第41話 物語
皆がセリムの将来性を驚愕しているのだ。
そんな中、おっさんはセリムに話しかけるのだ。
「セリム、これが、あなたが剣も魔法も人並以下の理由です。冒険者ギルドでも話しましたよね。職業に得意不得意、一長一短があると。あなたの力がほかの人並みだと不公平だと思いませんか?だって他の人と違って、あなたはモンスターにも戦わせるんですよ?」
「俺は1人で戦わないこと前提の力だってことか?」
(ふむふむ、セリムはしっかり頭が回るからな。今後のことを理解させないとな。さて、ここからだぞ)
「そうです。説明はこのくらいにしましょうか。これからしないといけないこと、してはいけないことをお話します。これはクランリーダーとしての絶対命令です。才能を目覚めさせた私の責任とも受け取ってください」
「わ、分かったよ。そんなに強く言わなくても聞くぞ?」
「まず、ダンジョンの攻略についてです。現在手に入るランクB以下の魔石を1種類ずつ取り揃えました。恐らくですが、魔石を吸収することが召喚条件です。全て吸収してください。そして、1日も早く、召喚に慣れ、スキルレベルを上げてください」
(今レベル33なんで恐らくBランクモンスターを呼べるスキルレベル3までなら割と早く上がるかな。ダンジョン最下層までにAランク呼べるようになるかどうかってところか)
おっさんは前日ダンジョンから戻ってきたら、Bランク以下の魔石を集めてきたのだ。
あらゆる魔石を吸収すること。
そして、たくさんの種類のモンスターの召喚に慣れること。
また、念のためにCランク以上のモンスターが召喚できるかも確認すること。
おそらく、スキルレベルが上がるとより高ランクのモンスターが召喚できると予想をした。
スキルレベルを上げ、さらに高ランクのモンスターを召喚していくことが大事であると説明するおっさんである。
もちろんほかのメンバーもセリムと一緒に話をよく聞いているのだ。
「分かった。最初は弱いモンスターしか出せないけど、どんどん戦闘では召喚するぞ」
おっさんはダンジョンでの攻略中、スキルレベルの大事さをメンバー全員にしっかり説いてきたのだ
「次にこれは、いやこれこそが大事ですね。セリムの人生にとってとも言えます。セリムには物語を書いていただきます。これまで生れてからダンジョン攻略までの物語です。まあ、自伝になりますね」
「え?どういうことだよ?なぜ物語なんだよ」
「これを王家と冒険者ギルドに提出をします。まあそうですね、内容を私も確認する予定なので、攻略までなので、ダンジョン攻略したあとに完成したらいいです」
「ちょ、答えろよ。なんで物語なんだよ!」
「もちろん誰かのためなのですが、物語が誰のためになるのか分かる方はいますか?」
クイズ形式で皆に問いかけるおっさんである。
一方的に話すのではなく皆に一緒に考えてほしいのだ。
「私が答えるぞ」
パメラが手を上げる。
おっさんの考えを学びたいのだ。
おっさんお話を、Aランクモンスターの魔石を競りに出す問題点を説いてから、貪欲に話を聞くようになったパメラである。
「え、あ、パメラ、どうぞ」
(なんだろう、出会ったころあまり会話なかったけど、最近すごく積極的だな)
「これは、やはり、今後不遇の力を持って生まれた召喚士のためではなかろうか?召喚士としての半生を書くのだ。後発で召喚士になるものにとって参考になるはずだ」
「正解です」
どのように生まれ、どのような境遇で成長し、そして、召喚士として活躍する様を描いていくのだ。
召喚士は剣も魔法も使えない、力のない状態で生まれてくるのだ。
力のない状態で生まれ落ちた召喚士にとって希望になるのだ。
先行者の成功は後発組に夢を与える。
自分の生き方を探すきっかけのための物語なのだ。
「しかし30点です。これでは全てではありません。他にいませんか?救わないといけない方が必ずいます」
「な!?たった30点…。えっと、そうだな、物語は自分のことを書くのだから自分のためではないのか?」
「正解です、セリムを救うために物語を書くのです」
「おお、そうであろう」
「理由も聞いていいですか。なぜ物語を書くことが、セリムを救うことになるのか?」
「えっと、それは分からぬな」
