っているのだろう。


「金? どしたのそれ?」

「さっきの阿保ドラグネットから貰っておきました。たくさん入ってます!」

「へぇ、こんなにたくさんくれたんだ。親切な人だね」

「はい、親切です!」


 ニーヤは愛らしい笑顔を浮かべる。やっぱりこの顔は卑怯である。

 

「さ、さぁて! 穴を埋めないと!」

「だな。さすがにこのままでは、迷惑だからな」


 瑠璃は鉄鉱石から、スコップを錬成して地面へ突き立てる。


「ワタシもやりますっ!」


 ニーヤは戦闘の影響で、辺りに散らばったゴミずくを拾い始める。


 一馬も道に開けてしまった穴の数々を埋めるために、アインを屈ませ、土を集め始める。


「あ、あの、ゴーレム使い様、何をなさって……?」


 と、背後から村人が声を震わせながら聞いて来た。


「すみません、俺たちのせいで。片付けは今夜中に終わらせますので」

「片付けを? ゴーレム使い様が? そ、そんな滅相も!!」

「良いですって、これぐらい」


 一馬が作業へ戻ると、村人は踵を返して、家の中へ飛び込んでゆく。

そしてスコップを手にして戻ってきて、穴埋めの作業を始めた。

 それがきっかけとなり、続々と村人が道具を持参して、穴埋めを作業を開始する。


「良かったな、一馬君。皆は君が悪いとは思っていないみたいだぞ」


 瑠璃はまるで自分のことのように笑顔を浮かべていた。


「当然です! マスターは悪くありません! 悪いのは全部ドラグネットです!」


 ニーヤはぷんぷん怒りながら、ぴょんと飛ぶ。

そして屋根の上へ昇った。

 小さな女の子が、軽々と屋根の上へ昇ったものだから、視線が集まるのは当然のこと。


「みなさん! ご協力ありがとうございます! 我がマスター、偉大なる一馬様は修繕の必要な費用は全部支払ってくださいます! 何か必要なものがありましたら、遠慮なく言ってください! 即金でお支払いいたします!」


 ニーヤはドラグネットからくすねた袋を掲げた。


「マジか!?」

「気前のいいゴーレム使い様もいるもんだな!」

「よぉし! 今夜中に直すぞぉ!」


 ニーヤの宣言を聞いた村人たちは歓声を上げた。


「マスター! 一言お願いします!」

「はぁ!? 一言って……」


 ニーヤの無茶ぶりに、一馬は悲鳴に近い声を上げた。

 予感通りに、村人たちの暖かい視線が一馬へ集中する。


「あ、えっと……ま、まぁ、こんな夜中ですけど頑張りましょう! 金は任せてください!」

「ビバ、カズマ―!」


 そうして沸き起こった“ビバ! カズマ”コール。

 見捨てた第三兵団――かつての同級生たちに称賛された時は、不快感しかなかった。

だけども今は、


(なんか良いな、こういうの。めっちゃ嬉しいかも!)


 一馬は胸の内をほっこりさせつつ、村人たちと共に、作業に取り掛かる。


(ゴーレム使いって一体なんなんだろ? 調べた方が良さそうだな……)


 一馬はそんなことを考えながら、作業を続けてゆくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る