第50話 褒美

「少し時間がかかったが問題はなかったな」


今は、80階層ボスの間である。

予想通り16体のAランクモンスターが待機していたのだ。


「はい、時間はかかりましたが、土壁を使って確実に勝てて良かったです」


現在は魔石を回収しながら反省会中である。

16体のボスを倒すのに1時間以上かかったのである。


「やはり、1体を5人で戦わないとダメなのか?」


この前、50階層ボスに対して土魔法を検証したが、土魔法を作成した瞬間、ボスが動き出したのだ。

もちろん土壁はボスからかなり離れた距離である。

よって、土魔法を作成すれば、ボスは動き出すと判断したおっさんであった。


今回は、検証を踏まえ、16体の敵と数も多いので先に土魔法で壁を作る。

その土壁に、隙間を作り、敵の攻撃範囲を狭めたのだ。

土壁で作った隙間からでは、1体分の隙間しかないのだ。

それを2つ作り、10人を半分の5人に分けて戦ったのである

イリーナとしては、2~3人で戦ってもよかったのではないのかと言っているのだ


「そうですね。今の私達なら2人で1体のAランクモンスターも恐らく大丈夫でしょう。今回は5人で戦ってみました。今後色々な戦い方ができたほうがいいので、次は4人その次は3人など、変えていった方がいいかと思いました」


「なるほど、まずは安全に5人でというわけなのだな」


「そうです。2人で戦うこともあるかと思います。ただし前面に私、コルネ、セリムが出ることはないので、2人で戦うとしても一度に戦えるモンスターの数はそこまで変わらないでしょう。その辺りも考慮しての戦いを今後検討していきましょう」


「ふむ」


ダンジョンに入ってすぐのころは、おっさんは攻撃をせずに攻略を進めてきたのだ。

これは、経験値分配の関係で従者や侍女のレベル上げを優先したかったからである。

40階を超えるとAランクモンスターがでるのだ。

複数のAランクモンスターがでるとおっさんが数を減らして、1体や2体の少ない数をおっさん以外の9人で戦ってきたのである。

70階を超えると一度に出てくるモンスターも5体、6体と増えてきたのだ。

仲間の協力がないと、おっさん1人の力では殲滅が難しくなってきたのである。

攻撃魔法Lv4は単体攻撃魔法であるので、1体2体倒している間に、敵の接戦を許すのである。

あまり敵に近づかれると、味方が攻撃魔法の範囲に入ってしまうので、攻撃魔法のレベルを落として戦っているのだ。

今回のような話し合いと実験を繰り返しながら、戦い方を検討しているのである。


「では、81階層を見て戻りましょうか」


「「「はい」」」


11階、21階と10階おきに階層の様子が変わるので、81階も階層の様子が変わると予想するおっさんである。


(さて、土、石、森林、墓地、砂漠、宮殿、海、空の次は何だ?)


81階層に入ると、そこは吹雪であった。


「へ?」


「な!?さ、寒いぞ!!」


「ああ、かなりの寒さだな」


イリーナとパメラが極寒の寒さに反応を示す。


(マジか、81階層からは寒冷地帯か。寒いと動きも悪くなるな)


「なるほど、この吹雪の中を進まないといけないのですね」


(まじか、吹雪で鷹の目も厳しいぞ、これは攻略方法を考えねばならないな。あとは防寒対策だな)


できること、できないこと、やらないといけないことを考えるおっさんである。

81階層を見たので、80階にあるワープゲートを使い帰路に着くおっさんたちである。

パメラは仮面をかぶり始める。

街中では仮面をかぶることにしたのだ。

パメラがガルシオ獣王国の王女と分かり、ソドンが親衛隊長と分かったのだ。

2人を残して、変装用にパメラに仮面を買いに行ったのだ。

顔の上半分だけ隠したものだ。

食べるときに困るだろうという、おっさんの謎の配慮からである。


(まあ、写真のない世界で、王族であろうと町人であろうと本人の顔を正確に知っているのは、本人に会ったことのある関係者だけだからな。よっぽど黒目黒髪みたいな特徴がないと、誰が誰なのかわからないだろ。それにしてもソドンは仮面被らないんだな)


ソドンの分の仮面も買ったおっさんであった。

いきなり2人とも仮面を被るのはあまりにも不自然すぎる。

もしもの時は自分がおとりになるからと、かぶるのを拒否したのであった。

ダンジョン前の広場を歩くおっさんたちである。

おっさんら一行に声をかける者もいなくなってきた。

おっさんの行く道を開けだす冒険者達である。


そして、翌日の朝食の時間。

14人そろって朝食を取りながら、今日の予定を決めるのである。


(昨晩は、下の階のイグニルとヘマのバカップル静かだったな。なんだ喧嘩でもしたのか?)


