第53話 劇
ざわざわと劇場の場内である。
魔道具でできた場内の灯りが消えていく。
壇上の灯りのみになる。
場内が静まり返る。
「どうやら始まるようですね」
「はい」
従者や侍女に対して、静かに行儀よく見る必要はないと言ったおっさんである。
この劇も休暇の一環であるのだ。
ロキが注文してくれた、食べ物や酒がどんどん運ばれてくる。
この個室は14人いるため、結構な量である。
壇上に今回の主役であろうか、濃い青色の髪をした身長180cm以上のイケメンがでてくる。
真っ黒な外套を着ているようだ。
劇を始める前の舞台挨拶をしている。
『本日も満員御礼ありがとうございました。魔導士ケイタの英雄記をお楽しみください!』
観覧席から拍手が鳴り響く。
「ほう」
「ケイタ様が出てきましたね」
おっさん呟きに答えるロキである。
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劇場に行ってみた ~このイケメンはどなた?~
セットが動く。
風景の張りぼてを動かしていく劇場のようだ。
(魔法使いではなく、魔導士か。俺の見た目以外は良く調べているようだな。見た目以外はな!それにしても、街並みが動くのか。幼稚園のころやった、木役を思い出すな)
おっさんは、幼稚園の桃太郎の紙芝居では、木役だったようだ。
軽快な動きで、状況説明に入る。
おっさん役が、フェステルの街にやってきたところから劇が始まる。
冒険者登録を申請する謎の魔導士のようだ。
冒険者活動はそこそこにオーガの大群が攻めてくる。
『オーガが100体も出ただと!私も討伐隊に帯同しよう』
おっさん役が討伐に志願するようだ。
(実際は命令がでたんだけどね)
「たしか、最初はオーガ100体って話でしたね」
ロキも思い出しているようだ。
騎士団に帯同して、おっさんがオーガ討伐に向かうようだ。
『なんだと!!オーガ3000体だと!!』
荒野でレイ団長役と思われる騎士が、斥候からの報告を受ける。
オーガ3000体と聞いてざわつく観覧席。
『私が敵を殲滅します。皆さんは街に戻り守りを固めてください!』
『何を!我らは誇り高き騎士団である。共に戦おうではないか!』
「ヤマダ男爵様が身を投げ出して騎士団を逃がそうとしたのですね」
「………」
イグニルが劇を見て感動をしている。
おっさんは答えないようだ。
壇上に張りぼてでできた城壁ができていく。
おっさん役が城壁の上に上り、騎士達は城壁にできた隙間からオーガと応戦する騎士達が描かれている。
3日3晩、不眠不休の激戦であったと、進行役のナレーションが聞こえる。
「3日3晩の戦いなんてすごいです!」
「………」
アリッサが劇を見て感動をしている。
おっさんは答えないようだ。
凱旋のシーンに変わり、さらに領主からの報酬のシーンに変わっていく。
『オーガ討伐見事であった。討伐の報酬に白金貨100枚進ぜよう』
『恐れながら、子爵様。私は報酬を要りません。全て街で困っている人たちに上げてください』
(いや報酬がっつりもらったし)
観覧席からも驚きの声が上がる。
オーガ3000体を倒した以上の驚きのようだ。
白金貨100枚あれば、街民なら一生を10回分のお金なのだ。
それを要らないと断言するおっさん役である。
『なるほど、では同じ金額の報酬を街で困っている人のために使うことを約束しよう。それなら受け取ってくれるな』
『はい。それならば、頂かせていただきます』
『うむ。これだけの働きだ。そなたを貴族に召し抱えよう。ともに王都へ向かおうではないか!』
壇上の風景が変わっていく。
馬車で移動していくようだ。
前の馬車が詰まっているようだ。
『いかがされた旅の者達よ!』
『これは魔導士様。前に飛竜が道を塞ぎ困っているのです』
『それは大変だ。倒してあげようではないか』
飛竜との闘いが描かれていく。
軽快な動きと華麗な火魔法で飛竜を倒すおっさん役である。
旅人から感謝を受けるおっさん役。
旅人からのお礼の品を断り、さっそうと王都に向かうようだ。
倒した飛竜を荷台に詰め込んで、王都に入るおっさん役である。
王都の場面から謁見の場面に切り替わっていくようだ。
『オーガ討伐、真にご苦労であった。褒美に男爵にして進ぜよう』
『ありがとうございます。貴族の務め果たしてまいります』
国王役から男爵にしてもらうおっさん役である。
仰々しく、頭を下げている。
『オーガの大群に、飛竜と、そなたの力確かに分かった。そなたに1つお願いがあるが、聞いてはくれぬか?』
『国王からの願いを断る道理はありません。何なりとお申し付けください』
(うん?何かお願いされたっけ?)
