第40話 目覚め

なぜかしゃべる鎧の敵を倒して、頑張って開けた宝箱には1冊の本が入っていたのだ。


「やったあああああ!!!魔法書だ!!!!!!」


(まあ、本には魔法書と書いていないが、きっとそうなんだろう)


セリムの歓喜の声が部屋に反響している。

みんなも自分のことのように喜んでいるようだ。


「はい、せっかくなので、ここで魔法書を使ってしまいましょうか。読めばいいと思いますので、セリムお願いします」


「え、いいのか?駄目だって言っても読むぞ」


「どうぞ」


宝箱の底にある本を拾い上げるセリム。

本を開くセリムである。


「なになにって何も書いてない…」


何も書いていない本はセリムがページを開くと淡くと光り出して本は消えていくようだ。


「消えてしまいましたね」


ロキが呟く。


「え?何も変わらないぞ?ケイタ、どうだ?何か変わったのか。銀の板で見てくれよ」


タブレットで既にセリムのステータスを見ていたおっさんである。

スキル欄には「1つ」のスキルが追加されているのだ。


「………」


沈黙するおっさんである。

どうやらゲーム脳がフル稼働して話す余裕がないようだ。


「お、おい、なんで黙ってんだよ。お前言ったよな。才能が目覚めるって!」


「え、あ、すいません。スキルは増えました。確かに才能は目覚めましたよ」


「やったああああ!!お、おれ、俺はもうゴミじゃないんだ!!」


手をわなわなさせながら、涙ぐむセリムである、


(ゴミか。やはり俺が何とかしないといけないな)


改めて決意するおっさんである。


「はい、あなたはゴミではありせん。素晴らしい才能が目覚めました」


「ほ、本当か。なんでもったいぶってんだよ。教えてくれよ、っていうか銀の板見せろよ!」


「いえ、これはすいませんが、拠点に戻って発表したいと思います」


「なんでだよ。なんですぐ教えてくれないんだよ」


13人全員揃ってからでないと発表しないというおっさんである。

これはセリムのためというのだ。

不祥不詳であるが了承するセリムである。


「では、撤収ということですか?」


ロキが尋ねる。


「はい、撤退しましょう」


「ヤマダ男爵様見てください。さっきのしゃべる鎧の魔石。黄金に輝いています!」


アリッサがしゃべる鎧の魔石をおっさんに持ってくる。

鎧が固すぎて壊せなかったため、鎧の部位ごとに分解して魔石を回収したアリッサである。

予想通り、しゃべる鎧の中身は空洞であったのだ。


「本当ですね。Aランクに比べてこぶし大でそんなに大きさはありませんが、すごい輝きですね」


「え?そうなのか?俺もまだ見てないんだ。俺にも見せてくれよ」


「どうぞ、お渡ししますね」


宝箱と格闘しており、まだしゃべる鎧の魔石を見ていないセリムである。

おっさんがセリムに魔石を渡すのである。


「まじか。初めてこんな魔石を見たぞ。って、え?なんで?消えてしまった…」


黄金に輝く魔石が、セリムが握っているとふっと消えたのである。


「な!?」


(え、魔石が消えた。え?ん?そういうルールなのか、もしかして)


「え、えっとすいません。ちょっと鎧の魔石2個を持ってきてくれませんか」


おっさんがアリッサに魔石を持ってくるようお願いをするようだ。


「はい、ヤマダ男爵様」


アリッサから魔石を受け取るおっさんである。


「セリム、この2つの魔石も持ってもらえませんか?」


「え?分かった。ってえ?1個消えたぞ。ど、どういうことだ?」


(マジか!そういうことか。1つだけってことはそういうルールなのか。こ、これが能力発動の条件かよ)


