第46話 固有スキル
「医務室に行きましょう!」
「うむ、急ぐである」
2時間フルに戦い抜いたパメラである。
ソドンは涙しながらも、拳を膝の上で握りしめ、必死に応援をしていたのであった。
勝利の宣言と共に、闘技台の上で倒れたパメラだ。
タンカに乗せられ運営担当者に運ばれていく。
どこにあるか分からない医務室だ。
カロンと試合して医務室に運ばれたブレインに案内させ向かうのだ。
おっさんらが医務室に入ると奥に寝かされたパメラを見つける。
木でしかできていない簡易なベッドだ。
救護班の運営担当者から回復魔法が必要か尋ねられる。
不要と言って金貨3枚を渡すのだ。
「ヒールオール」
黄金の魔法陣が発生し、全身の傷とあざが消えていく。
ものの数秒で完治するパメラである。
「ケイタか?」
意識も回復したようだ。
おっさんの魔法をみて腰を抜かす運営担当者たち。
パメラに話があると言って運営担当者たちを部屋から出すのである。
「パメラ様、やりましたでございますね。立派な戦いでした。父上もきっと喜んでおいでです!!」
「うむ」
ソドンがパメラのベッドの横で膝をついて泣き崩れる。
「………」
ブレインが異様な状況であることが分かったようだ。
少なくとも平民でも冒険者でもない。
このソドンとの会話だけでパメラとソドンの2人は貴族であることが分かったようだ。
「ブレイン、今回どうしても我々は勝たないといけないのです。そして、私たちのことは黙っていていただけませんか?」
「ん?」
「必要であれば、追加報酬を払います」
「ん?いらねえよ。黙っているさ。だけど、この部屋にいてもいいか?」
「それはかまいません」
犬の獣人は好奇心が強いようだ。
おっさんがいるレストランに押し掛けただけのことはある。
「ケイタ」
もう一度おっさんに話しかけるパメラである。
「なんでしょう?」
「カロンと戦ってから体が変なのだ。体から力がみなぎってきたのだ。今も何かすごい違和感があるぞ?余はどうなったのだ?」
「待ってください」
タブレットでパメラのステータスを確認するおっさんである。
(気力が完全に尽きている件について。ふぁ?ステータスが全体的に少し上がってる?なんで?レベルは変わらないよね?)
おっさんが上から順にステータスを確認していく。
「ぶっ」
大いに噴き出すおっさんである。
「「「ぶ?」」」
(まじかよ?やばい?いや、やべーよ。固有って固有スキルのことだよね?その下にとんでもない表示がある件について。やっぱりブレインにはお暇を、今は大事な時期だし)
チラっとブレインを見るおっさんである。
「出ていかねーぞ」
ブレインは出ていかないようだ。
「分かりました。ただ詳しい説明はできかねますので、それだけご了承してください。私たちにしか分からない会話になるかもしれません」
「ああ、それは仕方ないな」
ブレインも分かっているのだ。
冒険者の集まりであるクランには、クランの中でしか理解できない、暗号や隠語を使うなんて当たり前であることである。
クランだけでの作戦や狩場など隠しておきたいことはたくさんあるのだ。
おっさんらが闘技場の観客席で話している会話もずいぶん隠語が多いなと思っているブレインである。
「ありがとうございます。それでパメラ、たしかにスキルが成長しています。拳技はレベル2に、気配察知もレベル2になっています。あれだけの激戦の結果だと思います」
「そうか、よかった。あと2試合だからな。少しは有利になったということだな」
目をつぶり感無量のパメラである。
ソドンも良かった良かったと思うのだ。
「しかし、いえ、どうしましょう。ここからの話ですが、私は獣人ではないので、軽はずみな言い方になったらすいません」
「ん?なんでそうなるであるか?」
疲れているパメラに代わりソドンが答える。
パメラは目だけでおっさんを見ている。
おっさんもなるべくソドンに話しかけるのだ。
「私の予想ですが、カロンさんはどうもただ者ではなかったようです」
「ん?拳聖であるからな」
「そうではなくて、獣人に力を与えられる何かだったと思います。少なくともあの試合、カロンさんにとって勝利はたやすかったように気がしますので。もしかして、勝利以外にすべきことがあったのかもしれません」
