第51話 探索
休暇を終え81階層から下層を目指す朝である。
14人で朝食を取っているのだ。
休暇中には、おっさんが予定していた、冒険者ギルドへの80階層達成の報告とその後の講習会、孤児院訪問など休み前に決めておいた予定をこなしたのであった。
従者への褒美の件は、最終的におっさんの判断にゆだねられるということで話が付いたのだ。
「では、いきましょう」
「「「はい」」」
おっさんの一声で出発の準備を始める皆である。
徒歩でダンジョンを目指すのもこれで何度目かである。
ダンジョン広場に着くおっさんら一行である。
当然のごとく視線を一身に浴びるのである。
3日前には、80階層到達の周知が、冒険者ギルドが行ったのだ。
冒険者ギルドの判断で、今回よりクランメンバー全員の名前を掲示されたのだ。
おっさんら一行はたった10人なのだから全員公表しろという、冒険者どころか街の住人からの強い要望に応えた形である。
たった10人で攻略しているのは、ウガルダンジョン都市のほぼすべての人達が知っているのだ。
なお、名前については冒険者に登録した通りの公表になったのだ。
「おいおい、いらっしゃったぞ、80階層攻略しても、まだ攻略を続けるみたいだぞ」
「どんなお顔か一度見せてくれないかな」
「講習会でもフードを被っているらしいな。目を見ると燃えてしまうとか聞いたぞ。魔力が大きすぎて抑えきれないとか」
「アヒム様、今日もカッコいい。お近づきになれないかしら」
「馬鹿、そんなこと言っていると、アヒム親衛隊に抹消されるわよ」
「セリム様ってあのセリム様じゃないのか?」
「噂では、あのセリム様らしいぞ。当主の孫も参加しているなんて、ウガル家も本気らしいな。これは攻略達成もあるぞ」
(なんか、ずいぶんはっきりと聞こえるひそひそ話な件について。芸能人もこんな感じなのかな。それにしてもアヒム親衛隊ってなんぞ。うらやまけしからん!これは説教が必要かな)
休みの度に歓楽街に繰り出すアヒムにはファンクラブができていたのだ。
ひがむおっさんである。
セリムは会話を聞いて、ムッとした顔をしている。
ワープゲートを抜け80階層に到着する。
81階層から入ってくる冷気のためか、とても寒いのだ。
「では、まずは焚火の準備をしてください」
「「はい」」
従者のアヒムとイグニルが焚火と準備を始める。
「それで、ケイタ殿よ。どうやって攻略するのだ。視界も何もないぞ?」
「いくつか、確認をしないといけないことがありますが、この層については、セリムの力を借ります」
「おれか?」
おっさんは拠点では、セリムの召喚の話を控えているのだ。
パン屋の娘ヘマに召喚士の話をしていないからである。
今回の攻略については、81階層前の広場で対策を考えると皆に伝えているのだ。
鎧の上からでも着ることができるフードと、2台の台車のうち1台半を占める薪を用意してきたが、具体的な攻略の話はこれからである。
「そうです。私はセリム無くして、このダンジョンの攻略はないといいました。今こそ、セリムの力を借りる時が来たのです!」
「おお!!」
喜ぶセリムである。
「まあ、根拠はありませんでしたけどね」
「ないのかよ!」
セリムがしっかりおっさんのボケにツッコミを入れてくれるようだ。
おっさんにとってセリムは貴重なツッコミ要員であるのだ。
「まず、状況から説明をします」
「うむ」
ソドンが相槌を打つ。
「この吹雪です。コルネの鷹の目は厳しいでしょう。また、視界の悪い中、歩いて広い階層の中で出口を探すのは厳しいかと思います。この方法でも階層攻略は不可能ではないと思いますが、視界も悪く、かなりの時間がかかると予想できます」
「そうであるな。某も同意見である」
「私は、この階層の出口がどうなっているか想像をしました」
「ほうほう」
「出口はダンジョンの入り口のように丸い屋根があり、横から洞窟のように入って下の階層に行くと予想できます。なぜなら雪が下の階層に入ってしまうからです。この丸い屋根を探すことが大事だと思います」