「では答えます。その理由は、このままだとセリムが化け物扱いされるからです」
「「「な!?」」」
皆驚愕するのである。
「なんで、化け物になんだよ!!!」
「あなたの母は、コボルトを召喚したとき、どのような態度を取りましたか?」
「え?」
「いま世界中の人が召喚士なんて知らないんですよ?」
おっさんは説明をするのだ。
このままだと、セリムは、無からモンスターを呼び寄せる存在になると。
魔法使いにも魔族堕ちという扱いもあるが、今後それ以上の扱いになる恐れがあるのだ。
物語という形でこれまでの半生の苦労と、それからの活躍を物語のように記録する。
ダンジョンを攻略した英雄として、物語を王家と冒険者ギルドに提出をするのだ。
召喚士の力もあり、ダンジョンを攻略ができたと説明をすれば、そのような力があると世界で理解が進むと考えるおっさんである。
職業としての召喚士の立ち位置を一気に確立するのだ。
「なるほど。召喚士の存在を公にするための物語か」
パメラも納得したようだ。
「そういうことです。紙は言葉以上の力があるのです。複製されれば世界に一気に寸分たがわず、広がります」
(国家権力も、冒険者ギルドの組織の力も使ってセリムの立場を確保せんとな)
そして、同じ理由で、まだ他の人に見せるわけにはいかないので、50階層以降のダンジョン以外でモンスターを召喚することを禁止するのだ。
「ちなみに具体的な召喚方法じゃなくて、物語にした理由ってあるのか?」
「えっと、学術書と英雄譚はどっちが広く読まれますか?読むのはまだ世界についても、自分の可能性も知らない子供ですよ」
「な、なるほど。分かった物語を書くよ。いろいろ考えてくれてありがとう」
素直に感謝するセリムである。
「ただ、これで70点です。まだ救わないといけない人はいませんか?」
「なんだと、まだおるのか。誰かこの物語で救われるのか?」
誰も答えが出ないようなので、答えるおっさんである。
「もしかして、セリムと同じ境遇なのは『召喚士』という職業だけと思ってませんか?」
「「「な!?」」」
おっさんは説明するのだ。
今回たまたま、新しい職業が誕生したのだ。
それは、たまたま、武の才能に厳しい貴族の家に生れた召喚士。
たまたま、怪しいおっさんにクランに誘われた。
たまたま、斥候能力があったから、隠し部屋も発見でき、宝箱の仕掛けも解除でき魔法書を発見できた。
たまたま、怪しいおっさんが召喚士の能力にも詳しかった。
「召喚士が王国に誕生するのにどれだけかかったのでしょう。他にも似た境遇の職業があると考えるのが自然です。もしかして百以上のまだ見ぬ職業があるかもしれません。この物語は召喚士をとおして、埋もれた才能の方に可能性を説くのです」
(セリムの才能は後方職寄りな、占星術師とか吟遊詩人かもと思ってたしな。もし遊び人に目覚めたら、親子に土下座して謝るつもりだったけどね!)
パメラが驚愕の目でおっさんを見ている。
あまりパメラがおっさんを見つめるのでイリーナが警戒をし始めるのだ。
「物語は10歳前後のこれから大人になる方が読める程度の内容にしてください。読みやすく、分かりやすい物でお願いしますね」
(何かを書くなら、誰が読者なのか、読者の設定をしっかりしないとな)
おっさんは買っておいた、羊皮紙と筆ペンをセリムに渡す。
ダンジョンを攻略しながら、少しずつ物語を完成させるよう指示をするのである。
世界で『召喚士セリムの物語』と呼ばれた物語の作成が始まったのである。
・・・・・・・・・
ここは、王城の一室である。
国王も常に謁見を大広間でするわけではない。
大々的な式典でなければ、会議室やもっと小規模な広間で謁見することも多いのだ。
今、国王はマデロス宰相と会議室で打ち合わせをしている。
「せっかく魔導士ケイタがこんなに魔石を持ってきたのになぜ揉めるのだ?数としては十分なはずではないのか?マデロス宰相よ」
「申し訳ございません。魔高炉部が水路部より魔石が1つ少ないと言っておりまして、中々調整に苦心しているのです。あとは白金貨の配分についても、財務大臣からいくつも予算の申請がありまして」
今回のおっさんの送った白金貨1000枚とAランクモンスターの魔石32個は、ウガル伯爵領数年分の徴税額に匹敵したのだ。
