第19話:炸裂! エアスラッシュ


「スパイダーストリング!」

「ヴォッ!」


 万応じて放ったスキル"スパイダーストリング"は予想通り、網のように編まれた糸を放つ攻撃だった。

これが案外、役にたっている。


 ニーヤの解析は正しく、ファウスト大迷宮の81層からは、回廊へ常に水が張られたエリアだった。

当然、魔物もカニやタコに似たものがうじゃうじゃいて、しかも小さく、斬魔刀を当てるのは困難を極める。

しかしここで大活躍するのがスパイダーストリングである。


「てやぁー!」


 ニーヤは水の中に沈んでいるスパイダーストリングを引き上げる。

その中には多数のカニやタコ、時々魚の魔物が捕まっていた。


 まるで地引き網漁である。


敵を退けるのと同時に、食料も確保。一石二鳥だった。

だけど乱獲も良くはないので、適度な数だけ確保して、ほとんどはキャッチアンドリリース。

それだけ余裕を持って進めていることに、正直一馬は驚いていた。


「お疲れ様です。マスター。アインは素晴らしいですね」

「なんか妙にアインが水に馴染んでいるように思うんだけど、なんでだろ?」

「おそらくフレームに“鎧魚”の背骨を使用したからではないでしょうか? 骨に残った魔力の残りとそれを効率よく運用するためのアコ―パールで更に増幅され、水のあるエリアでの機動性が向上したものと思われます」


 この調子ならば順調に進めるのではないか。一馬はそう思いつつ、先へと進む。


 するとニ―ヤが背筋を伸ばした。これは危険が迫っているニーヤの合図。


「魔力反応増大! 来ます! エリアボスです!」


 そして水面を割って、ようやくアインにお誂え向きな、巨大な魔物が姿を表す。

現れたのは巨大な"ヤドカリ"

 背負っている何かの頭骨のような殻も衝撃的だが、最も驚くべきは長い前足の先に着く刀のように鋭利な輝きを放っている鋏。

 

「危険度A、ジェネラルクラブです! マスター、お気を付けを!」


 名前からも強そうなヤドカリは、奇声を放った。

 そして水面の中からばしゃばしゃと姿を現す小型――ニーヤの半分くらいのサイズ――ヤドカリ軍団。

しかもおしなべて、将軍と同じく、鋭い鋏を持っているらしい。


「小型種はワタシが対処します! マスターはボスとの接敵を!」

「了解した!」


 ニ―ヤは手の甲から青い光の刃を伸ばして飛び降りた。

青い斬撃が鋏とぶつかった。鋭さを誇る鋏は、光の剣に焼き切られ、宙を舞う。

絶てぬものはない、とニーヤが豪語するだけあって、威力は凄まじい。

 そんな強力な武器は持っているものの、状況は多勢に無勢。

更にヤドカリの鋏のリーチの方が、ニーヤの光の剣よりも遥かに長い。

楽観視できる状況では無かった。


(ならやはりボスを!)


 一馬はアインをジェネラルクラブへ向けて進ませた。

 アインの足は、水の抵抗などものともせず、滑るように水面の上を駆けてゆく。

 

「ワームアシッド、ファイヤ!」

「ヴォッ!!」

 

 牽制に強酸を放った。鋏が酸を薙ぎ払い、霧散させる。

 鋏は切れ味と共に相当な強度を誇っているらしい。

 

 更に数歩踏み込んできたジェネラルクラブは、素早く鋭い鋏を突き出してくる。

 

 一馬は寸でのところで、セイバーアンカーを天井へ打ち込み、アインを急上昇させた。

空を切った鋏が、アインの背後にあった大岩を発泡スチロールのように切断した。

岩でもこの切れ味。ならば、未だに木造パーツの多いアインでは、一度挟まれただけでひとたまりもないだろう。


(近づくのは危険か。だったら!)


