第20話:オーガの巣窟


 新生アインは破竹の進撃を続け、階層全域に張り巡らされた水をものともせずに突き進む。

そして大台、90層を前に、体勢を整えるべく、キャンプを張っていた、


「マスター、具申を宜しいでしょうか?」


 ニ―ヤは先日、ジェネラルクラブを倒した際に手に入れた青く輝く“魔石”を取り出した。


「こちらをアインへ搭載してはいかがでしょうか?」

「するとどうなるんだ?」

「アインはワタシからの魔力供給を受けることが可能になります。そうすることで瞬間的に運動性を向上させることや、攻撃力をあげることが可能となります」

「と、なるとニ―ヤの負担が増えるってことだね?」

「魔力の消費、という点に置いては、ご指摘の通りです」


 守ってもらうばかりか、アインへの魔力供給まで負わせるのは気が引ける。


「ですから、そのぉ……」


しかしニ―ヤはもじもじとして、なにかを言いたげだった


「基本的にアインへの魔力の供給は予備ストレージから行うことにします。ですから、えっと、できれば今度からはワタシ

にもマスターの供物の一部を……」

「つまりこれからは魔力供給のために一緒に御飯が食べたいと?」

「は、はい……」


 いつもは元気な癖に、こういうときは汐らしくなる。

 本当にどんどん人間らしくなっている。そんなニーヤの様子が微笑ましく、そして何よりも嬉しかった。


「俺はこれからもニ―ヤと一緒に飯が食べたい。むしろ大歓迎だ」

「ほ、本当ですかっ!?」

「ああ。一緒に食べて、それでアインが強くなるなら、尚のことな」

「ありがとうございます! マスターがマスターになってくださって、本当にワタシは幸せなホムンクルスです」

「それは俺もだ。よし、食後に搭載作業をしようか!」

「はい!」


 かくして、ニーヤの瞳のように青く輝く魔石はアインの胸部へはめ込まれた。

 これで機体カラーが赤と銀であれば、まるでどこかの光の巨人のようである――と、搭載作業を終えた一馬は、そう思って苦笑いを浮かべる。



 そして一馬達は、ファウスト大迷宮第90層へ踏み込む。

するとそこは迷宮とは思えないほど、広大で薄闇が支配する荒野であった。


「ニーヤ、周辺解析の結果は?」

「この階層にはほとんど遮蔽物がありません。下は推定10層。おそらく、それ以下は存在しないと考えられます」

「そうか」


 残り10層――ここを潜り抜ければ、再び地上へ戻ることができる。

 

(先輩、あと少しです。もう少し! もう少しだけ待っていてください!)


 その時、どこからともなく剣戟が荒野へ響き渡る。

 そしてニーヤは、ビクンと背筋を伸ばした。

 

「て、敵反応あり! 来ますッ!!」


 珍しくニーヤが言葉を詰まらせていた。

 砂嵐の向こうにぼんやりと浮かび始めた、巨人の影。

 しかも一つではなく複数である。

 

 さすがの一馬も息を飲んだ。

 

 目前にいたのは、かつて煌斗や綺麗達でさえ苦戦を強いられた危険度Aの魔物。

巨大で、人の数十倍の膂力を有する脅威に鬼――オーガである。


 そんなオーガの集団を過る、斬撃のようなものを一馬は目にする。

 

(誰かがオーガと戦っている? こんなところで……?)


 一馬は更に目を凝らす。

 そして驚きのあまり、絶句した。

 

 彼は家宝である大剣ハイパーソード【アクスカリバー】を手に、果敢にもオーガの軍団に立ち向かっている。

 しかし敵は有象無象。たとえ彼が歴戦の猛者であり、強力な武器を持っていたとしても、圧倒的不利な状況に置かれている。


 オーガ軍団へ果敢にも戦いを挑んでいた者――彼こそ、一馬がこの世界で唯一師事していた男【ゲオルグ】

 死んだと聞かせれていたが、辛くも生き延びていたらしい。

 しかし喜んだのも束の間、ゲオルグはオーガの巨腕によって地面へ強く叩きつけられた


「ニーヤ! あのオーガを倒して、あそこにいる人を助け出す! 悪いがニーヤは救出を頼めるか!?」

「りょ、了解ですっ! 先行します!」


 ニーヤは一馬の命を受けて、真っ先に飛び出してゆく。

 一馬もまたアインの操作に全神経を注ぎ始めた。

 

「いけぇぇぇー! アインっ!」

「ヴォォッ!!」


 一馬の意志を受けた球体関節人形アインは間接に搭載されているアコーパールを輝かせながら、荒野を疾駆する。

 接近するアインの存在に気付いたオーガたちは、唸り声をあげた。

上手く標的をゲオルグからアインへ変えることができたらしい。

 そしていち早く、オーガの足元に達したニーヤは、高く飛んだ。

 

「殲滅っ!」


 ニーヤはオーガの肩の上を飛んだり、跳ねたりを繰り返して、光の剣で攻撃を加えてゆく。

顔の周りをちょこまかと飛ぶニーヤがうざったいのか、オーガたちは地団太を踏んだり、仲間を間違えて殴ったりなどをして、混乱をきたす。


「ヴォッ!」

「ごうっーー!?」


 アインは一気に踏み込み、斬魔刀でオーガを背中から一刀両断した。

 これまでは鈍器のような扱いが多かった斬魔刀。

しかし先日倒したジェネラルクラブから獲得したスキル【斬鋼】が発動し、斬魔刀はようやく断ち切る能力を得るに至ったのである。


「ごぉぉぉ!!」


 仲間を遣られて、オーガは怒りの咆哮を上げるが、

 

