第07話 実家
ここは100平米ほどの一軒家である。
おっさんの実家だ。
おっさんは土曜日に実家に帰ったのだ。
「ただいま」
「あら、ケイタ、結構早かったわね。まだ夕飯できていないわよ」
60過ぎの年齢相応の太り気味の女性が出てくる。
「そっか、父さんは?」
「畑をいじりに出かけているわよ」
公務員だった父は60歳で定年したあと、再雇用を65歳まで勤め上げたのだ。
65歳も過ぎ、今度こそセカンドライフを迎えたのである。
それから3年が過ぎたのだ。
一日家にいてもしょうがないので、近くの畑を年契約で借りて野菜を作っているのだ。
夕方には帰ってくるとのことだ。
夕飯まで、2階に上がり家を出ていくまで住んでいた子供部屋でごろごろするおっさんである。
入社したころ、頑張って読んだビジネス書であったり、職場で必要な資格を取るための参考書が本棚にぎっしりとある。
懐かしく思いながらそれらを眺めるのであった。
車が車庫に返ってくる音が聞こえる。
どうやらおっさんの父は帰ってきたようだ。
それからほどなくすると、どうやら夕食ができたようだ。
1階におりるおっさんである。
おっさんには兄弟もいるのだが、全員家を出ていったので、今は両親2人で住んでいるのだ。
なので、おっさん含めて3人での食事である。
「珍しいな、この時期に帰ってきて。仕事は順調なのか?」
唐突におっさんの父が話しかけてくる。
おっさんは禿げていないが、おっさんの父はかなり禿げ散らかしている。
昔はもっと肉付きが良かったのだが、68になりずいぶん痩せてしまったなと思うおっさんである。
「うん、まあぼちぼちだよ。可もなく不可もなく」
今は7月の終わりである。
おっさんは異世界にいって1年以上になるのだが、現実世界では4か月しか過ぎていないのだ。
実家にはここ数年盆と年末年始のみ帰るおっさんであるのだ。
今回は、盆より少し早めの帰省なのだ。
父は帰るといつも3つのことを聞いてくるのだ。
仕事は順調なのか
貯金はしているのか
そして、
「兄も弟も結婚したが、お前はまだなのか?」
男3兄弟のおっさんである。
「もう、お父さん折角帰ってきたのにすぐに、それでどうなの?誰かいい人できたの?」
といいつつ聞いてくるおっさんの母である。
「3日後に結婚することになった」
「「え!」」
「3日後に結婚式なんだけど、明日に両家で挨拶をしたいんだけどいいかな?」
「ほ、本当?ずいぶん急ね。服とか急に用意できないわよ?」
「ケイタそれは本当か?相手はどんな人なのか?」
最初は正直に話して、信じてもらえないならそれでも仕方がないと思ったおっさんである。
しかし、両家の挨拶をしたいと言って、全力で喜ぶイリーナの顔を見ると、なんとしてでも両家の挨拶を成立させようと思ったおっさんである。
「彼女外国人なんだよね」
「え!?外国人!!パスポートを発行させるために騙されているんじゃないの?」
最近の外国人の犯罪の情報もしっかり入ってくる母のようだ。
「金髪の20歳。名家の長女かな」
(今のところ、嘘をついていないでござるよ)
「ちょ、ちょっと、お父さん。ケイタが」
おっさんが、あまり相手が見つからないから変な妄想の世界に入ったと思ったようだ。
「それは、本当なのか?」
「本当。だからちょっと日本の常識に疎いし、こっちも向こうの常識にも疎いってことは伝えてある。式で使う服もたくさんあるから衣装も貸してくれるって」
(ぜんぜん嘘はついてない。インディアン嘘つかない)
「ん?どこの国の子なんだ?」
「それは着いてから教えるよ。明日の朝一で出かけてもいいかな?」
何で国名教えてくれないんだという顔をする両親である。
明日両家で挨拶するなら絶対知っておいた方がいい情報なのだ。
明日、おっさんが案内するといったので、両家の挨拶の場所は街中のホテルでも借りたのかなと思った両親であった。
夕食中も出会いは何だったのかと聞かれて、街中の通りであったとか。
最初は会ったときは険悪なムードだったけど1年かけて仲良くなったとか、最近料理を作ってくれるようになったとか、嘘をつかずに異世界であることを隠して話をしたおっさんである。
それでも話がずいぶん具体的であったので、本当なのかと思ったおっさんの両親であったのだ。
そして、翌日の朝である日曜である。
お昼前に支度が済む両親である。
両親はかなりおめかしをしている。
