第63話 上位魔神戦①

おっさんをハルバートで串刺しにした上位魔神パルトロンである。

イリーナ達に向かってゆっくり歩みを進める。


歩みを進める先にはイリーナ、ロキ、ソドンがいるのだ。

その数十m後ろの闘技台と観客席の間に設けられた塀にぶつかったパメラがいる。


「さてと、使徒は殺したことだし、残りも掃除しないとね」


勝利を確信しており、最後のゴミ掃除のような感覚だ。


「き、きさま!!」


イリーナが立ち上がり剣を握りしめる。

おっさんが最後の力を振り絞って仲間達に回復魔法を掛けたのだ。

ロキもソドンも体力全快である。

パメラも全快だが、意識が戻らないようだ。


「ほう、あれだけの力を見せてまだ戦う意思があるのか。すごいね、何体か魔人用に持って帰らないといけないしね。君はどうだい?僕らのところに来る気はないかい?」


上位魔神から誘いを受けるイリーナである。


「そ、そんな話に乗ると思ったか!!」


やはりね残念だとため息を1つ、上位魔神がさらに距離を詰める。


「ほ、本当ですか?配下になったら力を得られるのですか?」


ロキは上位魔神の話に乗るようだ。


「な!?ロキ!目の前で主が殺されておいて配下になるというのか!貴様それでも騎士か!!」


イリーナがロキに対してすごい剣幕で怒るのだ。

闘技台の端で揉める2人である。

それを見てせせり笑う上位魔神だ。


「いいね、いいね。じゃあ殺し合って生き残った方を連れて行ってあげるよ」


その言葉を聞いて槍をイリーナに向けるロキである。


鎮まりかえる観客席である。

総司会ゴスティーニも、貴族席や一般席の観客も、冒険者達もこのやり取りを見ている。


このロキとイリーナのやり取りが茶番であることは誰が見ても分かるのだ。

ロキもイリーナも分かっている。

自分らに意識を集中させ、時間稼ぎをしているのだ。

息を飲むように闘技台の中央を見つめる観客達である。

ありえないという顔で、信じられないものも見る目で見つめている。



闘技台の中央で奇跡が起きているのだ。



心臓を巨大なハルバートで貫いたのだ。

あまりに大きな刃が闘技台に到達するまで突き刺したのだ。

背骨が力づくで絶たれる大きな音がしたのだ。

内蔵も大きく引き裂かれたのだ。

遠くから見てもはっきりとわかるほどの流血だ。

助かるはずがない。


おっさんがゆっくり音もなく立ち上がる。

時計が逆回転するかのように体の傷が再生していく。

引き裂かれた心臓は既に鼓動を再開している。

殴られ砕かれた骨も内蔵が見えていた腹も元通りである。

完全に完治したのだ。


漆黒の外套はもう跡形もない。

中に着ていたミスリルの鎧も数発殴られ、蹴り上げられたために砕けてしまった。

半裸のブサイクなおっさんが睨みを利かせている。

愛する妻を泣かせた者を両の目で捉えている。


おっさんが全快したことが分かったロキである。

ならばすることは1つしかない。

少しでも主のため隙を作るためにイリーナを攻撃するふりをして上位魔神に攻撃を仕掛けるのだ。

覚悟を込めて主にいただいた槍を握り締める。


「ロキありがとう、皆下がっていてくれ」


「「「な!!」」」


上位魔神パルトロンは絶句する。

確かに殺したはずなのに蘇生したのだ。


それ以上に絶句するおっさんの仲間達だ。

今なら不意打ちすることもできたのだ。

意識のすべてを自分らに向けさせたのだ。


そんなことは必要ないと言わんばかりに声を発したおっさんだ。

生きていることが上位魔神にばれてでもロキの玉砕を止めたおっさんである。


「へ!?なんで生きているのかな?」


傷が一切なく完治しているおっさんを上から下まで見る上位魔神だ。


「そりゃ、俺は死なないのさ。お前と違ってな」


はったりを言って、イリーナ達を見つめるおっさんだ。


「すまないけど、今からこの上位魔神を倒すから下がってて。セリム、コルネもだ」


皆に戦闘への参加不要というのだ。


そんな!と言おうとするコルネである。

セリムがコルネにおっさんの言うとおりにしようというのだ。

2人で観客席の方向に移動するのだ。


ゆっくりおっさんの方向に歩みを変える上位魔神である

いきなり襲い掛かるようなことはしない。


(やはりずいぶん慎重な性格のようだな)