「なるほど、これがセリムの能力のようですね」


「な、なんとそうであるか?魔石を消す能力なのか?」


ソドンも驚愕している。

パメラも目を見開いている。


「違います。そういえば、ソドン」


「ん?なんであるか?」


「以前、セリムの能力はきっと王国をひっくり返す能力と言いましたよね。しかし、あれは嘘だったようです」


「なんと、そうであるか。違ったのか?」


「な!?そんなこと言っていたのか!じゃあ、やっぱり大したことない能力だったのか!」


ソドンとおっさんの会話に入ってくるセリムである。




「いいえ、セリムの能力は世界を震撼させる能力です」




おっさんら一行は50階層まで戻って50階層のボスも倒して、拠点に戻るのであった。

13日かかった日程が全て終わっていたのだ。

アヒムも既に拠点に前日に戻ってきていたのだ。

王家には手紙、魔石、白金貨全てつつがなく渡し、国王からの手紙を受け取ってきたということである。

手紙の中には、ケイタを含めて10人の人数を確かに確認したこと。

そして、魔石と白金貨のお礼が書かれていたのだ。

これで踏破の参加者の確約がとれ、こぶしを握り締め喜ぶおっさんである。

そして、拠点に戻った翌日のお昼前のことである。

13人全員が拠点の庭先に集められていたのだ。

もちろんその中にはセリム母も入っているのだ。


「なんで、昨日拠点に着いたとき教えてくれなかったんだよ。それになんで拠点の入り口を壁で塞いでんだよ」


「念のためです。まだ、他の方に見せるわけにはいきませんので」


セリムの不満に答えるおっさんである。

おっさんは今日のお昼前まで説明の下準備のため、街とダンジョンを駆けずり回っていたのだ。


「セ、セリムは本当に才能に目覚めたのでしょうか?」


「はい、才能に目覚めました。今から才能の名前と特徴について説明をしますのでしっかり聞いてください」


「は、はい」


セリム母も心配している。


「セリムは、魔法書により確かに才能に目覚めました。職業は確かに別にあったのです」


皆固唾を飲んで聞いている。




「その職業は『召喚士』です」




「「「しょうかんし?」」」


(やはり聞いたことがなかったか)


「タブレットも見せますので、確認して下さい」


NAME:セリム

Lv:33

AGE:17

HP:340/340

MP:254/254

STR:158

VIT:132

DEX:197

INT:237

LUC:414

アクティブ:剣技【1】、槍技【1】、格闘【1】、罠解除【3】、召喚術【1】

パッシブ:礼儀【2】、算術【2】、力【1】、罠察知【3】

EXP: 87500072


「ほ、本当だ、召喚術って書いてあるぞ。召喚術ってなんだ?」


「では説明をします。何度でも説明しますがよく聞いてください。他の皆さんはこの話をあまり吹聴しないようお願いします」


「「「はい」」」


「召喚術とは、モンスターを何もないところからだして、意のままに操る能力です」


「え?何言ってるんだ?そんな夢みたいなことできるわけないだろ」


「では、実演をしてみましょう。ここにDランクモンスターであるコボルトの魔石があります。セリム、前のように握ってみてください。恐らく消えると思います」


わかったと魔石を握るセリムである。

握ると魔石は音もなく消えるのである。


「これで準備が整いました。コボルトをここに呼んでください」


「な、そんなことできるわけないだろ!」


「いえ出来ます!あなたは召喚士なのですから。コツは説明できませんが、よくコボルトを意識して目の前に出すよう考えてください」


「わ、わかった」


そう言って手を前にかざして、何か必死に考えるセリムである。

セリム母も心配そうである。


「な、なんもでないぞ」


「今コボルト以外考えないでください!絶対に出ます」


「わ、わかったよ」


手を前にかざしたセリム。

10分ほど経過する。

皆が固唾を飲んで見ている。


「え?あ?できそうだ!」


セリムが叫ぶと、目の前にうっすらとコボルトが実在しだす。


「きゃあああああああ」


セリム母が叫ぶ。


(コボルトをだすっていったじゃん。しかし、よかった。Dランクモンスターの召喚をスキルレベル1で出せたぞ。Eランクしか出せないとでは、これからの話が変わってくるからな)


セリム母をなだめる。

完全に実在したコボルトである。

はぁはぁ舌をだして召喚された、その場に立っている。

動き出さないようだ。


「ほ、本当にでたぞ、言うこときくんだよな?」


「はい、何か指示を出してください」


「うん、わかった」


コボルトを正視するセリムである。


「動き出したであるぞ」


ソドンが一歩パメラの前にでる。

Dランクであってもモンスターはモンスターなのだ。

セリムの数歩前に召喚されたコボルトである。

ゆっくり歩きセリム前に向かうコボルトである。


手の届く距離まで近づくようだ。

コボルトに手を差し伸べるセリムである。


「おい、コボルトが手を動かしたぞ!」


イリーナも警戒をしている。

ゆっくりセリムの手に手を添えるコボルトである。



(お手かよ)




「どうですか、ちゃんと出ましたよね。コボルトは言うこと聞かせそうですか」


「なんか頭で命令するとそのとおり動くぞ。それに、なんか出すコツ覚えた気がする。あれ?まだコボルト出せそうだぞ」


(なんだと?)


