第33話 パメラ夢を見る①

ガタガタ


ガタガタ



(ん?ここは?余は何をしているんだ?馬車の中?)


パメラが寝ぼけ眼であたりを見回し現状を理解しようとする。

豪華な馬車の中である。

護身用に窓のない馬車だ。

外は見えない。

音から察するに前方にも後方にも馬車が走り、馬車の壁の向こうには騎乗した騎士が並走していることが分かる。

馬車の一団の中にいるようだ。


「まもなく王都ですね」


「そうだな、レミリア。長い旅もこれで終わりだな」


(ん?何だ?余は勝手にしゃべったぞ?この子は?たしか…)


「さすがパメラ様です。王国との大切な会議をまとめるなんて。帰ったらやはり獣王太子になられるんですよね?」


「まさか、何を言っている?長兄を差し置いて余が獣王太子になることなどないわ」


何を冗談をと流すパメラである。

パメラとの意識とは裏腹に、目の前の獣人と会話を続けるようだ。


「え~、王国との会議は次期獣王である獣王太子が行くことが習わしじゃないですか。今回は獣王太子がいないから、パメラ様が選ばれたということでしょ。皆そう思っていますよ」


(そうだ、目の前に座っているのは私の従妹のレミリアだ。王国との湖畔の会議の帰りということは、そうか余は夢を見ているんだな)


「次期獣王太子が決まるのも、まだまだこれからよ。あまり滅多なこというものでないぞ、獣王は健在であるからな。それに皆が会議の話を進めてくれたからだ。余は座っていただけのお飾りよ」


「何を言っているんですか。王国における税制の緩和について、ガニメアス国王や王国の大臣とあんなに議論をしていたじゃないですか。競りも非課税になって、大臣達も喜んでいましたよ!さすがパメラ様です!!」


「だから…。それも大臣達との事前の打ち合わせができていたからだ。それと、パメラはよせ。余をパメラと呼ぶのはお前だけだぞ」


「え~パメラ様はパメラ様ですよ。それにしても成人してすぐに王国との大事な会議へ行くことを命じられるなんて、獣王の期待も大きいですね!」


(懐かしいな、レミリアとは子供のころからずっと一緒だったな。お互いが決めた愛称で呼ぶのは大人になっても変わらなかったな)


「兄上に比べたらまだまだよ。兄上は去年、獣王武術大会に優勝したのだぞ。やはり、獣王になるものは強くなければならないからな」


「え~、獣王が戦場に出るわけじゃないですか~。パメラ様みたいに他国との外交ができるしっかりとした方じゃないと。皆そう思っていますよ」


「だから、余がって、ん?」


「どうしたのですか?パメラ様」


「いや前の方が騒がしいな。何かあったかもしれぬぞ」


パメラが馬車の外の状況に気付いたようだ。

叫ぶような大声が聞こえる。

びくっと震えるレミリアである。


「え?ば、馬車が止まってしまいましたね。どうしたんでしょう?」


レミリアが不安な顔をしながら困惑している。

馬車の一団の前方から聞こえる喧噪が騒ぎになっていく。

王族として馬車の扉を開くことはせずに、経過を静かに待つ。

そして、騒ぎが収まり歩いて近づいて来る者達。


(そうだな、余が長兄を差し置いて王国との会議に出たからだ。そのせいで…、そのせいで…)


「パルメリアート様!失礼します!!」


近づいてきたものから声が聞こえる。

馬車の扉は閉まっているが、今までずっと聞いていた声だ。

親衛隊長のソドンの声だ。

声色から非常事態が伝わるパメラだ。


「なぜ馬車を停めた?いかがした?」


「長兄レオルフレイド=ヴァン=ガルシオが謀反を起こしました!王都も陥落したとのことです!!」


「「な!」」


パメラもレミリアも驚愕する。


「父上は?母上はどうしたのだ?無事なのだろうな!!」


扉を開け、ソドンを見るパメラである。

そのソドンの後ろには、まだ矢が何本も刺さった騎士達が数名いる。

皆見たことある騎士達だ。

王都に残った親衛隊の騎士達だ。

数十人はいたはずなのに数名しかいない。

パメラに王都の状況を伝えるために、命懸けで王都から逃げてきたようだ。


「獣王ライオルガ=ヴァン=ガルシオは玉座の間で討ち死に。パルメリアート様の母上は捕らえられたとのことです」


「そ、そんな。ち、父上、母上、な、何をしている、早く王都に戻らなくては!」


「なりません。まもなくここにも追手が来るでしょう。ここから我がファルマン侯爵領に撤退し、軍を集めます。な、何をしている!動けぬ者は馬車に乗せよ!さっさと馬車を動かさぬか!!敵は近いぞ!!!」


