第62話 リライト

ここは1k8畳のおっさんの賃貸マンションだ。

おっさんがちふるからメッセージを貰って、1週間が過ぎた週末である。


「魔法の分析がおかしいな。まあ、初めての魔法に触れたんだからしょうがないとして」


思い出を語るように異世界に行ってゴブリンの巣でのことについて話をするおっさんである。


「ウェミナ大森林に比べて、最初の森はそこまで大きくなかったんだよな。1日中歩いて大変だったけどね。ダンジョン攻略の頃は毎日大体8時間くらい歩いてたけど、全然疲労感が違ったな。レベルアップ有能だな」


おっさんは、確認するかのように2年以上前のことを思い出しているようだ。


「このころはまだタブレットのメモ機能がないんだよな。忘れてしまったことは仕方ないよな」


『メモ』機能は、加護(極小)から加護(微小)に変わる際に追加されたタブレットの機能の1つである。

今でも助かっている、ブログ記事を起こす上で最も重宝している機能なのだ。


時間をかけてゴブリンの巣に入って、コルネに出会う頃を思い出すおっさんだ。


「コルネは少女だったな。今も見た目、中学生な少女だけど。初めての異世界の村に来た時の頃の方がおしゃべりだったんだけど、大人しくなってしまったな」


おっさんが初めて異世界で出会った人はコルネであるのだ。

異世界であること、異世界の村、魔法について教えてくれたコルネに感謝しながらその当時を振り返るおっさんである。


「村についたら、狩りを手伝ってワイバーンが出たんだっけ。ゴブリンと違ってモンスターデカかったな。幼体でも5mくらいあったし、かなりビビったぜ」


村に行って、現地の人々の生存の難しさについて知るのだ。

大型のモンスターにたまたま出くわしてしまったら、滅びることもある異世界である。

とても厳しい世界にたくましく生きる異世界の人々である。



1か月ほど過ぎた1k8畳の賃貸マンションの一室である。

おっさんは1人パソコンの前に座っている。

12月に入り完全に冬の中、ブサイクなおっさんがパンツ1枚でいる。


「異世界初の大都市フェステルの街に到着したぞ。ここで初めて檻に入れられたな。悪魔堕ちって帝国が実験的に行っている、人をモンスターに変え力をつけさせることなんだっけ」


初めての大都市フェステルの街である。

そして、その時不当な扱いを受けて檻に入れられる。

理不尽な世界でもあることを、身をもって知るのだ。


街で観衆の声が上がり、人だかりのいるところに行ったおっさんである。

見たのは、異世界ならではの騎馬隊であった。

そして、その先頭をゆっくり移動する騎士の鎧をきた長い金髪の女性であったのだ。


「イリーナに出会ったのはこの時だな。出会ったというか、騎馬しているイリーナを街の人と一緒に見ただけなんだけどね」


近づきすぎで騎士達に追い払われたおっさんである。

イリーナからは漆黒の魔導士のことは覚えていると、その後教えてもらったのだ。


「冒険者の生活や活動、街のスラムの生活と、この街では多くのものを知ったな。街で活動してそんなに経ってないのにオーガの大群が襲ってくるとか。初めての異世界だからとルルネ村でゆっくりしていたらフェステルの街が無くなってたかもな」


冒険者ランクDから始まったおっさんだ。

冒険者の親を持ち、親が何かあればスラムの生活に転落する厳しい世界であることを知るのだ。

その後、当時のフェステル子爵に掛け合って冒険者の福祉制度が始まったのだ。


福祉制度は始まったのだが、その後おっさんがトトカナの村とその先の冒険者の要塞を作ったためにフェステルの街の仕事が溢れたとのことである。

全てのギルドがかつてないほどに求人をするようになりスラムはなくなった。

フェステル子爵が伯爵になったころに聞いたのだ。


「こうしてみると、体験したことも後から聞くとほんの1面であったりするんだよな」


自ら入念に調べてブログにしてきたおっさんである。

しかし、元々異世界の住人ではないので、その後どうなったのか、そもそもどういうことであったのか、あとから仲間達やフェステル伯爵などのおっさんに関わってきた人から聞くことはとても多かったのだ。