王都の各部門が、貰える予算と聞いてハイエナのように奪い合いをしているのである。
Aランクモンスターの魔石は各部門で、予備で1つでも多く持っておきたいのである。
さかのぼること8日前、国王は手紙、白金貨、魔石を受け取ったのだ。
手紙の中にはおっさんの仲間の名前と、おっさんを加えた合計人数、50階層に到達したこと、戦利品の王家へ進呈が丁寧に書かれていたのだ。
飛竜の手土産を思い出した国王は、白金貨や魔石も報告の手土産かと思ったのだ。
手紙の内容を踏まえたお礼を丁寧に書いて、手紙を使者に渡させたのだ。
正直、おっさんの言う人数が、思っている人数より1人少ないが、まあいいか、どっちかの思い違いであるかと思った程度だったのだ。
しかし、その翌日にウガル伯爵から、おっさんが国王と約束した仲間の人数を正確に伺いたい旨、謁見の要請があったのだ。
この時初めて、国王はおっさんが手紙で何を求めているか知ったのだ。
マデラス宰相に何が起きているのかできるだけ正確に調べるよう命じたのだ。
「な、なぜ、このように謁見にお時間がかかるのでしょうか?」
ウガル伯爵が会議室に入るなり不満を漏らすのである。
8日も謁見に時間を要したのだ。
「おお、すまぬな、まあ座れ」
会議室の席に座らせる国王である。
「は」
「それで何用であったかな?余も忙しいのだ」
「いえ、ヤマダ男爵が国王と約束した、ダンジョン攻略する上での仲間の人数でございます」
「ほう、確か10人であったな」
「それは仲間のみにてございますか?」
「はて、余も年でな。たしか合計で10人であったかな。何分口約束であるからな」
「本当でございますか?」
「うぬ?何か問題があるのか?合計人数だと1人減ってしまうから、より達成が困難になるがの」
「な!?そ、それは…」
ウガル家のものを仲間に入れたいからなど言えないウガル伯爵である。
「そういえば、魔導士ケイタから、仲間の名簿を以前貰っての」
話を変える国王である。
そして、8日前に貰ったと言わないのだ。
「え?は、はあ」
「全て優秀な仲間だが、仲間に1人特に優秀なものがおると書いてあってな」
イリーナが手紙に書いたのは名前と人数だけである。
「ほう、ヤマダ男爵以外にも優秀な方がおられるのですね。どなたが優秀と書かれておられたのでございますか?」
「セリムと書いておったな。冒険者ギルドに確認させたら、ウガルダンジョン都市の出身らしいの。何か知っておるか?」
「な!?そ、そうなのでございますね。初めて聞きました。何分代官を置いておりますゆえ」
代官を置いているから、日頃ウガルダンジョン都市にいないので、冒険者のことなど分からないというウガル伯爵である。
「はて、余も年での。記憶違いであったら申し訳ないのだが、そなたの孫にセリムというのはおらぬであったか?何年も前に晩餐会で紹介してくれたような記憶があるのだが」
「そ、それは記憶違いでございましょう。ウガル家にセリムというものはおりません」
「本当かの?」
と一言いうと、国王は目の前のテーブルに置いてある帳簿を、マデロス宰相にウガル伯爵の前に置かせる。
帳簿は何年もたちかなり古く感じるウガル伯爵である。
「こ、これは?」
「それは7年前の晩餐会の参加者名簿だ。お主の筆跡で2名の名前が書いてあるがの?」
7年前の晩餐会の参加者名簿には、ウガル伯爵に連れ添われて、社交界にデビューしたセリムの記録があったのだ。
セリムが10歳の時の話である。
「な!?」
なぜ8日間も謁見に時間がかかったかウガル伯爵もようやくわかってきたようだ。
しかし、もう気付くのは遅いのだ。
「余は些細なことでも嘘をつかれることは決して許さぬ性分での。ウガル家にはセリムというものは今までいないということで良いのか?答えよ、ウガル伯爵よ」
厳しい眼光でウガル伯爵に問いただす国王である。
「な、なぜ、そ、そのようなことを」
「マデロス宰相よ。余も記憶違いをすることが多いでの、一緒によく聞くのだぞ」
「は、そのように」
国王の尋問は続くのであった。
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