第34話 開会式

ここは1k8畳のおっさんの部屋である。

おっさんは1人パソコンのディスプレイを眺めている。

9月も中旬である。

キンキンに冷えた部屋はクーラーとパソコンの機械音が響いている。

そして、おっさんの独り言だ。


「やっと9本のブログ起したぞ。やはり皆獣人大好きだな。アクセス数もいい感じだ。PVポイントもまた100万超えたぞ。これでイリーナを現実世界にご招待できるな。どこに連れていくか考えておかないとな」


おっさんは2週間かけて9本のブログを更新したのだ。


街づくり編

第142記事目 任命式 ~ヤマダ騎士団結成~

第143記事目 気力と必殺技とステータスの関係

第144記事目 ASポイントと魔力消費と発動時間の関係


武術大会編

第145記事目 獣王国の気候と街並み ~異国の情緒~

第146記事目 獣王国の食生活 ~カレーを発見~

第147記事目 メクラーシ公国の民

第148記事目 帝国と王国と獣王国

第149記事目 武術大会の闘技場に入ってみた ~視線が気になる~

第150記事目 夢の新婚旅行 ~獣王国の王都~


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「今日は開会式だからな。というか、ついに武術大会も開催か」


おっさんが結婚式で招待券を貰って3か月がたったのだ。

今日は武術大会の開会式の当日なのだ。

開会式もするし、武術大会の開始も今日であるのだ。

ブログネタもまた増えるだろうと今まで貯めていたブログを更新したのである。


「ブレインもゲットしたしな。あとは武術大会どこまでいけるかだな」


おっさんは銀髪な犬の獣人ブレインをゲットしたらしい。


「さて、何が起こるか分らんし、PVポイントも100万貯まったけど取っておくかな。ASポイントも同じだ。何を取るべきか優先順は考えておかねばな」


開会式が始まる。

パメラとソドンの目的は兄とのけじめである。

兄である獣王に従う貴族も兵もたくさん集まる武術大会だ。

安全を優先するおっさんだ。


「さて、異世界に戻るか」


『ブログ記事の投稿が確認できました。異世界にいきますか はい いいえ』


おっさんは『はい』をクリックすると、ふっと目の前の風景がホテルの一室に変わるのだ。


「報告は終わりました。行きましょう」


「ん?そうなのか。すごいな全然分からないぞ」


横には出かける準備ができたイリーナがいる。

朝食を終え、鎧と外套に着替え、出かける準備を済ませて現実世界に戻ったのだ。

イリーナにも一言報告してくると伝えたのだ。

移動している間、異世界の時間が止まってしまうため、イリーナには分からないのだ。


下におりる2人である。

8時前の朝であるが、人がごった返している。

でかけるものも多い。

9時に始まる開会式に向け闘技場に向かう宿泊客達である。

宿泊客のほとんどが武術大会のために宿泊しているのだ。


下にはロキ、コルネ、セリムが待っている。

そしておっさんとイリーナから、ほどなくしてパメラとソドンが降りてくる。

ソドンが歩くと音が鳴る。

フル武装でハルバートと盾を持っている。

フル武装はソドンだけではない。

武術大会は2名であるが、全員万全の装備だ。


従者が馬車を出してくれるので全員乗り込む。

大通りは馬車も徒歩も混みまくっている。

徒歩で15分かそこらの武術大会の闘技場を馬車で、20分で到着する。

貴族であるのでそれでも馬車移動なのだ。

馬車から降りる皆である。


「いよいよですね」


「そうだな」


イリーナがおっさんの話に返事する。

最後に降りるパメラだ。


「ケイタ」


「はい?」


パメラがおっさんに話しかける。


「ありがとう」


「いえいえ」


パメラがお礼を言う。

奴隷を解放したときは、お礼を言えるような感情ではなかったのだ。

どうやらずっと言いたかったようだ。

今言わないと言えなくなるかもしれないと思ったのだろう。

それだけをいうと馬車から降りるパメラである。


馬車をおり武術大会の入口に向かう。

漆黒の外套を中心に異色の7人が歩く。

注目を集めるおっさんである。


「おい、漆黒の魔導士がやってきたぞ」

「堂々とやってきやがって。獣人の力を随分甘く見ているらしいな」

「全員武装しているぞ。参加者は2名ではないのか?」


おっさんらの格好について口に出す獣人達である。


(結構色々言われるのね。これは大会を盛り上げるためにも悪役を徹するかな。ん?)