『そなたにダンジョンの攻略をお願いしたい。ここから南に馬車で5日のところに、未踏のダンジョンがある。ウガルダンジョンの攻略は可能であるか?』
『もちろん可能です。ウガルダンジョンの攻略の王命確かに頂きました。1年以内に達成したいと思います』
(へ?こんな感じで皆からは受け取られているのか。国王からの命令でダンジョンに入ってるって形になってるんだ)
おっさんが、国王役とおっさん役のやり取りを聞いていたら、観覧席からざわつきがあがるのだ。
「そ、そんな!これではウガルの悲劇の再来ではないか!!」
「英雄にそれはあんまりではないのか!!命を懸けて、あれほどのオーガの大群から街を守ったのではないのか!!!」
「な!現王は優しいお方だと聞いているのに、先王と同じことを言うなんて…」
はっきりとした非難に声のようだ。
非難の声がどんどん大きくなっていくようだ。
(どうしたどうした?どこか問題だったか?)
「これはなんでしょう?ウガルの悲劇ってなんでしょう?」
たまらず、黙ってみていたおっさんが声を上げる。
皆を見るが誰も答えを持っていない。
1人を除いて。
「ウガルの悲劇…」
セリム母が小さくつぶやいた。
(なんか知ってそうだな。あとで聞いて教えてくれるかな)
『否。断じて否だ!これはウガルの悲劇の再来ではない!!』
おっさん役が高らかに観覧席に向かって宣言をする。
驚き静まり返る観覧席。
どうやらこのやり取りで、観覧席がざわつくのは予想していたようだ。
『おお!!ウガルの悲劇からも街を救おうというのか?』
国王がおっさん役の宣言に答えるようだ。
『はい。ウガルの悲劇が起きて50年。街の人を救って見せましょう。そして、必ず仲間とともにダンジョンの攻略を果たして見せましょう!』
観覧席から今度こそ歓声が上がるようだ。
泣いているもの多くいる。
『では一度フェステルの街に戻り、仲間を集いながら、都市に向かうとしましょう』
おっさん役は一度フェステルの街に戻るようだ。
街の周りに城壁を築いていくおっさん役である。
街に戻り冒険者ギルドに入るおっさん役。
『私はコルネ。村から出てきた弓使いです。ぜひ仲間にしてください!』
『おお!一緒にダンジョンを攻略しよう』
(お!コルネが出てきたぞ)
身長170cm以上あるメリハリのある体型の美女が出てきた。
茶色の髪のポニーテールだけは同じようだ。
コルネ本人を見るおっさん。
本人は身長155cmのスリムな体型である。
コルネは自分の胸を触りながら壇上のコルネ役と比較している。
顔が絶望感に満ちている。
そっと見なかったとこにしたおっさんである。
副騎士団長のイリーナとその配下のロキが紹介される。
(10人しかいなから、ほとんど調べ上げてるんだろうな)
「イリーナとロキはまんまですね」
「そ、そんなケイタ様も同じような感じじゃないですか」
「それは私の目を見ていってくれるかな?」
配下のロキに大人気ないおっさんである。
そんな、配役について感想を皆で述べながら劇を見ていると、観覧席から黄色い歓声が上がる。
「キャーアヒム様―!」
「アヒム様今日もカッコいい!!」
「アヒム様こっちを見て-!」
従者役や侍女役の紹介でアヒムが紹介されると、アヒムのファンクラブと思われる人たちから黄色い歓声が上がる。
役者のアヒムもアヒムに似てワイルド系のイケメンを起用しているようだ。
「アヒムはモテモテですね」
「は、はあ。そうですね」
(ぐぬぬ。アヒム目当てで見に来ている人もいそうだな)
場面はウガルダンジョン都市に変わっていく。
ダンジョンに入るおっさん役ら一行である。
ダンジョンでの戦闘方法も同じような感じである。
きっと、講習会で聞いた方法を参考にしているのであろう。
「ダンジョン攻略してるんだってね。面白そうだわ、仲間に入れなさい」
途中で獣人のパメラとソドンも仲間に加わる。
街で、ダンジョンで稼ぐ冒険者という設定のようだ。
