第67話 再会

獣王国の王城に入ったおっさん達である。


ドゴラス内務大臣が王城の中を案内してくれる。

まずはパメラと母親と従妹を再会させてくれるようだ。

ドゴラス内務大臣について行くおっさん達である。

親子水入らずだからパメラだけであった方がいいのではと思ったがそうではないようだ。


獣王国の王城を観察するおっさんだ。

分厚い作りの大きな扉を抜けると3階建てだが1階が10m近くある巨大な作りだ。

近くで見ると王城とあってかなり大きな建物である。

床も柱も木で出来ており、樹齢数百年物の柱が建物を支えている。


【ブログネタメモ帳】

・獣王国の王城 ~木の香り~


太い柱を見て、接ぎ木したのか1つの木なのか確認するおっさんでる。


(ふむふむ、1本の木をそのまま使っているな。2つの木材を接合するような現実世界の大工職人ほどの技術はないのか。1000年の歴史があるんだし、そんなことはないか)


新ネタのブログが半年も止まった状態なので、新しいネタ収集に余念がないようだ。

柱をさすり、継ぎ目を探すおっさんを見て何事だと視線が集まる。

いくぞといっておっさんを連れていくイリーナだ。


3階建ての奥の部屋に進んでいく。

広間に入り、ここでお待ちくださいとのことだ。


「獣王国では床に座るんですね」


旅館か昔の武士の館ようだと思いながら、座布団のようなものの1つに座るおっさんである。

朝から結構忙しかったので、何も食べていない。

お腹すいたな思いながら待っていると、横開きの扉が開く。

女中が気を利かせてくれて果物を運んでくれる。

食事は後程出ますと言われたおっさんだ。


それからほどなくしてヴェルムが入ってくる。

ヴェルムが無言で扉近くに座ると、2人の獣人が部屋に入ってくるのだ。

どうやらヴェルムが案内してきたようだ。


1人はパメラにそっくりである。


(む、パメラ感半端ないな。パメラの従妹のリメリアか。もう1人が母親か。母親もパメラ母って感じだな)


「パメラ様!」


パメラの従妹であるリメリアが一瞬で笑顔になり、パメラを見て駆け寄る。

抱き着こうとするリメリアを無視して母の元に駆け寄るパメラである。


「母上!ご無事で何よりです!!」


「聞きましたよ、立派になりましたね」


5年ぶりということもあり、若干よそよそしさも感じる親子の再会である。

王族であり、周りに人がいるということもあり抱擁はしないようだ。


(やっぱり俺らはいない方がいいんじゃなかったんじゃ?)


リメリアが放置されているところを見るとパメラとリメリアの関係が伺える。

それだけ仲がいいのであろうと思うおっさんだ。


そこから、3人でわいわいと会話している。


(リメリアって人はかなりぶっちゃけた性格のようだな。軟禁時代は特に不自由なかったとパメラに言ってくれという、どこぞの貴族の言葉をそのまま言ってるぞ)


昨日今日のどたばたがリメリアの言葉で分かってきたおっさんである。

昼過ぎの早い時間には既にパメラが武術大会の闘士となって王都にやってきた話を聞いたようだ。

その後、闘技場にSランクモンスターが現れ交戦中という話だ。

それから日が沈んだ後に、死闘の末、おっさんが魔神を倒したという報告を受けたのだ。

闘技場に出てきたのは魔神であることもリメリアとパメラ母にも伝わっていたようだ。


それからリメリアとパメラ母は王城の近くにある離宮から王族が生活する部屋に戻ってこれたということである。

服も食事も仕えの女中の人数まで、昨晩に一気に変わったという話である。

久々に良い肉と酒が夕食で出てきたと不満を言っている。


ある程度話が終わったところで、リメリアがパメラの袖をくいくい引っ張りおっさんを紹介しろとアイコンタクトを送っている。

これは挨拶しないとと、座って様子を見ていたおっさんが立ち上がり挨拶をする。


(王妃と公女だからすごく偉いんだろうな。子爵だけど、どうなんだっけ?とりあえず立ったまま丁寧にあいさつをするか)


