第52話 税

ここは1k8畳の賃貸の部屋である。


81階層からずっと召喚獣に出口を探してもらうおっさんら一行である。

出口を探すのに1日から2日掛けて探して、移動に1日掛けたのだ。

出口と思われる洞穴には出口ではなく、宝箱がある場合もあったのだ。

出口も見つけても、その日の移動には中途半端な時間だと、召喚獣には宝箱探してもらったのである。

たまにオリハルコンの武器を持って帰ってくる召喚獣を褒めるセリムであった。


移動はもちろん雪原で台車ではかなり移動が難しいため、土魔法による土壁の上を進むのである。

今回は、吹雪ということもあり、横にも壁を作り嵐に備えたのである。

何もないところにしか土壁は作ることはできないのである。

敵を押しのけて土壁を作ることはできないのだ。

そのため、正面に敵が待機している場合、倒さないと土壁が作れないことも何度もあったのだ。

敵も倒しつつ進んでいったのである。

鎧に直接肌が触れないように布切れを肌と鎧の間にいれたが、移動中定期的に凍傷対策で範囲回復魔法もかけ続けたのである。


「セリムの召喚獣は有能だな。宝箱も探してくれるしな」


1度目の攻略で84階まで攻略したおっさんは、2度目の攻略で87階に到達したのだ。

吹雪で視界の悪い中、召喚獣の力を借りて攻略を進めてきたのだ。

なお、1回目の攻略に10日掛けたのだ

3日ほど休暇を入れ、2回目の攻略に16日掛けたのだ。


「ブログもそうだけど。異世界に行きすぎてて、仕事のことすっかり忘れていた件について」


ダンジョンも通いすぎて、ネタが乏しくなって久しいのだ。

現実に戻るのは3カ月近く過ぎていたのだ。

仕事をするのも3カ月ぶりだったりする。

結構な長期休暇である。


ダンジョン都市編

第98記事目 ダンジョン講習会 61階から70階編

第99記事目 ダンジョンの記録 ~71層から79層編~

第100記事目 オリハルコンこそ最強の武器

第101記事目 召喚獣の声 ~俺を出せ~

第102記事目 ダンジョン80階ボス編

第103記事目 ダンジョン講習会 71階から80階編

第104記事目 召喚獣 ~出口を探せ~


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「とうとう、ブログ記事を100個上げたけど、特に検索神からの報酬はないみたいだな。ダンジョンコアも近いだろうし、必要なスキルもあるかもしれないからとっておくかな」


