第32話 参加

獣王国の王都について2日目の朝である。

今日はこれから武術大会の闘技場に参加者の申し込みに行くのだ。

なぜ今日なのかというと昨日そういう話を聞いたからである。


昨日の起きたことだ。

帯同している騎士のうち2名が、ホテルについた翌日に国王の親書を王城に持っていってくれたのだ。

そのために騎士を帯同したのだ。

その時ついでに武術大会の参加はどうしたらいいか聞いておいてほしいとおっさんが頼んだのだ。

パメラもソドンもあまり詳しい手続きまでは知らないのである。

獣王家が主催しているのだが、手続きは武術大会を管理する部門があって、そこが仕切っているとのことだ。

武術大会管理大臣なる役職もあるとのことだ。

パメラもソドンも大会に闘士として出たことがなく、過去に数回を観覧したくらいとのことだ。


そして、無事王家の親書を渡して帰ってきた騎士2名である。

親書を受け取った王家の役人の話では、大会5日前が締め切りなので、セルネイ宰相からもらった招待券をもって武術大会の闘技場にもっていって参加の意思を示してほしいとのことだ。

昨日の時点で残り9日であまり日数がないことに気付くのだ。

そういえば、セルネイ宰相から王家に早めに来てほしいと言っていたが、これも理由の1つなのかと思うのだ。

そういうわけで、今日は7人で闘技場に手続きに行くのだ。


馬車に乗って案内を受けるおっさんらである。

闘技場の場所も調べてもらってくれている。


「おお!なんかすごいのが見えてきたぞ!あれが闘技場か!」


イリーナが馬車の窓から身を乗り出すように闘技場を見る。

そこには獣王国の王都の一角に設けられた武術大会の闘技場があるのだ。


(かなり大きいな。横幅1kmくらいあるんじゃないのか。ヨーロッパにあるコロッセオよりだいぶでかいな。まあ、力が数十倍違う世界だと建物もでかくなるのかな)


高さ10m以上の建物の壁が1km続いているのである。

中に入らないと、闘技場がどのようになっているのか分からない。

馬車を近くに停める。


「なんか、すごい人ですね」


「はい、かなりの人数ですね。皆参加者でしょうか」


(5日前までに申し込みってことは、今ぐらいが一番人多いのかもしれないな。大会8日前だし)


獣王国中から集まってくるというが、1か月も2か月も前から獣王国にやってくるのではなくて、今くらいにやってくるのではないのかと推察するおっさんである。

冒険者ならあまり早く来ると日々の生活が困るだろうし、受けないといけない依頼もあるだろう。

騎士や兵士なら普段の仕事があるだろうからだ。

かなりの数の獣人達がいるようだ。

既に申し込みが済んで出ていく者、これから申し込みをするのか入っていく者がたくさんいる。

まさに受付のピークである。


(ふむふむ、武器は剣や槍も多いが、ナックルや爪(クロー)も多いな。これは種族によっても違うのかもしれないな。犬系や猫系は動きが早いからナックルやクローが多いと。ソドンのような牛、それに馬などは大剣やハルバートみたいな大きな武器を持ってるな)


【ブログネタメモ帳】

・武術大会の闘技場に入ってみた ~視線が気になる~


中に入るおっさんである。

何かすごい注目を集めている気がする。

海外旅行に行った時はこんなふうに視線を感じるものかと思いながら、あたりを見回すおっさん達である。

ほぼ獣人の中でのおっさんらだ。


冒険者風の格好をした参加者と見られるもの達が入って正面にあるカウンターに並んでいる。

どうやらここが受付らしい。

受付の隣には、掲示板があり、何人かの獣人がそれを読んでいる。

そのほか、広告だろうか、いくつか木の板に書いたポスターのようなものが柱にいくつか飾ってあるようだ。

武術大会の闘技場ということもあり、参会者も掲示物も全て武術大会一色である。


「すごい行列だな」


「そうですね。とりあえず、並ぶしかないですね」


10人以上並んでいるうちの1つに並ぶ。


(鼠の楽園も1つのアトラクションで1時間待ちとかあるらしいね。行ったことないけど。そうか、イリーナを現実世界に来た時の行先として1つに考えておくか)


そんなことを考えながら、小一時間行列を並ぶおっさん、ロキ、パメラである。

残り4人は人だかりが多いので、後ろの方で待っていて貰う。

なんか、おっさんらを睨む獣人が多い気がする3人だ。


(ん?獣王国では獣人以外には結構排他的なのか?モフモフしちゃうぞ?そういえば、異世界もの必須のモフモフ要員がいないな。パメラに今度頼んでみるかな。って何か後ろからイリーナから睨まれた気がする気のせい気のせい)


