第68話 秘宝

パメラが王城で無事に母と従妹のリメリアとの再会を果たしたのだ。

その日は夕食をおっさんやその仲間、母や従妹も交えて皆で食べたのだ。


食事も皆で座布団の上に座り、配膳が運ばれてくる。

おっさんは現実世界では座椅子派なので、この食事スタイルもいいなと思うのだ。


おっさんの横にはドゴラス内務大臣が側につき明日の会議の予定などいろいろ聞いたのだ。

話を聞くとドゴラス内務大臣もこの日は闘技場の貴族席にいたとのことである。

それはおっさんが上位魔神パルトロンを倒すまでずっといたという話であったのだ。


パメラの決勝戦も、獣王とのけじめも見ていたのだ。

そして、その後現れた魔神達のとの死闘も最後まで見たという話であるのだ。


そんな中、本日行われる接見の事前説明をしてくれるのだ。

本日の接見は2つのことが行われるというのだ。


是非獣王国を救ってくれたお礼がしたい。

獣王家には古くから伝わる秘宝があるとのことである。

獣王家の秘宝は、今この場に準備ができているが、獣王国を支える貴族達が集まるその場で獣王国として渡したいという話だ。


もう1つについては、今回パメラが王城に戻ってこれたのだが、これからどうするかについては全くの白紙であるとのことだ。

これからというのは、内乱についてどうするのか、現獣王やパメラはどうするのかについての話し合いの場であるのだ。


そんな話を受けての、今は翌日の正午過ぎである。

会議は昼食中に行われるのだ。

獣王国では大切な会議は食事をしながらが基本であるとのことだ。

何でも野戦が多かった独立時代から食事をしながら今後の作戦を立ててきたのだ。

古くからの習わしであるとのことである。


随分歴史を大事にする国だなと思いながら、おっさんも真っ白な外套を着て支度する。

外套を着るだけなので数分で支度は済むのだ。


王城の女中にもメクラーシの民が結構いるんだなと思いながら1人で待っている。

イリーナも仲間達も既に会議が行われる玉座の間に行っているためいない。

パメラとは昨晩の夕食以降あっていないのだ。


そこまで、待たされることなく案内の親衛隊がやってくる。

ご案内しますと言われ、ついて行くおっさんだ。

向かう先は王城で最も広い広間である、玉座の間である。

装飾した鎧を身に纏う親衛隊の幹部と思われる騎士が、おっさんの前後に10人ほど囲んでいる。

大げさだなと思いながら玉座の間に前の大きな扉に到着する。


幹部の1人が少々お待ちくださいと言い、扉を3回ノックしたのだ。


「大魔導士ヤマダ様が御出でである!!!」


でかい声が扉の先で聞こえたのだ。

ビクッとするおっさんだ。

驚かせて申し訳ございませんと恐縮されるので、大丈夫ですよと受け答えする。


2人の親衛隊が引き戸を両側に引く。

玉座の間が奥まで見える。


(おお!皆座布団に座ってるな。頭を下げているけど、玉座に獣王はいないな。やはり後から来るのか。おっといけないあまり前の方を見ちゃいけないんだっけ)


奥まで数百人の獣人の貴族が埋めている。

王国と違い、貴族達が床に等間隔に座っている。

王国は謁見の間の両サイドに貴族が立っていたが、獣王国では料理の準備をする女中達がいる。

貴族達が座る前には配膳が置いてあり、これからここで食事を取るのだ。


(やはり、皆で食事しながらがいいよな。天空都市でも会議をするときに取り入れるかな)


中央は2から3mほどの幅で道が出来ており、真っ白な外套を着たおっさんがゆっくり進んでいく。

前を歩く親衛隊の幹部が歩くスピードに合わせているのだ。


(なんかめっちゃ震えている者がいるぞ。体調大丈夫か?)


頭を下げ、身震いをする獣人が何人かいることに気付く。

体調を案じながら、前に進んでいく。

全体を見回したわけではないが、300人以上いそうだなと思いながら、前に進んでいく。

前の方にどんどん進んでいく。

子爵だから、そんなに前に行かなくてもいいと思いながら進んでいくと、前から2列目の座る者を見て驚愕するのだ。


(ふぁ!獣王が座っているぞ!!え?下向いて顔が分かんないけど、あなた獣王ですよね?)


