第25話:再会! 決着ッ!!


「生きてた、木造くんが、本当に……!」


 感極まったのか瑠璃は、一方的に一馬を抱きしめて来た。


「せ、先輩!? ちょ、ちょ!」

「良かった……ひっくっ……本当に、君が無事で、本当に……」

「先輩……?」

「お帰り! 待っていた! この日をずっと! 君のことをずっと!!」

「ありがとうございます。俺もずっと先輩に逢いたかったですよ」


 一馬が艶やかな瑠璃の黒髪を撫でた。

 彼女は胸の中で更にわんわん泣きじゃくり、生還を喜んでくれている。

そんな瑠璃が可愛く、そして愛おしく思った一馬は、気持ち強めに彼女を抱きしめる。


「マスター何、どさくさに紛れて助平なことをなさっているんですか!」

「ちょ、おま! こ、これは!!」


 何故かニーヤは眉間にシワを寄せ、青い瞳を鋭く細めて睨んでいた。


『ほう、まだオレに逆らうイキのいい人間が残っていたか!』


 頭上から野太い人語が聞こえ、顔を上げる。


 赤鬼。


 そう名付けるにふさわしい巨大な魔物が鋭い眼光を放ちつつ、一馬を見下ろしている。


「ニーヤ、こいつが何なのかわかるか?」

「敵生体――魔族:エビルオーガと断定!」

「こいつが魔族……」


 煌帝国の、否、一馬たちの真の敵。

魔物よりも強大な力を持ち、高い知能を誇る驚異の存在:魔族。


 すでに第三兵団は壊滅状態で、上位天職を持つ煌斗や綺麗でも歯がたたかなかった。

 

 エビルオーガは既に敵意に満ちた視線で、アインを睨みつけている。

そして今ここで戦えるのは、アイン、ニーヤ、そして一馬のみ。

 ようやく瑠璃と再会できた。彼女を迎えることができた。

 

 ならば――今、一馬が取るべき選択は一つ。

 

「魔族だろうが、エビルオーガだろうが、俺を邪魔する者は排除する! 行くぞニーヤ! こいつを倒して、ここからさっさとずらかる!」

「賛成です! マイマスター!」


 ニーヤはエビルオーガに恐れることなく矢のように疾駆する。

素早く跳び上がり、光の剣でエビルオーガの顔を狙う。

しかしエビルオーガは羽虫を叩き落とすように、ニーヤへ巨大な手を差し向けた。


「そんなの当たりませんっ!」


 ニーヤは器用に身を捻って回避し、エビルオーガの手首を激しく切りつけた。

 

『ごあっ!? お、おのれえぇ!!』


 エビルオーガは憤怒の声を上げて、今度こそニーヤを叩き落とそうと腕を振る。

だが巨大な腕は、小さなニーヤを捉えきれず、むなしく空を切るのみ。

赤鬼はすっかりニーヤに翻弄され、きりきり舞いである。


「ヴォッ!」

『がっ――!?』


 隙を突いて、アインを突貫させた一馬は、エビルオーガの背中へアクスカリバーを叩きつけた。

 エビルオーガは大きく仰け反り、短い悲鳴を上げる。良攻撃(ベストヒット!)。

 

 そのまま足を突き出し、エビルオーガを蹴り飛ばす。鬼の巨体が兵舎の瓦礫を押しつぶしながら、地面へ倒れこんでゆく。

巨大な相手でさえも容易に蹴り飛ばせる、オーガパワー様々だった。

 

『ええい! 調子に乗り負って! ガァァァ!!』


 エビルオーガは素早く起き上がり、忌々しげな声を上げると共に火炎を吐き出した。

アインは辛くも回避できたものの、 操作で無防備を晒していた一馬へ炎が襲い掛かる。

 

「マスター!」


 間一髪、ニーヤが割って入り、障壁を張って炎を受け止めた。激しい火炎は、圧力も兼ね備えていて、ニーヤを障壁ごと押し込んでゆく。

 

「マ、マスタ―障壁破られますっ! アコーパールの削りかすを投げてください!」

「分かった!」


 一馬は腰に括っていたアコーパールの削りかすの入った小袋を放り投げた。

 ニーヤの障壁が火炎流によって砕かれる。同時に、アコーパールの入った袋が炎に飲まれ、煌く粉末を空中へまき散らす。

すると、火炎は削りかすの広がりに沿って、左右に偏向した。


(なるほど、アコーパールの削りカスにはこういう使い方があるのか! 残しておいて正解だったな!)