ソドンの怒号とともに行き先が獣王国の王都からファルマン侯爵領に変わるようだ。

パメラが王都に戻れと何度も叫ぶが一切聞かないソドンである。



ホテルの一室で目覚めるパメラである。

何度も見た内乱の始まりの夢をまた見たなと思うのだ。


「そうか、4年、違うな、もう5年になるのか。5年も王都には戻ってないんだな。結局王都に戻れたのはケイタのおかげか」


ホテルの一室で服を着替えるパメラだ。

今日はおっさんの発案のため、王都に出かける日なのだ。





・・・・・・・・・


招待券を持って武術大会の闘技場に申し込みをした5日後である。

大会まで3日だ。


「今日は皆で装備を取りに行きましょう!」


ホテルのレストランでおっさんが高らかに宣言をするのだ。


「そうであるな」


ソドンが返事をしてくれる。

おっさんらは5日間、獣王国の王都を散策したのだ。


【ブログネタメモ帳】

・夢の新婚旅行 ~獣王国の王都~


もともと新婚旅行ということもあるので、イリーナとの思い出作りでもあるのだ。

どこにいってもおっさんの漆黒の外套が目につくようだ。

どうやら王国からの挑戦者的な謳い文句で武術大会の参加者を募りまくったらしい。

そんなことは気にせず王都をうろつくのだが、パメラとソドンは部屋でなるべく待機したのである。

2人を知っている人に見つかって、兄とのけじめをつけることができなくなったらまずいからである。

今日は予約した装備品を受け取りに行くのだ。


従者が馬車で送ってくれて、大通りにある防具屋に入る。

山羊の獣人が寄ってくるのだ。


「これは、これはケイタ様お待ちしておりました。装備はできておりますよ」


おっさんが頼んでいたものができたらしい。

パメラ、ソドン、おっさん、セリムがそれぞれの担当者に連れられて装備を試着する。


セリムが、一番に試着が終わり出てくる。

次におっさんである。


「セリム、似合ってますよ」


「ケイタに言われてもうれしくないけどな」


セリムは王都でMP自然回復する装備を探していたのだ。

王都になかったので、獣王国にあるかなとお店の人に聞いたらあったのだ。

なんでもグレイトバットという獣王国のとある洞窟にいる蝙蝠の皮膜が使われているらしい。

効果もそうだがセリムの青色の髪と合っていたのでそれにしたのだ。


グレイトバットのポンチョ

白金貨20枚 色は青 魔法・ブレス耐性大 魔力回復加速


高山にいそうな格好に変わったセリムである。


なお、おっさんはミスリルの鎧を買ったのだ。

値段は白金貨3枚ほど。

薄くて軽く丈夫なので外套の中の装備に適しているミスリルである。

ウガルダンジョンのダンジョンコア戦で壊れた鎧を新調してこなかったのだ。

外套もボロボロになったが鎧も壊れたのだ。

収束魔法の威力が伺える。

外套だけでもかなりの防御力を誇るとか、鎧を着るのが面倒であったとか、獣王国に行くになるべく軽く荷物は少なくしたいといった理由で購入してこなかった。


これから獣王国の武術大会で何が起こるか分からない状態だ。

外套の下に鎧を着ておこうと新調をしたのだ。


「ケイタ殿とセリム殿待たせたであるな」


ソドンが新調した格好で出てくる。


「いえいえ、ソドンも似合ってますよ。まるで蛮族です」


(もしくは世紀末です。ひーはー)