闘技場の獣王の観覧室で確かに座っていた獣王が頭を下げている。

嫌な予感がする。


「お座りくださいませ」


親衛隊の幹部が跪き、手平で席を指し示す。



それは玉座であったのだ。



「な!?ちょっと恐れ多いです。席が他に空いていなかったのでしょうか?ぱ、パイプ椅子でもいいのですが」


動揺して訳の分からないことを言ってしまうおっさんだ。

新入社員の研修の際、席がたまたま空いておらず、課長や部長の席に座れと言われたことを思い出す。


何かの冗談と見回すおっさんである。

数百人に上る貴族達が跪いたまま微動だにしない。

一番前の席には王妃もドゴラス内務大臣もいる。

パメラとイリーナも一番前の席のようだ。

ソドンとガルガニ将軍が獣王の並ぶ2列目に座っている。

ロキ、コルネ、セリムは3列目に座っているのだ。

皆一様に頭を下げ、おっさんが玉座に座るのを待っているようだ。


どっきりなのかとか色々現実逃避するのだが、事態に変化はないようだ。

昨日、王妃やドゴラス内務大臣が跪いた理由がなんとなく分かったおっさんだ。


(え?今の俺の扱いというか評価ってこんな感じになってるの?)


王妃やドゴラス内務大臣が跪いた時点で気付くべきだったのだ。

今のおっさんの評価は獣王を超えたのだ。

獣王国はおっさんに頭を下げる選択をしたのだ。


1分が過ぎる。

誰も微動だにしない。


諦めて、ゆっくり歩みを進めるおっさんである。

玉座に座ったのだ。


(何か大いに勘違いしているかもだけど、これも秘宝を貰うためだ。秘宝はほしいよ秘宝)


自分にいい聞かせて、ふっかふかで手触りの良い座布団、玉座にだけ取り付けられた手掛けのある玉座に座る。


「大魔導士ヤマダ様が玉座に座られた。今一度頭を下げよ」


頭を下げていた数百人の貴族達が一同にさらに頭を下げる。


面を上げてよいという言葉とともに皆面を上げる。

王国と違って、玉座を座るものを見てもいいのかと思うおっさんだ。

貴族達の視線がおっさんに集中する。


ドゴラス内務大臣が1列目の端の玉座と1列目の間に移動をする。

進行をしてくれるようだ。


(たしかドゴラス内務大臣って、セルネイ宰相が宰相になる前、先獣王の宰相をしていたんだよね)


ソドンが昨晩ドゴラス内務大臣について聞いたようだ。

先獣王に長年仕えてきたドゴラス宰相は、現獣王の権限でセルネイを宰相にするため内務大臣に降格をしたのだ。

ドゴラス宰相は長年、獣王国のナンバー2として獣王国を支えてきた重鎮である。

現獣王でも内務大臣より下の地位に落とすことはできなかったのだ。


「皆さま、本来であらばこのまま食事を提供し会議となりますが、本日は秘宝の儀がございますので、それからになります」


進行を始めるドゴラス内務大臣である。


(お!秘宝を先に渡してくれるの?秘宝秘宝)


「持ってまいれ!!」


ドゴラス内務大臣の一言で一度閉められた横開きの入り口の扉が開く。

獣王親衛隊が4人がかりで1つの箱を持ってくる。

おっさんの目のまえ2mほどのところに恭しく置かれる木箱である。


木箱を凝視するおっさんだ。

木箱が視界に入る貴族達も凝視している。


4人がかりで持ってきたがそこまで大きくない。

縦横2mもなく、1mよりやや大きいほどの木箱だ。


(ぼろぼろの木箱だ。なんか100年物のウイスキーの樽とかこんな感じだな。だけど味というか雰囲気があってこれがいいかも!)


玉座に座らされたショックが和らぐようだ。

ワクワクしながらおっさんが木箱を見つめる。


「大魔導士ヤマダ様に献上するのですが、まずはこの秘宝について語らせてください。貴族達はこれを知りませんので」


王族も知らず、内務大臣だけが知っている秘宝である。

内務大臣の言葉に頷くおっさんである。


(なぜこれが秘宝なのか最初から詳しく説明お願います。それにしても上位魔神倒したお礼にこんなものを貰えるなんて、半日かけて倒したかいがあるな。うれぴい)


【ブログネタメモ帳】

玉座の間 ~秘宝の儀~


おっさんがタブレットを開いて、秘宝について記録を取る。


「この度、大魔導士ヤマダ様の戦神のようなお力を見せていただき、魔神の脅威から獣王国を救っていただきました。何度も現れる魔神達、そしてその魔神すら統べる上位種の魔神を倒していただき誠にありがとうございます」


昨日から何度も言われたお礼である。

既に魔神や上位魔神が闘技場に現れたのは皆の周知のことであるのだ。


「そして、この1000年の歴史においてこのようなSランクモンスターが王都近くに現れて獣王国存亡の危機に瀕したことがございます。そう300年前賢獣王レオニードラル様の時代に現れた魔獣ビヒドスでございます」


