第14話 チョロい俺と勉強会。

「勉強会を開きましょう!」

「陽菜、自分から提案するなんてえらぞ。そうだな中間テストも近いから勉強会でもするか」

「……やめておこ、ね?」

 果梨奈が不安そうに呟く。

「まあ、あなたが来ないなら私はいきますが」

 伊知花が覚悟を決めたような顔をし、勉強会への意気込みを語る。

「今回ので緑苑を意識させるのは私だわ」

「い、いや。そのための勉強会ではないからね!?」

「……なら、わたしもいく」

 果梨奈が引きつった笑みで勉強会へ参加するのを認めた。

「果梨奈は勉強が苦手だもんな。この高校に入ったのもスポーツ推薦だし」

「これでも世界ランカーになる予定の陸上部だからね」

 へへんと胸を張る果梨奈。

「まあ、勉強もしておけ。いつなにがあるか、分かったものじゃないしな」

「ずいぶんと慎重な発言ね。まあ、緑苑らしいわ」

「はいはい。おれも参加していいかな? 琉生るい

「いいけど、急にどうしたんだよ。それにお前はトップクラスの実力を持っているじゃないか」

 そう黄竹は学年四位。頭はいい方なのだ。

「いいだろ。教師役がほしいだろ? メンバーからしてお前ひとりじゃ荷が重いだろ」

「そんなこと言って、前は俺の妹に手を出そうとしていただろ……。知ってんだからな」

「へへ。そんなこともあったけか。亜鈴ちゃんとも久々に話したいな」

「そのチャラついた感じをやめればいいのにな」

「なんだ。チャラつかなければ亜鈴ちゃんと付き合ってもいいのか?」

「そんなわけないだろ。妹をどこの馬の骨とも知れない奴に渡せるか」

「それだけ知っているのに、渡せないのね……」

「黄竹を知っているから、渡せないんだよ」

 伊知花が困ったように微笑む。

「とにもかくにも、勉強会には行っていいのかい?」

「まあ、教師が足りない、というのは事実だからな。仕方ない。こいよ」

「へへ。そりゃどうも」

「場所は……?」

 俺が訊ねると、一斉にこちらをみるみんな。

「こうなったら緑苑くんの家に決まっているよね」

「そう。緑苑君の家がいい――」

「緑苑の家が一番ぴったりね」

「そうだろうな。おれが知っている家も琉生だけだし」

「待て待て。なんで俺の家なんだ?」

「琉生がいいだしたんだろ?」

「それに黄竹がいると、わたしの身が危ないわよ」

「そう――そう――」

「確かに黄竹に家を教えたくないわね」

 どんだけ嫌われているんだよ、黄竹。

「お前なにをしたんだ?」

「さあな……。おれが知りたいくらいだ」


 放課後になり、俺を含めた果梨奈、陽菜、伊知花、それに黄竹がついてくる。

「今日は楽しみだね」

「おいおい。遊ぶわけじゃないんだぞ」

「そうわね。私も勉強をする気でいるわ」

「おっ。前向きだね~。伊知花ちゃん」

「そういう黄竹君はなにを考えているの?」

「おれ? おれは純粋にみんなのためになると思って……」

「嘘だな」「嘘ね」「うそ」「嘘でしょうね」

「ひ、ひどい……!」

 泣き真似をする黄竹。

「泣いているふりをするな。お前は鋼のメンタルを持っているだろ」

「メンタルといえば、ここにいるみんな硬いけどな」

「どいういう意味だよ」

「だってお前にフラれたのに仲よくしようとしているんだぞ? 普通はできねーよ」

「それもそうか」

「わたしは諦めたわけじゃないから」

「アタシも――」

「私だって諦めてなんかいないわ」

「勇ましいこった」

「黄竹が言うか」


 帰宅すると、亜鈴が迎えてくれた。

「お兄ちゃん。お帰り……!」

 だが後ろに続いてきたみんなに人見知りを発動してしまったようで、すぐに俺に抱きつく。

「亜鈴ちゃん、久しぶり」

 黄竹が気にした様子もなく声をかけるが、しゃーっと警戒する亜鈴。

「なんだか、ネコみたいだわ」

「わたしが来た時は自分の部屋から出てこなかったしね」

「家に――来たの――?」

 果梨奈の発言に、陽菜と伊知花が驚きの声をあげる。

「ええ。わたしと緑苑の仲だもん♡」

「うっざ」「可愛くない」

 辛らつな言葉をあげる伊知花と陽菜。