「え?出せるだけ出してみてください」


結局5体のコボルトが出たようだ。


「ん?これ以上でないな」


(Dランクで5体か。こ、これは、こういうことか。思った以上にやばい能力だな。さて、説明しっかりしないとな)


「ありがとうございます。ちなみに消せますか?消えるよう念じてください」


「わ、分かった」


出す時より早くコツを覚えたのかものの数分で消える5体のコボルトである。


「どうですか、モンスターを無から生み出し操るのです。出し入れも自由ですね。魔力は消費しますけどね」


(召喚術レベル1でMP2消費か。5体でMP消費10と。これは魔法使いの魔法と同じルールだな)


「そ、そうだな。なんかすごいけど」


顔が曇るセリムである。


「どうされましたか?」


「たかだかコボルト5匹出せて世界を震撼させるって話盛りすぎじゃないのか。拠点に戻るまで、すごい期待したんだけど」


残念そうにするセリムである。

他の皆もその通りだという顔をしている。


「剣を振るい始めた人間が最初から近衛騎士団長になれるわけではありませんよね。あなたの才能は目覚めたばかりなのです」


「そ、そうだけど、すごくこっちは期待したんだぞ」


「では、その期待が現実になった、あなたが召喚術を極めた先の話をします。これから話す話は、召喚士として頑張った先の話です。もちろんまだ検証が十分でないので、仮の話になりますがよろしいでしょうか?」


「ほ、本当か、頑張ったらどうなるんだ?仮でもいいから教えてくれよ」


「はい、セリムは5体のDランクモンスターを呼びましたよね。5体から気付きましたが、恐らくCランクモンスターなら4体呼べると思います」


(4体じゃないと、とんでもなくなるからな。まあ間違いないだろう)


Cランクのモンスターの数を5体から4体に減らした理由を考察するおっさんである。


「ああ、そうか!呼べるのはDランクだけじゃないのかもな」


「いえ喜ぶのは早いです。セリムは算術も得意だったですよね。ここから先は質問です。ではBランクは何体呼べるようになりますか?Dランクは5体、Cランクは4体です」


「え、えっとそれだと3体。おれBランク同時に3体も呼べるようになるのか。しかも意のままに操るのか。無敵じゃねえか!すげえ!」


皆も驚愕しているのだ。

全身で喜ぶセリムである。

セリムに元気が戻ってきたようだ。

Bランクモンスター3体の強さはよく理解しているのである。


「何を言ってるんですか?質問はまだ続きますよ。では、召喚士を極めるとAランクは何体呼べるようになりますか?」


「「「な!?」」」


皆が驚きの声を発する。

召喚士の凄さが伝わってきたようだ。


「え、お、おれ、それだとAランクモンスター同時に2体呼べるようになるのか。本当か、そんなことありえないだろ…」


「あなたはAランクモンスターの魔石を吸収しましたよね。これは将来、召喚可能を意味します。将来2体の飛竜を同時に意のままに操れるようになるのです。そして、何を驚いているのか分かりませんが、話は終わってませんよ?」


「なんだよ。これ以上何があるんだよ」




「セリム、あなたはSランクモンスターを何体呼べるようになりますか?」




「ちょ、え、まってくれよ。人がそんなこと、え、嘘だろ?」


「神の力を与えられた私の力をもってしても苦戦を余儀なくされたSランクモンスターを何体呼べるようになりますか?正直あの時、ソドンとこの外套の効果の発動がなければ、私は死んでいました」


「そ、それだとおれは1体のSランクモンスターを呼べるようになるってことか?」


皆が固まっている。

声が出ないようだ。

セリム母は思考を停止している。

セリムは両手を見ている。

手はどうやら震えているようだ。


「ソドン、52階で倒した、あのSランクモンスターを倒すにはどうしたらよいですか?」


「そ、そんなこと、獣王国近衛兵団を全軍投入しても瞬く間に蹂躙されるわ!あんなものが世界に解き放たれれば、王都が壊滅するわ」


皆が驚きの目でセリムを見ている。

セリムもその会話を聞いて驚愕しているのだ。

1人の召喚士が異世界に目覚めた瞬間でもあったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る