「蛮族であるか…」


ソドンはウガルダンジョン都市にいた時もそうであるが、騎士の格好に近いきっちりとした格好であるのだ。

よくできたアダマンタイトをふんだんに使った鎧は冒険者というより騎士である。

おっさんらはこれから武術大会の闘技場に7日間いる。

獣王が最終日にしか闘技場にこないという話だ。

しかし、大会のある7日間、ずっと獣王以外の王族や貴族達がいると考えられる。


おっさんらの参加はどうやら今回の武術大会の広告塔に使われたようだ。

おっさんら以外の他国も広告塔に使われている。

他国に比べて、ウガルダンジョン攻略からの武術大会の優勝宣言はどうもインパクトが大きいようだ。

大会中も注目を集めることは自然と考えたおっさんだ。


「でも広告板も大体そんな感じでした。似合ってますよ」


世紀末っぽい格好になったソドンである。

顔が半分(縦に)ほど見える、モヒカンのようなたてがみのある兜を被っていて、ソドンの面影が消えている。

悪役(ヒール)っぽく描かれた広告板のソドンの絵に全力で寄せたのだ。


全力で寄せたため、今売っている防具ではあまりなかったので、出来合いの物から加工してもらったのだ。

当然、防御性能も十分に高い素材を使っている。

サイズの調整だけではないので製作に4日かかったのである。


「セリム殿も同感であるか?」


本当に似合っているかとセリムに問うソドン。


「う、うん」


セリムはソドンを見ずに答える。

肩が震えている。

どうやら笑いをこらえているようだ。

イリーナ、ロキ、コルネも同様である。


「ソドン。何だ、その格好は?」


パメラが着替えて終って出てきたようだ。


「「「おお!!」」」


パメラも新調をしたのだ。

パメラも、雰囲気を変えて王族とは思わせないように冒険者の格好に変えたのだ。

モンスターの毛皮や爪素材を中心に、野性味あふれる格好にしたのだ。

かっこいい毛皮のこしみのは躍動的である。

動きやすさを重視し、手足の関節部分には装備がなく、体の可動域が動きやすくなっている。


「どうだ?似合っているか?」


軽快に一回転。

全身を見せるパメラである。


「はい、ワイルドでいい感じですよ」


カッコよくなったパメラを見て、某との差は何だと思うソドンである。


代金は全部で白金貨50枚ほどであるが、おっさん払いである。

ここはおっさんが出すとのことだ。

買い物が終わり外に出るおっさんら一行だ。


おっさんは2軒隣の店を見ている。

どうやら中に入りたそうだ。


「ケイタ、何か買ってくれるのか?」


「そ、そうですね。お土産を買おうかなと少し寄ってもいいですか?」


おっさんが2軒隣のお店に入る。


「い、いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件でしょうか?」


防具屋と違い、若干気後れする羊の獣人の店員だ。

怪しげな漆黒の外套。

世紀末の獣人。

とんでもない客が来たという顔をする。

しかし、店員のプロ意識がお客の要件を確認するようだ。


「お、お土産を買いに来ました。妻と旅の思い出にと思いまして」


「お土産ですか」


外套のフードを外しておっさんがお土産を求めるようだ。

ここはお土産屋ではないという顔をする店員。


「ケイタは宝石を買ってくれるのか?」


状況を見てたまらずイリーナが口を出す。

そういえば、4日前、防具のサイズを測りに来た時もチラチラ見ていたことを思い出すイリーナだ。

ここは宝石屋である。

獣王国の王都の大通りに面したもっとも高級なアクセサリーを置いている店だ。


「はい」


この会話を聞いて、店員は理解したようだ。


「プレゼントをこちらの女性の方にですね。どのようなご関係でしょうか?」


「妻です。王国から来たのですが、獣王国に来た思い出になるようなものがあればと思いまして」


この会話を聞いて、状況が概ね理解できた店員だ。


「そうですか。少々お待ちください」


店員が、お店の宝石を物色する。

おすすめの品を探してくれるようである。


「イリーナも何か欲しいのがあれば、言ってください」


「うむ、ありがとう」


イリーナはおっさんの行動だけでうれしいようだ。

店員が選ぶものを待つようだ。