心臓を貫いて死ななかったおっさんの様子を分析している。

魔神を使っておっさんの力を把握しようとした上位魔神は慎重な性格のようだ。


イリーナが、上位魔神が背を向けたため剣を握りしめる。

ロキがおっさんの言う通りにしましょうとイリーナの決意を遮るのだ。

ソドンとともに観客席に後退する。

パメラもソドンに抱えられ観客席まで連れていかれる。


紫の巨体も魔神ヴェルギノスも闘技台の上で灰になって消えたのだ。

闘技台にはおっさんと上位魔神パルトロンだけしかいない。

闘技台の中央にたたずむ上位魔神とおっさんだ。

審判も司会者もいないが、まるで2人の闘士がこれから戦いをするようだった。

まだ5万人近くいる観客はこれから何が起こるのか様子を伺っている。


紫の巨体である魔人出現時から退避命令はでているのだが、結末を見守りたい貴族や観客や冒険者が見守っている。

他国からの要人は何事であるかと、命を懸けて情報収集しようとしている。

運営担当者が必死に避難するよう伝えるのに無視を続けている。


頭が冴えて、上位魔神を見ながら闘技場全体が見えるおっさんである。


(すごいな、頭がすごい勢いで回転するぞ。思考速度が何倍にもなった気がするな。有能だな思考力加速は)


おっさんは上位魔神と目の前で対峙する中、取得したスキルの分析を続けている。

仲間支援魔法は全てレベル4で掛け直し、思考力加速レベル2も発動したのだ。


(取得したスキルは多いぞ。優先順位を決めてさくさくと、大まかな効果を判断しないとな。まずはサンクチュアリだ)


「サンクチュアリ」


「!?」


上位魔神が驚く中、固有スキル『サンクチュアリ』を発動したのだ。

光の泡がおっさんの体から発生しだす。

ぽこぽこと光る泡がおっさんの体表からどんどん現れ、上空に舞い、そして消えていくのだ。

イリーナ、ロキ、コルネ、セリム、パメラ、ソドンからも現れる。

おっさんの仲間達が自らの体に沸く泡に両手を見ながら驚愕する。


(ん?今消費した魔力が回復しているな。ステータスには変化ないけど?まじで?ちょっと死んじゃうんだけど。どの辺がお勧めなのん。他の人も同じか?)


タブレットで自らのステータスを見るが一切変化のない固有スキル『サンクチュアリ』である。

魔力が仲間支援魔法と思考力加速を使って減った分が回復していくのだ。

魔力を回復するスキルなのかとセリムのステータスを確認するおっさんだ。


(ふぁ?体力と魔力がすごい勢いで回復しているんだけど!体力と魔力を回復させる効果があるのか?ロキは?ロキは気力まで回復しているぞ)


おっさんの中でサンクチュアリの効果はこのようになった。

・体力1秒に1%ずつ回復

・気力と魔力は1秒に10ずつ回復

・効果範囲はおっさんと仲間機能で仲間にした者に限る


(ふむふむ、ステータスをビーストモードのように数倍にしてくれたらよかったんだけど。そういうわけにはいかないのか。回復専門のスキルだったのね)


「いったい何をしているのかな?」


上位魔神を置いてけぼりにしてスキルの検証をしているおっさんである。

一体何をしているのかと聞かれるのだ。


「え?お前を倒す魔法を掛けているけど?」


「え!?」


「そういえば、さっき『僕らのところに』って言ってたけど他に魔神はたくさんいるということか?どこにどれだけの魔神がいるか教えてもらえる?」


「もちろんだけど、そんなこと聞いてどうするんだい?君はここで僕に殺されるんだよ?」


「敵認定でいきなり襲ってくるんだろ?お前を倒したら次はそっちにいかないとな。お前を倒す前に聞いておかないと困るだろ?」


「面白い冗談だよ。君は笑いの素質があるね。使徒って皆こんなに面白かったのかな!あははは!!」


「そうだな、お前なら面白い話が書けそうだ。お前は俺のブログのネタになれ、上位魔神パルトロンよ」


「ほう、僕も食べる気か、悪食だね。ずいぶんな力の差を見せたつもりなんだけど」


会話をしながらも全身に意識を集中させ、他のスキルの分析を進めるおっさんである。

ただの時間稼ぎだ。

このまま戦いが始まってもおっさんの死が確定する。

目の前の相手はおっさんのステータスの2倍から10倍あるのだ。

取得したスキルの分析は必要不可欠なのだ。

短時間で大まかなスキルの効果を把握する必要があるのだ。


(時間はないからな。ASポイントの高いスキルから調べないとな。次は魔闘技か。Lv1はって、うお!?)