「今日はずいぶん回りくどいであるな。パメラ様のお体もあるので、できれば手短に説明してほしいのだが」
おっさんの話は基本的に回りくどいのだ。
直接的に言えば角が立つ現代社会の荒波で育ったためである。
「えっと、パメラに加護がついています。獣神リガド様の加護です。体の違和感は加護の効果だと思います。そして、特別なスキルにも目覚めたようです。恐らく試合の最後に一瞬光ったものだと思います」
「「「な!?」」」
NAME:パルメリアート=ヴァン=ガルシオ
Lv:38
AGE:20
HP:521/521
MP:0/0
SP:0/245
STR:912
VIT:169
DEX:845
INT:0
LUC:210
アクティブ:格闘【4】、拳技【2】
パッシブ:礼儀【3】、算術【1】、交渉【1】、力【2】、素早さ【2】、気配察知【2】
固有:ビーストモード
加護:獣神リガドの加護(極小)
EXP:720273888
タブレットをパメラに見せるおっさんである。
パメラの仮面から涙がこぼれていく。
「そ、そうか。余がリガド様に…」
これ以上の言葉はないようだ。
ソドンがタブレットを見て固まるのだ。
ブレインがまじかよって顔をしている。
「まもなく次の試合があります。次の試合の勝者がパメラの対戦者です。ソドンは、パメラを見てあげていてください。一度ホテルに戻っていただいてもかまいません。次の試合に向けて気力を回復させないといけませんので」
おっさんが今からについて話をする。
武術大会は終わっていないのだ。
気力の回復には6時間の完全安静期間を必要とする。
9時に始まった武術大会も、今は11時過ぎである。
できれば、夕方以降に固有スキルの検証をしておきたいのだ。
「あい分かった。ここでは休めないので、ホテルに戻るとするである」
「では、観客席に戻って従者に馬車の手配をお願いしに行きますので、ここでお待ちください。私達は観客席に戻って、次の対戦者の攻略方法を考えたいと思います」
皆頷くのだ。
ソドンを残し、医務室を後にするおっさんらである。
1階の広間で第2試合の時間を確認して、観客席に戻るおっさんらである。
従者達に馬車の準備と医務室の場所を伝える。
次の試合を観客席の獣人達が待っている。
先ほどのパメラとカロンの激戦についての話で持ち切りのようだ。
(30分も気を失っていたパメラの勝利については、否定的な感じはしないな。それを許したのはカロンだからとかそんな感じか)
次の試合まで時間があるようだ。
従者達が持ってきたサンドイッチとドリンクを飲みながら固有スキルについて考える。
(そうだな。アクティブスキルとパッシブスキルだけではないよな。固有スキルもあって当然か、異世界だもの。固有ってことは人によって取得できないってことか?俺だと獣人じゃないからパメラのスキル覚えれないよね?)
タブレットでパメラが覚えた固有スキルを検索してみる。
タブレットの画面に注意メッセージの小窓が表示される。
『検索したスキルは固有スキルです。現在、総PVポイントが足りないため、取得できません。それでも検索を続けますか? はい いいえ』
(ふぁ?あるの?はいっとな)
『はい』をタップするおっさんだ。
・ビーストモード(固有) 1000000ポイント【取得済】
「ふぁ?100万ポイント!!」
「「「え?」」」
おっさんのタブレットに仲間達が集まってくる。
「どうしたのですか?魔導士様」
コルネが心配して話しかけてくる。
「いえ、パメラの手に入れたスキルを調べていただけです。脅かせてしまいましたね」
皆に問題ないですよというおっさんだ。
(まじか?100万ポイントもするのね?それにしても取得済みって取得したのはパメラなんだけど?仲間で1つまでってこと?固有って単語で検索してみるか)
おっさんが、今度は『固有』という単語で検索をかけてみる。
さっきと同じく、固有スキルはまだ取得できませんという注意メッセージが表示される。
そのまま検索を進めるのだ。
画面に固有スキルが無数に表示される。
(うは!!まじか!!!ワクテカが止まらぬ!!!異世界きてよかったで)
心の中で悶絶するブサイクなおっさんである。
タブレットを持つ手が過去にないほどワナワナとしている。