1か月ほど過ぎた1k8畳の賃貸マンションの一室である。

おっさんはコンビニで、レンジで温めて食べるタイプのおしるこの餅を頬張っている。

年が明けた1月であるのだ。


「王城はすごかったな。豪華絢爛というか。国王とも流れでダンジョン攻略を約束してしまったな。イリーナに聞いたけど、取り込もうと国王も必死なんだってな」


ヴィルスセン王国の国王との謁見の間でのやり取りを思い出す。

何とかして、王国に取り込もうとした国王であるのだ。

その国王と約束してからのウガルダンジョンの攻略だ。


「俺がダンジョン攻略するって国王に約束したときのウガル伯爵の怒りを、攻略の過程で知ったんだな。尊敬する父を小さいころ無くし、ウガル領と御家のために奮闘したウガル伯爵か」


自ら厳しく生きたウガル伯爵である。

その思いは今後セリムを追い詰めることになるのだ。

力がないと判断され、ウガル家を追い出されたセリムである。


「セリムに出会い、パメラやソドンにもこの時であったんだな。ダンジョンに通ったの10か月ほどだったっけ。ずいぶん長いこと通ったものだな」


1階層の広さがどんどん広くなるのだ。

おっさんのゲーム脳とコルネの鷹の目を駆使して下の階層を目指していくのである。

その後セリムが召喚術という才能に目覚め、攻略の手助けをしてくれるようになる。


人間関係も変わっていったことを思い出す。

最初はガルシオ獣王国の王族がなぜか奴隷商にいたと思ったおっさんである。

パメラやソドンも何カ月も通ううちに少しずつ心を開いてくれたな。

その後の冒険者ギルドで心を開いてくれたパメラから王族であることを教えてくれる。

さらに獣王武術大会で内戦の経緯を聞くことになる。


「なんか人から感謝されるってことなくてうれしかったな。セリムは家に戻れたし、これこそハッピーエンドだな」


ダンジョンコアを持って帰って称えられたおっさんである。

フェステルの街でも称えられたが、おっさんの具体的な活躍をフェステルの街の人が知ったのは、凱旋してしばらくしてからであるのだ。

王国のダンジョン攻略の記録を塗りかえ続けるクランのリーダーである。

ウガルダンジョンに関わるウガル家の騎士からも、冒険者からも、街の人からも盛大に感謝の声を浴びたおっさんである。

自分のブログネタのために行ったダンジョン攻略もここまで人の心を打ったのだ。


セリムのウガル家とのわだかまりも国王への報告の時に無事に解決した。

謁見の間でのセリムとウガル伯爵の一件は、マデロス宰相とウガル伯爵が話して決めたことである。

詳しい話は語られていないが、王家がウガル家の問題の解決に向けて動いたというのがおっさんとその仲間たちの共通の認識である。



2か月ほど過ぎた1k8畳の賃貸マンションの一室である。

まもなく職場は年度末だ。

今年度も終わる3月である。


「結婚式を盛大に行ってくれた王国には感謝だな。おかげで初めて親孝行した気がするぞ」


王国の王都で盛大に行ったイリーナとの結婚式だ。

王国では、結婚式で口づけをする文化はないことをこっそりロキが教えてくれたことを思い出すおっさんである。


「街作りも始まったばかりだな。キャンプ生活もなかなか悪くなかったし、俺って実はアウトドア派かもしれんな」


皆で真っ暗な中、川の流れを聞きながらこれからの街作りについて、獣王武術大会について話し合った3か月ほどの天空都市イリーナの開拓とロキとパメラの特訓生活である。


その後、100人規模の騎士や兵達の受入れが無事に終わったのだ。

まだ基礎の基礎を作ったばかりだ。

街作りはまさにこれからなのである。


「魔神や上位魔神を知ったのはこのときか。魔神は大っぴらに活動していないのか、この辺の情報はかなり少ないか」


イリーナは魔神狩りと呼ばれる剣聖を知っていたのだ。

魔神の存在は異世界に認知されているが、活動内容についてかなりの部分が未知のようだ。

それは戦い続けたカフヴァンも同様であり、何が目的に帝国に入り込んできたか分からないのだ。


1か月ほど過ぎた1k8畳の賃貸マンションの一室である。

まもなく職場の年度も変わる4月である。