静かなら静かで心配するおっさんである。

あんまり音を出すので、セリム母に怒られた従者イグニルである。

伯爵の娘は、仕える主のいる館であまり音を出すのは良くないと判断したようだ。


「18日間にわたるダンジョン、お疲れさまでした。これから4日間の休暇にしたいと思います。装備が痛んでいる方は防具の修理と新調を済ませておいてください。予算はチェプトに貰っておいてください」


「「「はい」」」


装備は80階到達もあって、最も壊れにくいオリハルコン製の装備に少しずつ更新しつつあるおっさんら一行である。

まだ、一部の装備はミスリル、ヒヒイロカネ、アダマンタイト製でAランクモンスター戦うと壊れることもあるため、武器防具に行って修理、新調するのである。


「ケイタ様はどうされるのですか?」


忠臣ロキがおっさんの休みの予定を確認する。


「そうですね。冒険者ギルドに行って、あとは孤児院と、81階層攻略策を練ろうかなと。」


忠臣ロキに休みの予定を伝えるおっさんである。

・魔石100個の競りと魔石100個の競りの代金の回収

・冒険者ギルドへの80階層まで到達の報告と講習会

・81階層攻略策と必要物資の購入

・孤児院への食料を持っていく、不動産屋にスラムの住人用の家を買う


前回の休暇中に、3つ全ての孤児院訪問したおっさんである。

白金貨100枚ほど渡そうとしたが、震えあがってそんなにいりませんと言われたのであった。

白金貨1枚でも金貨に直すと100枚なのである。

金貨100枚と十分な食料を渡したのだ。

あとは、ボロボロの孤児院であって、衛生的にも悪いと判断したため、そこまで高くない普通の集合住宅を、白金貨10枚で3棟ほど購入してあげたのであった。

今回の休暇では、住まいに問題がないかと食料を買いに行こうと思うおっさんであった。


馬車に乗って冒険者ギルドに向かうおっさんである。

パメラも仮面を被って一緒に来るようである。

冒険者ギルドの素材回収担当魔石100個を渡し、競りの代金白金貨3000枚を受け取るおっさんである。

なお、ダンジョンで手に入る宝箱の武器防具装飾品も、店に買取してもらっているのだ。

宝箱からの売り上げも毎回白金貨200枚から300枚になっている。

同じく、装備の手入れや新調にも同じくらい白金貨200枚から300枚かかっているのだ。


「白金貨3000枚になりましたね」


(これでチェプト管理の白金貨は13000枚ほどだな。分配どうしようかな。配りすぎてもよくなさそうだしどうするかな)


ロキにお金を貯めておいてほしいと言われたおっさんである。


「また、すごいお金だな。ん?ケイタどうしたんだ?」


「んっと、ちょっと悩んでることがあって」


「「「悩み?」」」


「いやちょっと、そんなにではないのですが、ロキとイリーナ、パメラ、ソドンちょっと相談があります」


「ん?分かった。なんでも聞いてくれ」


普段相談してこないおっさんの悩み相談で少しうれしいイリーナである。


「ああ、深刻な話ではないので、不安にさせてしまったらすいません」


「なんだよ。俺には相談ないのかよ」


セリムが不満そうである。

コルネは何も言わないようだ。


「ちょっと従者のことなのです」


「従者?」


「では、冒険者ギルドの会議室を使わせていただきましょう」


拠点だと、従者もいるのでここで話を聞こうとするロキである。

皆で会議室に行くのである。

円卓になっていたので、皆で席に着く。


「それで、相談って何なのだ?」


「実は、褒美はどうしたらいいのか最近考えていまして」


「褒美?」


「従者や侍女へのダンジョン攻略の褒美です」


おっさんの悩みとは、従者や侍女への褒美であった。

現在、ダンジョンを攻略中である。

しかし80階層も超えて、いつダンジョンコアを手に入れ、攻略達成してもおかしくない状況である。

攻略したときに、何か褒美を上げたほうがいいのは分っているが、何をどの程度あげたらいいのか分からないのである。

異世界ものを何冊も読んでいるので、爵位とか、お金を上げればいいのは分るのだが、程度が分からないのだ。


「なるほど」


ロキはおっさんの悩みが分かったようである。

イリーナ、パメラ、ソドンも悩みを理解したのか、うなずいている。

貴族になったばかりのおっさんである。

初めての配下の働きであるのだ。

どうやって報いればいいのか悩んでいると思ったのであった。


「まあ、期限内にダンジョンコアを回収できるか分かりませんが、私は国王から褒美で爵位を子爵に上げていただけるじゃないですか。それは私だけの話であって、従者や侍女はどうしたらいいのでしょうか」