『ふざけた真似を!』


 エビルオーガは火炎放射を止め、鉄鞭を手に突っ込んでくる。

 寸でのところでアインはアクスカリバーをかざし、防御態勢を取る。

 関節のアコーパールが強い輝きを放ち、膂力を向上させるオーガパワーを増幅され、エビルオーガの鉄鞭を受け止めた。

 

 大剣と鉄鞭が激しくぶつかりあい、拮抗状態を生み出す。


『がぁぁぁ!!』


 しかしエビルオーガの方が、今一歩膂力で勝っていた。

アインは力比べでは負け、突き倒される。

 エビルオーガは大口を開き喉の奥へ、激しい炎を浮かべ始める。

 

「てい!」

『――っ!?』


 エビルオーガが炎を吐き出すのと同時に、ニーヤがアコーパールの削りかすの入った小袋を投げつけた。

アコーパールによって偏向した火炎が逆流し、エビルオーガを激しい炎で包み込む。


「や、やった! マスター、やりましたぁ!」


 珍しくニーヤは小さくガッツポーズを取っていた。

 しかし炎の中からエビルオーガの腕が伸び、ニーヤを突き飛ばした。


「ニーヤっ!!」

『自らの炎でやられるほど愚かではないわぁ!』


 立ち上がったエビルオーガはアインへタックルを仕掛けた。

 そのまま巨大なアインを持ち上げ、振り回し、瓦礫の中へ激しく投げ込む。

 凄まじい衝撃は一馬とアインのリンクを断ち切る。

 

『この中の人間では一番楽しませてもらったぞ。しかし、俺は飽きっぽい。これでお終いだ』


 エビルオーガは黄金の眼で一馬を睨み、鉄鞭を引きずりながらにじり寄ってくる。

 

 ニーヤも突き飛ばされた衝撃でピクリとも動かず、アインを起こそうにも距離が離れすぎていて、今すぐこの場へ配置するのは難しい。

 

(いや、諦めるな。何かある筈だ、何か……!)


 一馬は必死に頭をこねくり回すが、妙案は浮かばず。

 そんな彼の目の前でエビルオーガは大口を開き、喉の奥に火炎の塊を浮かべた。

 

(糞! 何かないのか何か!!)


 その時、一馬の横を黒い何かが過り、腰に括っている最後のアコーパールのカスが入った小袋を奪って、駆け抜ける。


「先輩!?」

「任せろ、木造くん! 考えがある!」


 瑠璃はエビルオーガの前に立つ。

 ローブの懐から、白銀に輝く鉱石を取り出し、投げた。

そしてそれへ向けて、アコーパールの削りカスの入った小袋を投げつけた。

破れた小袋から銀の粉が舞い、鉱石を包み込む。


「錬成っ!」


 瑠璃の声と共に鉱石が眩い輝きを放ち、瞬時を形を成す。

 そしてほぼ同時に吐き出されたエビルオーガの火炎を、左右へ分断するように偏向させた。


 エビルオーガの火炎から一馬を守ったもの――それは、突然、彼の目の前に現れた虹色の輝きを放つ、美しい大盾だった。

 

「こ、これは……!?」

「こんなこともあろうかと、アイン向けの盾の設計を頭の中でしておいた! 使ってくれ! これさえあれば、エビルオーガの火炎を恐れる必要はない!!」


 瑠璃の声と彼女の生み出した巨大で美しい“虹色の盾”は一馬へ、再び戦う勇気を与えた。


(立て! アインッ! まだ終わりじゃない!)


「ヴォッ!!」


 瓦礫の中から立ち上がったアインは疾駆する。


「砕け鉄拳! アインパンチっ!」

『ごうぅっ!』


 アインは青く輝く拳をエビルオーガへ叩きつつけ吹っ飛ばす。

 しかしそれだけ。必殺のアインパンチを受けても、エビルオーガの撃破には至らないらしい。


「ニーヤ! 盾をアインに装着するまでの時間を稼いでくれ!」

「か、かしこまりました!」


 ニーヤは飛翔し、起き上がりつつあるエビルオーガへ向かってゆく。


「先輩、取り付け作業手伝ってください!」

「ああ、もちろんだ!」


 一馬と瑠璃は虹色の盾へかがみこむ、アインへ駆けてゆく。

そしてニーヤは時間稼ぎのために懸命にエビルオーガの周囲を飛び回る。


『おのれちょこざいなぁぁぁ!!」


 止まったニーヤへエビルオーガは火炎を放とうとする。

 ニーヤは避けようとするが、やや反応が遅れ、宙で無防備を晒している。

 

 そんなニーヤとエビルオーガの間に割って入ったのは、左腕に”虹色の盾”を装備した球体関節人形アイン。

 

 エビルオーガの吐き出した炎は、アインが掲げた盾に分断された。

 

(盾を構えたまま、前進!)


「ヴォッ!」


 炎が虹色の盾に押し返され始めた。

 

『ごぉっ!!』 

 

 押し返された炎がエビルオーガの口の中へ戻り、盛大に爆発した。

巨体が倒れるも、眼光は未だ消失していない。

やはり、まだ届いてはいないらしい。


(これでもダメか。どうしたら良いんだ!?)