おっさんが、大会でのなりふりについて考えていると、新しい注目が別に集まることに気付くのだ。


「し、死神がやってきたぞ!」

「死神メクラーシだ!!」

「今回のメクラーシは『戦血のエルザ』というやつらしいぞ!」


おっさんらが、獣人らの注目の的を探す。

おっさんらが歩みを止めたため、どんどん注目の的はおっさんらに近づいてくる。

向かう先が同じだからだ。


そこには騎士達の集団であった。

王国では見たことのない鎧を着ている。

数人の騎士が1人の女を囲むように歩いている。

騎士の格好をした2人、後ろにも騎士の格好した2人の4人がかりで中央にいる1人の女性を縄で縛って前に歩かせていたのだ。

そして騎士が2人がかりで大きな棺のようなものを運んでいる。

前と後ろの騎士はメクラーシではない。

奴隷のような貫頭衣を着た褐色の肌、長い灰色の髪をした女性が裸足で歩いていた。

年は10代後半であろうか、表情は一切見て取れない。

手を縛られ、足には鉄球が繋がれ、鉄球を引きずりながらうつむき加減に前に進んでいる。

おっさんらもかなり異色の格好をしているが一切おっさんらを見ずに闘技場へ目指すようだ。


(全然、戦血っぽくないな)


一団がとおりすぎたので、おっさんが口に出す。


「たしか旧メクラーシ公国の参加者ですね」


「うむ、たしかダブルスターらしいな」


「そうなんですね。あんな格好をさせられて戦いになるんでしょうか」


おっさんとイリーナの会話にロキも参加する。

まもなく開会式なので、おっさんらも武術大会の建物の中に入るのだ。


「ヤマダ子爵様、席の予約は済んでおります」


「え?あ、はい。ありがとうございます」


王国からやってきた騎士の1人に話しかけられる。

席を観客席に確保してくれたようだ。


「では、いってきます」


「いってくる」


「御武運を祈っています」


ロキとパメラとはここでお別れである。

おっさんら5人は王国の騎士とともに闘技場の観客席に向かう。

ロキとパメラは闘技台で開会式に参加するのだ。

2手に分かれる。


騎士の予約した観客席につく。

そこには王国の騎士がいる。


騎士が獣王国の王城に国王への親書を持っていった際、観客席は貴族席を人数分用意すると獣王国側から言われたのだ。

しかし、ソドンも観覧するので、貴族席の中ではさすがに声などからばれるのではと思った。一般人もいるので一般席で観覧しますとお断りしたのだ。


それではと一緒に王都から馬車に乗ってきた騎士達が最前列の席を用意したのだ。

しかし、これも断ろうとしたおっさんである。


武術大会でパメラと兄との件で何が起こるかわからないのだ。

馬車に乗ってやってきた騎士、従者達については帰ってもらおうと思おうとした。

危険な状況も考えられる。

帰りも召喚獣で帰れるので問題がないのである。


しかし、おっさんらを残して帰国することは王命につき出来ないと騎士に言われたのだ。

この騎士達は王の勅命を受け、獣王国にやってきた国王直属の近衛騎士なのだ。

王族の警備も、謁見の間の警備も許されたエリート中のエリートである。


王命は、獣王国でおっさんらの活躍についてしっかり見て、報告するようにとのことである。

これは、建前なのはおっさんにもわかる。

要は今回の兄弟喧嘩に無関係な騎士達も置いておけば、おっさんらが獣王国で無茶をしないのではという国王の考えだ。

国王は古だぬきなのだ。


「結構広く席を取っていただいてありがとうございます」


「いえ、これも仕事ですので」


10人くらいが座れる席を用意してくれている。

闘技台の真ん前だ。

どうも指定席のようで、一般人の席の中でも一番高いとのことだ。

1人金貨1枚とのことだ。

なお、一番安い席は銀貨1枚で、一般席の9割以上が銀貨1枚の席である。


思い思いに席に着き、闘技台を見る。


「すごい人ですね。4000人以上ということですね」


【ブログネタメモ帳】

・武術大会の開会式を見学してみた


「うむ、まずは武術大会の参加者を全員闘技台に上げるようだな」


まもなく9時で開会式である。

数千人の参加者がどんどん闘技台に上がっていく。


(ふむふむ、1辺200mくらいか。サッカー球場のゴールポストからゴールポストまでが100mくらいだっけか。その2倍か。かなりの広さだよな。まあ現実世界と違って、肉体が現実世界の数十倍だからな。広くしないと観客が危ないのかな)


100kg以上の巨漢が吹き飛ばされたりするのかなとおもうおっさんだ。

数千人が乗り切れる厚さ1mくらいの岩石を切り分けて作った闘技台をすり鉢状の観客席で見学する。


「おっ!ここにいたか」


白銀の犬の獣人がやってくる。


「ああ、こっちです。ブレインさん」


(そういえば、犬と狼の獣人いるけど、なんとなく違い分かるくらいだな。ワイルドさが狼の方があるな。それでいうと猫と虎もそうだな)