「おいおい。ケンカはやめてくれ。さ、亜鈴は自分の部屋に戻るんだ」

「うん。そうする」

 亜鈴は俺から離れると、何度も振り返りながら自室に戻る。

 今日はなんで俺を迎えにきてくれていたんだろうな。きっと嬉しいことでもあったのだろう。

 俺が自分の部屋に通すと、リビングに戻り、お茶やお菓子を用意する。

「お兄ちゃん、誰が彼女?」

「いや、俺は全員をふったつもりだったんだが……」

「なにそれ。おかしい」

「だよな~。俺もどうにかしたいんだが……」

「お兄ちゃんから告白したら? そしたらもう諦めるでしょ」

「そうかな。俺が誰かを選べるものか」

「そっか……、でも傷付けるときはそうしないと。あとが辛くなるよ」

「うん。分かっている。ありがとうな」


 俺が部屋に入ってみると、みんなが振り向く。

「待ってました。今日は――せーの」

「「「「お誕生日、おめでとう!」」」」

「え。え――っ!!」

「忘れていたでしょ。今日は緑苑くんのお誕生日よ」

「だから亜鈴も迎えにきていたのか……」

「ふふ。勉強会もいいけど、サプライズでおめでとうを言えて良かったわ」

「です――です――」

「お前、自分の誕生日くらい覚えておけよ」

「その前に覚えておくことが多くてな」

 ぐいぐいと袖を引っ張る陽菜。

「これ――プレゼント――」

「ん。なんだ? 開けていい?」

「です――です――」

 開けてみると、中にはイラストと一緒にゲームが入っていた。

「これいいのか?」

「です――です――!」

「うわー。嬉しいな……!」

「わたしのも受け取ってくれるわよね?」

「あ、ああ……」

 何故か強気の伊知花に向き合う。

「これよ」

 プレゼントを受け取ると、早速中身を見る。

「開けていい?」

「もちろんだわ」

 俺が開けると、中にはロケットペンダントが入っていた。

「重いね」「重いな」「重い――」

「え。そ、そんなことないわよね? 緑苑」

「いや、まあ……」

「その曖昧な返事!」

 高ぶった伊知花はかぁあと顔が赤くなる。

「最後はわたしだ。これよ、受け取って、ね?」

「おう。ありがとうな。中身はなんだ?」

「入浴剤よ。お肌が綺麗になるわ」

「そうか。ありがと」

「にししし。これで緑苑くんと同じ香りに……」

「亜鈴も喜ぶぞ、うん!」

「……」

 なぜか白い目を向けてくる果梨奈。

「琉生ってシスコンだよな~。おれからはこれだ」

「おおっ! 駄菓子セットか。懐かしいのもあるな。嬉しいぞ。ありがとな」

「へ。おれもやるときはやるのだ」

「じゃあ、みんなでこれをつまんで勉強会だな」

「え。もう誕生日会はいいの?」

「ああ。みんなからの想いは嬉しい。だが、そんなみんなだからこそ、一緒に三年になりたいな」

「「「~~~~!」」」

「ヒュー。イケメンは言うことが違うねー」

「いやいやイケメンはお前だろ? 黄竹」

「おれよりもお前だろ? 琉生」

「はいはい」

 黄竹の建前を聞き流し、誕生日会を終わらせる。


 ついで始まったのが勉強会。

 まずは伊知花の勉強を見る。

「これはこうしてこうするんだ」

「じゃあ、これはこうなる、のかしら……?」

「あ。それはこっちに代入するのが先だ。あとでいれた方が楽だぞ」

「そうなのね。わかりにくいわ」

 伊知花は数学が苦手。基礎がボロボロなので、これは最初から鍛え直す必要がありそうだ。

「ここ――」

「ここは覚えるしかないな。under、UNあんDERだーで覚えるといい、かな?」

「うん――。ありがと――」

 陽菜は英語が弱い。覚えている英単語も少ないようで、ひたすら覚えることが多いみたいだ。

「だー。分からない!」

「おいおい。こんなことも分からないのかよ」

 果梨奈を見ていた黄竹がさじを投げる。

「陽菜と変わってくれ。単語を覚えるだけでいいから」

「おう」

 俺は果梨奈の面倒を見ることになった。

「どこが分からないんだ? 果梨奈」

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