おっさんがイリーナの殺気を背中で感じていると順番が回ってきたようだ。


「次の方どうぞ」


順番が来たようだ。

犬の獣人のお姉さんだ。


「武術大会の参加2名です。招待券を貰っています」


端的に要件を伝えるおっさんである。


「招待券?見せていただいてもよろしいですか?」


おっさんが獣王国の宰相から貰った2通の招待券という名の封書を渡す。

少し確認させてくださいと奥に引っ込んでいくようだ。

奥に引っ込む場面よく見るなと思うおっさんである。


「おい、あいつらじゃないのか?」

「ああ、漆黒の魔導士って話だしな」


待っていると何か自分のことを言われている気がするおっさんである。

ほどなくして戻ってくる犬の獣人。


「たしかに、お、王国への招待状2通で間違いありません。2名の方はこちらの武術大会への申請用紙にご記載ください」


おっさんが受け取りロキとパメラに渡す。


(ふむふむ、名前、過去の出場経験の有無、冒険者ランク、所属部隊の階級、扱う武器等を記載するのか。冒険者も軍人も参加するから冒険者ランクか軍での階級を記載するんだな)


渡す時にチラ見した内容から考察する。

ロキ達が申請用紙に書き込んでいる間に、犬の獣人に話しかけるおっさんである。


「参加者ずいぶん多いみたいですね」


「そ、そうですね。まだ、締め切りではありませんが、今年は例年の1.5倍の参加者になりそうです…」


ぎこちなく答える犬の獣人である。


「そうなんですね。すると4500人くらいですか」


「は、はい」


「初めての参加なのですが詳しいルールとかは、どこかに記載されているのですか?」


おっさんの後ろにもすごい行列ができているので、長居はしたくないようだ。

武術大会のルールがどこかに載っているのか尋ねるのだ。


「あ、はい、隣の掲示板をご確認ください。もし不明点があれば、あちらに武術大会の質問について答える担当者もおります」


肉球がちらりと見えた手のひらで指し示した方向に、申し込みとは別の相談を受けるカウンターが見える。

そちらで何かあれば質問するとのことだ。

ロキ達も書き終わったので、一度7人全員で合流する。


「何かすごい視線を感じますね」


「どうやら、ケイタを皆見ているようだぞ」


「そうなんですか、特に獣王国に知り合いはいないんですけどね。とりあえず、武術大会のルールの詳細を見てきます」


掲示板も人混みができている。

掲示板を見るために後ろに並ぶのだ。


(人が多すぎてゆっくり見る暇ないな。タブレットに見た内容をメモして、あとで皆と共有するか。つうか、獣人って体格に恵まれているな。身長175cmの俺がかなり低く感じるぜ)


前の人混みの中少しずつ前に進んでいくと、掲示板にたどり着くのだ。


(ふむふむ、何々、予選と本選があると。内容はいいから記録を先にしよう)


おっさんが掲示板のルールをタブレットの【メモ】機能にすごい勢いで記録をしていく。


予選のルール

・参加者は32ブロックに分かれて戦う

・1対1で対戦する

・トーナメント形式

・対戦相手は主催者側が決める

・武器の使用は可

・降参を宣言、または両手を上げた者が敗者

・気絶、昏睡したものも敗者

・殺しは失格(予選決勝も含む)

・場外はなし(故意による逃走と判断したら失格)

・各ブロックの最後の1人が決勝戦にいける

・半刻(1時間)以内に決着がつかなければ両者失格(予選決勝に限りその限りではない)

・審判は主審1名のみ


本戦のルール

・1対1で対戦する

・トーナメント形式

・対戦相手は抽選で決める

・武器の使用は可

・降参を宣言、または両手を上げた者が敗者

・殺しは失格

・場外はなし(故意による逃走と判断したら失格)

・一刻(2時間)以内に決着がつかなければ審判及び副審による判定

・審判は主審1名、副審4名


予選の前日

・参加者のブロック発表

・ブロックごとのトーナメント表の発表


開会式、閉会式のスケジュール 略

予選のスケジュール2日間 略

本戦のスケジュール5日間 略


(ほう、予選と本選合わせても7日で終わるのね。つうか4500人を32ブロックで割ると150人弱を2日で終わらせるのか。すごい回転率だね。闘技場が多いのか?)