たぶん異世界に行くと、服がきっと村人Aの格好になるだろうなと思うおっさんである。
「ちょっと、俺の住んでるマンション寄ってもらうよ」
タクシーで賃貸マンションまでいくおっさんとその両親である。
忘れ物かと聞かれて、違うとだけ答えるおっさんである。
とりあえず1k8畳のおっさんの家に入れるのだ。
「あまり、向うを待たせたらよくないんじゃないのか?」
「そうよ、ケイタ早くいくわよ」
「大丈夫、挨拶は明日だから」
「「え?」」
(異世界にいって翌日っことだけど、まだ嘘はついていない。ぎりセーフな気がする)
「じゃあ、ちょっとそこに座ってて。準備するから」
3人も入れば狭くなる8畳の部屋に両親を座らせて、検索神サイトを開くおっさんである。
ブログは既に1週間かけて3つ起こしているのだ。
王宮生活編
第120記事目 冒険者証Aランクゲットだぜ! ~点1個付き~
第121記事目 防げ水不足 ~ため池を水で満たし隊~
第122記事目 飛行実験 ~大空を舞う~
PV:1248880
AS:37504
検索神サイトの『大』アイコンをクリックする。
・異世界招待6日間ペアチケット【上限3】 PV1000000ポイント
異世界招待6日間ペアチケットを選択するおっさんである。
するとメッセージが表示される。
『近くに2名いることが確認できました。
以下の2名でよろしいですか?はい いいえ』
・山田 義造
・山田 和子
注意:期間が来たら、強制的に現実世界の元居た場所に転移します。
「じゃあ、今から行くね。着いたら説明をするから」
「う、うん」
おっさんは『はい』をクリックする。
おっさんは『はい』をクリックすると、ふっと目の前の風景がゼルメア侯爵のおっさんに貸し与えられた1室に変わる。
11時過ぎの昼前である。
両家の挨拶は明日の昼食の時に行うのだ。
「「え?」」
「よし、無事についた」
(やはり、俺が異世界に来た時みたいに薄茶色の上下で完全に村人Aと村人Bの格好だな)
「え、ここはどこなの?」
「ヴィルスセン王国のゼルメア侯爵の家の一室」
「これはどういうことだ?」
(ふむ、俺と同じで、父は一切動揺していないな。母は動揺しまくりだけど)
「少し説明をするね」
おっさんは両親に事の経緯を説明するのだ。
うっかり異世界に行けるようになったこと。
現実世界と行き来していること。
異世界で知り合った貴族の娘と結婚することになったこと。
(かなりざっくりだけど、あまり検索神の話とかしてもしょうがないしな)
「全然信じられないけど、本当なの?」
「本当。6日間で強制的に現実世界に戻るから。ちょっと説明する時間が必要だとも思って」
今この場におっさんと両親の3人しかいない。
クルーガー家の両親に会いにイリーナは王都のホテルにいっているのだ。
こちらもある程度の事前説明が必要なのである。
クルーガー家は王都に家がないのだ。
法衣貴族でないなら、男爵家だと貴族街に家がない貴族がほとんどである。
今日は訓練も休暇日でパメラとソドン以外全員この屋敷にまだいるのだ。
(おっと、時間測っておかないとな)
タブレットの『時計』機能の時間を『メモ』機能にメモをするおっさんである。
「なんかよくわかんないわ」
「よく分からない異国の地の女性と結婚することになったくらいで思っててくれて構わないよ。俺もよくわかってないし。ただちょっと注意してほしいのがあって」
「何に気を付けるんだ?」
「一応身分制のある国だと思ってて。中世のヨーロッパ並みに身分がある。王国っていうくらいだから国王もいるし、日本の法律も効かないから、変に失礼のないようにね。俺もそんなにマナー分かんないけどなんとかなってるから、とりあえず丁寧に対応してくれると助かる」
「そうか」
「もう1つあって。俺こっちの国でちょっと成功したんだ」
「成功?」
「そう。だから結構もてはやしてくる人もいるけど、そうなのかと思ってて。ケイタ様ケイタ様って言われるけど。息子は頑張ったんだくらいで生暖かく見守ってくれると助かる」
「なんかよくわからんが、多分これ以上聞いても分かんないんだよな?」
(父さんは理解が早くて助かる。理解できないと理解してくれたみたいだな)
「たぶんわかんない。そういうもんかって考えてほしい」
両親2人を見て、とりあえず納得してくれというおっさんである。
最終的にそういう結論になるのだ。
おっさんの父が納得したので、おっさんの母もそういうものかと思うようにしたようだ。