「長かった。これで獣王武術大会から魔神との闘いまでの全て終わったぞ」


おっさんが1人パソコンを見ながらつぶやいたのだ。


「やっと更改(リライト)を全記事したぞ!!」


5か月前におっさんは死ぬ覚悟で上位魔神との闘いに挑もうとしたのだ。

そんなおっさんに、ちふるからのメッセージが届いた。


内容はとても短いものだった。



『リライトしてください。ブログ記事は新しい情報が入ったらリライトが基本です。ちふる』



おっさんはこれまで一度もブログ記事をリライトしてこなかった。


リライトとは、一度上げたブログを加筆修正することである。

ブログの情報は、投稿したあと変化することは多いのだ。

商品のお得なキャンペーンなら、時期が過ぎれば終わることになる。

法律や制度が変わって説明がおかしくなることもある。

紹介していた店が、移転したり、改装したり、廃業することもある。

一度上げたブログの情報が変化することは当たり前であるのだ。


魔法検証もゴブリンの巣の前でしたが、その後の魔法の検証を続けても内容を変更することなかった。

どこの街に行っても自分で調べた情報について、その後新たな発見があっても、誤りや不足の部分があってもブログ記事はそのままにしていたのだ。


おっさんは異世界に行って約500日の時間が過ぎたのだ。

その大半はおっさんの仲間達と共にいるのだ。

夜、焚火を囲んでたくさんのことを仲間達と語らってきた。

その時知った新たな情報もブログ記事の修正することはなかった。


早く新たな記事を上げて異世界に行きたいという理由もあったが、記事を上げたら上げっぱなしのままブログ記事である。


5か月ほどかけて169個あるブログ記事のすべてをリライトしたのだ。

新しいネタのブログ記事ではない。

しかし、記事によっては全体の8割が修正したものもある。

3000文字程度の記事が10000文字を超えたものもあるのだ。


さらに、ちふるのブログで写真の大切さを改めて学んだおっさんだ。

今まで怠ってきた仲間達によく似たイメージ画像のフリー素材を探し、ブログに張り付けた。

より臨場感を求めたのだ。


「イリーナやロキは金髪だし、コルネは茶髪なんですぐに見つかったけど、セリムの髪は青色だしな。見つけるの苦労したぜ」


各人にあったイメージ画像を必死に探したおっさんだ。

パメラとソドンは獣人のため、本人からまだまだイメージ画像が遠いなと思う。


リライトしても新ネタのブログほどのアクセス数がすぐに上がったわけではない。

しかし、全記事をリライトした結果、情報の鮮度が上がったのだ。

最終的なアクセス数は新ネタを上げた時に限りなく近づいたのだ。

半年かけたPVとASである。



PV:7938374

AS:1407901



「リライトしたら、PVの1割だったASが2割超えたぞ。アクセスユーザーの比率が2倍になったのか」


アクセス分析の画面を見ながら分析するおっさんである。

PVはそこまで増えなかったが、ASが倍に増えたのだ。

見やすく、詳しくリライトした結果と分析する。

お問合せフォームでは新たなブログ記事を求めるコメントが溢れている。


「PVとASを増やすためには新ネタのブログ記事起さないとな。さてスキルを取って異世界にブログ記事を取りに行くか」


・サンクチュアリ(固有) 500000ポイント【お勧め】

・体力支援魔法(仲間)Lv4 100000ポイント

・魔力支援魔法(仲間)Lv4 100000ポイント

・力支援魔法(仲間)Lv4 100000ポイント

・耐久力支援魔法(仲間)Lv4 100000ポイント

・素早さ支援魔法(仲間)Lv4 100000ポイント

・幸運力支援魔法(仲間)Lv4 100000ポイント

・気配察知Lv2 10ポイント

・気配察知Lv3 100ポイント

・気配察知Lv4 1000ポイント

・気配察知Lv5 10000ポイント

・物理耐性向上Lv1 1ポイント

・物理耐性向上Lv2 10ポイント

・物理耐性向上Lv3 100ポイント

・物理耐性向上Lv4 1000ポイント

・物理耐性向上Lv5 10000ポイント

・思考力加速Lv1 1000ポイント