おっさんがすごい勢いでメモし終えたようだ。


「よし記録し終えました。いきましょうか、次は武術大会の闘技場も見学して帰りましょうか」


人混みをかき分け、皆のいるところに戻るおっさんらである。


「記録してきました。あとで、ホテルに戻って共有しましょう」


「さすがケイタだな。広告板も面白いものがたくさんあったぞ」


通路を横切り、闘技場を目指すおっさんらである。

移動中、イリーナが待っている間に見た広告板について教えてくれる。

なんでも、この大会の開催をうたうものが多い。

それ以外に有名な今回の参加者も教えてくれる。


「そうなんですか。誰か強そうなものはいたのですか?」


「メクラーシの殺し屋がダブルスターらしいな。聖教国のシングルスターが今年も優勝を狙っているって書いてあったぞ!職業も魔闘士とか聞いたことない職業だな!」


(イリーナは騎士だから強い戦士に興味津々だ、なかなかの興奮具合だな。これも武術大会の醍醐味か。広告板も見てみるかってシングルスター?ダブルスター?)


「シングルスターとかは何ですか?」


「ふむ、それは冒険者ランクのAランクに、点が1つや2つ着いているということであるな。王国でも同じように表現するはずであるぞ?ただ王国の冒険者にはシングルスターやダブルスターはほとんどいないであるな」


「なるほど、では私はAランクに点が1つ着いているので、シングルスターってことですね」


「そういうことであるな。ふむ、ここから闘技台が見えるであるな」


「「「おおお!!!」」」


闘技場の受付横の通路を進むと、そこはすり鉢状の観客席であった。

魔道具で照らされた通路の薄暗い光ではなく、昼過ぎの強い光を感じるおっさんである。

闘技台にも観覧席にも天井はないようだ。

そして、すり鉢の中心にあるのは正方形の闘技台である。


(まさにコロッセオだな!闘技台も1辺200mくらいありそうだな。わくわくしてきたで!厚さも結構あるな1mはありそうだぞ。岩から切り出して作ったのかな。それにしても観客も10万人くらい収容できるんじゃないのか。かなり広いぞ)


タブレットのメモがどんどん増えていく。

ロキは間もなく始まる戦いをイメージしているようだ。


しかし、パメラは闘技台を見ていない。

仮面越しに観客席の一辺を見ている。

おっさんらが入った通用口の反対側は仕切りが設けられている。

席も豪華な作りだ。

どうやら、貴族用の席である。

一般の通用口の真反対である。

そして、通用口の真反対の最も上は個室になっている。

劇場の壁面にあった個室のようだ。

特別な者がそこから武術大会を見るのであろう。


(あそこに獣王が来るんだな。そうか王族もそうだが貴族も来るんだな。俺らはどこで見学しようかな)


「状況は分りました。戻りましょう」


十分見学ができたので、戻るようだ。

通路をとおり外の馬車を目指すおっさんらである。


「ああ、あそこにも広告板がありますね。結構大きいですね」


「本当だ。これもなかなかの大きさの広告板だな。獣人達も集まっているぞ」


せっかくなのでそれも見ようと人だかりができた獣人達の後ろに並びゆっくり前に進んでいく。


「ケイタも驚くぞ。力の入った絵が多いのだ」


「そうなんですね」


2mを超える目の前の獣人達が左右に散りようやく広告板が見える。


(どれどれ?)


おっさんらが広告板を見る。

そこには謳い文句とともに書かれていた。


『王国の英雄、ダンジョンを制覇し、次は武術大会優勝を公言する!』

『戦い方を知らぬ者達よ!優勝と準優勝は我々が頂く!!』


漆黒の魔導士が9人の仲間と共に描かれていた。


「「「な!」」」


どこで調べてきたのか、10人ともどこかおっさんとその仲間に似ているようだ。


「皆悪そうな顔してますね」


「なんか悪意を感じます」


コルネもたまらず声を出す。

にやけた顔で、絵を見る人を中傷したような顔で一様に描かれている。

おっさんはフードを被り、不気味さを演出しているようだ。


一緒に広告板を見る獣人達がおっさんと絵を見比べている。

かなり睨んでいる。

どうやら、獣王国はおっさんらをネタに参加者を集めているようであった。


「ふむ、どうやら我々は今回の武術大会の良い広告塔になったようですね」


「そ、そうですね」


ロキも自ら置かれている現状を理解したようだ。


「これは」


「ケイタどうしたのだ?」


「いや、いいことを思いつきました」


広告板のように悪い顔をするおっさんはいいことを思いついたようだ。

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