第29話 ペルン
2体の召喚獣に乗って獣王国の王都手前の街に向かったおっさんらである。
その1か月半前、王都から獣王国の王都手前の街に馬車で出発してもらっていたのだ。
道中で発見出来たら乗り込むのでゆっくり進むように伝えていたのだ。
道中発見できなかったら、獣王国2つ手前の街で何泊もしてもらって、1つ手前の街の中でおっさんらと合流しようとそういうおっさんの作戦であったのだ。
コルネが、獣王国王都手前の街に向かう王国の馬車を発見するのだ。
上部には、鉄板を取り付けているので、発見しやすくしている。
「どうやら、街に入る前の馬車を発見できたようですね」
「うむ、そうだな。」
「セリム、回り込んで王国の馬車の1里(3km)ほど先のところで我々を道に降ろすよう、召喚獣に指示してください」
「分かった」
弧を描くように王国の馬車を回り込むように飛ぶ2体の召喚獣である。
9km先の王国の馬車をすぐに追い抜き、そして、何もない原っぱに降りるのだ。
さすがに道の真ん中には降りたりしない。
身長ほどの茂みの中である。
周りに誰もいないことを確認して、こそこそと獣王国の王都から伸びる大通りに向かうおっさんらである。
なんか悪いことをしている感が半端なくて逆に面白がっているようだ。
真っ黒な外套のおっさんの格好は目立つため、馬車は止まるのだ。
3台の馬車のだれも乗っていない真ん中の馬車に乗り込むおっさんら7人である。
予定を伝えていたが、本当にいたと驚く従者と騎士達である。
今回は獣王国からの正式な招待であるのだ。
騎士や従者を帯同しているのだ。
騎士3人と従者7人の構成とのことだ。
馬車に乗るとタブレットの『地図』機能で現在の位置を確認するおっさんである。
既に獣王国に入ったため、地図エリアが更新され、現在位置、獣王国手前の街、獣王国の王都の場所も表示されているのだ。
(この辺一帯は、獣王領なんだろうな。タブレットは領の単位ごとに表示されるんだけど全部表示されているしな)
「まもなく街に到着しますね。2刻(4時間)もかからないかもしれませんね」
天空都市イリーナを朝から出発したおっさんらである。
ここまで5時間ほど経過しているのだ。
移動に用意した、干し肉とパンで軽く腹を満たすのだ。
夜は獣王国の夕食を堪能しようという算段であるのだ。
「そうだな。それにしてもなかなかの暑さだな」
「そうですね。結構な暑さですね」
イリーナが服をパタパタしながら、気温の変化を感じているようである。
おっさんも窓の外から入ってくる風も生暖かいなと思うのである。
召喚獣に乗って時速240kmで飛んでいた時もうすうす気づいていたが、獣王国は暑いのだ。
(ふむ、結構暑いな。気温でいうと30度くらいか。森の中にある天空都市イリーナから来たから、ギャップでかなり暑く感じるかもしれないな)
おっさんの体感気温である。
・フェステルの街 気温20度
・ウガルダンジョン都市 気温25度
・天空都市イリーナ 気温15度
・獣王国王都付近 気温30度
1年ほどおっさんも異世界に暮らしているのだ。
四季がなく、乾季や雨季もなかった王国である。
雨はたまに降る感じであるのだ。
(外は暑くてむしむしするぞ。草木が結構生い茂っているな。ウガルダンジョン都市はもっと乾燥してたが、獣王国は熱帯か亜熱帯の環境かな。そういえば、一部の地域や国で砂漠もあるんだっけ。)
考察を進めること、ほどなくすると獣王国一個手前の街に到着するのだ。
しっかり検問があるようだ。
「おお!獣人の兵がいますよ!」
3台のうち1番前の馬車の従者と騎士が対応するようだ。
王国の紋章のある馬車だ。
兵も丁寧に接している気がするおっさんである。
「まあ獣王国だからな」
王国にも獣人の兵はいるのだ。
獣人の騎士はかなり少なく、貴族はいないのだ。
獣人を見てテンションが上がるおっさんである。
イリーナがおっさんは獣人好きだなと改めて思うのだ。
パメラがジークフリート殿下と婚約関係にあると知り、またイリーナ自身もおっさんと結婚して、最近油断していたイリーナである。
獣王国で第ニ婦人をおっさんが作らないように注意しようと思うのだ。
【ブログネタメモ帳】
・獣王国の気候と街並みについて
そんなイリーナの考えとは裏腹におっさんは、全力で新しく来た国の情報をブログネタとして記録していくのだ。
窓から外を覗き込み、必死に情報を得ようとするおっさんであるのだ。
(やっぱり写真ほしいな。頑張って1000万ポイント貯めるかな。その前にイリーナを現実世界にって感じか。レベル上げはそのあとでもいいか)
そんなことを考えていると、検問は終わり、街の中に入るおっさんである。
「ペルンか、久しぶりであるな」
