第6話 チョロい俺の陽菜のファッションショー。

 陽菜とゲーセンで遊び終えると、訊ねる。

「次はどこいくか?」

「うん。その――。あの――」

 小動物みたいにこそこそとしだす陽菜。

 こうなったときの陽菜は心に決めていることがある。それを引き出すのが俺の役目。

「どこに行きたい?」

 俺が静かに問うと、陽菜は大きな目をくりくりとさせ、小さく呟く。

「か、買い物……」

 機微の変化を見つけると、陽菜の性格は分かりやすい。これは本気で言っている。

「分かった。じゃあ、いこうか」

 ショッピングセンター竹林たけばやしに向かう。隣の町にあり、電車でふたつで行ける。かなり近いし、ここらの若者は全員そっちで買い物をしている。とにもかくにもと言ったら、竹林でするものだ。

 ガタンと電車が揺れる。バランスを崩した陽菜は俺の袖を引っ張り、バランスをとる。

「陽菜。どんなものを買いたいんだ?」

「うん……。アタシは……、その――あの――」

 含んだ言い方に訝しげに思う。

 普通の買い物なら、ここまで困らないはずだ。しかし陽菜はおどおどしている。それだけ話しづらい内容なのだろうか?

「落ち着いて話しごらん」

「う、うん……」

 恥ずかしそうにうつむき、すーっと息を吸い、ゆっくりと吐き出す。

「そ、それが、衣服を買いに……」

「そうか」

 普通のことで安心した。でもなんでそんなに恥ずかしがっているのだろう。

「あ、あの――あの――」

「どうした?」

 まだ続きがあるらしい。

「緑苑くんに、選んでほしく、て……」

 なるほど。それで恥ずかしがっていたのか。俺のセンスが発揮されるわけだ。それは恥ずかしいな。うん。

 自分で思っていて、哀しくなってきた。

「ど、どうしたの? 遠い目をして……」

「ちょっと、自分を買いかぶっていたようだ」

「……うん?」

 陽菜が「ちょっと何言っているのか分からない」といった顔を浮かべていた。


 電車を降りると目の前に隣接したショッピングセンターが広がっている。

 俺と陽菜は除菌用アルコールで消毒したあと、店内に歩き始める。両隣にたくさんの衣類店、小物屋などが広がっており、その物量に圧倒される。

「どこから回ろうか?」

 陽菜はどこによるのか、すでに決めているのだろうか?

「…………?」

 ぽわーっとした陽菜はこちらに視線をよこす。

 こうしたときはきっと決めていないときだ。

 困った。俺には服屋のセンスがない。センスが売っているなら、お金で買い取りたいくらいだ。

 とりあえず入り口でぼーっとしているのもなんだから、近くの服屋に向かう。

「ここで、いいのを探してみればいいんじゃないか?」

「う、うん。そうする……。その――あの――」

「なんだ?」

「衣服、選んで……」

「おう。そうだな。そうだったな」

 すっかり忘れてしまっていた衣服選び。しかし、どんなものが似合うのだろうか。

 疑問に思いながら店内を散策する。

「おおっ!!」

 俺はいくつか衣服を選ぶと、陽菜のもとに戻る。これは素敵なファッションショーになりそうだぞ!

 胸踊らせて、陽菜に衣服を渡す俺。

「え。こ、これが好きなの……!?」

「ああ。好きだな。ぜひとも着てくれ」

「う、うん……!」

 押しに弱い陽菜だ。俺の望みを聞いてくれるだろうと思った。だからこそ、の選択だ。

「き、着たよ?」

 か細い声で呟く陽菜。

「おおっ! 着たか!」

 試着室のカーテンを開けると、そこには巫女服を着た陽菜がいた。赤と白のバランスが良く、そしてどこかえっちな香りがする。神聖な姿なのだろうけど、どこかそそるものがある。

