第16話:蜘蛛の糸で緊縛
「ナイスアイディアです、マスター! さすがですっ!」
ニーヤは嬉々とした様子で称賛してくれる。
アコーシェルの貝殻へ、入手した10個のアコーパールを乗せて、それをアインに引きずらせていることに対してだった。
しかしアコーパールを獲得しただけでは、アインを新生させることはできない。
「あとは糸に相当するパーツか……」
アインの全身を繋ぐ神経に相当する“糸に似た何か”を入手する必要があった。
瑠璃の設計図曰く、これが結構重要らしい。
「でしたらビークスパイダーの糸はいかがでしょうか? 丈夫で更に柔軟性もあることで有名です」
「蜘蛛の糸、ね……」
たしかにアインの再建には必要な素材である。
瑠璃の設計図の中にも、素材候補として“ビークスパイダーの糸”という記載があった。
ならば討伐へ向かわないわけには行かない。向かうべきなのだが……
「あのさニーヤ。今回も危険なことはしないでよね?」
「? もちろん、そのつもりですが?」
「くれぐれも気を付けてよ」
ニーヤの性能を信用していないわけではない。むしろ戦闘スペックが高いからこその懸念があった。
【ま、ますたぁー! くるしいですぅ! おたすけをぉー!】
何故か、蜘蛛の糸にきゅっと締め付けら、荒い吐息を漏らすニーヤの様子が頭に浮かんだ。
そしてやっぱり胸を過る、瑠璃への罪悪感。
(頼むよ、そんな状況にならないでくれよ……)
とりあえず邪な妄想は脇へ置いておいて、ビークスパイダーが潜むという、樹木が生い茂るエリアへやってきた。
「マスター、あちらを!」
ニーヤが指さす先には、樹木の間に張り巡らされた巨大な蜘蛛の巣があった。
どうやら主は不在で、捕まっている気の毒な生き物も居ない様子。
巣から直接拝借すれば、確かに問題は無いし、ニーヤが妙な状況にはなりようもない。
「早速回収作業に向かいます。お手数ですがマスターもお手伝い願えませんか?」
「おう」
「では!」
ニーヤは驚異的な跳躍力で、蜘蛛の巣が張られている木の枝へ飛び乗った。
短く展開した光の剣で、木にへばりついている蜘蛛の糸をそっと焼き切ってゆく。
そしてそれを一馬が巻き取ってゆくという流れとなった。
(蜘蛛の糸は丈夫だって聞くしビークスパイダーの糸もなかなかのもんだな)
一馬は巻き取った糸を引っ張り核心を得る。
「ふえっ!?」
と、そんな中、いろんな意味で嫌な予感を感じさせる声が。
「マ、マスターお気をつけくださいっ! んっ……!」
多少セリフは違うものの、ニーヤは蜘蛛の糸で緊縛されてしまっていた。
そのせいで少ない凹凸が異様に強調されている。
おそらく、糸が体に食い込んで苦しいのだろう。たぶんそのはず。
今すぐにでも助け出したいのは山々。
しかし一馬とて余裕があるわけではなかった。
「ヴォッ!」
一馬はアインを横へずらし、辛うじて吐き出された蜘蛛の糸を回避した。
目の前で黒い大蜘蛛が真っ赤な複眼を輝かせながら、触角をわななかせて威嚇をしている。
どうやらこいつが“ビークスパイダー”という魔物らしい。
蜘蛛の中には、糸を吐き出して獲物を捕らえる種類がいると聞くが、ビークスパイダーもその類のようだった。
蜘蛛はアインを狙って、糸を吐き続ける。
呼び動作に不気味な咆哮と、クワガタのような顎を開く動作があるので、回避自体は容易にできる。
問題は頻度であった。
アインを動かすタイミングと、大蜘蛛が糸を吐き出すタイミングが、悪い意味で絶妙にマッチしてしまっている。
避けられるには避けられるが、すぐに次の動作に移らねば、アインも強い糸の餌食になってしまう可能性は十分にある。
「なら! ワームアシッド、ファイヤ!」
「ヴォッ!」
一馬は半ばやけくそ気味に、アインの腕から強酸を放った。
しかし強酸を浴びても丈夫なビークスパイダーの糸は平然と、アインへ飛んでくる始末。
素材としてはこの上なく頼もしいが、敵の攻撃としては全くもって脅威である。
(セイバーアンカーは意味が無さそうだし、エアスラッシュは今のアインに使わせるのは不安だ。どうしたら……!)