そういえば、おっさんの世界の文化で結婚したら指輪を渡す文化があるなと言っていたことも思い出すのだ。


なんだか、新婚のイチャイチャを見せられている他の5人である。

ただ、元々新婚旅行が、獣王国に来た目的でもあるのだ。

黙って静観するようだ。


「こちらなんていかがでしょう。3色の宝石をあしらった獣王国ならではのアクセサリーです」


赤と緑と金の玉で作ったネックレスのようだ。


「なぜ獣王国ならではかも聞いてもいいでしょうか。由来も含めて購入したいので」


「はい、赤はルビーです。獣人の自由を表しています。緑はエメラルドです。大地の豊かさを表しています。黄金は獣王国の繁栄を表しています」


(なんだか、現実世界のどこかで聞いた国旗の色でもそんな話があったな)


「イリーナいかがでしょう?」


「着けてくれるか?」


そう言って後ろを向くイリーナである。

たどたどしくネックレスを首に着けるおっさんだ。


「どうでしょう」


「うむ」


うむとしか言わないが、こういうことはイリーナもあまり口数が多いわけではないので、きっと満足してくれたと思うおっさんである。


「では、こちらをお願いします。おいくらですか?」


「白金貨5枚です」


袋から白金貨を出して店員に渡すおっさんである。

イリーナは騎士の格好をしている。

普段アクセサリーは一切しないのだが、ネックレスはそのままつけて店を出るようだ。


「ありがとう、ケイタ」


「いえいえ。お土産が買えてよかったです」


「これからどうするのだ?」


「えっと」


タブレットで時間を確認する。

まもなく正午である。


「あまり時間がありませんね。お昼を食べに行きましょう」


「今日もあの店にいくのか?」


おっさんら7人は大通りに面したレストランを目指す。

15分ほど歩いて、目的の店に着くのだ。

レストランに入ると席に案内される。

8人掛けの席だ。


ものすごい注目を集めるおっさんらである。

構わず、おのおの注文をする。


「ケイタは今日もレコルタを注文するのか?」


「はい」


おっさんは、異世界のカレー風味の料理レコルタをここにきて4日連続で注文しているのだ。

ほどなくして注文が運ばれてくる。


「大会まで3日だな、これからは何か予定はあるのか?」


「どうしましょう。釣れそうにありませんので、冒険者ギルドに依頼でもしようかなと思ってます」


「釣れる?冒険者ギルドで何か依頼することがあるのか?」


何の話だという顔をするおっさん以外の6人である。

どうやら目的があってこのレストランに同じ時刻に4日も通っているらしい。



「お?まじかよ、本当にいるじゃねえか。この席空いているか?」


「どうぞ」


「ありがとよ」


犬の獣人が8人掛けの席の空いた1つに座っていいかと尋ねてくる。

店員が寄ってくるので、注文をするようだ。

何事だという顔をするおっさん以外の6人である。


「それで、あんたら王国からの挑戦者って本当か?」


「武術大会のことでしたら本当ですよ。あなたは?」


おっさんが席に座ってきた白銀の髪をした犬の獣人と会話する。

見たまんまの冒険者のようだ。

ランクは分らないが、結構よさげな装備をしているなと思うおっさんである。


(ふむ、これはあたりかな?)


「おれはブレインっつうんだ。俺も大会に参加するんで挨拶に来たんだ。ここにきたら会えるって噂があってきたが本当にいたんだな」


「そうですか。私はケイタといいます。まあ、ここのレストランは美味しいという話を聞いてよく通ってましたしたが。ブレインさんも大会に参加するんですね」


「ふ~ん、何か思っていたのと感じが違うな。それで2人参加なんだろ?どいつとどいつが参加するんだ?」


がんがん話しかけてくるブレインである。

話を聞き、受け答えをするおっさん。

どうやら、このブレインという犬の獣人は興味本位のようだ。


(悪くなさそうだな。日にちも少ないし、頼んでみるかな)


頼みたいことがあってレストランで網を張っていたおっさん。

犬の獣人ブレインとの会話が進んでいく。


獣王武術大会まであと3日である。

まもなく、おっさんにとって、とても長い武術大会が始まろうとしている。

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