第17話:アイン大改造計画
「敵はワタシにお任せください!」
ニーヤは急に飛び出して、先の闇の中へと消えてゆく。
「殲滅っ!」
「ぎゃうっ!!」
「破壊っ!」
「ぎゃぎゃ!」
「死ねぇ! 死ねぇ! マスターの行く手を阻むものはすべて滅んでしまえー!」
なんだかとっても楽しそうだが、物騒な声の数々が聞こえている。
(時間ができたら、ニーヤにはちゃんと言葉遣いも教えないとな……)
もう一つ課題が増えてしまったと、頭を痛める一馬なのだった。
そうのこうのしているうちに、一馬達は安全地帯である泉のエリアに無事帰還する。
しかしホッとする間も惜しい。一馬はさっそく、背嚢から瑠璃が作ってくれた新しいアインの“設計図”を広げる。
(さぁ、作業開始だ!)
アコーパールは目的の数である10個――これはアインへ可動範囲を大幅に上昇させる球体関節に使う。
先日、肉を食べつくして残った鎧魚の堅骨――この素材はこれまで木材は主だったアインのフレームへ使うつもりでいた。
改めて鎧魚の骨へ触れてみる。やはり金属のように硬い。細かく切断するのは容易ではなさそうだった。
(何かもっと楽な手は……そうだ)
「マスター、ワタシは何をしたらよろしいでしょうか?」
タイミングよくニーヤが声をかけてきた。
良い道具があるじゃないか、ここに。
「ニーヤの光の剣で、この骨を切り分けることはできるかな?」
「勿論です! ワタシの剣に絶てぬものはありません!」
「あはは……頼もしいよ。じゃあ、指示通りに切り分けてくれ」
「かしこまりました! ニーヤ、これより作業へ移ります! お任せください!」
嬉々と魚の骨へとニーヤは寝転んでいるアインへ触れて採寸を始める。
基本的にポンコツだから少し心配したが、どうやら大丈夫そうな様子だった。
「さて、俺も始めますか!」
一馬は背嚢から道具箱を取り出す。
そしてそこから手回し式のドリルを手にし、瑠璃の設計図に従って、アコーパールへの穴開け作業を開始する。
ドリルで削って穴をあけているので、アコーパールの削りかすが発生する。
(確かアコーパールは魔法導体なんだっけ。何か使えるかもしれないから取っておこう)
一馬はアコーパールの削りかすを袋に詰めつつ、作業を継続してゆく。
やがてすべてのアコーパールの穴をあけ終え、 寝ころばせている木偶人形アインの肩、腕、足へ並べた。
そしてもっとも大きなアコーパールは腰の位置に合わせて配置する。
「マスター! 切断作業完了いたしました!」
ニーヤも正確な仕事で背骨を四分割し終えていた。
これで下準備は完了。
(さぁ、ここからが慎重な作業だ)
一馬は気持ちを改め、そして寝そべるアインの丸太の胴へ触れた。
「アイン、悪いけどちょっとの間だけお前の身体をいじらせてくれ。必ず成功させるから」
アインからの応答はない。命令ではないのだから、アインは応えることは無いはず。
それなのにアインがわずかに震えたような気がした。
一馬は作業を再開する。
アインの丸太の胴を分割し、胴と腰へ切り分けた。
間の空間をドリルを使って丁寧にくり抜いてゆく。
自分でも驚くほど、素材の加工から、設置までがスムーズに行えた。
たしか、アインを初めて作った時も、製作作業自体に苦労した覚えはない。
マリオネットマスターの持つ、人形限定での“工作スキル”様様であった。
次いで両足の作成へ。
股、膝、足首へアコーパールを置き、脚のパーツを形作る。すべてを並べて終え、今度は苦労して倒したビークスパイダーの丈夫だが、強い弾性を持つ糸の束を取り出す。
その糸をアインの首から通して、各パーツへつないでゆく。
これはさながら、新生アインへ魔力を循環させる神経や、手足を動かす筋肉に相当する。
あとは糸を弾き引っ張って、引き締めれば良いのだが、
「くっ、重っ……」
予想外にパーツが重く、びくともしない。
「お任せくださいマスター!」
「おっし、やってくれニーヤ!」
「はいっ! てぇーい!」
