第06話 飛行実験

8時過ぎに通りかかったときよりもお昼前のためかものすごい人だかりである。

中には嬉しそうにしている人もいるのでいいことが書かれているのかと思うおっさんである。


「3つ大きな看板がありますね」


広場の中央の噴水前に横一列に噴水を囲むように並んだ看板である。


「そうですね」


身の丈以上の3mくらい高さがありそうな大きな看板である。

皆見上げるように、看板に書かれている内容を読んでいるようだ。

大きな看板の守るようにロープを張りこれ以上に近づけないようにしている。

ぎりぎり触れない距離感である。

兵士もかなりの人数が動員されているようだ。


「何々、これは私達がダンジョン攻略をして、その成果について書かれていますね」


マデロス宰相が謁見の際におっさんら一行の成果について掲示すると言っていたなと思うおっさんである。

ウガルダンジョンを攻略したことはもちろんのこと、人数や名前などの情報や、これまで1年近く活動の記録や成果、王国への貢献について詳細が書かれているのだ。

王都の人達も食い入るように新たに生まれた英雄たちについて知るのであった。


「こういったものは3つあるうちの真ん中にかかげるべきでは?一番の成果なのですから」


疑問を持つロキである。


「真ん中はそれ以上の情報なのでしょう。では後ろを回り込んで反対側の端を次に見てみましょう」


最後に真ん中の情報を見るようだ。

横一列に並んだ3つ看板があるうちのもう片方の端を噴水の裏を回り込むおっさんらである。

そして、もう片方を読むイリーナである。


「こっちにはロキが王国最強の槍使いであることが書かれているぞ」


「「「おおお!」」」


皆驚き、そして、自分のことのように喜ぶようだ。

ロキが最強の槍使いであることを国王が証明したことが書かれているとのことだ。

この看板を真剣な目で見るムキムキの男達がいる。

背に槍を掲げる冒険者が多いようだ。


「では、このロキとやらを倒せば俺が王国最強の槍使いというわけか?」

「そういうことになるな、まあ挑戦するのは俺だけどな」


冒険者達はロキの名前とその功績を真剣に読んでいるようだ。

どうやってロキに挑戦するか話をしている。


(やっぱり、王国最強の槍使いって気になるのかな。それにしても真ん中は何が書かれているんだ)


おっさんら最後には中央に置かれた看板を読むのだ。

街の人も冒険者も食い入るように見ている。

そこには、以下のとおり書かれていたのだ



新年1日目に結婚式を行う

王国の英雄  ケイタ=フォン=ヤマダ

王国の男爵家 イリーナ=クルーガー


よって新年と前後1日の3日間は祝日とする。


王国の英雄の結婚を祝して、来年1年について以下の減税及び恩赦を与える。

・人頭税は従来の5割とする

・冒険者の依頼手数料は従来の5割とする

・金貨10枚以下の借金奴隷の救済

 金貨10枚以上の借金奴隷については、金貨10枚分の減免措置をとる。

・軽犯罪1回の免罪


・結婚式のスケジュールについて(以下略)



「「「おおおおお!!」」」


おっさんら一行に喜びの声が上がる。

国王の名も書かれており、王国を挙げて結婚式を祝う旨書かれていたのであった。

その他、結婚式の日程や、その際の大通りの規制なども書かれているのだ。

服装についてもなるべく華やかなものを着るようにとあれこれ書かれていた。

人混みはどんどん大きくなる中、思ったよりもずいぶん大規模な結婚式だなと思うおっさんである。


「ず、ずいぶん大規模な結婚式のようですね」


「王国の英雄だからな」


人混みの邪魔にならないよう、内容を見たので馬車で貴族街に戻るおっさんらである。


「この軽犯罪1回の免罪ってなんでしょう」


「それは、軽犯罪3回制のことであろう」


イリーナが王国の犯罪法について、説明をしてくれる。

王国内で軽犯罪とする、窃盗などについても3回繰り返すと、殺人などの重犯罪と同じ重犯罪とするという法律があるとのことだ。

今回は、犯罪者の軽犯罪を1回分減らし、1回なら0回、2回なら1回、3回なら2回にするということらしい。



看板も見ることができたので、ゼルメア侯爵邸に戻る前にウガル伯爵家に立ち寄るおっさんらである。

セリム母にセリムが冒険者証を自慢するためである。

なお、王都にあるウガル伯爵家はかなり質素で、男爵や子爵が住む辺りの貴族街にあるのだ。

なので、ゼルメア侯爵邸から馬車で15分ほど離れたところにあるのである。


(40歳で王都に来た時、生活が厳しかったんだろうな)