「ご挨拶が遅れました。私はケイタ=フォン=ヤマダと申します」


この度は軟禁から出てこれてよかったねとは言えないので名前を名乗るだけで済ませるおっさんである。


「これはご挨拶が遅れました。エルメネイアート=ガルシオと申します。大魔導士ヤマダ様」


王妃がおっさんに跪く。

それに合わせてリメリアも跪き、頭を下げて王妃に続いて名乗る。


「へ?ちょ、王妃様、頭をお上げ下さい!」


(内務大臣に続いて王妃まで頭下げてきた。パメラ連れ戻したのがそんなにすごいってことなの?)


まさか跪いて挨拶してくるとは思わなかったので、お立ち下さいと言うが跪いたまま動かない。

おっさんの仲間達も何事だという顔をする。


わたわたとしたが、こうしていても仕方ないので、おっさんも座布団に座る。


「この度は我が娘をお導き頂きありがとうございます」


「いえいえ、パメラが諦めずに道を進み続けた結果だと思います」


何にせよ皆王城に戻れてよかったという話をするおっさんだ。

パメラの王国での活躍など聞きたいことが多いようだ。

奴隷であったことは避けつつ、受け答えをするおっさんである。

パメラ母とばかり話していると、リメリアが不安そうな顔でおっさんを見つめている。


「ん?どうしたのだ?リメリア」


パメラがおっさんに何か言いたそうなリメリアに話しかける。


「あ、あの大魔導士様、獣王に付き従った貴族は皆処刑にするという話は本当でしょうか?」


「ん?へ?いやそれは獣王国の皆さまで決める話かと思います」


なぜおれが決めるんだという顔をするおっさんである。


「そうですか」


しょんぼりした顔をするリメリアである。

随分表現が豊富だなと思いながら話しを続ける。


「ただ私は無事にパメラが戻れましたので、これ以上の流血は不要だと考えています」


「ほ、本当ですか。よかったね、グリフェ!」


明るい声で扉付近に話しかけるリメリアである。


(グリフェ?この部屋にグリフェっていたっけ?何かどこかで聞いたことあるぞ)


ヴェルムが扉付近で難しい顔をしている。

あっと言って口を閉ざすリメリアである。


部屋が一気に沈黙する。


「ん?どうかしましたか?」


(ボケていないのに滑った感じになったぞ。俺何も滑ってないよね?)


パメラがヴェルムとレミリアを交互に見る。


「レイミスティア公女、ちょっといいか?今の『グリフェ』とはどういうことだ?」


「ぱ、パルメリアート殿下何か怖いですよ」


パメラが低い声でリメリアを愛称ではなく本当の名前で問う。

座ったまま後ろへ逃げようとするリメリア。


「す、すいません!」


といってすごい勢いで立ち上がり逃げ出すリメリアである。

虎の獣人らしく中々の素早さである。

それを素早さ1000に達するパメラが目にもとならぬ速さで取り押さえる。


「ちょ!?パメラ様痛いです」


「ならばさっきの言葉の意味聞かせてくれ」


「な、何でもないです…」


「なるほど、言いたくないと。それは仕方ない」


「痛いです。ヴェルム助けて!!」


羽交い絞めにされたリメリアを見て、ついて行けないおっさん達である。

従妹同士でわちゃわちゃしだしたのだ。

ヴェルムは今なお難しい顔をしている。

視線を落とし動かないようだ。


「ソドンはこの状況が分りますか?」


(俺はいったい何を見ているんだろう)