黙っていたソドンが呟くのだ。
ソドンもパメラもずっと黙っていたのだ。
新婚旅行気分のおっさんとはそれこそ温度差があるのだ。
天空都市イリーナと獣王国以上に違うのだ。
けじめをつけに来たのだ。
パメラは顔の上半分が隠れる石膏のように白い仮面を被っている。
「この街はペルンというのですか?」
「うむ、王都を守る要所の1つでもあるな」
おっさんは、獣王国は帝国と戦争をしていると聞いたのだ。
それも1000年である。
1000年戦争なのだ。
街も砦も戦争を前提に作っているのだ。
王都の位置もそうである。
帝国側だとすぐに攻め落とされるし、だからといって東の端の海が近いと、回り込まれて船から攻められるのだ。
このあたりは盆地になっている。
山に囲まれ自然の環境も生かした場所に獣王国の王都があるのだ。
その一歩手前の街ペルンも王都を守れるよう強固な作りをしている。
分厚い門を潜り抜けるおっさんらである。
(おお!桃源郷はここにあったのか!!獣人がたくさんいるぞ!!)
かなりにぎわいのある町であった。
馬車の横の歩道をある沢山の獣人達である。
獣王国にやってきたなと光景が訴えてくるのだ。
(ふむふむ、目と耳だけが獣人もいれば、どうやら結構毛深い獣人もいるな。パメラは目と耳と尻尾だけ、ソドンは目と耳と角だけ獣人だな。ヴェルム親衛隊長は結構毛深かったな。種族にもよるかもな。獣王国だけど全員獣人じゃなくて、1~2割、獣人以外もいるな。褐色な人はこの辺の住人か?)
タブレットにブログネタがどんどん記録されていくようだ。
馬車が大通りの宿に到着するのだ。
王国の騎士がホテルを手配してくれるようだ。
宿屋のエントランスのソファーで待機するおっさんらである。
「一度、部屋に荷物置いたら、ここで夕食にしましょうか?」
「うむ、そうであるな」
事前の予約はしていなかったようだが、普通に宿泊できるようだ。
宿泊の手続きをしてくれた騎士から説明を受けるおっさんである。
宿泊に金貨が必要なかなり高級なホテルなので、私達、従者は別のホテルにしますと言われるのだ。
そんなこと気にする必要はないと白金貨1枚を騎士の代表に渡して、一緒に泊まるように言うおっさんである。
余った金も好きにしてよいというのだ。
折角の獣王国を楽しむように、でも羽目を外して問題はおこさないでねというのである。
あれこれお世話をしてくれる騎士と従者へのお礼も含まれているのだ。
獣王国と王国では貨幣が違うが使えないこともないのだ。
(騎士3人、従者10人だったかな。まあ10人くらいこれで泊まれるだろう)
ありがとうございますとお礼を言われて皆で17人皆同じホテルに泊まるのだ。
食事も一緒にと思ったが馬車やそのほか手続きがあるので、皆さんでと言われたので7人でホテルのレストランに向かうのだ。
おっさんもロキもセリムも貴族なので、騎士達が気を遣わず自由にさせてあげたいとも思うのだ。
「結構人がいますね」
「うむ、そうだな」
高級なホテルということもあり、客の身なりがよさそうだ。
「こちらに案内するにゃ」
猫の獣人が案内してくれる。
吸い込まれるようについて行くおっさんである。
8人掛けの席を案内してくれるようだ。
「なんか機嫌がよさそうだな」
「そうですね。王国から出たことなかったのでワクワクが止まりせん」
「そ、そうか」
イリーナが、おっさんがあっちこっちに目が移ることを心配しているようだ。
メニュー的なものを見るおっさんである。
「ソドン、獣王国といえば、何を食べるんですか?」
「この肉厚な葉っぱのステーキと、この香辛料をかけた麦飯がうまいであるな」
(ソドンは結構草食系だな。牛だけに。ドラゴンの肉は食べ過ぎたし、それもありだな。それにしても、葉っぱでステーキか)
ソドンがおすすめの品を教えてくれる。
他にもいくつか注文するおっさんらである。
ロキにも気にせずお酒を注文するように言うおっさんである。
折角なので異国のお酒も飲むようにとのことだ。
「明日までこの街に滞在するのだな」
注文が終わったのでイリーナが声をかけるのだ。
おっさんが騎士達に2泊すると伝えていたことを聞いていたのだ。
「はい、もう夕方なので明日の出発は皆疲れているでしょうから、明日はゆっくりして明後日の朝出発しましょう」
この街から王都まで2日の予定である。
馬も夕方まで移動していたので疲れているのだ。
騎士も従者も馬も1か月以上の長旅である。
豪華なホテルに泊まって疲れを癒してほしいというおっさんだ。
今後の予定の話をしていると、料理が運ばれてくる。
(ほうほう、ウガルダンジョン都市もフェステルの街と違っていたが、さすが異国だ。全然料理の雰囲気違うで、ぶ、ブログネタがあふれておる!)