おっさんの横に座る犬の獣人のブレインである。

おっさんの左右はイリーナとブレインである。

後ろにはコルネとソドンとセリムだ。

その後ろに騎士達が座るのだ。


「それで3日で調べてくれたのですか?」


「まあ、報酬が王国白金貨10枚の大仕事だからな。きっちり仕事はさせてもらうさ。まあ、今も何人かに手伝ってもらっているんで、明日以降も問題ないぜ?」


「ありがとうございます」


おっさんはブレインに依頼をしたようだ。

依頼料は日本円で1億の仕事である。


「じゃあ、俺も開会式にでるからまたな」


「はい」


そういってブレインが観客席から闘技台に降りる。

どうやらおっさんらがどこにいるか知りたかったようだ。


ゴーン


ゴーン


闘技場に9時を知らせる銅鑼が鳴る。

1人の猫の獣人が闘技台に上がってくる。

原色の派手な服を着ている。

武術大会参加の闘士達の集団から離れている。


『それでは、皆さん大変長らくお待たせしました!!これより第128回獣王武術大会の開会式を始めたいと思います』


『『『おおおおおおおおおお!!!!!』』』


参加者の集団から少し離れた所で猫の獣人が何か棒のようなものを持って話し出す。

すると会場全体から声が聞こえる。


(む?これはマイクとスピーカーか?観客席を囲む外側の柱から音が出るようになってるのか?)


『今年もわたくしルブラン=ヴァン=ゴスティーニが総合司会でございます!!!!』


『『『おおおおおおおお!!!!』』』


司会者の話に観客席の皆が反応する。


「なんか有名な司会者のようですね」


「うむ、10年以上ゴスティーニ殿が司会をしているであるな」


ソドンがおっさんの話に返事をするのだ。

原色の服を着た道化のような格好をした猫の獣人だ。


『皆さん、今大会はなんと5126名もの参加者がご参加いただきました!!今年は獣王国からもシングルスターの参加者も出ており、過去の獣王武術大会優勝者も複数参加しております!!きっと皆さまの満足できる過去最高の大会になることは間違いないでしょう!!!』


『『『おおおおおおおお!!!!』』』


観客席の獣人達が立ち上がり身を乗り出して司会者の話に返事をする。

気持ちは一気に最高潮に達するのだ。

10万人は座れる観客席は満員御礼であるのだ。


『しかし、皆さんの勘違いを1つ、総合司会者として訂正せねばなりません!!』


『『『????』』』


疑問符が観客席の中に広がっていく。


『この武術大会は決して獣王国最強を決める大会ではありません!本大会の優勝者の肩書は獣王国最強では決してないのです!!』


『『『な!!何だとおおおお』』』


獣王国武術大会に優勝しても大したことないですよ、見たいな言い草である。

非難の声が観客席の中に広がっていく。


『皆さん!!!今回の大会には既にご存知のとおり、350年王国で難攻不落のウガルダンジョンをたった1年足らずで攻略した王国からの刺客が2名も参加しております。そして、聖教国、旧公国、帝国からシングルスター、ダブルスターの優勝を狙う世界の英傑たちが多数参加しております』


『『『????』』』


世界中から優勝を狙う英傑たちを集めたと豪語する司会である。

話が繋がっているのか分からず、さらに疑問符が広がっていく。


『そう!本大会は決して獣王国の最強を決める戦いではありません。世界最強を決める大会なのです!!!獣王武術大会ができて300年、最高の大会になることをお約束します!!!』


『『『……おおおおおおおお!!!!』』』


この大会で優勝するということは世界最強を名乗るということであると高らかに宣言する総司会ゴスティーニである。

理解が追い付き、歓声に変わっていく観客席である。


「盛り上がってきましたね。盛り上げ上手な司会のようですね」


「うむ、ゴスティーニ殿がいないと客が半分に減るとも言われているであるな」


『では、本大会の協賛者方を紹介したいと思います!』


司会者が本大会に寄付金を上げた貴族達を読み上げていく。

呼ばれた貴族達が手を挙げて、観客席の感謝の言葉に答えていく。


「パンとサーカスですね」


「ん?何か言ったか?」


「いえいえ、観客席のほとんどが銀貨1枚は安いなと思ったのです。貴族達からカンパしてもらっているんですねと」


(安いお金で、群衆の心をつかむと。獣王国も色々やってるなと思う今日この頃)


「戦い好きの獣王国の楽しみであるからな。誰でも観覧できるようにとしているであるな」

一通り協賛者の紹介や大会の注意事項等を説明する総司会ゴスティーニである。


『それでは、3の刻より大会を開始したいと思います!!』


そこまで時間をかけず開会式は終わるようだ。

獣王武術大会の予選が始まろうとしているのであった。

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