「むう、我ら獣人は家名で呼び合うことが基本である。名前で呼び合うのは家族かよっぽど親しい恋人くらいであるな」


パメラとリメリアを余所にこの状況の説明を受けるおっさんだ。


どうやら王国と獣王国では文化が違うのだ。

貴族から王国を作ったヴィルスセン王国。

奴隷から獣王国を作ったガルシオ獣王国である。


王国では辺境の貴族が王国を名乗ったのだ。

貴族が王族になったのだ。

家名があることが当然である。

気を許した配下には名で呼ぶことが多い。

国王は気を許した近衛騎士団長や宰相を名で呼んでいることを思い出すおっさんだ。


しかし、獣王国にとって家名はとても大きな意味を持つのだ。

多くの血を流し、帝国から独立し家名を手に入れたのだ。

必死に戦って家名を手に入れた獣人は家名をとても大切にする。

当主に対しては基本的に家名で呼ぶということだ。

子供のころからの付き合いであったりする場合は名前で呼んだりすることもあるとのことだ。

大人になってから知り合って名前で呼ぶということはそういうことだという話だ。


「なるほど、ああそうか。ヴェルムは家名でグリフェは名前ということですね」


(なるほど、だから家名で登録する闘士もいたり、名前で登録をする闘士もいたのか。不思議だと思っていたが聞いてみるもんだな)


【ブログネタメモ帳】

・獣王国と王国の呼び方の違い ~呼び方は歴史が決める~


それはそれはと意気揚々とブログネタにしていると、リメリアが白状をするようだ。

言い訳なのかとても話が長い。


何でも、3年前の内乱の最後に獣王の軍に玉砕をしようとしたリメリアである。

圧倒的な数にものを言わせた現獣王の軍に取り囲まれたという話だ。

そこに現れたのが、ヴェルム親衛隊長である。

決死の覚悟で戦ったがヴェルムに取り押さえられたリメリアである。

リメリアの命惜しくば、武装を解除せよと叫んだヴェルム。

生き残った親衛隊は武装を解除し内乱の最後の戦いは終わったのだ。

王都に連れて行かれたリメリアは、王城から少し離れた離宮に幽閉されたのだ。

王妃もそこにおり、お世話をしていたとのことだ。

不自由な軟禁生活の中、獣王の命によりたまに様子を見に来るヴェルムである。


「さ、最初はちゃんとパメラ様のために情報を得ようと頑張ったんだから!」


パメラともにもみくちゃになったまま言い訳をするリメリアである。


たまにやってくる親衛隊長のヴェルムから、きっと逃げ果せたであろうパメラのために少しでも多くの情報を得ようと頑張って接触したとのことだ。

戦況や生き残った親衛隊がどうなったのかなどである。

生き残った親衛隊は親衛隊の任を解かれ、各地バラバラに配置転換されたとのことである。


「それがどうして、グリフェになるんだ?」


「だって、寡黙で強いんだもん。ああ見えて優しいし」


パメラのために必死にヴェルムから現獣王の情報を知ろうとして、ヴェルムについてもよく知ってしまったようだ。

様子を見に来るたびに王城の食堂から食料を拝借してきてくれた話などの思い出を話し出す。

そのまま恋に発展したリメリアである。


(敵国の将軍と結婚する話って、日本の歴史でも結構あるな。人間関係なんてそんなもんかもな)


ヴェルムを見るおっさんである。

ずっと視線を落とし、難しい顔をしている。

どういう気持ちでこの場でレミリアの話を聞いているのだろう。

かなりの拷問だなと思うおっさんだ。

ヴェルムから積極的に関係を築いたわけではなさそうだ。


どうやら獣王国最強の男はベステミア家の公女に落とされてしまったようだ。

力を求め続けた終着点がこれだと思うと悲しく感じるおっさんだ。


「パルメリアート、その辺にしてあげなさい」


パメラ母がどうやらリメリアを助けてあげるようだ。

パメラも私がこんなに苦労したのにという顔をしているが、本気では怒っていないのだ。


話が終わったころに、扉が開く。

どうやら話が切れるのを待っていたようだ。


「大魔導士ヤマダ様、お食事の準備が整いました。大魔導士様とともにお食事を取りたいというものがおります。こちらでご一緒させて頂いてよろしいでしょうか」


おっさんの前にやってきて跪くドゴラス内務大臣である。

2回目なので、おっさんはそこまでビビらない。


(なるほど、結構広いと思ったけど、この部屋で皆で食事を取るのね)


