時効の壁

 政府による法改正の発表

 

 ――この度、新体制のリーダーであるJ・B氏に祝電を送ったS総理は、前々から用意していたある改革案の実現に乗り出した。

 その内容とは我が国に於いて死刑を除く諸犯罪に、時効制度が依然として存在することを愁いて時効の完全廃止を強く要請するものだった。この法改正案は早々と、国会において討議、審議され、多数決の原則において可決されるところとなった。

 

 しかし事があまりに急であるため、完全に時効が廃止になる前に特別優遇措置が施されることとなった。すなわち、それは犯罪者が自らの犯罪における時効の三か月前までに役所もしくは警察に申し出れば、たとえその罪が重罪であってもそれを帳消しにすると言う云々、慈愛に溢れた特別処置であった。しかも特別恩赦(金一封)までが付くと言うのだ(詳細は割愛)。


 この一大ニュースは各一流誌のトップを飾り、ネット上でも大きく取り上げられた(SNS含む)そしてその三か月後にはそれを真に受けたごく一部の(時効ぎりぎりの)そそっかしい犯罪者たちが警察等に出頭し、めでたく穏便に逮捕された。

 

 尚、犯罪者たちはこの仕打ちに恨み節を吐いたと言うが、首謀者の総理は新聞社のインタビューに「世の中そんなに甘くありませんよね。まぬけですよね」というコメントをだけを残し、多くは語らなかった。 ――らしい。





                 了






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