(一瞬で奴隷解放したしな。元奴隷設定ではないようだな。講習会でも貴族っぽい話し方だし。あれ?セリムが出てこないぞ。パメラ達より前に仲間にしたような)
ダンジョンを攻略から戻るおっさんらである。
場面はダンジョン前の広場のようだ。
1人の青い髪の勇壮な青年がおっさんら一行の進む前を塞いでいる。
ざわつきがなくなり、観覧席が静まり返っている。
おっさんら一行を塞ぐ青い髪の青年が高らかに宣言するのだ。
『我らが道を阻む気様は何者だ!』
『我はセリム=ウガル。貴殿らは、ダンジョン攻略を目指しているとは真か!』
『もちろんそうだ。我らはウガルダンジョンを攻略する者達だ!』
「な?!なんだこれは!!」
セリムが立ち上がり絶叫する。
ウガル家のセリムと名乗っているのだ。
「ウガル家の者ってはっきり言っていますね」
「いや、こんなのおかしいだろ…」
ロキの言葉に答えるセリムである。
『おお!我はウガルダンジョン都市を守る家の末裔である。仲間に加えていただきたい。ウガル家にかけて必ずダンジョンを攻略する力になろう』
『そうだったのか!ぜひ仲間に加わっていただきたい』
「セリム様!!!」
「ダンジョン攻略にウガル家が参加していただいたぞ!」
「なんと、私たちのためにセリム様が攻略を目指されるのですね!」
「50年ぶりに英雄がウガル家に誕生したのか!!」
セリムの気持ちとは余所に、どうやら今日一番の見せ場のように思える。
割れんばかりの歓声である。
観覧席だけでなく、個室からも大きな声が上がっている。
劇場全体が波のように動いているようだ。
(これを知ったから、ウガル家が焦って人頭税を下げたのかな。攻略した後のことも考えると、ウガル家も否定してこの場面をやめろとはいいづらいな)
セリム役も仲間に加わり、ダンジョンの攻略が進んでいく。
土壁のダンジョン
石壁のダンジョン
墓地のダンジョン
砂漠のダンジョン
宮殿のダンジョン
海のダンジョン
空のダンジョン
そして、ダンジョンコアの前に大きなゴーレムが控えているようだ。
ダンジョンコアの番人と戦うおっさん役ら一行である。
(80階層以降はまだ公表していないからな。それにしてもダンジョンコアの番人はゴーレムなのか)
皆でダンジョンコアを持って帰るようだ。
全員で大きな立方体の張りぼてを持ってダンジョンから出ようとする場面が表現されている。
壇上から皆に見せるようにダンジョンコアを抱えて観覧席に見せるおっさん役ら一行である。
大きな拍手が鳴るのである。
「ダンジョンコアって結構大きいですね」
「そういえば、ダンジョンによって、ダンジョンコアの大きさが違うようですよ」
おっさんとロキが冒険者ギルドの資料室の話をする。
劇はここまでのようだ。
カーテンロールが一度降りる。
しばらくすると、カーテンロールが上がり、配役全員が壇上に上がっている。
割れんばかりの拍手を受けながら、最後の挨拶をしているようだ。
「終わりましたね。セリム、今日見た通りです。しっかり物語を作って情報を伝えないと話は変えて人々に伝わりますよ。私もずいぶん変わった形で描かれていましたね」
「う、うん。そうだな」
「いや、ケイタはあんな感じだったぞ」
イリーナが概ね劇は正確に描かれていたという。
おっさんの行った行為は至る所で証人が多いのだ。
「そういえば、ウガルの悲劇って何だったのでしょうね?」
ロキが劇の内容で疑問があったようだ。
(そういえば、謁見の時、かなりざわついたな)
セリム母に視線が集まる。
うつむくセリム母である。
「いえ、無理に聞くことではないでしょう」
おっさんが、無理に答える必要はない。
せっかくの楽しい劇であったと言うようだ。
「いえ、ダンジョン攻略を目指すなら、いつか言った方がいいことだと思っていました。少し話が長くなりますので、家に帰ってからでよろしいでしょうか?」
ウガルダンジョン都市で過去に起こったことについて、セリム母が話をしてくれるようだ。
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