魔闘技Lv1を使おうとするとタブレットの画面がいきなり変わったのだ。

タブレットのスキル欄を見て驚愕するおっさんである。


『魔闘技Lv1の効果を2つお選びください。選択後、再選択は不可ですのでご注意ください』

・魔闘拳Lv1

・HP:3倍

・MP:3倍

・STR:3倍

・VIT:3倍

・DEX:3倍

・INT:3倍

・LUC:3倍


(じゃあ、魔闘技Lv2はと)


『魔闘技Lv2の効果を1つお選びください。選択後、再選択は不可ですのでご注意ください』

・魔闘拳Lv2

・HP:4倍

・MP:4倍

・STR:4倍

・VIT:4倍

・DEX:4倍

・INT:4倍

・LUC:4倍


(なるほど、分かった気がするぞ。カフヴァンのスキルがたくさん使えて、ロキやパメラのスキルが少なかった理由もな)


ここにきて『技』のスキル効果の検証結果がでたようだ。

カフヴァンから初めて天空都市イリーナで気力の存在を聞いたおっさんである。

その後、獣王武術大会で闘士達がスキルを使用してきて、スキル効果の法則を必死に分析してきたのだ。

思考力を加速させ1つの答えを導き出す。


(ふむ、残り14万のASポイントか。これなら10万使って魔闘技レベル3を取得する1択だな)


・魔闘技Lv3 100000ポイント


ためらわず10万ポイントで取得できる最後のスキルを取得するのだ。

その結果、タブレットの魔闘技の画面に変更がある。

魔闘技Lv1は取得上限が2つから3つに増える。

魔闘技Lv2は取得上限が1つから2つに増える

魔闘技Lv3は選択肢が新たに表示され1つ選べるようになる。

魔闘技Lv3は各ステータス5倍もしくは魔闘拳である。


(よしよし予想通り。一番高いスキルレベルは1つの効果を選択できて、それ以降に1つずつ増えていく感じか。これ以上のことは戦いながらじゃないと分からないな。再選択不可だし、どれを選択するかは戦いながら決めるか)


おっさんは魔闘技を1つも選択せずに構えるのだ。

格闘Lv5が発動しており、体が自然の闘いの構えになる。

体の動きだけなら拳聖の域に達しているのだ。

一気に殴りにかかるおっさんである。


「なんだ?魔導士が構えて何の真似かな?そんな攻撃受けると思ったのかな」


予想だにしないサンクチュアリによる光の泡の現象である。

元々慎重な性格であったが、その実はあくびが出るほど遅い攻撃であったのだ。


軽くかわし、ハルバートを振るうのだ。


(やはり躱されたかって!おお!感じるぞ!相手はものすごい早さだな。右から水平にハルバートが振るわれるぞ。た、耐えられるよね。オリハルコンだけど)


格闘Lv5、気配察知Lv5、思考力加速Lv2が自身の5倍以上の速さで攻撃する動きを感じさせてくれる。

無意識に右腕で防ごうとするのだ。


ハルバートが高速で向かってくる。

右腕が砕けてあらぬ方向に曲がるのだ。

その場に立っていられず、吹き飛ばされるおっさんである。

数十m吹き飛ばされる。


「ケイタアアアアアアアアア!!!」


イリーナと叫び声が聞こえる。

体を回転させ、バランスを取りながら即座に立ち上がるおっさんである。

前回攻撃を受けた時と違って、意識ははっきりしている。


(ダメージ1500くらいか。ダメージがあほみたいに下がっているな。物理耐性向上だけでこんなに下がるのか?ん?もしかしてサンクチュアリにダメージ軽減効果もあるかもな。なるほど、まあ、くそ痛いけど。ゆ、ゆるさぬ!)