 瑠璃の設計図と、ニーヤと協力して獲得した魔物の素材で新生させたアインなら、“あのスキル”を使いこなすことが出来るはず。

 

 一馬はそう信じて、セイバーアンカーで天井にぶら下がるアインを動かした。

 アインは振り子のように動き出す。

そして目いっぱい勢いをつけて、アンカーを引き抜いた。


 アインは弧を描くようにジェネラルクラブの頭上を飛んだ。

大きな水しぶきを上げながら着地し、敵の背後を取る。

 一馬とアインはジェネラルクラブを挟み込む形となった。


「ニーヤ! 跳べ!」

「はい!」


 ニーヤは小型ヤドカリを蹴り飛ばし、命令通り飛びのいた。

 今がチャンスと、一馬はアインへ斬魔刀を上段へ構えさせる。

可動範囲が大幅に上昇したことで、斬魔刀を構えるその姿は、サムライを彷彿とさせた。

 

「喰らえ、エアスラッシュ!」

「ヴォォォ―っ!」


 間接としている各部のアコーパールが強い輝きを放った。

 振り落とされた巨大な剣から、青白い巨大な刃が発生し、水面を激しく分断しつつ突き進む。

 

 咄嗟に素早く振り返ったジェネラルクラブは鋏を掲げ防御態勢を取る。

しかし鋏は刃であっさりと切り裂かれ、水面へ沈む。

巨大なヤドカリはたじろぐことしかできず、青い刃で真っ二つに両断される。


「ちょ――マジ!?」


刃はそれだけでは威力が衰えずヤドカリの死骸を貫通して、威力そのまま、水面をかき分けながら、あろうことか一馬へ突き進んできた。


「ッ!! マスターっ!!」

 

 と、そんな一馬を突然飛び込んできたニーヤが抱き上げ、再び飛んだ。

 刃は僅かに威力を減退させつつ、迷宮の奥へと消えてゆくのだった。

 

「お怪我はありませんか?」

「あ、ありがとうニーヤ。マジで助かったよ……」

「マジで助かってくださったのなら良かったです! 今度からはあちらのスキルを使う際は、魔力を調整をした方が良いですね」

「そうだね」


 想像以上にアインの能力は向上している。

 新たな課題も見えたが、それ以上に一馬は強くなったアインに頼もしさを覚える。

 

「あっー!」

「うわっ!?」


 何故かニーヤは声を上げて、一馬を水の中へ投げ捨てられた。


「ポンコツ……! なんだってんだよ……!」

 

 一馬は怒っていることなどまるで気にせず、ニーヤは魔光となってアインへ吸収されつつある、ジェネラルクラブの死骸から“青いごつごつとした石”を持って、嬉々とした様子で舞い戻ってくる。

 

「マスター! ご覧ください! 魔石ですよ、魔石!」

「ませき?」

「はい! これさえあれば、アインはもっと強くなります!」

「へぇ、そうなんだ」

「あの、マスター、なんで水の中へ?」

「お前が放り投げたんだろうが!」

「あっ……す、すみませんっ! すみませんっ!」

「全く……」


 ニーヤも反省している様子なので、これ以上卑屈にならないよう頭を撫でる。

 

「悪いことをしたのに、こうしていただいてすみません……」

「良いって。まぁ、さっき助けてくれたし」

「ありがとうございます。やっぱりマスターは最高のマスターですっ!」


 どんどんニーヤが人間らしくなっていっていることに、これはこれで良いと思う一馬なのだった。


 アインもジェネラルクラブを吸収し、新たなスキルをゲット!

 



【球体関節人形:アイン TYPE R】現状(更新



★頭部――鉄製アーメット


★胸部――丸太


★腹部――丸太


★各関節――アコーパール×10

*補正スキル:魔力伝導効率化


★腕部――鎧魚の堅骨

*攻撃スキル:ワームアシッド

*攻撃スキル:セイバーアンカー

*攻撃スキル:スパイダーストリングス


★脚部――鎧魚の堅骨・大きな石

*補正スキル:水面戦闘


★武装――斬魔刀×1

*必殺スキル:エアスラッシュ

*補正スキル:斬鋼(切れ味倍加) NEW!


★武装2――ホムンクルスNO28:ニーヤ×1


★ストック

*防御スキル:シェルバリア(使用不可)



・魔石×1 獲得 NEW!



*ようやくアインの強化が一段落した感じです。一章相当はあと一週間で終了。最後の最後に大ざまぁ(作者比で)を用意しています。

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