ウガルの悲劇の立て直しにお金を使ったウガル家である。

2000家の士爵家が当主を失ったのだ。

悲劇から30年近くたっても生活にゆとりはあまりなかったのだと思うおっさんである。


満面の笑みで冒険者証をセリム母に見せるセリムである。

ウガル元伯爵もその後ろでやさしく微笑むのであった。



それから3日が過ぎたのだ。


ここは王都から小一時間ほど離れた場所である。

周りに畑も少ない場所なのだ。


おっさんは、結婚式に両親を呼ぶために1年かけて、貯めに貯めたPVポイントのほとんどを失うのである。

そのため、少しでも多くのブログネタを求めているのだ。

ダンジョンを攻略して100個以上のブログを起こしたのに、まだまだ足りぬ、これ以上のブログを起こせという検索神の強い意志を感じるおっさんである。

これから行う飛行実験もその1つなのである。


(冒険者証をAにしたことと、王都周辺のため池を全部満タンにしたこともブログに起こすかね)


【ブログネタメモ帳】

・冒険者証Aランクゲットだぜ! ~点1個付き~

・防げ水不足 ~ため池を水で満たし隊~


2日間、ロキのためにセリムの魔力を上げに昼間戻りつつ、王都周辺を回っていたおっさんである。

水不足になると大変ですよねと、王都周辺を守る第二軍の騎士に頼んで、王都周辺のため池20個以上を2日掛けて全て満タンにして回ったのだ。

宮廷魔術師が50人いても1個の3分の1しか貯めることができないため池をどんどん満タンにするおっさんに対して、丁寧語から敬語に変わり、震え始めた王国の周囲を守る第二軍であったのだ。



「本当にやるのか?」


ここにはおっさんとセリムとイリーナとコルネがいる。

正直おっさんとしては初の飛行実験なのでイリーナとコルネは置いておきたかったがどうしても一緒に飛ぶということなので一緒に来たのである。

ロキは2日間の訓練で生まれたての小鹿状態なのでゼルメア侯爵邸に置いてきたのだ。

イリーナの話ではしゃべる鎧は、ロキを殺すギリギリのところで訓練をしているとのことだ。

しゃべる鎧の訓練は過酷なため2日やって1日休みであるのだ。

今日は1日の休みを利用して飛行実験をしようとそういうわけである。


「もちろんです。誰もいなさそうですね。一応先日、国王には飛竜の飛行訓練をすると伝えているのですけどね」


【ブログネタメモ帳】

・飛行実験 ~大空を舞う~


昨日も食事会に呼ばれたおっさんである。

その際に飛行訓練について事前説明をしたのだ。

なぜそんなことを思いつくのだという顔をされたのであった。

国王は新年の準備という名の結婚式の準備で大変忙しそうである。


「じゃあ、飛竜を召喚するぞ」


『グルアアアアアアアアア』


(ふむ、周辺住民を驚かせたくないから叫ばないでほしいのだけど、飛竜的な召喚のルーチンやこだわりだったりするのかな)


15mの飛竜である。


(ふむふむ、確か軽飛行機が同じくらいの大きさで10人乗れて1トンくらいの重さまで大丈夫なんだっけ。それよりは重量制限ありそうだな)


飛竜と軽飛行機を比べるおっさんである。


「念のためにASポイント使って体力と耐久力を上げておきます」


(仲間支援魔法で4倍のHPと耐久にしておけば最悪落ちても死なないだろう)


・体力Lv5 10000ポイント

・体力支援魔法(仲間)Lv3 10000ポイント

・耐久力支援魔法(仲間)Lv3 10000ポイント


飛竜を乗りやすいように地面に伏せるように指示をお願いするおっさんである。

4人で背に乗る。


「飛ぶようにお願いしてください」


「分かった」


『グルアアアアアア』


一声、雄たけびを上げると、翼を広げ羽ばたきだす飛竜である。

ゆっくり地面から離れていく。

4人を乗せたまま地面から30mほどの場所にホバリングする。


「おお!!飛んだぞ!!」

「すごいです!!」


イリーナとコルネが感動をしている。


「どうですか?セリム。4人だと厳しいですか?」


「うんと、これでギリギリだと言っているぞ。魔力結構使うってさ」


(ふむふむ、4人でぎりぎりか。今回は割と軽めのイリーナ、セリム、コルネだからな。ソドンをいれると3人でもぎりぎりかもな)


「分かりました。とりあえず、人を驚かせてしまいますので今の3倍くらいの高さを維持して、ガリヒルの街を目指して飛行実験をしてみましょうか。無理になる手前で地面に降りるように言ってください」