「もちろん、かまわないですよ」


では、と言って親衛隊に指示をするドゴラス内務大臣である。


ほどなくして、配膳を持ってくる女中達である。


「失礼します、大魔導士様」


ガルガニ将軍がやってくる。


(あれ、ガルガニ将軍からも大魔導士さまって、俺の呼び方を『大魔導士』で統一した感じなのか)


おっさんはようやく気付いたようだ。

この日をもって獣王国はおっさんのことを『大魔導士』と呼ぶことになる。


おっさんの目の前の席には、ドゴラス内務大臣、おっさんの両隣りにはイリーナとパメラが座っている。

ガルガニ将軍がドゴラス内務大臣の隣に座る。


なお、ヴェルムは任が終わったので、獣王の元に戻るとのことだ。

この広間にはもういない。


食事がどんどん運ばれるのだ。


(なんか俺だけカレーなんだけど。まあカレーだけじゃないけど)


皆が肉料理が出てくる中、おっさんだけカレーが出てくる。


「大魔導士様の好きなお食事をご準備させていただきました。飲み物は果実水でよろしいですか?」


「ありがとうございます、果実水でお願いします」


果実水にもいろいろな果物があるのだが、ホテルでよく飲んでいたものが出てくる。


(なんかいろいろ気を使って、調べてくれたのかな)


おっさんは、この広間の席の中央的な位置に座っているのだが、特に飲み会の挨拶のようなものはしないでいいようだ。

食事が運ばれたらそのまま、そのまま思い思いの食事が始まるのだ。


「あの、ドゴラス内務大臣」


「は、いかがされましたでしょうか?」


「明日の会議に参加と伺っているのですか。明日は何かあるのでしょうか?」


「もちろんでございます。今明日のことを少しさせていただいてもよろしいでしょうか」


パメラのパレードと共に王城にやってきたおっさんだ。

パレードが始まる前に簡単に、会議があるという話を聞いていたのだ。


「もちろんです。お願いします」


「明日2つの理由で王城にいる貴族を全て玉座の間に呼んで会議を行います。1つ目は秘宝の儀にてございます」


「秘宝の儀?」


秘宝と聞いてときめくおっさんである。


「はい、獣王家に伝わる秘宝がいくつかございます。その中で、獣王国存亡の危機を救ってくれた方にお渡しする秘宝がございます。大魔導士ヤマダ様に秘宝をお渡ししたいのです」


(え?国を救った専用プレゼントがあるってこと?超うれしいんだけど!これだけでどんな秘宝であっても1つのブログになるぞ。がんばって上位魔神倒してよかった、やっほー)


「獣王国を救ったものに渡す秘宝だと?ドゴラスよ、そんな話初めて聞いたぞ」


おっさんが内心で喜んでいると、一緒に聞いていたパメラが反応をする。

どうやらパメラには聞かされていない話のようだ。

おっさんがパメラの言葉に反応して、パメラを見るとその隣にいた王妃も同じような態度なのだ。

どうやら、王妃にも聞かされていない話のようだ。


「は、パルメリアート殿下におかれましてはまだお話していないお話でございますので」


「もしかして、獣王陛下も知らないことですか?」


「はい、獣王陛下も知りません。今この獣王国で知っているのは私だけにてございます」


どうやらドゴラス内務大臣だけが知っている秘宝のようだ。

その辺りの話も含めて、明日の儀式の時に説明しますと言われるのである。


2つ目の内容について話を聞くおっさんである。

2つ目はどうやら獣王国の今後について話し合われるという話だ。

この内乱の結末やパメラの今後について、いくつかの議題が話し合われるという話であった。


王国でも、謁見の間には何度も行ったが、会議はしたことないので、それもブログネタになるなと喜ぶおっさんであったのだ。

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