第08話 両家

ここは王城の一室である。

おっさんのヤマダ家とクルーガー家の両家の挨拶をするのだ。

仲人のような立場でフェステル伯爵が間に座っている。

ヤマダ子爵家もクルーガー男爵家もフェステル伯爵に連ねる子であるのだ。


誕生日席に座るフェステル伯爵である。

その横に、父と母の順に座っている。

そして、イリーナとおっさんが向かい合うように座っている。

イリーナの横にはイリーナの弟のリーレル=クルーガーも座っている。


おっさんのすぐ後ろには家宰のチェプトが立っている。

その横に、ロキ、アヒム、イグニル、アリッサが立っている。

クルーガー家の後ろにも家宰と騎士を引き連れてきているのだ。

両家共に何か随分力んでいるなと思うおっさんである。


なお、騎士になったばかりのコルネは、両家に失礼があってはいけないと、ここにはいないのだ。


昨日は、昼食を取った後、馬車に乗り王都を見学して回ったのだ。

遠くまでよく見ることのできるコルネが、おっさんの両親に王都に何があるのか遠くまで教えてあげたのであった。


夕方には、ゼルメア侯爵家との夕食会である。

おっさんの両親ということもあり、全力でもてなしたゼルメア侯爵であった。


「街の中でもそうだが、ケイタお前のその格好は何とかならないのか?」


おっさんの父が、おっさんの母の背中の後ろから、おっさんの黒の外套について注意するようだ。

ダンジョンコアの番人戦で収束魔法を受け傷んだフードは新しい同じ外套に買い替え済みである。

綺麗な外套ではあるのだ。


「俺もそう思うけど、外套しか服ないんだよ。誰も服を変えろと言わないし」


「ケイタお前それで結婚式も行く気か!」


「たぶん」


「ちょ!おまっ!!」


おっさんも実は気にしていたようだ。

小声でやり取りをするおっさんとその父である。

しかし、英雄であるおっさんの黒い外套は強いこだわりと思われているのか、誰も服を変えるように言わないのだ。

命の安い世界で、武器防具はとても大切なものであるのだ。

こだわりをないがしろにできないのである。

これは国王との食事会でもそうなのだ。

トレードマークが完全に認知され、おっさんの一部となっている状況だ。


おっさんとおっさんの父の会話の様子を見て、フェステル子爵も、クルーガー家の皆も、2人は親子なんだなと思うのであった。

両親ともに白髪交じりではあるが、珍しい黒目黒髪であるので疑いようがないのである。


「本日は集まっていただいてありがとう。今日は両家にとって良き日になることを願っている」


おっさんとおっさんの父の会話がひとしきり終わったので、フェステル伯爵が始めるようだ。

その一言でクルーガー男爵が頭を下げたので、そういうものかとおっさんら一家は頭を下げるのだ。

シンクロするように頭を下げる3人である。


「ケイタ殿ともお初にお目にかかる。いやヤマダ子爵にこれは失礼な物言いでありますな」


(お?なんだ?もうフリートークなのか?アロルド様は第一声で仕事終わった感じなのか)


クルーガー男爵がおっさんに話しかけてくる。

イリーナと同じ金髪であるが、刈り上げた短髪で、短い髭がある。

座っていても分かるくらい体つきもいいようだ。

失礼だといったが、あまり失礼だと思っていない感じである。


(イリーナの話では、今でも騎士としては現役らしいな。年は47歳って話だっけ)


イリーナの話を思い出すおっさんである。

ウガルダンジョン都市ではずっと一緒にいたので、クルーガー家の話はけっこう聞いているのだ。


「いえ、ケイタで大丈夫です。挨拶が遅れてすいません。フェステルの街からウガルダンジョン都市に向かう際、顔を出そうとも思ったのですが」


フェステル子爵領とウガルダンジョン都市の間にクルーガー男爵領はあるのだ。

街道沿いに、クルーガーの街があるわけではないので、国王との約束もあるので結局、挨拶をしなかったおっさんであるのだ。


「なんの、構わないさ。それにしても、何だろう聞いていた話とずいぶん雰囲気が違うな。もっと覇気のある感じだと思ったぞ」


「申し訳ございません。私はよく勘違いされますが、こんな感じです」


「そうなのか」


「ケイタ殿の武勇はイリーナからよく聞いている。イリーナの手紙と雰囲気が違っているなと」


クルーガー家は、フェステル伯爵の騎士団に対して、団長や副団長を輩出していた騎士の家系なのだ。

おっさんはずいぶん覇気がないなと感じるクルーガー男爵のようだ。

実際に覇気などないおっさんである。

イリーナは、ウガルダンジョン都市にいってからも毎月のようにクルーガー家とフェステル家には手紙を送っていたのである。


「もう嫌ですわ、お父様。ケイタ様の覇気は戦いの中で感じるものですわ」


「お父様?」

「ケイタ様?」


クルーガー男爵とおっさんがイリーナからの呼び方で疑問の声が上がる。

クルーガー男爵には普段『父上』とおっさんには『ケイタ』と呼ぶイリーナである。

声色もいつもより高く微笑を浮かべているイリーナである。


(おろ、なんか全力で感じが違うな。そっち系でくるのか?)