・思考力加速Lv2 10000ポイント

・魔力発動加速Lv4 100000ポイント

・格闘Lv1 1ポイント

・格闘Lv2 10ポイント

・格闘Lv3 100ポイント

・格闘Lv4 1000ポイント

・格闘Lv5 10000ポイント

・魔闘術Lv1 100ポイント

・魔闘術Lv2 1000ポイント

・魔闘術Lv3 10000ポイント

・魔闘技Lv1 1000ポイント

・魔闘技Lv2 10000ポイント


「ふむ、がっつりASポイント取ってしまったな。あれほどの強さだ、スキルの取得の間もほとんどとれないだろう。必要なスキルは取っておかないとな」


おっさんが現実世界に戻って半年ほど過ぎたのだ。

その中で上位魔神を倒すためにスキルの考察をずっと続けていたのだ。


まずは自己主張があり、お勧めと表示されているある固有スキル『サンクチュアリ』である。

これは検索神が取得するよう誘導している可能性が高いため迷わず取得する。


仲間支援魔法も全てレベル4にする。

基礎ステータスはこれですべて5倍になるのだ。


物理耐性と気配察知を駆使して、攻撃を耐えつつ、なるべく避ける。


上位魔神の動きに頭がついていけないと困るので思考力も加速させる。

取得したスキルの検証も思考力加速で早めないと生死に関わると考えている。

異世界に行ったらすぐに上位魔神との闘いであるのだ。


魔法発動加速レベル4による必要発動時間は8割カットである。

10000ポイントで取得できる魔法なら4秒で発動できる。


ソドン達は地に伏している。

壁となる仲間はいないので近接戦闘は避けられない。

魔闘術、魔闘技を取得し近接戦闘に備えるのだ。

魔闘士クリフが使う魔闘術の発動時間が早かったのも取得した理由の1つである。

敵はかなり素早い。


NAME:ケイタ=フォン=ヤマダ

Lv:42

AGE:36

RANK:A(・)

HP:1720(支援8600)

SP:309(支援1545)

MP:1760(支援8800)

STR:348(支援1740)

VIT:512(支援2560)

DEX:512(支援2560)

INT:1700(支援8500)

LUC:532(支援2660)

・アクティブ:神聖【3】、火【4】、水【4】、氷【4】、風【5】、土【4】、回復【5】、治癒【4】、格闘【5】、魔闘術【3】、魔闘技【2】、魔抵解除【5】、物抵解除【5】、思考力加速【2】、収納【1】

・パッシブ:全ステータス【5】、物理耐性【5】、魔法耐性【4】、魔力消費低減【3】、魔力回復加速【2】、発動加速【4】、鷹の目【3】、魔力調整【3】、気配察知【5】,

・仲間:経験値上昇【2】、全ステータス支援【4】

・固有:サンクチュアリ


加護:検索神ククルの加護(大)


EXP:2227229981


PV:7938374

AS:141469


「お!『技』のつくスキルを取得したからSP表示が追加されたぞ。とうとう気力デビューだな」


ステータスを上から確認するおっさんである


「思考力加速は常時発動するパッシブではなく、アクティブスキルだったか。発動漏らさないように注意しないとな」


スキルを取得し、ステータス画面からスキルがどこに割り振られたかもう一度確認するおっさんである。

失敗は許されないのだ。


「上位魔神はこれでも俺のステータスの2倍から10倍くらいあるのか。まだ効果が分からない、サンクチュアリと魔闘技に期待だな」


画面を検索神のホーム画面に戻すおっさんである。

そこには叫ぶようにこっちを見るイリーナと倒れた仲間達が写っている。


「ごめん、またせたね。今から行くから」


扉アイコンをクリックするといつものメッセージが表示される。


『ブログ記事の投稿が確認できました。異世界にいきますか はい いいえ』


目をつぶり、深く呼吸するおっさんである。

この半年間を、そして上位魔神との闘いを思うのだ。


目を見開き、おっさんは『はい』をクリックしたのであった。

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