「私の考えを言ってもいいですか?」


「ロキ、お願いします」


「貴族がダンジョンに入るということはあまりないので、例えば戦争などで戦果を挙げたと仮定します。今回の従者の働きでしたら、士爵に召し抱えても良いと思います。新たな士爵家を興すということですね。これは従者を騎士として召し抱えるということです」


「なるほど、お金だったらいくらくらいが妥当でしょうか?」


「白金貨1枚くらいでしょうか」


「す、少なすぎではないでしょうか」


少し前に白金貨10枚ずつ配ったおっさんである。


「でしたら、おいくらくらいを考えていますか?」


「白金貨1000枚くらいずつでしょうか」


「そ、それは多すぎるかと…」


魔石の売り上げも白金貨13000枚に達しているのだ。


「だったら、従者達に聞いたらいいのではないのか?褒美は何がいいのか」


イリーナが口に出す。

他の皆は黙って聞いているのだ。

しかし、イリーナの言うとおりだと思っているようである。


「実は、そこに悩んでる理由があるのです。褒美に気を取られて無理をしてほしくないのです」


ダンジョンへは、ブログのネタのために入っているおっさんである。

報酬のために、身を犠牲にすることなどあってはならないと思っているのだ。

おっさんと違い、家を大事にする士爵や従者であるのだ。

自分が犠牲になっても家の為になるならと思い、無理をしてほしくないのだ。

だから、本人ではなく、ロキやイリーナ、王族貴族であった、パメラやソドンにも相談しているのだ。


「そうなのか。ちなみにロキについては、何か考えているのか?」


「ロキ?」


イリーナと問いかけにロキを見るおっさんである。


「ロキもお前に仕えているのだ。子爵になれば、これだけの働きだ。準男爵にならすることができるぞ」


「イリーナ様…」


今まで仕えていたロキのために褒美の念を押すイリーナである。

もちろん、ロキについても考えているおっさんである。


「ロキは、地位と名誉とお金で1つ選ぶとしたらどれが一番欲しいですか?」


ロキにはしっかり何が欲しいか聞くおっさんである。


「名誉です」


即答するロキである。

ロキは即答したが考えてはいるのだ。

家のことを考えれば、一番ほしいのは地位である。

しかし、大貴族になるはずのおっさんいついていけば、地位と金は何とかなると思っているのである。


「名誉ですか。一番難しいものですね。考えておきますね」


「お願いします。グライゼル家の家宝にさせてください」


「なんだ、余には褒美は無いのか?」


ここまで黙っていたパメラが口を出すのだ。


「え?パメラに褒美ですか?王族に褒美って」


「元王族だ。私も今では根無し草だ。ガルシア獣王国に行って、そのあとがあれば、そうだな。ケイタ殿の嫁にしてもらうかな。もう婚約者もいることだし、第二婦人でよいぞ?」


イリーナを見て、ニヤリとしながらそういうパメラである。

イリーナが自分を警戒している理由を随分前から気付いているようだ。

どうやらいつか言おうと思っていたのであった。


「な!そんな馬鹿な!!!」


イリーナの声が会議室に響き渡る。

獣人好きと獣人がくっつくというイリーナの恐れていたことが起きようとしているのである。


「そんなに大声を出すことは無かろう。正室の座は譲ると言っているのだ。それとも何か?王国に名を遺す英雄は、妻が1人だけでいいと、王国がそんなこと思うと思ってか?」


どうせ、国王が妻を国内や他国から探してくるぞというパメラである。


「そ、それは…」


(猫耳じゃなくて虎耳か)


なんとなく、パメラを見ながら、会話を聞くおっさんである。


「む、ケイタも第二婦人がほしいのか?」


「いえ、全然いらないです!」


イリーナに鬼の形相で睨まれるおっさんである。


「そんなにすごまなくてもよかろう。それと、コルネ殿も黙っているが、ダンジョンコアが手に入ったら褒美がもらえるらしいぞ」


「え?あ?私は魔導士様に仕えていませんので…褒美とかは…」


今まで黙っていたコルネにパメラが話を振るのだ。

コルネはダンジョン攻略が終わってもおっさんについて行く予定である。

索敵から墓地、砂漠、海、空の階層での出口の発見など、攻略の貢献の大きいコルネである。


「そうだったか。でも今回の働きで、騎士として召し抱えられるかもしれぬぞ?それとも第三婦人の方が良かったか?」


第二婦人は譲らないようだ。


「な!?」

「そ、それは」


驚くイリーナと顔を赤くするコルネである。

そして、褒美の対象が増えて悩みも増えたおっさんであった。

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