「ふむ」
「この、丸い屋根をセリムの召喚獣に探してもらおうと考えています」
「おお!召喚獣に出口探してもらい、そこに皆で向かうというわけであるな」
「そのとおりです。しかし召喚獣を出している時間は1刻(2時間)しかありません。どのような方法でなら召喚獣に出口を探してもらえるかを、ここでいくつか実験をして、より良い方法で攻略をしようとそういうわけです」
「それで、焚火の準備から始めたというわけであるな」
「はい、まずは方法をしっかり決める方が大事です。皆さんもどうすれば召喚獣による出口発見が可能か考えてください」
「はい」
皆も理解してくれたようである。
ここからセリムの召喚獣にどのような形で指示をだせば、広い階層の中にある、かまくらのような穴にある出口を見つけることができるか、色々な召喚獣の組み合わせ、召喚獣にできること、できないことの検証を進めていくのだ。
81階層前の広間で分かったこと、既に分かっていたこと
・召喚獣の声は50m離れると聞こえなくなる
・召喚獣は50mを超えて離れても消えることはない
・召喚獣は1刻連続で召喚すると消える
・再召喚しても、離れていると消えた場所と同じ場所には召喚できない
・一定のダメージを受けると光る泡になって消える
・召喚獣は記憶や体験は蓄積される
・同じ召喚獣を複数体だせても、個体としての自我は全て1つである
・召喚獣はモンスターの種類ごとにそれぞれ1つの自我を持っている
・同じランクのモンスターでも知能には大きな差がある
・召喚獣はレベルが上がることはない
・召喚獣は仲間支援魔法の効果は得られない
・回復魔法で体力を回復する
「これは、3体のBランクの骸骨剣士に、3方向に1体ずつ探索させたらいいのではないのか?」
「そうですね。そしたら、3方向に分かれることによって、早く発見できるかもしれませんね」
イリーナの案に同意するロキである。
「そうですね。いい案かどうか確認するためにも試してみましょう。やってみてわかることもあるかもしれませんよ。セリムお願いします。歩くと見つけれないかもなので走って探すように指示をしてください」
「分かった」
3体の骸骨剣士が走って出ていく
吹雪の中を進んでいく。
そして2時間がすぎる。
「3体とも消えてしまったな。2体は途中でやられたけど」
「遠く離れた場所でもやられたことに気付くということですね。やはり走っても、いける距離には限りがありますね。もしかしたら走った先にあるかもと思いましたが。ちなみに何にやられたか分かりますか?」
「んっと、狼と熊のでかいのって言っているぞ」
「では、狼も熊も飛べない、飛べるモンスターはどうでしょう。距離も稼げそうです。例えばワイバーン3体とかいかがでしょう」
今度はロキが次案を出してくる。
「わかった。ワイバーン3体に探させてみる」
骸骨剣士3体の反省点を踏まえてワイバーン3体にしてみる。
3体のワイバーンが飛んでいく
吹雪の中を進んでいく。
そして2時間がすぎる。
「3体とも今消えてしまったな。ん?指示忘れてしまったってさ」
(ワイバーンはびっくりするくらいアホだった。しかし、Bランクのワイバーンが2時間とんでも、Aランクモンスターがばっこするこの階層で倒されないってことは、飛んでる敵は攻撃されにくいってことかもしれないな)
「ちなみに、寒さとかは大丈夫なんでしょうか?」
「ん?問題ないって言っているぞ」
(爬虫類っぽいけど、召喚獣に寒さは関係ないのか。生き物のくくりではなくなってるってことかな)
「ふむふむ。例えば、ワイバーンの上に頭の良い骸骨魔術師や骸骨神官を載せて、指示を召喚獣同士で出させあうってことは可能でしょうか。ワイバーンが指示を忘れても、上に乗せてる骸骨魔術師達が指示を思い出させることが可能です」
2回のテストを踏まえた案をおっさんが出す。
「なるほど、ちょっと召喚獣たちに、召喚獣からの指示は聞けるか確認する。ん、別にいいっていってるぞ。可能みたいだ。行かせてみるよ」