「マスター、緊急提案です! ワタシの主魔力機関から、アインへの魔力充填を具申します!」


 突然、一馬の隣に舞い降りてきたニーヤはそう叫んだ。


「主魔力機関から魔力を?」

「はい! ワタシの主機関から最大限の魔力をアインへ注ぎ、エビルオーガを殲滅いたします」

「それって、結構マズいんじゃないか!?」

「奴を倒すにはそれしかありません! 大丈夫です! あとでエビさんとタコさん、あとはカニさんをたくさん食べさせて頂ければ問題ありませんっ!」


 ニーヤはふざけているような言葉を真剣に言ってきた。

こんな状況でもニーヤは通常運転継続中。

それがなんだか嬉しくて、一馬はニーヤの頭をポンと撫でるのだった。

 ニーヤもまた愛らしい笑顔ではにかむ。

 

 倒せるか保証はない。どんな力が発現するのかもわからない。

しかし今はそれに掛けるしかない。


「わかった……ニーヤ頼む、やってくれ! エビさん、タコさん、カニさん、ついでにお魚さんもつけてやる!」

「ありがとうございまずマスター! 頑張りますっ!」


 ニーヤはよろよろと起き上がったエビルオーガを碧眼に映す。

そして勇ましく視線を上げた。

 

「魔力主機関開放!」


 ニーヤからこれまでとは比べ物にならない程の青い輝きが迸った。

その力は空気の流れを変え、彼女の周囲には竜巻のような渦を生み出す。


「循環確認! 充填開始ッ!」


 ニーアから輝きはアインの胸に装着された魔石をこれまで以上に強く輝かせた。

アインが激しい青白い輝きに包まれる。


『があぁぁぁぁ!!』


 ボロボロのエビルオーガは危険を感じたのか咆哮と共に火炎を吐き出す。

 青い輝きに包まれたアインは静かに虹の盾を掲げた。

盾は炎を分断したばかりか、まるで炎を吸い取るかのように消失させてて行く。


「照準固定――――拘束魔法照射ぁーッ!」


 ニーヤから魔法陣が放たれた。

それは拡大しながらエビルオーガへ迫る。


『な、なんだこれはぁっ!?』


 魔法陣がぶつかると、エビルオーガの四肢が紫電を帯びながら硬直した。

身をよじり逃れようとするも、魔力の輝きはエビルオーガを捕らえて離さない。


「今ですマスターッ!」

「ああっ!」


 斬魔刀アクスカリバーへ、アコーパールで更に増幅されたニーヤの魔力が集ってゆく。

 同時発動させたのは、切れ味上昇の斬鋼、オーガの強い膂力を付与するオーガパワー、そして必殺スキルエアスラッシュ。

 しかしこれだけではきっと届かない。

 だからこそ――!

 

「ヴォォォォッ!!」


 アインは竜の咆哮のような声を上げ、頭のアーメットの隙間から赤く、鋭い輝きを放った。

 

 竜の魂を力に変え、相手を圧倒する力――竜の怒り。

 未知の力の奔流はアインを包み込んだ。竜の咆哮を彷彿させる猛り声がアインから響きわたる。

 

(アイン――突撃っ!)


 一馬の意志を受け、あらゆる力と竜の魂を纏ったアインが飛び出す。

 矢のように早く、炎のように熱く、そして竜のように雄々しく――急接近するアインを前にして、エビルオーガは初めて、驚愕の表情を浮かべる。


「喰らえ! これが俺とニーヤとアインと先輩の、俺たちの力!」

『お、おのれ、人間めぇ……!』

「アクスカリバァァァ――ッ!!」

『ぐっ、がぁぁぁぁ―――ッ!!』


 アクスカリバーがエビルオーガの上半身を魔法陣ごと切り裂いた。

 分断された巨大な上半身が跳ね飛ばされる。

眼光は輝きを失い、エビルオーガの命が燃え尽きたのを物語っている。


 そして宙を舞うエビルオーガの上半身を見上げて、表情を凍り付かせる一人の女がいた。


「なっ――! な、なんでこっちに!?」


 吉川 綺麗は飛んでくるエビルオーガの上半身から逃れようと走り出す。



 

 

【球体関節人形:アイン TYPE R】現状(更新)



★頭部――鉄製アーメット

*必殺スキル:竜の怒り


★胸部――丸太・魔石×1

*補助スキル:魔力共有


★腹部――丸太


★各関節――アコーパール×10

*補正スキル:魔力伝導効率化


★腕部――鎧魚の堅骨

*攻撃スキル:ワームアシッド

*攻撃スキル:セイバーアンカー

*攻撃スキル:スパイダーストリングス

*必殺スキル:アインパンチ

*補正スキル:オーガパワー


★脚部――鎧魚の堅骨・大きな石

*補正スキル:水面戦闘

*補正スキル:オーガパワー


★武装――斬魔刀アクスカリバー×1

*必殺スキル:エアスラッシュ

*補正スキル:斬鋼(切れ味倍加)


★武装2――ホムンクルスNO28:ニーヤ×1

*補助スキル:魔力共有


★武装3――虹色の盾×1 NEW!

*防御スキル:シェルバリア


★ストックスキル

 なし



・明日ざまぁやって終わりでーす。

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