第15話 チョロい俺はハーレムになっていた。

 果梨奈が困っていたのは古文のレ点や二三点の意味が分からないそうだ。

「あまり気にせずに覚えていけばいいのに」

「覚えるだけじゃ理解できたとはいえないんじゃない?」

「う。でも、そんなものだろ」

「じゃあ、勉強って覚えることなの? 意味はないの? ただ記憶力がいい人だけが有利なの?」

「う、その言葉はおれに響く……」

 後ろでうろたえる黄竹。あいつは理解していなくて覚えているからな。

「最低限、覚えていないと、話が進まないだろ? だから覚えるのも必要なんだよ」

「そうかな? 例えば、これが読書感想文なら自分で考えて応えるでしょ?」

「まあ、そうだな」

「だったら。ここにレ点をいれるのはなんでだろ? ってならない?」

「そう言われると、そうかもしれないが……」

 息を吸い、整えると、思案する。

 覚えるだけが勉強じゃない。でも最低限のことは覚えていないと、勉強はできない。いわば一つのルールだ。ルールが分からない奴はこのゲームから落ちてしまう。

「最低限、覚えておく必要があるんだ。そうでないと、ルールを知らないままになってしまう。だからまずは覚えるんだ」

「うーん。分かった」

「でも、古文を読むときにはこうしてレ点や二三点を使って読み解くのだろう。昔のルールと今のルールが変わってしまった――だからその差を埋める作業が必要になった。だからレ点や二三点を使うようになった、といったところだろうか」

「……なんとなく分かった。ありがと! 緑苑くん」

「ああ。分かってくれたならありがたい」

「こんなにしゃべる緑苑を初めてみたわ」

「うん――うん――」

 こくこくと頷く陽菜。

「それにしても真面目だね。そんなこと考えたこともなかったよ」

 黄竹が不思議そうに呟く。

「まあ、俺だって色々と考えているんだよ」

 途中でお菓子をつまみ、小休憩をとる。

「まあ、なんだ。こんなに集まってもらって悪いな」

「ふふ。いいわよ。緑苑にならなにをされても……」

「大人――アタシは――緑苑君に出会えて良かった」

「わたしも、緑苑くんとは幼なじみだもの。仲よくないわけがないわ」

「!」「幼なじみ――なの?」

「ああ。一応、な」

「忘れていたよね? 緑苑くん」

「まあ、うん。すまん」

「いいよ。謝ってもらったし」

「その――あの――。総合すると――果梨奈さんが一番、近しいの?」

 涙目で問う陽菜。

「い、いや、そうじゃない。俺はみんなを大切に思っているぞ」

 尻すぼみになり、自信を失っていく。

 だって、俺はみんなを大切にすると、言っておきながら傷付けているのだから。真綿で首を絞めているようなものだ。いつまでもそんな生活を続けていられるわけがない。亜鈴の言う通り、俺は決着をつけなくてはいけないのだ。

 勉強会を終え、俺の心の中はぐちゃぐちゃになる。


 俺は注意をしていたが、


 チョロい俺はいつの間にかハーレムになっていた!?


 果梨奈も、陽菜も、伊知花も、みんな素敵なヒロインだ。

 誰かひとりに決められるわけがないのだ――。

 そう、俺が目指していたのはハーレムエンドなのかもしれない。

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チョロい俺はいつの間にかハーレムになっていた!? 夕日ゆうや @PT03wing

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