ここに至って、初めて危機的状況をまじかに感じた一馬は強い焦りを感じる。
しかしいくら考えようとも、妙案は浮かばず、ただ大蜘蛛の糸を回避するしかできることはない。
「マスターは……マスターはワタシが守るんだぁ!」
その時、頭上から激しい声がした。
上で蜘蛛の糸でがちがちに緊縛されていたニーヤが、熱い声を上げている。
彼女の周りに陽炎のような揺らめきが見えた。
体の至る所に食い込んだ蜘蛛の糸が、まるで飴細工のように溶け始めている。
「ぬわぁぁぁ!!」
そして、自ら蜘蛛の糸を引きちぎったニーヤは、眉間に皺を寄せつつ、大蜘蛛へ落下を始めた。
「殲っ滅っ!!」
ニーヤは熱い気合の声と共に、両手の甲へ青い光の刃を発生させ、蜘蛛の背中を切り裂いた。
大蜘蛛は大きく仰け反りながら、悲痛さを感じさせる悲鳴を上げる。
「お前なんかに縛られて屈辱だ! 死ね! 死ね! 死ねぇー!!」
なんだかとても怒っているニーヤに、一馬は恐怖した。
「マスター、今です! 蜘蛛は案外身体が柔らかいから大丈夫です! ぶっ殺してくださいっ!」
「お、おう! やれ、アイン!」
「ヴォ、ヴォッ!」
一馬はアインを進ませ、そして大蜘蛛へ思い切り斬魔刀を叩きつける。
真っ赤な複眼が瞑れ、同時に巨体が地面へ叩きつけられた。
八本の節足が急激に力を失って、巨大な胸と腹を地面へ付ける。
それっきりピクリととも動かなくなる。
辛うじての勝利だった。
「マスター!」
ニーヤが大蜘蛛の上から、一馬を目掛けて飛び込んできた。
今回ばかりは仕方ない。ニーヤの活躍によって勝てたのだから、ハグくらいだったらしよう。
いや、むしろ、今日は一生懸命頑張ったニーヤをしっかりと抱き留めたい。
「あっつぅ!!」
しかしニーヤに触れた一馬は、あろうことかニーヤを思い切り突き飛ばしてしまった。
当のニーヤは平然な顔をして、くるりと身を捻って綺麗に着地をする。
「申し訳ございません、マスター。体温を上昇させていたのを忘れておりました」
「上昇ってか、もう発火レベルじゃん!!」
「これぐらいしなければ、ビークスパイダーの糸からは逃れられないと思いまして!」
「だったら飛び込んでくるな! 火傷じゃすまないぞ!」
「あ――ッ!?」
ようやく気付いたニーヤは絶句する。
一緒に眠ってからというもの、ニーヤは出会った頃に比べて、随分と人間らしく振舞うようになっている。
もしかすると、交流を重ねることで、心が成長するのかもしれない。
心の成長と同時に、ポンコツ度合いも急上昇しているような。
(まぁ、良いや。ニーヤだから仕方がない)
何故か、それで納得できる最近の一馬なのだった。
【素材獲得状況】
*鎧魚の骨×30
*アコーパール×13
*ビークスパイダーの糸×8束
【木偶人形:アイン】現状(更新)
★頭部――鉄製アーメット
★胸部及び胴部――丸太
★腕部――伸縮式丸太腕部×2(左腕大破)
*攻撃スキル:ワームアシッド
*攻撃スキル:セイバーアンカー
*攻撃スキル:スパイダーストリングス NEW!
★脚部――大クズ鉄棒・大きな石
★武装――斬魔刀×1
*必殺スキル:エアスラッシュ
★武装2――ホムンクルスNO28:ニーヤ×1
★ストックスキル
*防御スキル:シェルバリア(使用不可)
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