「今日はどうするんだ?」
これから何をするのだという父。
「明日は結婚するクルーガー家との挨拶だから。今日はこの世界の仲間の紹介かな。そのあとは、とりあえず王国の世界観を伝えるから、王都を回るよ」
「仲間?」
「うん。メイ!アリッサ!」
おっさんがメイド長のメイと騎士のアリッサを呼ぶ。
廊下で待機していたメイとアリッサが室内に入ってくる。
「「お呼びでございますか?」」
「すいませんが私の両親に服を用意してくれないかな」
「「畏まりました。ヤマダ子爵様」」
(なんか打ち合わせしたかのようにハモっているな)
「山田子爵?」
どういうことだという顔をする両親であったか、それぞれ別室の衣裳部屋に案内されるようだ。
着替えている間に食堂に向かう。
コルネ、セリム、ロキ、アヒム、イグニル、チェプトが待機している。
「無事に両親を連れてくることができました」
「「おお!」」
「これから食事がてらに皆を紹介するけど、前も言ったけどかなりのド平民な両親です。あまり仰々しくしないでくれるとうれしい」
「畏まりました」
「ケイタの両親か。やっぱりすごい魔術師なんだろ?」
「いいえ、魔法は使えないし。魔法を知らない。たぶん何言っているのか分からないことも多いと思うけど、気にしないでほしい」
何度も言ったことを改めていうおっさんである。
1年一緒にいておっさんが話すことが理解できないことが多かったな。
知らないことも多かったなと思う皆である。
それから1時間が経過する。
(ん?服着替えるだけだよね?何だ、この待ち時間は?)
お腹すいたなと何杯目かのお茶をおかわりするおっさんである。
「お待たせしました。大旦那様と御生母様をお連れしました」
メイド長のメイが両親を引き連れてくる。
綺麗な貴族の服を着ている両親である。
両親ともに肌つやが良くなっている。
どうやら化粧もしているようだ。
さすがの父も扱いに動揺をしているようだ。
食堂に入ってくる両親である。
これから昼食会なのだ。
「ケイタこれはどういうことなんだ?」
父がおっさんに聞く。
「うんと、まあそういう世界観だと思ってください。父さんが良く見る時代劇の洋風版だと思って」
「そ、そうなのか」
全然納得していないおっさんの父である。
ロキがおっさんの父の側にやってくる。
片膝をつくようだ。
「ご挨拶が遅れました。大旦那様、そして御生母様。ご挨拶をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
挨拶がしたいというチェプトである。
後ろにはアヒムとイグニルがいる。
「え?ああ?」
場に呑み込まれるように返事をする父である。
「私は、ヤマダ家の家宰をしております。チェプト=グラマンシュと申します。こちらはヤマダ家に仕える騎士達です」
家宰のチェプトが代表して最初の挨拶をする。
そして、後ろに控えるロキ、アヒム、イグニルが挨拶をするのだ。
「私はヤマダ子爵家に仕えております、ロキ=フォン=グライゼルと申します。本日は、このように挨拶の場を設けていただき誠にありがとうございます」
「アヒム=ペリオと申します」
「イグニル=ファスターと申します」
「ああ、よろしく」
やや引き気味のおっさんの父である。
(軽く挨拶をしてっていったのにがっつり挨拶をしているな。あれはボケのふりだと思われたのか?押すなよ?本当に押すなよって思われたのか)
一番の上座を案内する家宰のチェプトである。
席の前で立つ、セリムとコルネである。
おっさんの両親が座るとセリムとコルネは座るようだ。
セリムとコルネも席で両親に挨拶をしているようだ。
普段一緒に食事を取るロキ、アヒム、イグニル、メイは席に座らないようだ。
チェプトがおっさんの一番そばに家宰として立っている。
ロキ、アヒム、イグニルはフル装備による騎士の格好をしているのだ。
そして、侍女の格好で食事を持ってくるアリッサである。
おっさんが、王家から結婚招待状が届いたとき、両親を呼びたいと悲しい顔をしたことを全員覚えているのだ。
おっさんに仕える立場として、おっさんの両親を、全霊をかけてお迎えしようと心に決めていたのであった。
食事が終わったら馬車で王都を案内するのであった。
明日は両家の挨拶である。
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