ブログネタも少なくなってきたので、スキル選びに慎重になるおっさんである。


「さて、明日は劇を見に行くんだっけか。自分の劇を見ることになるとはな。さすが異世界だ」


1回目の攻略で84階層を攻略後、拠点に戻ってきたら、パン屋の娘ヘマから、おっさんの劇がとうとう始まったということである。

皆、劇場に行きたいとのことであったので、大体何日で戻ると予定を入れ、吹雪階層の2回目の攻略に出たのである。

帰路についた辺りの日程で劇場の個室を、予約いれるようにチェプトに指示を出しておいたのだ。

せめて、劇をブログネタにしようと思ったおっさんである。

今現実世界に戻ったのも、今後現実世界に帰るブログネタ(保険)もできたので、ブログ記事を書きに現実世界に戻ってきたのだ。

ブログネタがないと現実世界に戻れないおっさんである。


『ブログ記事の投稿が確認できました。異世界にいきますか はい いいえ』


おっさんは『はい』をクリックすると、ふっと目の前の風景がウガルダンジョン都市でおっさんが借りた拠点に変わるのだ。


イリーナが横で寝ている。

というか、抱き枕状態である。

冒険者ギルドで従者の褒美の相談をしてから、思うことがあり、抱き枕がイリーナの中で解禁されたようだ。

泥棒猫を警戒するイリーナである。


「おやすみ、イリーナ」


心を落ち着かせて眠りに着くおっさんであった。

そして、翌朝の朝食の時である。

スープはイリーナ担当のようだ。

イリーナが作り、セリム母により味を調整したスープを飲みながら、おっさんは宣言する。


「では、今日から4日間の休暇にします」


「「「はい」」」


「今日はこれから劇がありますが、どうしても用事のある方は、用事を優先していただいても大丈夫ですよ」


劇は夕方にある。


「いえいえ、ケイタ様の武勇を見るいい機会です。当然従者もつれていきます」


「「「はい」」」


従者だけではなく、皆見に行くのが当たり前のような顔をしている。

どうやら皆見に行くようだ。


「皆見に行くようですね。チェプト頼んでいたものは用意してくれましたか?」


「はい、白い外套ですね」


「ありがとうございます、なんかダンジョンから戻ってきてから、拠点に戻るまで、礼を言われたり、祈られたりと、ちょっと顔を隠したいので助かります。何のお礼でしょうね?」


今の黒い外套でもフードで顔を隠しているおっさんである。

84階層から戻ってきて、結構はっきりとした声で『ありがとうございます』と言われたおっさんである。

何のお礼か分からないのである。


「それは、人頭税が安くなったからですよ。今年の人頭税が2割少なくなりましたので、そのお礼だと思います」


パン屋の娘ヘマがおっさんの疑問に答えてくれる。

ダンジョン都市に住む民は、人頭税がかかるのだ。

ウガル伯爵領を治める、ウガル家が今年の人頭税を2割引にすると、つい数日前に発布したのだ。

なお、2割とは、領主の判断で王家の許可なく、税率を増減できる最大割合である。

冒険者は人頭税から免除されているが、受けた依頼料や素材の売却益の一部を、税金として冒険者ギルドが治めているのだ。


「え?人頭税って街民の税金ですか。なぜ私がお礼言われるのでしょう」


「それは、あれだけの魔石を競りに出したからでしょう。おそらく既に魔石の競りだけで、ウガル伯爵領の王家への徴税分の税金は納めているはずです」


セリム母が答えてくれるようだ。


「え?私税金払っていませんよ」


「競りの場合は、競りの代金の1割を上乗せして冒険者ギルドに競り落とした者が払います。その後、その1割を8対2に分けて、8を領主に納め、2を冒険者ギルドが収益としているのです」


元伯爵の娘のセリム母がさらに詳細を教えてくれる。

既に競りで白金貨20000枚以上稼いでいるおっさんである。

まだ、回収できていないAランク魔石100個の競りの代金も別にあるのだ。

既に白金貨1600枚以上のお金が競りからの税収として領主であるウガル家に入っているとのことである。


「だから、今年分の税収が入ったので、税収を減らしてくれたのですね」


おっさんは納得したようだ。


【ブログネタメモ帳】

・税と貴族


(でも、お礼は分かるけど、地面に足をつけてお祈りするのは、ずいぶん大げさだな。生活がかなり切羽詰まっていたのかな。税金払わなければ借金奴隷とかになるのかな)


「当然違います。それはきっと建前です」


「「「え?」」」


おっさんはもちろん、おっさんとセリム母の会話を聞いていた皆から疑問の声が出る。


「減税した本当の理由は、セリムです」


「「「セリム?」」」


セリム母がウガル家の内情を説明してくれる。

セリムを廃嫡したウガル家である。

そのセリムが破竹の勢いでダンジョン攻略を進めているのである。

これまでの記録である56階層までの攻略の記録を塗り替えたのだ。

王国建国以来の記録である56階層までの攻略の記録を塗り替えたのだ。

そして、前人未踏の80階層達成。

ウガル家は、セリム廃嫡の事実を必死に隠してきたのだ。

しかし、80階層達成した際、冒険者ギルドがセリムの名前をおっさんら一行10人の1人として公表をしたのだ。

ウガル家当主にセリムという名前の孫がいることは、街民の中でも知っている人は知っているのだ。

元々御家の恥として公表をしてこなかったセリムの廃嫡の事実が、漏れることも時間の問題ともいえるのである。


「そしたら、ウガル家はものすごい恥をかきそうですね」


(ん?セリム母は、ずいぶんウガル家の内情に詳しいな)