ワイバーンの上に骸骨魔術師や骸骨神官を載せて、吹雪の中を出口目指して進んでいく。
出発して2時間近く経過する。
「やはり、厳しかったでしょうか」
「そうだな、って戻ってくるぞ!」
ロキが諦めかけていたところ、イリーナが召喚獣に気付く。
ワイバーンの上に骸骨魔術師や骸骨神官を載せた状態のまま、81階層入口まで戻ってきたようだ。
「出口はありましたか?」
「出口があったって。ぽっかり穴が横に空いた、丸い膨らみがむこうにあるって言っているぞ」
11時の方向を指すセリムである。
召喚獣の声はセリムにしか分からないのだ。
ワイバーンは鳴き声にしか聞こえないのだ。
骸骨魔術師の声は音すら聞こえないのである。
指示もセリムしか出せないのである。
「では、この羊皮紙にどの辺か書いてもらえませんか?あと歩いていくとしたらどれくらいの時間がかかるかも教えてほしいです」
羊皮紙と鉛筆のような黒炭が先端にあるものを骸骨魔術師に渡す。
どうやら歩いていくと6時間近くかかるようだ。
(歩いて直線で20kmはありそうだな。吹雪の中だと、これは結構な距離だな)
「ふむ、今から3刻もかけて出口を目指すとかなりの時間になります。途中で戦闘もあるので3刻では済まないでしょう」
「では、今日はここで一泊して明日向かうということであるか?」
「そうですね。せっかくなのでまだ倒していない80階層ボスを倒してから休みましょう」
「なるほど、鍛錬も大事であるからな」
どの程度、81階層に攻略に時間と労力がかかるのか分からなかったので80階層ボスは後回しにしたおっさんである。
「4人でも問題ないようだな」
4人の2組に分かれ、おっさんとコルネは土壁に上って、攻撃をしたのである。
構成を考えながら、素材を回収するのである。
「しかし、16個も魔石が台車にのらないであるな」
ソドンが言う。
台車にはぎりぎりまで薪を積んでいるため、魔石を載せる余裕がないのである。
「そうですね、81階層前の広間に置いてきましょう。どうせ戻ってきますから」
魔石も回収し、夕食の準備に取り掛かるアリッサである。
もう何度も見た光景であるが、今日は少し様子が違うのだ。
なんと、イリーナが夕食をアリッサと一緒に作るようになったのである。
冒険者ギルドでおっさんの従者への褒美の相談に乗ったその日に、何か思うことがあって、セリム母に料理の作り方を教えてくれるようお願いをしたようだ。
嫁に行くので、料理を作れるようになった方がいいと料理を始めたのである。
騎士の家系に生まれて、切れる物は剣しか持ったことがないイリーナであるが、今はアリッサの指導のもと料理を作っているのだ。
という建前で泥棒猫を警戒するイリーナである。
アリッサとイリーナの料理を眺めるおっさんらである。
ほどなくして出来上がる、イリーナ特製スープである。
「ほらできたぞ」
イリーナがおっさんにスープを注いで渡す。
「いただきます」
もりもり食べるおっさんである。
おっさんもイリーナほどではないが、食が細くないのでしっかり食べるのである。
「ど、どうだ」
「え?美味しいですよ」
「そ、そうなのか?」
おっさんがもりもり食べるので、自分でも口にするイリーナである。
顔が歪む。
なぜなら、塩がほとんど入ってなくて、食材本来の味しかしない上に、芯まで火通ってないので、生煮えであるのだ。
「な、こんな、なぜ?」
なぜおいしいといったか不思議に思うイリーナである。
「まあ、最初からうまくいかないので、上手になるまで、食べる専門でお付き合いしますよ」
そう言って食べ続けるおっさんであった。
どうやら味より彼女の手料理に対して、感動が大きかったようだ。
そうかと小さく返事したイリーナである。
そんな2人のやり取りを眺める一行である。
その後、アリッサが手早く調理し調整したのであった。
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