初めて殴られたときはブラックドラゴンの外套、ミスリルの鎧を着て3000以上のダメージを受けたおっさんである。

上位魔神はハルバートを持っておらず素手であったのだ。

防具や上位魔神の武器も持っていることも鑑みるとダメージが3分の1くらいまで下がっているのではと考えたようだ。


このダメージ軽減が物理耐性向上だけでなくサンクチュアリによるダメージ軽減の効果もあると予想する。


腕がサンクチュアリの効果で再生していく。


(パルトロンが速すぎてまったく当たらないな、素早さは4倍かな。魔闘術で殴ってみるか)


サンクチュアリと魔闘技の効果が大体分かったので、次々にスキルを検証するおっさんである。


おっさんの体から蒸気か湯気のようなものが発生する。

魔闘技Lv2は素早さ4倍を選択し発動させたのだ。


おっさんの左拳が輝き出す。

魔闘術Lv3により神聖魔法Lv3が込められているのだ。

おっさんの右拳が凍りだす。

魔闘術Lv3により氷魔法Lv3が込められているのだ。


「拳が白く輝いているぞ!」

「ま、魔闘術だ!!」

「魔闘士クリフの技を使っているぞ!」


どこかで観客の声が聞こえる。

すぐに魔闘士クリフと同じ魔闘術と分かったようだ。


一気に加速し迫るおっさんである。

虚を突かれ、拳が初めて上位魔神パルトロンにぶつかるのだ。

上位魔神は右腕で防ぐのだ。


「む?何だい?その速さは?」


「お前が言ったとおりのことが起きているんだ、上位魔神パルトロン」


神聖魔法の影響でシュウシュウと音が出る。

どうやら神聖魔法の効果もありダメージを受けているようだ。

しかし、自然回復の効果があるのか傷は再生していく。


「え?何のことだい?何を言っているのか分からないんだけど?」


「使徒は成長するって言ってただろ?今成長したんだよ。お前を倒せるようにな」


さらに魔闘術の大まかな分析も終わるのだ。

おっさんの中で魔闘術の効果はこのようになった。

・拳に貯めるには魔法発動時間分の時間を要する

・神聖魔法Lv3を拳に込めるなら4秒である

・両拳に同時に魔闘術(神聖と氷)を込めても4秒

・殴ったら効果が発動し拳から魔闘術は消える


(なるほど、ずいぶん便利だな。近距離なら魔闘術、遠距離なら魔法か。足にも魔闘術乗せれるかな?む?足は無理なのか)