・サンクチュアリ(固有) 500000ポイント【お勧め】
・ビーストモード(固有) 1000000ポイント【取得済】
・アンリミテッド(固有) 1000000ポイント【未取得】
・オーバーキル(固有) 1000000ポイント【未取得】
・パラディンシールド(固有) 1000000ポイント【未取得】
・神切剣(固有) 1000000ポイント【未取得】
・ドラグーンランス(固有) 1000000ポイント【未取得】
・神獣召喚(固有) 1000000ポイント【未取得】
・神眼(固有) 1000000ポイント【未取得】
・クリエイトマジック(固有) 1000000ポイント【未取得】
・異界転送(固有) 1000000ポイント【未取得】
(なんかサンクチュアリが自己主張しているな。1つだけ50万ポイントか。これでも少なく見えるな。まだASポイント20万ポイントしかないんだけど。さて、固有スキルについては今後考えるとしよう。そろそろ、パメラの対戦相手に集中しないとな)
対戦相手の情報は前日までに集めないと、当日聞いても対処のしようがないのだ。
対戦相手のスキルや技能を元に、ロキやパメラの戦法を伝授するのである。
なお、カロンはどうにもならないくらい強くて良いアドバイスはできなかったのである。
ヨボヨボのじいちゃんなので殴れば勝てるかもしれない程度のアドバイスにとどまったのだ。
「ちょっと試合が始まる前にトイレに行っていきます」
そういって武術大会の会場に設けられたトイレに用を足しに行くおっさんである。
(お?ラッキー誰もいないぞ。あんまり混んでるとトイレしにくいんだよな)
異世界のトイレは外套も鎧もあって結構面倒であったりする。
顔を見られたくないというのもある。
個室ではないのだ。
1列に10個ほど用を足すトイレが設置されているが誰もいない。
一番奥に行くおっさんである。
立って用を足すスタイルだ。
鎧を脱いで用をしていると、隣にヨボヨボのじいさんやってくる。
他は全て空いているのに、わざわざおっさんの隣まできて用を足すようだ。
「ふう、最近の若い者は、年長者に対する思いやりというものがないの。思いっきり殴りおってからに」
どこかで聞いたことがある声がする。
さっきまでパメラと戦っていた対戦相手の声だ。
総司会ゴスティーニが使うマイクは声色を変更せずに、観客席に届ける。
闘技台にいるロキの声を観客席で聞いて確認済みなのだ。
おっさんの隣で用を足すカロンである。
「さきほどはありがとうございました」
ボコボコにされたが、結果的にスキルや加護が手に入ってパメラが強くなったのでお礼を言うおっさんである。
「はて?何のことかの?」
「お陰で優勝の可能性も大きくなりました」
「ふむ、まあガルシオのクソガ…、小童も苦労したが、あのお嬢ちゃんも大概じゃな」
(クソガキと言いそうになった件について。おじいちゃんおいくつですか?そういえば英雄をたくさん見てきたと言ってたな)
「不器用な方なので」
「ふむ、まあ困ったときは人の話はよく聞くことじゃな。まあ、それはお主もそうじゃぞ」
「へ?」
パメラからおっさんに話題が変わったことに反応する。
「まあ、それを言い来たのじゃ。たしかに、頼まれたことは伝えたのじゃ、ほいじゃあの」
(そういえば、本戦の開会式でも友人に頼まれて出場って言ってたな)
「え?誰に頼まれたのですか?お名前を聞いてもいいですか?」
「む?わしらは名前で呼び合わないからの。何て名前と、おお!これもあったのじゃ!」
何かを思い出したカロンである。
「え?何ですか?」
「名前をくれてありがとうと喜んでおったぞ!」
「へ?」
おっさんが驚いて隣のトイレを見る。
しかし、誰か知らない獣人と目が合うのだ。
急にこっちを見て何だよという視線を送られるおっさんである。
そこには誰か分からない獣人達が全てのトイレを埋めている。
当然である、まもなく試合なのだ。
試合前のトイレは混み合う。
もともと2人しかいなかったわけではなかったようだ。
カロンはと探すがどこにもいない。
もしかして、試合前のごった返したトイレで、1人でぶつぶつ言っていたのかと思うおっさんであった。
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