それから過去の話をするドゴラス内務大臣である。


300年前獣王国を襲った魔獣ビヒドスである。

奇しくも獣王武術大会の開催を始めた賢獣王に起こった悲劇である。

身の丈100mを超えるその魔獣によって、街がいくつも破壊され、多くの犠牲がでたとのことである。


魔獣ビヒドスは、多くの犠牲を出しながら王都を攻めてきたという話だ。

何でも始まりは魔獣ビヒドスが眠っている鉱山にそこを治める領主が足を踏み入れたことがきっかけというのだ。


その時、王都を守る盆地に設けられた4つの街の一つであるペルンの街が半壊したとのことである。


(なるほど、半壊したから要塞として作り直して現在のペルンの街に至るのか)


頷きながら話を聞くおっさんだ。

このあたりの話は皆知っているのか、過去に聞いた話を思い出すかのように貴族達は聞いている。


ペルンの街でも止められなかったという報告を受けた賢獣王である。

当時の賢獣王は若く、獣王として就任したばかりのことであった。

若き時の賢獣王は万の軍勢を指揮して討伐にあたったのだ。


「討伐にあたったのですが、とても強力なモンスターであり、刃はその硬い毛皮を断つことはできず、魔法は物ともしなかったと伝承されております」


討伐軍も半壊するほどの犠牲を払ったのだ。

賢獣王が布陣する場所深くまでやってきた魔獣ビヒドス。

撤退もやむなしというところで、賢獣王の元に1人の旅の剣士が現れたという話だ。


「名も名乗らず旅の剣士は魔獣ビヒドスの元に歩みを進めました。その剣士と魔獣ビヒドスとの死闘が行われたと伝えられております」


唐突に始まった戦いは旅の剣士の勝利で終わったとのことだ。

魔獣ビヒドスは剣で頭を絶たれ絶命したとのことである。

魔獣ビヒドスを倒した剣士は賢獣王の元に討伐の報告をしたのだ。


騎士達が歓喜の声を上げる中、必死に礼をしたいと食い下がった賢獣王である。

名前どころか、フードで顔を隠し顔すら見せてくれなかったという話をする内務大臣。


(謎の剣士強いな。カフヴァンより200年も昔の話か)


内務大臣の話をタブレットに必死にメモするおっさんが感想を漏らす。


「旅の剣士は自らについて何も名乗りませんでしたが、1つの予言のようなものを残していきました」


「「「予言?」」」


おっさんが予言という言葉に反応する。

ずっと黙って聞いていた貴族達も知らないのか同じく反応するのだ。


ドゴラス内務大臣が剣士の予言について話をする。


いずれまた獣王国に困難な敵がやってくるだろうと。

それは何百年後か分からないが、魔人が現れ、国は大きく傾くであろう。

しかし、その時も獣王国を救うものがきっと現れる。

救世主はその力を示し、獣王国の脅威は払われるだろう。


「その時、獣王国からの救ってくれた感謝の印として、今回倒した魔獣を元に防具を作って渡してあげてほしいと言われたのです」


賢獣王は旅の剣士へのせめてものお礼としてその言葉を信じて、魔獣から防具を作った。

必ずやってくる救世主のために獣王家が秘宝として守っていくようにしてきたという話だ。


玉座の間で大きなざわつきが起こるのだ。

内乱が起き、魔神が宰相に憑りつき国は大きく傾いたのだ。

魔神を倒したのがおっさんである。

まさに予言のとおりではないかという話だ。


どうやらここまでが秘宝にまつわる話のようだ。

そして、話し終わると同時に泣き出した内務大臣である。

50過ぎたその歳で号泣し始めたのだ。

どよめく貴族達である。

おっさんも、仲間達も動揺をしている。


(え?いい話だけどなんで泣いているの?)