「これは、香りが食欲をそそりますね」
ロキも料理に関心があるようだ。
(おやおや、この香りはもしかして)
おっさんも香辛料のスープのかかった麦飯を食べる。
「カレーだ」
(日本じゃなくて、東南アジア系のカレーだな。香辛料をかけて食べる麦飯だとカレーっぽくなるのかな)
「ん?カレーってなんだ?」
「私の故郷の料理です。大変人気があるんですよ」
(厳密に言うとインドだけど)
少々香辛料の感じが違うが、カレー風味であることには間違いがないようだ。
おっさんは1人暮らしが長いが自炊をしないため、外食で色々に行っているのだ。
昔に比べてナンで食べるカレーの店も増えてきたなと思うおっさんである。
「ケイタ様の故郷でも似た料理あるのですね。それにしてもお酒もずいぶん酒精が強いですね」
「うむ、このあたりは酒精の高いお酒が好まれるな。王国もいいのだが、やはりお酒は獣王国に限るであるな」
「む、結構強いお酒だな」
(獣王国はカレーとアルコール度数の高いお酒の国であると)
ソドンが久々の獣王国の料理にお酒を楽しんでいるようだ。
イリーナも普段飲むときはお酒を飲むのだ。
パメラは黙々と食べている。
葉っぱのステーキも食べてみるおっさんである。
(こっちは、どうやら葉肉の厚い、サボテンやアロエ的な葉肉植物のステーキだな。ペッパーな香辛料もかかっててうまいな)
周りは獣人の客が多いようだ。
「皆さんは武術大会を見学に来たのですかにゃ?」
接客が一段落したのか、猫の獣人が話しかけてくるのだ。
獣人の客が多い中、おっさんらは結構浮いているのだ。
(やはり武術大会の見学ってやっぱり多いのか)
「いえ、私の仲間で2人が武術大会に参加するので、その応援ですね」
「そ、それはすごいにゃ!!」
「そうなんですか?」
「そうですにゃ!3000人くらいしか参加できないにゃ。ぜひ本戦に勝ち上がってほしいにゃ!」
3000人が多いのか少ないのかピンとこないおっさんである。
年末のお笑い大会も3000組くらい参加していたなと思うのである。
「本戦はどれくらい残れるのですか?」
「初めての参加ですかにゃ?32人が本戦にゃ!」
(100人に1人が本戦か。それは結構大変かもしれないな)
「参加条件ってあるんですか?」
「詳しく知らにゃいけど、冒険者ならBランク以上にゃ。騎士や兵士なら部隊長以上にゃ!」
(うほ、あれこれ教えてくれるで。この辺はソドンも知らなかったしな。部隊長ってどれくらいなのん?)
「それで…」
会話が弾み、折角なのであれこれ質問しようと思うおっさんである。
その会話に割り込むイリーナである。
「おい!」
「へ?」
イリーナを見るおっさんである。
目が座っているのだ。
そして、空になった酒瓶がある。
いつもと同じペースでお酒を飲んでしまい、かなり酔っているようだ。
「そんなに獣人が好きなのら?」
「え?そういうわ」
「私より猫耳がいいのら?」
畳みかけるように話しかけてくるイリーナである。
おっさんの首根っこをつかむのだ。
「ちょ、ちょっと。イリーナ?」
「来るのら。部屋でどっちが好きなのか詳しく確認してやるのら」
「は、はい」
皆を置いて、引きずられていくおっさんであったのだ。
小さく消えていくおっさんを生暖かく見守るソドン達であったのだ。
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