ニーヤが思い切り糸を引くと瞬時にすべてのパーツが引き締められた。
が、力が強ぎて途中背“ブチっ!”と、音を立てて糸が切れてしまう。
結果、せっかく組み立てたアインが、がらがらと崩れてしまった。
「あっ……」
「も、申し訳ございませんマスター! あの、その! ……ふえぇ!?」
慌てるニーヤの頭をとりあえず撫でておく
「次はもう少し遠慮して糸を引いてね」
「了解しました、マスター……」
気を取り直してやり直し、今度は最も重要な箇所である腕に取り掛かる。
一馬は解体し、取り外した金属シャフトの数々を見て、気持ちが込み上げた。
瑠璃がこのシャフトを作ってくれたおかげで、アインは活躍ができるようになった。
この何気ない金属パーツは一馬にとって、瑠璃との絆を感じさせるものである。
「どうかされましたか? 何か部品が足りないのですか?」
「いや。ニーヤ、悪いんだけどこの金属の棒は大事なものだから取っておいてくれないか?」
「了解です。しかし全部はさすがにワタシでも難しいと具申します」
確かに肩の軸になっていたシャフトは持ち歩けそうもない。
名残惜しさは感じるも、先々のことを考えて、長いもの、短いものを一本ずつこの場へ置いてゆくことにした。
(先輩、貴方が作ってくれたこのシャフトに誓います。必ず帰ります。だからそれまで無事でいてください)
改めて手首、間接、肩へパールを置き、糸を通す。胴を経由して、もう片方の腕へとつなぐ。
そして頭部に位置する箇所へアーメットを被せて作業は完了する。
「よし!」
一馬はアインを立たせるイメージをする。
寝そべっていたアインは肩を回し、関節を曲げた。掌に括り付けたグレートソードを地面へ突き立てる。
脚を引き込んでゆっくりと起き上がる。
大改造を施した今のアインは、まるでデッサン人形か、マネキンのような見た目になった。全高も4mほどとなり、少し大きめに感じていた斬魔刀が程よい大きさに感じられるようになった。しかし今までの木偶人形とは比べ物にならない程人間らしい姿に感動を覚える。
同時に抱いた感想がもう一つ。
(なんとなくどこかでみたことがあるような……)
そういえばガン◯ムにこんなのがいたはず。西洋甲冑みたいなデザインで、大きな剣を持っていて、丸い盾なんかを持たせれば、しっくりきそうな。
「まるでギャ◯だな」
「◯ャン? なんですかそれは?」
自称リアルロボット好きで、さらにパイルバンパーとか、リボルバーステークと浪漫兵器を愛してやまない、瑠璃らしいと思い、微笑ましさをおぼえたのだった。きっとこの設計図は楽しんで描いていたに違いない。
「それにしても、おめでとうございますマスター!」
「ニーヤの協力があってこそだ! こちらこそありがとう。だけどこっからが本番だ」
一馬はギャ〇にそっくりな、新生アインを動かしてみる。以前に比べて反応が早く、動きが滑らか過ぎ、頭の中一瞬混乱した。
「ヴォッ!?」
結果、アインは盛大に転ぶのだった。
「マスター、頑張りましょう! マスターならきっと新しいアインを自在に操れるようになるはずですっ!」
「そうだな。そうだよな!」
瑠璃の託してくれた設計図。彼女の想いを無駄にはしない。
一馬は新生アインを扱うための猛特訓を開始するのだった。
【球体関節人形:アイン TYPE R】現状(更新)
★頭部――鉄製アーメット
★胸部――丸太
★腹部――丸太
★各関節――アコーパール×10
*補正スキル:魔力伝導効率化
★腕部――鎧魚の堅骨
*攻撃スキル:ワームアシッド
*攻撃スキル:セイバーアンカー
*攻撃スキル:スパイダーストリングス
★脚部――鎧魚の堅骨・大きな石
*補正スキル:水面戦闘
★武装――斬魔刀×1
*必殺スキル:エアスラッシュ
★武装2――ホムンクルスNO28:ニーヤ×1
★ストック
*防御スキル:シェルバリア(使用不可)
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