「煩いです! てい!」


 ニーヤが光の剣で頬を切りつけ、怯ませる。

その隙に斬魔刀がオーガへ袈裟切りを浴びせかけた。


 オーガ軍団は益々怒り狂い、アインへ襲い掛かり始めた。

 オーガは力が強い。しかしその分動きが鈍い。

対するアインはひらりとオーガのパンチを交わし、斬魔刀で切りつける。

 オーガの巨大な拳は砂塵を巻き上げる。しかし、まるで人間のようにうごくアインは鮮やかにオーガを倒し続ける。

 

 その間にニーヤは敵の間を縫って進み、そしてゲオルグを抱え、一馬のところへ戻ってきた。

 

「時間を稼ぎます! ですがワタシでは長く持ちません! 手短にお願いします!」


 そう言ってニーヤは、一馬が操作を止めたことで、棒立ち状態になったアインを防衛すべく、再びオーガ軍団のところへ戻って行く。

 

 再会したゲオルグは満身創痍だった。大鎧はところどころが破損し、体中に無数の血痕が浮かび、呼吸も弱い。

 

「……くっ……」

「ゲオルグさん、しっかりしてください!」

「そ、その声は、一馬か……?」


 ゲオルグは弱々しい声を上げた。

ゲオルグがこんなことになってしまった悲しみ。どうしてこうなってしまったのかという怒りが沸き起こる。


「はい、木造 一馬です。お久しぶりです」

「あれは、あのアインなのか……?」


 ゲオルグはオーガ軍団の前に佇む、新生アインの姿を見て呟く。


「はい、アインです。ようやくここまで来ました。だから見ていてください。俺とアインの力を!」


 一馬は再びアインとのリンクを開始する。

 棒立ち状態だった巨人が再び動き出し、斬魔刀を構えた。


「はぁっ!」


 ニーヤの光の剣がオーガの目を切り裂き、アインはとどめの横一文字を刻み込む。


「か、勝てる……これなら奴らに勝てる……一馬とアインなら必ず……かはっ!」


 ゲオルグはそう声を震わせながら血を吐いた。

 一馬は動揺し、アインとリンクが一瞬切れてしまう。


 すると運悪く、動きが止まったアインへ、オーガの拳が叩き込まれた。

構えていた斬魔刀が叩き折られ、更にアインは仰向けに突き倒されてしまう。


(くそっ! 俺としたことが!!)


 武器が失われたのは大きな痛手だった。

 さすがのアインでも丸腰で、オーガに敵うかわからない。

 

「マスター、ワタシの魔力を開放します! その力で一気に決めましょう!」


 ニーヤが叫ぶ。

 もはやそれにかけるしか道は無い。

 

「わかった! ニーヤ、頼む!」

「イエス、マイマスター!」


 ニーヤは起き上がったアインの肩へ飛び乗った。

そしてすぐさま、彼女の身体から、青い輝きが迸る。その輝きは導かれるように、アインの胸へ装着した魔石へ流れ込んでいった。


「行きますっ! 拘束魔法照射!」


 ニーヤの勇ましい声が荒野へ響き渡るのと同時に、彼女の身体から青白い魔法陣が飛び出した。

 それは距離を進むごとに大きさを増してゆく。

 

「「「うごぉっ!!!」」」


 オーガ軍団が一斉に悲鳴を上げる。

 足元へ魔法陣が発生し、オーガ軍団はまるで地面へ吸いつけられるように硬直した。


「いまです、マスター! アインの拳を!」

「おおおっ!!」

「ヴぉぉぉぉっ!」


 青白く輝いたアインは動けずのオーガ軍団へ突き進む。

そして拳を構えた。


「アインパンチっ!」


 拳を突き出すと、青い輝きが激流のように飛び出し、オーガ軍団を呑み込んでゆく。

その輝きの中で、やがてオーガ軍団は肺となり、チリとなって消滅してゆく。

そして荒野には、あたかも最初からオーガなど存在しなかったかのような静寂に包まれるのだった。


 と、そんな中ひゅるりとアインから吹っ飛ばされて、空中で弧を描くニーヤの姿が。

 

「ごふっ!?」


 受け止めようと思ったが上手く行かず、ニーヤは一馬の背中へ落っこちてくるのだった。


「予備魔力ストレージゼロ……」

「だ、大丈夫か?」

「はい、基本動作に支障はありませんが、アインを強化することができません。拘束魔法は魔力を多めに消費しますので。ですから……」

「ん?」

「ご、ごはんを、所望します……できればたんぱく質の……」

「わかった、あとでタコとエビを食べよう。みんなでな!」

「はい!」

「や、やるじゃないか、一馬。牛黒に次いで、そんな可愛い子まで……」


 剣を杖にして、立ち上がっていたゲオルグはいつもの、男くさくてそして優し気な笑顔を浮かべていた。

しかし、それを最後に、ゲオルグは倒れこんだ。


「ゲオルグさん!」





【球体関節人形:アイン TYPE R】現状(更新)



★頭部――鉄製アーメット


★胸部――丸太・魔石×1

*補助スキル:魔力共有


★腹部――丸太


★各関節――アコーパール×10

*補正スキル:魔力伝導効率化


★腕部――鎧魚の堅骨

*攻撃スキル:ワームアシッド

*攻撃スキル:セイバーアンカー

*攻撃スキル:スパイダーストリングス

*必殺スキル:アインパンチ NEW!


★脚部――鎧魚の堅骨・大きな石

*補正スキル:水面戦闘


★武装――なし(斬魔刀破損のため)


★武装2――ホムンクルスNO28:ニーヤ×1

*補助スキル:魔力共有


★ストック

*防御スキル:シェルバリア(使用不可)

*必殺スキル:エアスラッシュ

*補正スキル:斬鋼(切れ味倍加)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る