「申し訳ございません。この旅の剣士と秘宝の話は、獣王に就いたものにしか知らない話でございます。先獣王が現獣王に言い伝える話でございます。私はこの話を5年前、先獣王からもしものために聞いておりました」


泣きながら内務大臣は涙の理由を語ったのだ。

獣王家に伝わる秘宝の話は本来、獣王から獣王に伝わる話であったのだ。

例え王妃であろうとも、王子や王女であろうともこの秘宝の話を聞くことはないのだ。


しかし、先獣王は自らに何かがあったときのために長年仕えた宰相であったドゴラスにだけ話をしていたのだ。

もしかしたら自らの身に何かあることを予見していたのかもしれない。


(だから、パメラも王妃も知らなかったのか)


ドゴラス内務大臣はどうやら先獣王を討った現獣王にも伝えていなかったようだ。

獣王は視線を落とし、今の話を聞いている。


「お話は以上でございます。まさに獣王国を魔神の魔の手から救っていただいた大魔導士様にふさわしい秘宝でございます。300年の時を経て、賢獣王様の交わした旅の剣士との約束が果たされる時でございます」


(ちょっと重たくないかい?その話)


とはいうものの秘宝はかなり気になる。

おっさんが玉座から腰を浮かし、秘宝に手を取るのだ。

木箱はシールも何も貼られていない。

上下に開封できるようだ。

皆が固唾を飲んで見守る中、木箱を開封したのだ。


「これは紙でしょうか?一番上にあるのは手紙のようですね?その下には黒い何かが入っていますね」


おっさんは説明をしながら開封をしているようだ。自分の言葉をブログに残すためである。

貴族達はおっさんの実況を聞きたそうに腰を浮かすのだ。


黒い何かは毛皮のようだ。

引っ張って完全に外に出すおっさんだ。

かなり大きいのか座ったままでは大きさが分からない。


おっさんは立ち上がり、真っ黒な毛皮を広げるのだ。


「え?これは外套ですね?真っ黒な外套ですよ」


(また手元に真っ黒な外套が戻ってきた件について。ドラゴンの外皮から毛皮に変わったけど)


「「「おおお!」」」


立ち上がって毛皮を広げたので奥まで見える。

そして、おっさんが毛皮を全て出したために暗闇が、もやもやと外に漏れるのである。


聖教国から買ってきた窓ガラスは現実世界ほど透明ではないがそれなりに明るい。

しかし、毛皮を全部取ったために木箱の中から煙のように漏れる闇である。

何事だと貴族達が反応をする。

おっさんの仲間も何事だという顔をする。

イリーナとパメラの前にあるので2人は箱の中を覗き込むのだ。


「あれ、まだありますね?これは魔石ですね。おそらく魔獣ビヒドスの魔石かと思います」


木箱に入っていたものは手紙と外套だけではないようだ。


「「「な、なんと!おおおおお!!!」」」


(すげえSランクの魔石だ。さすが一国に伝わる秘宝だ。価値が半端ないな。それにしてもカフヴァン同様にそこまで大きくないな。思わないところで魔石をゲットできたぜ。これはセリム用かな)


しっかり皆に見せるように漆黒の闇の漏れた魔石を皆に見せるのだ。


「最後は手紙ですね。読めるといいのですが」


300年前のボロボロの手紙である。

封はしていないが、便せんに閉じてある。

丁寧に中にある手紙を取り出すおっさんだ。

玉座に座り、手紙を見るおっさんである。

固唾を飲みこんで見つめるおっさんの仲間達、獣王も王妃もドゴラス内務大臣もおっさんお手紙に意識が集中する。


「ぶっ!!!!」


「「「ぶ????」」」


大いに噴き出すおっさんである。

おっさんの吹き出した音が玉座の間に響く。

何事だという顔を皆一様にする。


「あ、あの大魔導士ヤマダ様、恐れ入りますが差し支えなければどのようなことが…」


皆聞きたいようだ。


「い、いえ、古くてよく読めませんが、どうやら装備の効果とかが親切に書かれていますね。大事に使ってほしいとのことです」


動揺しながら話すおっさんだ。


(やばい、これちふるさんからだ)


手紙はこのように書かれていたのだ。


『拝啓 魔導士ケイタ様


この手紙を読んでいるということは上位魔神を倒せたということですね。

何カ月もかけてのブログのリライトお疲れ様です。

外套が破損したそうなので、新しい外套を送ります。

大事に使ってください。


装備の効果

体力・気力・魔力上昇20%、物理ダメージ軽減10%、魔法ダメージ軽減10%


魔石はかわいいセリムきゅんに上げてください。

写真機能を手に入れたらセリムきゅんの寝顔を撮ってメールで送ること(必須)。

入浴シーンでも可(推奨)。


                 byぷりち-ちふる


追伸:300年後だけど、一応私の話は皆にしないように。

死んだことになっているので、未来であっても異世界に広がったら殺しに伺います(リアルで)。』


ちふるさんからですと言おうとして、追伸まで読んで言葉を飲み込んだおっさんである。

脂汗を拭きながら手紙はそっと外套の中に入れるのであった。


ドゴラス内務大臣を見て、言い伝えは綺麗なままにしておこうと心に誓うのであった。

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