「分かった。っていうか、召喚獣は外に出ていても、お前の言うこと分かるって言ってるぞ」


「そうなのですか?まあ召喚士は主なので、主を通すということですね」


一声雄たけびを上げると、街道を頼りにガリヒルの街に向かう飛竜である。

時間を測るおっさんである。

そして30分が経過する。


「お、おい街が見えてきたぞ?何だものすごく速いぞ!!」


「たしかガリヒルの街から王都まで2日でしたか。セリム飛竜の魔力はどれくらいか分かりますか?」


「重いからもうすぐ半分になるって言ってるぞ」


(ふむふむ、王都とガリヒル間が馬車で2日なら、60kmくらいか。これを30分でいけるってことは時速120kmかな。体感だと高速道路の車より早く感じるし、こんなもんか)


「もう少し速く飛ぶことはできますか?」


「魔力消費を倍にしてもいいなら、倍の速さで飛べるって言ってるぞ」


(魔力的に今の4人で乗って、今の速度で120km飛行可能か)


「なるほど、分かりやすいですね。乗り心地としては、今以上に速くなると風がとても強く感じるかもしれませんね」


飛竜の背はごつごつしているため、皆思い思いにしがみついているのだ。

また、風の抵抗の少ない姿勢だったりと、あれこれ試した30分であった。

そうこうしているとガリヒルの街から少し外れたところに到着する。


「次はどうするんだ?帰るのか?」


「いえまだ、お昼にもなっていません。もう少し飛行実験をしましょう。では、今度は一度飛竜をしまって、もう一度飛竜をだして、飛竜の魔力を回復させましょう。そして飛竜とセピラスの2体に2人ずつ分かれて乗ってフェステルの街に向かってみましょう」


「ん?わかったぞ」


(おそらく、ガリヒルの街からフェステルの街まで馬車で6日なんで180kmあるな。重さが半分になるから飛行距離が240kmに伸びるかな。1時間30分でフェステルの街に着くはずだから1度の飛行で足りると思うけど)


飛竜を出し直し、セピラスを新たに召喚する。

おっさんとコルネ、イリーナとセリムに分かれて乗り込む。

乗り心地を確認するため、おっさんはセピラスに乗るようだ。

飛び立つ2体の召喚獣である。


「コルネも危ないのでしっかりセピラスに掴まっててくださいね」


「うん」


(ほう、今は機嫌がいいな。機嫌がいいとコルネは『はい』じゃなくて『うん』と言うからな。きっと素の返事は『うん』なんだろうな)


コルネはおっさんと2人でセピラスに乗れて機嫌がいいようだ。

4人の重さ的な配置と、指示のしやすいセリムと何かあったときに対処しやすいおっさんで別れたらこのようは配置になったのだ。


(今回は重さが心配だったからイリーナのしゃべる鎧からゲットした両手剣を置いてきたからな。あれ重さ100kg以上あるしな。今後飛行して移動することが多いなら、スキルも取らないといけないな)


・飛行魔法Lv1 1000ポイント

・4次元収納Lv1 10000ポイント


おっさんはいくつか飛行に際して、スキルの検索をしてきたのだ。

おっさんが単独で飛ぶための飛行魔法もあったのである。

重さ制限が厳しいなら、おっさんだけでも飛ぼうと思ったのである。


(たぶん、全員を飛ばすのに、範囲魔法じゃないとダメなんだろうな。そしたら魔法レベル3にしないといけないから、AS10万ポイント必要なのか。召喚獣は重さ制限のある飛行のようだし4次元収納で重い物やかさばるものをしまわないといけないな。オリハルコンの装備は重いしな)


新たな課題と対処について考えるおっさんである。

考察を続けること1時間30分が経過する。

フェステルの街が見えてきたのだ。


「あれ、見えてきました。ってフェステルの街すごいことになっていますね」


「ほ、本当です!」


フェステルの街を出て1年が経つのだ。

そこにはおっさんが作った外壁にも、いくつもの建物、施設、畑、道が作られている。地下水も一部表に出ていることから水路も整備が進んでいるようだ。

全体の8割が畑であるように感じる。

まだまだ、発展の余地はありそうである。


「セリム、あのあたりでおりましょう!!!」


「分かった!!!」


大きな声でセリムに指示を出す。


(ふむ、セリムと別れて乗ると、セリムに指示を出しずらいな)


そんなことを思いながら外門の外で、貴族街のある北門側に降りるおっさんである。


「せっかくなので家宰のセバスに挨拶をして戻りましょうか」


「うむ、そうだな。せっかくなので顔を出しておこう」


イリーナも賛成のようだ。

セバスからは驚かれながらも、自分の主を伯爵にしてくれたおっさんに改めてお礼を言われたのであった。

軽く挨拶をして王都に戻る4人であった。

その際、イリーナが今度はおっさんと2人で召喚獣に乗りたいと言われたおっさんであったのだ。

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