「これ、恥ずかしい……!」

「でも、それでも着てほしかったんだ。似合っている。今度巫女のバイトでも受けたらどうだ?」

「そ、そんな――」

 照れ隠しなのか、顔を赤らめ、もじもじとする陽菜。

「じゃあ、次を着てみようか?」

「う、うん……」

 どこか気乗りしない雰囲気の陽菜。

 次に用意したものが影響しているのだろう。早く着てほしい。

 そう思い、カーテンを閉める俺。

 少し押しすぎたかな? と思うが、俺の欲望に負けてしまった。

「で、できたよ……」

 戸惑いの声に、俺はゆっくりと応える。

「大丈夫だ。陽菜ならなんでも似合う」

 そう言ってカーテンを開くと、そこにはメイド姿の陽菜がいた。

 白い前掛けとスカート。黒い上着がとてもいい。

「…………ん。そんなに見つめられると、照れる……」

「大丈夫だ。陽菜にはよく似合っている」

「普通の……!」

「うん?」

「普通の衣服がいい……普段着がほしいの」

「分かった。それじゃ、最後にこれを着てくれ」

「……へ。……それですむなら?」

「ああ。頼む」

「そこまで言うなら……」

「お願いします」

「あ、頭は下げなくていいから!」

 かっと赤くなった陽菜が目をそらし、カーテンを閉める。

「楽しみだな~」

 俺はその間に普段着を探していく。

 ……というか、マネキンの身につけているものでいいのでは?

 そう思い店員さんに訊ねる。

「あのマネキンの着ている服を試着したいのですが?」

「はい。分かりました」

 衣服を手にすると陽菜の元に戻る。

「き、着てみたよ……?」

「おおっ! 似合っているじゃないか!」

 陽菜はバニーガールの姿をしていた。ついでに頭にはうさ耳のカチューシャがポイントだ。

「いいぞ。でも普段着がいいんだったな。これでどうだ?」

「あ――。それはマネキンの……?」

「うっ。バレていたか。すまん、俺に衣服のセンスはないんだ」

「そ、そう。でも似合うと思って選んでくれたんだよね?」

「そうだ。そうでなければ薦めない」

「うん……。ありがと……!」

 嬉しそうに衣服を受け取ると、着替え出す。

 カーテンに仕切られた向こう側に下着姿の陽菜がいると思うと、心臓がバクバクと爆発している。暴走する心臓に戸は立てられないものか……。

「着替え、終わったの……」

「おう。そうか!」

 俺が振り返ると、そこにはふわふわなワンピースに青い羽織り物がよく似合う陽菜が立っていった。少し震えている。

「に、にあっているぞ」

「ほ、本当……?」

「ああ。もちろんだ。ちょっとドキッとした」

「本当!?」

「ああ。だからそれでいいじゃないか?」

「うん。分かった。これにする」

 顔をほころばせる陽菜に負けてしまった。

 俺はその日着た衣服を全て購入すると陽菜に渡す。

「こ、こんなにいいの? アタシ、買えないよ……?」

「ああ。いいんだ。今日は楽しませてもらったお礼だ。ありがとな」

「そ、そう思ってくれるなら……」

 陽菜の機微が分かる。少しにやけている。とても楽しそうにしていて俺の気分も上がる。

 いかん。このままではハーレムを目指すバカ野郎になってしまう。どうにかして、変えていかなければ。

「陽菜、これから昼食にするぞ」

 ここで失敗して幻滅させよう。そうしよう。

「う、うん。どこ……いく……?」

「そうだな。サ〇ゼリヤでいいか?」

「うん。いいよ……」

 アレ? おかしいな。某アニメではサ〇ゼリヤはありえない、となっていたのに。ラノベでもそう書いてあったのに。

 しかし、嫌われる動作をしなくてはならない。

 それを考えて実行する。

 彼女の嫌がることをしなくては。

「サ〇ゼ、久しぶり、なの……」

「そうなんだ。どのくらい前だ?」

「小学校くらい?」

「大分前だね。俺もあまり入ったことないが」

 サ〇ゼリヤに入ると、俺はハンバーグ、陽菜はドリヤを注文する。

「ふふ」

「どうした? 陽菜」

「うん。こうしていると、嬉しい。ふたりきっりでデ――遊べるなんて……」

 そっか。嬉しいのか。

 それは良かった――って。嫌われるようにしなくてはいけないのだ。そうでなければ、俺はハーレムエンドで誰かに刺されかねない。


 俺はまだ死にたくない!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る