近づき、蹴り上げようとするおっさんである。


「ふむ、雑魚だと思っていたが使徒は使徒か。やはり確実に殺さないとね」


どうやら、おっさんがあれこれスキルを試す状況で、これ以上様子を見ることは良くないと判断したようだ。

上位魔神がはっきりと殺意を持っておっさんを殺しにかかるのだ。


おっさんの魔闘技Lv2による素早さ4倍より、上位魔神の方が素早いのだ。

体術Lv5のおっさんの足を悠々と受け止める。


そのまま魔神も足さばきを見せ、おっさんを蹴り上げる。

攻撃を防がれた上に、上位魔神の攻撃を受け吹き飛ばされる。


蹴り上げたのと同時に上位魔神がおっさんに接近し追撃をかけるのだ。

立ち上がろうとするおっさんの顔面を魔神が片足で叩き潰す。


ズウウウウウウウン


闘技台が会場ごと揺れるほどの力で叩きつけられるおっさんである。

観客達からも悲鳴が聞こえる。

闘技場が大きく揺れたのだ。

亀裂が入る闘技台である。


ズウウウウウウウン


さらに、足に渾身の力を込め、おっさんの顔面を踏みしだく。

1辺1mの闘技台として敷かれた1トンを超える重さの石が波打つのだ。


ズウウウウウウウン


ズウウウウウウウン


どうやら、おっさんが心臓を刺しても死ななかったため、頭を潰し確実に殺そうとしているようだ。


何度も頭を叩き潰そうとしたため、厚さ1m縦横200mの闘技台に上下左右に亀裂が入る。

巨大な闘技台が完全に割れたのだ。

おっさんの上半身が闘技台に深くめりこむのだ。


観客達が絶望する。

あまりにも強力な一撃である。

やはり無理だったのかと、頭部が闘技台に陥没したおっさんを見るのだ。


「ケイタアアアアアアアアアアアアアアア」


誰もが絶望する中、イリーナが塀を乗り越えて向かって来ようとするのだ。

それを見て、上位魔神パルトロンがため息をついて呟くのだ。


「もう、順番を守ってほしいね。使徒を殺したら次に殺してあげるって言ってるんだけど」


ぐっしょりとおっさんの血が付いた足をもう一度上げる。

イリーナを見ながら余裕をもって踏み降ろすのだ。

上位魔神の油断を、瞼を失ったおっさんの目が捉えているのだ。


一気におっさんの顔面に踏み降ろす。


ゴギャッ


骨が砕かれる不気味な音がする。


「「な!?」」


イリーナが絶句する。

そして、上位魔神パルトロンも絶句するのだ。


踏みしだく足と反対の足が不自然に曲がっているのだ。

上位魔神の太ももがどうやら砕けたようだ。


「ば!馬鹿な」


踏みつぶされている中、魔闘技Lv1の選択肢を魔闘拳にしたようだ。

魔闘術以上の輝きを見せるおっさんの拳である。

両手に魔闘拳Lv1を籠め、上位魔神の片足を殴り折ったのだ。


軸としていた方の足を砕かれて体勢を崩す上位魔神である。

そんな驚きもあって、体勢を戻そうと意識が足に集中するのだ。


瞬時に体を起こし、魔闘拳Lv1を上位魔神に叩きこむおっさんである。


「シャイニングナックル!!!」


掛け声とともに、上位魔神の胸元に吸い込まれるおっさんの拳。

思わずハルバートも放り投げ、両手を交差して防ごうとする上位魔神である。

片足を砕かれ、この輝く拳を脅威に感じたようだ。

おっさんの輝く拳が、上位魔神の両手をへし折り、さらに体にめり込む。

血反吐を出しながら吹き飛ばされる上位魔神である。


「ぐはっ!!!」


何だこの威力はと驚愕する上位魔神である。

急いで自らの体を再生していくようだ。


(魔闘技Lv1は魔闘術Lv3の3倍くらいか。それにしても、素早さは上位魔神の方が上か、その上俺と違って足も使えて、回復速度も半端ないのか。楽には勝てそうにないな)


3割弱にまで削られた体力を、回復魔法Lv4をかけ完全回復させる。

顔面の皮も再生していく。


イリーナを再度見つめるおっさんである。

イリーナもおっさんの視線に気付くのだ。

そして、大きな声で叫ぶのだ。


「俺はこんなステータスだけの敵に負けたりはしない!」


だから心配せずに観客席にいてほしいと願うおっさんである。

どうやらイリーナもその真意が分かったようだ。

声を出さず分かったと言って視線を送る。


「おい、上位魔神パルトロン。自らの力を恨むんだな、これは長期戦になるぞ」


「ぐっ、ふざけているね!」


おっさんが上位魔神に向かっていくのだ。

もう上位魔神パルトロンに余裕の顔はない。

拳を上げ、戦いの構えをするのだ。

おっさんと上位魔神パルトロンの激戦が始まったのだ。




そして、2時間が経過したのだ。


「ふはははは、やっと力尽きたか!!」


はあはあ息の切れた上位魔神である。

上位魔神の前には天を仰ぎ、横たわる半裸のおっさんがいた。

全身を打ち付け、サンクチュアリの効果は切れていないが、気力も魔力が底をついたのだ。


不安そうに見つめる観客達である。

しかし、始まったばかりの不安さはないようだ。

1時間前も同じような状況があったからである。


おっさんはタブレットの画面を開く。

検索神サイトの『大』アイコンを視線で操作する。


・レベル1アップ【上限8】 PV1000000ポイント


おっさんのレベルが44に上がるのだ。

光に包まれ、体力、魔力、気力が全快するのだ。

ゆっくり立ち上がるおっさんである。


(これで特典のレベルアップ2回目っと)


「さあ、戦いを続けるぞ!」


「ま、またか!馬鹿な!?君は不死身かい?」


おっさんの変化が良く分かったようだ。

完全に回復したおっさんを見て驚愕する上位魔神である。

そして、やはりまた同じことが起きるのかという表情でみる観客達である。


おっさんと上位魔神との闘いはまだまだ終わらないのであった。

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