「いえ、これだけの結果です。おそらくウガル家存続の危機でしょう」


恥をかいたではすまされない。

ダンジョン都市を治める領主は、英雄セリムの力が理解できずに追い出したのだ。

民からの反乱や暴動すら起きてもおかしくないとのことだ。

領を、そしてダンジョンを治める貴族として、民からの信用も信任も地に落ちるのだ。

今回の減税の一件は、そんなことにならないよう、街民に対してのあらかじめのご機嫌取りであるとのことだ。


「でも、心配ですね。そこまでの話なら、ウガル家が何かしでかしてこないか」


おっさんは追い詰められたウガル家が何かしてこないか心配をしている。


「いえ、その心配はないとギルベルドが報告にきました」


「な!ギルベルドが来たのかよ!」


セリムは驚くのである。


「今回の減税前にやってきましたよ。何でも本件のセリムの問題は王家にも話がいっているようです。もし、ヤマダ男爵様はもちろんこと、ヤマダ男爵様の留守中に私達に何かあれば、王家はウガル家を王家への反乱と見なすと、国王から父に直接おっしゃったそうですよ。ウガル家の反乱に対して、討伐軍を王家から送るとまで言われたそうです」


(おお、手紙を国王に送ったからかな。それにしても、こっそりでいいからチェプトはウガル家の家宰ギルベルドが来たこと報告しておいてほしかったな。別に来たからどうこうするわけじゃないんだけど)


昨日の今日の話なので、報告が遅れたチェプトである。

申し訳ありませんといった顔をしておっさんを見るチェプトである。


「それは良かったです。王家は私たちの味方のようですね」


ロキや従者達から羨望のまなざしで見られるおっさんである。

一貴族に対して、王家からの最大限の対応を受けているのだ。


「はい、今度セリムにも話があるといっていましたよ」


「な!俺にはないぞ!あんな家滅びたらいいんだ!!」


立ち上がり叫ぶセリムの声が、家中に響き渡るのだ。

何か言葉を返すものはいないようだ。


夕暮れまで時間を潰して、繁華街にある劇場に向かうおっさんら一行である。

夕方ということもあったので、前回の競りの代金と回収と今回の魔石100個の競りを冒険者ギルドに持っていたのであった。

前回の競りの代金は白金貨2800枚になった。

武器防具の修理と新調も済ませて拠点へ戻る一行である。


「ではいきましょうか」


「「「はい」」」


2台の馬車に14人全員乗り込み繁華街の1等地にある劇場を目指す。

劇場前は、まもなく公演ということもあり、すごい人ごみである。

貴族専用通用口から、劇場に乗り込むおっさんら一行である。

案内を受けながら、予約した個室入る。


「14人全員入っても十分そうですね」


(ふむふむ、野球ドームの個室もこんな感じなのかな。結構個室も埋まっているな)


現実世界では個室のようなVIPルームを使ったことないおっさんである。

劇場のおっさんのいる壁の反対側にある無数の個室も、ほとんど人が入ってきているようである。


「結構な広さだな」


「そうですね、ゆったり座れそうです」


皆も個室で劇を見ることがないので、部屋の中を物色して回るようだ。

劇場を人数が多くても見ることができるように、個室にもひな壇みたいな2重の段差がある。

横2列に並んで、劇を見るようだ。


「せっかくなので食事と飲み物も注文しましょう」


ロキが部屋に置いてあるメニュー表を見ながら、注文してくれるようだ。


「いいですね、せっかくなので皆さんもお酒飲んでくださいね。じゃんじゃん飲んで食べてください。せっかくの劇です」


おっさんは、おっさんを気にして、ロキや従者がお酒飲まないことを気にしていたようだ。

代行の御者を雇って運転させる。

または、代行運転できなければ、治癒魔法で酔いを消して馬車を従者に動かしてもらおうと考えていたようだ。

確認すると、受付にいえば、追加代行の御者に馬車に家まで送ってくれるとのことだ。


劇場の座り見席はどんどん席が埋まっていく。

座り身席も1段と2段があり、その後ろが個室になっているのだ。

満席御礼のようだ。

売り子が何か軽食とお酒を売っているようだ。


(座り見席だけで1段1000人、2段500人くらいはいそうだな。個室も合わせると2000人くらいか。結構な人数だな。映画館だと一度に入るのは500人前後だっけ。でも公開は1日1回だけか。この部屋も金貨20枚とられたみたいだしな)


映画と劇場の違いを考察するおっさんであった。

まもなく、おっさんを主人公にした劇が始まろうとしているのだ。

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