「飛竜を目の前で見たことはありますか?10体を超えるAランクのモンスターに囲まれたことはありますか?雪の嵐で前が見えない中、もしくは水中からいつモンスターがいつせめて来るか分からない中、毎日のように道なき道を歩いたことはありますか?お父様?」


「いや、別に疑っているわけではないぞ」


イリーナから責められて戸惑うクルーガー男爵である。


「いいえ、その言い方は疑っていますわ!ケイタ様は一度もそんな中、弱音を吐いたことも、震えたこともないですわ。ずっと仲間を鼓舞し、道なき道に道を示してきましたわ!」


さらに口調が激しくなっていくイリーナである。

おっさんのことを悪く言われて怒っているようだ。


「イ、イリーナよ。その辺にしてやれ」


フェステル伯爵が慌てて割って入る。

クルーガー男爵も別にそこまで非難しているわけではないのだ。

愛娘の結婚だ。

ちょっと、父親の威厳を見せたかっただけなのである。


王国の宰相からも結婚を勧められたクルーガー男爵であるのだ。

結婚を断るつもりも、愛娘の相手として不満のある相手でもないのである。


「こ、これは、失礼しましたわ」


イリーナも状況が分かって慌てて謝る。

場に沈黙が広がる。


「ケイタ子爵は、お姉さんのどこが良かったのですか?」


空気を呼んで、おっさんに質問をしてくるリーレルである。

今年で王都の騎士院卒業なのだが、同級生からおっさんについていろいろ聞かれまくっているのだ。

さっきから、話しかけたそうであったのだ。


(ほう、いきなりぶっこんで来たね。金髪で15歳か。セリムより大人びているな。年相応といえば相応ね)


「まあ、そうですね。全てですが、やさしいところでしょうか」


30過ぎると優しい女性に弱いのだ。


「え?」


どこが優しいんだというリーレルである。

その表情で姉弟の関係が良く分かるおっさんである。


「まあ、これも、常日頃一緒にいれば分かるものですよ。イリーナは口に出さないから、あとから分かることも多いですけどね」


おっさんに褒められて、イリーナはうれしそうな顔をしているのだ。

そして、あとでリーレルをどうしてくれようと思うイリーナであった。


その後、イリーナとおっさんの両親の会話が弾むのであった。

そんな中、両家もいることであるので、フェステル子爵が少し別の話をするのだ。

ヤマダ家にとっても大切な話なのだ。


「そういえば。ケイタよ、封土が決まりそうだぞ!」


「本当ですか?アロルド様」


本当は驚きの声を上げたい、ロキ、アヒム、イグニルであるが黙って聞いている。

今後の自分らの勤務先が決まるのである。

おっさんと共に守っていく封土であるのだ。


「封土?」


おっさんの父が、封土って言葉が分からなかったようだ。


「はい、ケイタ殿の働きにより国王から土地を与えられたのだよ」


「そ、そうなのですか」


その話を聞いただけで、王都の中の1軒屋くらいの土地をイメージしたおっさんの父である。

何をしたのかあとで聞いてみようと思うのであった。


「それでな、正式には国王から正式な場でもらうのだが、ウェミナ大森林になったぞ」


「森ですか?」


「そうだ。まあ、山もだな。トトカナ村からケイタが作った冒険者の要塞までが我が領土でな。その先は全てお前の土地になったぞ」


さらに詳しく説明をしてくれる、フェステル伯爵である。

もともとトトカナ村までがフェステル子爵領であったのだ。

その先は王領なのだ。

その後、おっさんが作ったトトカナ村から徒歩で2日ほどにある冒険者用の要塞があるのだが、そこまでがフェステル伯爵領とし、その先全てをおっさんに与えたのだ。

なお、要塞から森がきれるまで10日前後の距離があり、そこから山の頂上の王国側までが全ておっさんの土地になったのだ。


これはフェステル伯爵への褒美でもあるのだ。

おっさんを発見し、力を見出し、国王へ連れてきたのだ。

トトカナ村から歩いて2日分の領土が増え、さらに帝国との間に新たに領土を持つ貴族を置いたのである。


(たしか、冒険者ギルドで地図を見たら、それだと森林から大連山まで300km以上で、北から南までは500km以上あるな。山も200kmくらいなかったっけ?単純な計算だと縦横で25万平方kmか。英国がそれくらいだっけ?国並みの広さだな。森と山だけど)


「それは、ずいぶん広い土地をいただけましたね。ヨーロッパや東南アジアの1国くらいありますね。ほとんど森と山ですけど。勝手に切り開いていいのでしょうかね」


「よーろっぱ?まあ、問題ないと思うが、一度マデロス宰相に聞いた方がいいかもしれぬな」


おっさんの父も聞いているので、両親にもわかるように例えるおっさんである。


「国王から1国分の土地をいただけるって。お、おまえ一体何をしたんだ?」


「あとで説明するよ。父さん」


「ロキよ。お前も騎士団として守りがいがあるな。さすが王国最強の槍使いが守るにふさわしい土地だな」


「は、はあ」


フェステル伯爵の言葉に戸惑いながら返事をするロキである。

どうやって守ればいいのだという顔をしているのだ。

国王は、帝国からの盾として、おっさんに土地を与えたのだ。

英雄が帝国との間の土地を与えられたことで、国民も安心するのである。

ダンジョン攻略中から、国王は考えていたことでもあるのであった。


その後、ほどなくして両家の顔合わせは終わったのだ。

明日は、以前に聞いていたとおり、結婚式の予行演習をするのだ。

そして、その翌日はいよいよおっさんとイリーナの結婚式である。

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